作品タイトル不明
それはシリウスの称号です
『やっばっっ!!やっちゃったっっ!?』
両手で口元を覆って縮こまるリリー嬢。不自然極まりない構図で話し込んでた時から視線を集めまくってたけど、今や注目独り占めだね。
「ちょっ!リリー様っ?!」
そしてリリア、やめなさい。お客様を叩くんじゃない。
あ、エリーゼに手首を反対側に捩じられながら拘束された。
まぁ見逃してくれた方か。本当は使用人たちは速攻リリアを回収しようとしてたし。でもお客様であるリリー嬢本人が「私も少しお話ししたいんで」って申し出たから動けなかったんだよね。
「ナ、ナニ言ってるんですかー。もー、カイザー様ハ、人間デスヨー」
白々しい程の片言と、いつかのようなピューと完全に口で言ってる口笛もどき。もはや本気で誤魔化す気あんのか?レベルでリリアが否定の言葉を口にした。
「人間だな。魔族の血が混じっていれば、同族はなんとなくわかる」
「えっ?!本当にっ??本当にカイザー様ってただの人間っ?!」
すっげぇ微妙な表情で断言してくれたアレクサンドラの言葉に、さっきの白々しすぎるフォローも投げ捨ててリリアが喰いついた。その表情はめっちゃ納得いってなさそうだ。
「で、でもっ!確か魔族で黒い竜でっ……!」
「リリアさんそれ、確実にジストのことです」
そんなこんなで、俺の魔族疑惑は消えた。
その後、マオも「カイザー様、魔族じゃないよ?」って断言してくれたし。冤罪が張れました!
ただ……周囲のビッミョーな視線が突き刺さったがな。使用人に魔族と勘違いされるとか中々ないよね。
そしてリリアにドン引きな男性陣と裏腹に「リリアはちょっと変だから」って笑って流せるベアトリクスは超大物かも知れない。さすが、初対面でリリアを受け入れただけある。
まぁ、なにはともあれ……疑惑が解消されてよかった、よかった。
リリー嬢、声上げてくれてグッジョブ!
その後、予定通り打ち合わせを兼ねた報告なんかをし、女性陣は帰宅したが男性陣、アレクサンドラとシリウスはお泊りだ。
客人を招いたいつもより賑やかな 晩餐(ばんさん) を終え、机に齧りつくイケメン三人。
さっきまではジャウハラの件で話し合いを詰めたりもしていたが、今は課題のレポートだ。来年の春には卒業な三年生は、後期は授業が少ない代わりに提出物はそれなりな量がある。特にレポートなんかは資料集めもあるから船の中じゃ厳しいからな。
明日は学園もあるのに、深夜まで頑張るつもりらしい真面目な学生たちを残し、部屋を出た俺は廊下を歩く。
お手伝いはリフたちに断られちゃったし。
進む先は自室…………ではなく、厨房。
人っ子一人いない夜間の厨房に入り、保冷庫やなんかをガサゴソ、ガサゴソ。
盗み食いじゃないよ?
