軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

禁断症状で倒れちゃうかも

決して色づくことのない、白き肌の乙女へ向かい誓いが宣べられる。

沢山の 傍聴(ぼうちょう) 人、もとい野次馬たちの視線に晒され、リックは証言台の上に立った。硬い表情と口調で、投げ掛けられる質問に答え続ける彼を、傍聴席からじっと見つめる。

音が吸収されやすいように切り出した 花崗岩(かこうがん) を組んだ壁には、ところどころ僅かな隙間が施され、声が反響することなく静かに響く。

証言台に立つリックの正面には裁判官。

そして数段高くなった場所にこの国の最高権力者の席がある。 但(ただ) し、覆いがされたその席に座す方の姿は、傍聴席や証言台からは見えないようになっている。

そんな国王の席を取り囲むように左右の壁に掲げられた 厳(おごそ) かで緻密な巨大タペストリーは抽象的に描かれた太陽と月を模した図柄。

そして国王の座を守るように背後にそびえる女神像。

白き石の滑らかさも美しいその像は、一括りにした波打つ髪をたなびかせ、ドレープの柔らかな質感を見事に掘り出した衣服を纏い、片手には剣をもう片方には書物を手にしている。

目隠しはしておらず、端正なその顔は真っ直ぐに証言台に立つ被告を見下ろす。

剣と天秤を手にし目隠しをしたギリシャ神話のテミス像やローマ神話のユースティティア像。それらと非常によく似通ったこの像の女神に名はないが、役割としては同じだろう。

「不変なる 掟(おきて) 」である掟の擬人化にして、「正義の女神」。

「もう二度と、この知識を犯罪に活かすことはしないと 誓います」

硬質にて 玲瓏(れいろう) なる乙女の前で行われた 宣誓(せんせい) 。

儀式を見届けた俺は帽子を目深に引き下げ席を立った。

結果として、リックは情状酌量ありの執行猶予になった。

提示した条件の通り、ジャウハラの病を終息させるために協力することが条件。

なので今後も城には出向しなくてはならないし、その件が終わろうと数年は数週間に一回の居場所確認を含めた面会などがあるが、リオやレノア嬢と暮らせるというのは大きいだろう。

非常に協力的に特効薬の開発に取り組んでくれている。

そしてもう一人、リオもその件に大きく貢献してくれている。

あの日、お人よし宣言をされてお礼を言われたあと、リオが申し出てくれたのだ。

「ねぇ、私も一緒に働きたい。兄さんの償いに私も協力させて」

真剣な顔でそう告げたリオの申し出を最初はもちろん断るつもりだった。

「お兄ちゃんを助けたいから自分も働きたいなんて……めっちゃ健気っ!」と感動しつつも……リオはまだ幼いしリックのような知識があるわけでもない。

「レノア嬢は家事とか不慣れだろうから家のことを手伝ってあげて」

無難にそう返そうとした俺だった。

………………が、そんな心中を見越したように腰に手を当てたリオは不敵に笑った。

「絶対に私、役に立つよ?だって薬草、足りないんでしょ?私の『異能』は『緑の指』、植物を芽吹かせたり成長を促進させたり出来るもん」

そりゃあ、 掌(てのひら) くるんってしちゃうよね?

幼い少女を働かせるのは……とかいってたのはどこへやら、喰い気味でスカウトしちゃうの仕方なくね?

旦那さんが亡くなって、とある貴族のお屋敷で下働きしてたお母さんがお手付きされて…………そんな経緯で半分貴族の血が入ったリオは半血にも関わらず『異能』が発現した。ソラもそうだが、これは確率的には割と低いことだ。

妊娠が発覚した途端、お母さんは身重のまま解雇されて……って。

それで貴族のイメージ最悪なんだね。ってか、その男、クズ以下だな。

万が一にもそのクズに興味を持たれたくないし、貴族との繋がりの象徴でもある『異能』を 厭(いと) って隠してたのにいいのか?と何度も確認するリックに「いいよ。兄さんの役に立てるなら。人助けでもあるし」とあっけらかんとリオは笑った。

それでも心配そうな過保護な兄に「ん~」と人差し指を 顎(あご) に当てて「じゃあっ」とあざとい上目遣いを披露した。俺に向かって。

「アイツがちょっかい出してきたら守ってね、カイザーさま?」

こてんと首を傾げるリオには「任せて!」と力強く請け負った。

全力で公爵家の威厳を振りかざしてやんぜ!!