食材を確かめて、頭の中でざっとメニューを考える。
やや考えて取り出したのは、鶏肉・にんじん・ごぼう・シイタケ。それと米。
夜食でも作ろうかなと思って。
就寝の挨拶はされたものの、若者たちが頑張ってるのに「はい、おやすみー」ってのも気が 咎(とが) めるしね。
メニューはベタにおにぎりだ。
おかずがなくてもいいように五目炊き込みご飯のおにぎりにした。
サンドイッチも考えたけど腹持ち重視の米が勝った。ま、五目っていってもコンニャクとか油揚げはまだこの世界で見つけてないし、取り出した材料だと四目になっちゃうんだけどね。
あ、ちなみに勝手に材料使っても怒られないよ。トーマス達シェフが料理に使うから手出し禁止な保冷庫とそうじゃない保冷庫わけられてるから、ウチ。影のみんなとか特に夜中に帰ってきたりも多いし、ある程度勝手に使ってOKな食材なんかも豊富。
……って、ことで頭の中で某料理番組のお馴染のテーマ曲を流しつつ、手を洗い、それから米を研ぐ。
ごぼうの皮を削るようにこすり洗いして、しゃしゃっとささがき。水にさらしたらザルにあげとく。
にんじんの皮を剥いて細切りにして、シイタケは軸を取ったら薄切り。
鶏肉は小さめにカットして塩をひとつまみ。今日は夜食用のおにぎりにするから具材はやや小さめに切った。大きいとおにぎりにするときボロボロ崩れやすいし。
「アンタ……なにしてんの?」
背後からかかった呆れを含んだ声はソラだった。
「なにって料理?」
「いや、それは見てわかるけど……」
じゃー聞くなし。
足音もしなかったし、きっと『転移』で現れたんだろう。ジャウハラへ行く前に情報収集やなんかで今は影のみんなも大忙しで働いてくれてる。
どうやら俺を探していたみたいだ。部屋にも何処にもいないし、まさかな……と思って探した厨房が大当たりでしたー。ガーネストたちの夜食だって言えば微妙な顔されたあと納得された。
手は止めずに報告を聞く。
おっ、この後ソラは待機で特にやることがないみたいだ。ラッキー。
「丁度いいからあと任せていい?」
「はっ?俺、料理とか出来ねぇけど」
「平気平気。下ごしらえや味付けは済ませてるし、火を止めるのとおにぎり握って欲しいだけだから」
炊き上がりまで待ってたら絶対リフに見つかりそう。そして怒られそう。昨日ちょっと夜更かししちゃったしね。それもあって手伝い拒否られたんだけど……。
面倒臭そうながらも請け負ってくれたソラに礼を言う。
「助かるよ。それにソラは大参事は起こさなさそうだから安心だ」
「そりゃ、リリアじゃないからな」
それね。下手に頼むととんでもねぇことになる御仁っているからね。リリアとか、リリアとか。
醤油に酒にみりんに塩、炊き込みご飯のたれをつくりながらそんな遣り取りをしていたら不意にもう一つ影が降り立った。
無表情ながらキョトンとした表情を瞳に浮かべているのはサスケ君。夜中に俺が 厨房(こんなとこ) に居るのに気づいて様子を窺いに来てくれたらしい。そしてなんと手伝いも申し出てくれた。いい子だ。
「そうだ、ソラたちも食べる?」
「食べる」
思いついて問いかければ、ソラから即答のお返事が返ってきた。
そんなソラを咎めるようにサスケがじぃと視線を向けるが別に構わない。材料切るのはさほど手間でもないし。
「他のみんなもまだ動いてくれてるんだろ?少し多めに作っとこっか」
深夜営業してくれている影の為に材料を追加で取り出し同じ作業を繰り返す。「手さばきにブレがなさすぎる」と感心したような呆れたようなソラの声は無視ー。
「気にしなくていいよ。みんな頑張ってくれてるんだし。サスケもお食べ。成長期なんだしいっぱい食べないと」
「アンタはオカンか」
申し訳なさそうな瞳を向けてくるサスケに笑いかければ、ソラからツッコミが入った。
失礼な、それはシリウスの専売特許です~。
「いや、でも実際かなりハードな仕事だし雇用環境は大切だよ」
影は他の使用人より食事や睡眠時間が固定でとれないし。
「待遇は破格すぎると思います」
「だな」
「俺達は道具です」
淡々とした声音。それはかつてハンゾーからも聞いた言葉だった。
どうやら暗殺業や諜報、彼らのような仕事の待遇はすこぶる悪いらしい。使い捨ては当たり前、人格を認められるのはまだマシな雇用主。ブラックだなー。
そんな中でウチは在り得ない程にホワイトらしい。食事一つとっても他の使用人と同様の扱いも異例なら、夜食が用意してあったり、食材を勝手に調理していいとか他ではまずないそうだ。
えー、だって腹減るじゃん。
それに影たちは後片付けまできっちりしてくれるから、厨房からも苦情も特にないし、なんなら珍しい食材とか持ち帰ってくれるからシェフたちも喜んでるし。
「割り切った関係ねぇ…………私にはわからないな」
鍋に米と調味料を入れ、水を加えて均一になるよう軽く混ぜる。
「 寧(むし) ろ雇用関係にこそ、ある程度の待遇は必要だと思うけど」
ごぼう、にんじん、シイタケを入れて鶏肉をほぐしながら散らす。火力は強火で。
「雇用主としては優秀な人材の確保は必要不可欠だよ。人材は宝だし、報酬も待遇も必要経費以外のなにものでもないと思うけど。退職を認めないほどブラックではないつもりだけど、 易々(やすやす) と逃してあげるつもりもないしね。ソラもサスケも、要望や不満があれば聞くよ?」
もうヤダ!辞める!!とか言われちゃ溜まんないしね。話し合いは大切。
振り向けば、なんか一瞬ポカンとした表情をしてたソラだけど、取り繕うように口の端を上げた。
「ま、アイツら身体能力人間離れしたバケモンだしな。俺の『異能』だって相当特殊だし?」
「別に異能だけじゃないけどね」
「はっ?」
「 勿論(もちろん) 、ソラの『転移』は大助かりだし、ベアトリクスたちと距離的に離れちゃう今回なんかは特に頼りにしてる。けどそれとは別に、君のコミュニケーション能力や判断力も買ってるよ」
影って統制は取れてるけど個人主義多いからねー。コミュニケーション要員は希少だったりする。あとツッコミ要員としてもわりと希少。
「君は見極めが上手いしね。正直それはみんなも見習ってほしいかな」
「ソラをですか?」
「ハンゾーたちは優秀だよ。優秀過ぎるほどに。それにいつだって私の期待以上に応えてくれる。だけど、それが少し心配なんだ。任務に忠実すぎて……引き際を見失ってしまいそうで時々怖い」
「……」
「必要な危険もあれば、冒す必要のない危険もある。割り切った雇用関係以上の忠義を抱いてくれるのは、有り難いし物凄く心強く思ってるよ。だけど退く時は退いていい。忠義というなら尚更に。たった一度の失敗より、それによって君たちを失うことの方が私にとっては大きな損失だよ。君たちの価値は計り知れない」
強く実力があるが 故(ゆえ) に敵前逃亡とかしなさそう。忠義心も凄いし。
でも正直、ベアトリクスたちの危機とかそういうんじゃなければ退いていい。
まぁ、ぶっちゃけハンゾー達が逃げなきゃなんない相手ってあんま想像つかないけどな。
その点ソラはチキンなだけあって慎重かつ保身重視だ。
俺相手に軽口を叩いても、リフとかハンゾーの制止には従ったりすんのも本気で敵に回しちゃ駄目な相手を見極めてるからだろう。なら、態度改めろよ……と思わんでもないが、それはソラの性格だから仕方ない。
鍋がぐつぐつと沸騰したのを確認して弱火にする。
「さて、これであと10分火にかけてその後、蓋したまま10分蒸らして……て、ソラ?」
この後をお願いするべく、振り向けば 何故(なぜ) かソラが片手で顔を覆ってた。
『あ~、も~~!マジでこの人、調子狂うんだけどっっ』
苦情が聴こえた。
ちょっと顔が赤いし照れてんの?
ソラって何気に褒められんの弱いよね。皮肉屋さんだし、素直になれないお年頃なの??
説明を聞いてたか不安だったので、もう一度この後の手順を説明した。
「じゃ、お願いね。ガーネストたちの分以外は好きにしていいから。今日も遅くなるようだったら昼間とか空いた時間で休みとっていいからね?ちゃんと寝なきゃダメだよ?」
「だからオカンか」
本日二度目のツッコミを受けながら俺は厨房を後にした。