第二の大規模な爆発事件は未然に防げ、流行り病の件も解決の糸口が見えはじめた。

これで全てが解決!!…………となったらいいのだが。

モチロン、そんなワケにはいかないんだよね。

眉間に深い皺を刻んでいるのは我が親友、ティハルト。

端正な顔には疲労が色濃い。なんせ、ここ数日は激務だったしな。

通常業務に加え、傷害事件の残党を捕える指示に、ジャウハラとの使者の遣り取り、その他etc……。

そして疲労が色濃いのはこちらも同じで……いつもの覇気を 翳(かげ) らせて俯く二人をちらりと見やる。

僅かに唇を噛みしめたアレクサンドラと神妙な顔のシリウスの疲労の原因は心労からくるものだろう。

なにせ、自国での災害が人為的に引き起こされたものと判明したわけだしな。

「……本当に、自殺なのでしょうか?」

押し殺した声に応える者は居ない。

何故(なぜ) なら、アレクサンドラが発したそれは誰もが思っている疑問だからだ。

つい先日、ギャスターたちの尋問によりクレイン家に捜査の手が伸ばされた。

……が、書状を持って騎士達が乗り込んだ先、クレイン家の当主は自室にて絶命していた。

死因は毒。

ワインと共に毒を煽ったらしい。

状況からみて自殺。

だが捜査の手が伸びたとはいえ、そう簡単に自殺するものだろうか?タイミングといい、口封じによる他殺を疑ってしまうのも仕方のないことだと思う。

「ギャスターたちの証言によると、やはりクレインは騒ぎを起こしそれをジャウハラの人間が起こしたように見せかけたかったようだ」

「流行り病の件にも関係があるのでしょうか?」

「それは……わからない。だが無関係とも言い切れないな。こちらでも引き続き調査を続けるつもりだ」

「食料の支援に続き、病や水のことなどジュエラルには多大なる便宜を図って頂き感謝に堪えません。偉大なる国王陛下には我が国ジャウハラに代わり深く御礼申し上げます。 此度(こたび) の御恩は必ず報いさせて頂きたく」

ジャウハラの王子として、正式に頭を下げるアレクサンドラにシリウスも無言で深く感謝を示す。

「友好国として当然のことだ。今後も協力は惜しまない」

寛容なティハルトの言葉にもう一度深く頭が下がった。

一国の王と王子の遣り取りを無言で眺めながら、俺はじっと考える。

どうにも、ゲームで知らない展開が多すぎるんだよなー。

爆弾の件はリックという転生者が絡んだ完璧なイレギュラーだろう。

だが、魔王の存在とか、流行り病の真相、傷害事件に関わりのあるクレインの死亡などはどうなのだろうか?

魔物の大規模発生も流行り病も傷害事件もゲームでもおこった現象だ。なのでこれらがイレギュラーなのか、それともゲームでは語られなかっただけで裏で起こっていた事象なのかがいまいち判別がつかないんだよな。うーん。

ゲームの悪役はジャウハラの貴族でクレインとか出てこなかったしね。

その目的だってジュエラルとジャウハラの関係の悪化が大きな目的の一つだった筈なんだけど……。

ぶっちゃけ国同士の結びつきはめっちゃ強固になってます。

さっきアレクサンドラが言ってた食料支援とか、薬関係でも協力してるし、水不足解消の為に『水』の『異能』持った人間派遣したりしてるしね。

今度正式に大規模な訪問も行われるし。

「ジャウハラへ派遣する使節団だが、王族からも一名派遣するつもりだ」

へぇ~誰だろ?

ティハルトは無理だし、ダイアとか?それか第二王子あたりかな?

「お前も一緒に行ってくれ」

ティハルトが顔を向けたのは俺で……まぁ、薄々わかってたから驚きはしない。

割と人使い荒いよね?特に俺に対して。

「私でいいのかい?国の訪問なのに」

無駄と知りつつ一応苦言を呈したのは、俺が爵位を手放しているからだ。外交には立場とかはったりも重要だからね。

「家柄は問題ないから大丈夫だろう。それに立場より使える人間の方がいい。あと、母上とアイリーンの 推薦(すいせん) だ。絶対にねじ込めと言われてる」

前半は光栄だけど……。後半の言葉に遠い目になった。

皇太后様のご推薦……って。確実にアレでしょ?

裏隠しキャラだと思ってる俺を何が何でもゲームの舞台にあげようとしてんでしょ。知ってる。

でも俺はモブですー!

アイリーンの推薦はなんでさ??

夫婦そろって 親友(俺) を使い倒そうとしてんの?

「別にいいけど……」

行くのはね、別に異論はないんだけどね?

その間、可愛い弟と妹に会えないとか。

俺、耐えられるかな……?

わりと本気で心配なんだけど…………。