作品タイトル不明
ロリコンではないですよー!
「ん~~、おいしいっ」
パフェスプーン片手に頬に手を当てて満足そうな声を出す女王様。違った。元隣国の王女にして、この国の王妃兼マイフレンド・アイリーン。
他の女の子たちもきゃっきゃしながらスプーンを動かしてるし、一先ず好評を頂けたようだ。
目の前にはチョコレートパフェ。
そして粉砂糖で化粧を施したガトーショコラとクッキー。
チョコチョコですね。
甘ったるくて胸やけがしそうだが、女性陣は全然平気そうだ。強い。
塩気を求めてさくほろの塩チーズクッキーを一つ摘む。
うまうま。甘くないラインナップも混ぜてくれたシェフに感謝だ。
「ガトーショコラも美味しいわ。これなら喜んでくれること間違いなしね」
ふふっと笑みを浮かべるアイリーンに、嬉しそうに自分達の力作を見せ合う少女たち。
ベアトリクスは粉砂糖で描いたハートの上に、さらに小振りなハートをラズベリーチップで描いた華やかでいかにも本命感満載の仕上がり。
カトリーナ嬢は粉砂糖をほんの少し散らした程度で、中央にブルーベリーやラズベリーを彩ったシックな印象に仕上がっており、シェリルちゃんは全体でなく一部にのみレース模様の粉砂糖を振りかけており、控えめかつ可愛らしい仕上がりだ。
「まぁ、素敵!」
同じケーキでも三者三様の仕上がりにアイリーンが感嘆の声を上げた。
「トッピングはお兄様がアイデアをくださいましたの!こんなに可愛く出来たのも全部お兄様のお蔭ですわ」
「飾り付けでこんなにも雰囲気が変わるなんて思いませんでしたわ」
「レースペーパーを使って粉砂糖を振るのも、カイザー様のアイデアなんです。このパフェもすっごく美味しいですし凄いです」
「おいしーい!」
いつしか話題は俺の称賛に。わーい(*´▽`*)!
不本意なことは多々あるが、こうして可愛い子ちゃんたちが喜んでくれると頑張った甲斐があるぜ。
「カイザー様……女子力高いわね……」
半眼で俺を見つめるアイリーン。
それ、去年リリアにも言われた……。
「君はティハルトに渡さないのかい?」
「あら、 勿論(もちろん) あげるわよ?なにせ愛しい旦那様だもの」
ふふっと妖しく艶めく紫紺と唇。 嫋(たお) やかな手がそっと豊満な胸へと添えられた。
「チョコだけじゃなく、わたくし自身もね」
鮮烈な色気に充てられて真っ赤に色づく少女たち。
マオだけがキョトンと首を傾げている。俺はといえば、そんなマオの唇にそっと指を押し当てて今にも意味を問いそうなお口をチャックした。わかんないままでいいからねー。
はぁー、とこれみよがしに溜息を一つ零す。
「相変わらず仲がいいことで……」
「それはそうよ。なにせ一生に一度の大恋愛だもの」
最後の一かけらのガトーショコラを唇へと押し込み、行儀悪くも机に肘をついたアイリーンは身を乗り出して上目遣いでこちらを見た。
蠱惑的(こわくてき) な紫紺の瞳は、面白がるような色を湛えている。
「わたくし、本当はカイザー様のことを狙ってたのよね」
「…………は?」
突然の理解不能な問題発言に、まず間の抜けた声が漏れ、ついで頭の中にクエスチョンマークが乱舞する。それはもう、大乱舞だ。
え?本当になに言ってんの?
「冗談だろう?」笑ってそう返そうとしたその前に……、
「ダメーーーーーーーー!!!」
至近距離で響いた甲高い声に耳がキーンってした。
声の主はマオだ。隣に椅子をぴったり寄せて座っていた筈のマオが椅子の上に立っての大絶叫。
こら、マオ。椅子の上に立っちゃいけません!
そして反対隣りに座っていたアイリーンへ向かって両手を突っぱねるマオたん。
小っちゃなお手てが伸ばされた先は、狙ったわけじゃないだろうけどたわわなお胸様。
羨ま……ってちがう、やめてマオたん。
その人、一応王妃様だから!偉い人だから!!
むんっ!!ってぷんすこしてるマオを抱き上げて回収した。
回収されたマオはぎゅっと俺の首へと抱き着いて、だけど膨れたお顔はアイリーンへ向けたままだ。
「マオがカイザー様のおよめさんになるんだからっ!?」
そしてまさかの爆弾発言、その二。
『あげないもんっ!!』
そして鼻息も荒い心の声もバッチリ聴こえた。
「あら、マオちゃんはカイザー様が好きなのね」
「好きっ!」
「でも安心して?わたくしがカイザー様を狙ってたのは昔の話だし、今は旦那様一筋だもの。カイザー様はあくまでも親友よ」
「……本当??」
じっと疑り深い瞳を向けるマオにアイリーンは微笑んだ。
「本当よ。だってわたくしはティハルトのお嫁さんだもの」
二人が仲直り(?)して、スイーツもあらかた食べ終わった頃にマオはリフに回収された。いつものお昼寝の時間帯になり、しきりに目をこすっていたマオは今頃は別室で夢の中だろう。
「あの、アイリーン様。先程の話は……その、本当ですの?」
「ただの冗談だろう」
興味津々なベアトリクスの問い掛けに、軽い感じで流してはみたものの……、
「あら本当よ?」
まさかの返しに、瞳を真ん丸にしてアイリーンを凝視した。
「お、お義姉様は、カイザー様がお好きだったのですかっ?」
身を乗り出すシェリルちゃんと、喰いつきマックスな我が妹とカトリーナ嬢。やめて。
「ん~、恋愛感情はなかったわねぇ」
指を一本頬へと添えて、あっけらかんと答えたアイリーンに「そうだろう、そうだろう」とうんうん頷いた。
これで「あった」とでも言われた日にゃ、ティハルトに殺される(ガクブル)。
「でも狙ってたのは本当」
ちょっ?!
前言はどうしたっ?!
表には出さずに慌てる俺を見ながら、アイリーンは蠱惑的な瞳を 眇(すが) めて拗ねたように唇を尖らせる。
「つまらないわね。少しも動揺してくれないなんて、脈ナシもいいところじゃない。自信なくすわ」
いやめっちゃ動揺してますけど……。
心の中で呟きつつ、豊かな髪を掻き上げる彼女へと苦笑いを浮かべる。
「君がティハルト一筋なのも、私に恋愛感情を抱いてないのもよくわかってるからね」
肩をすくめれば「まぁね」との一言に、ほっと息を吐く。
「わたくしが心から惹かれたのはティハルト 唯(ただ) 一人だけ。でもこんな未来は思い描きもしなかったわ。だってそうでしょう?彼はこの国の次期国王で、わたくしとは結ばれる筈もない相手だった。あの人以外で誰かを選ぶなら、わたくしはカイザー様を選んでいたわ」
だけどアイリーンとティハルトは恋に堕ちた。
一国の王子と王女として優等生だった彼らが、はじめて周囲に歯向かう程の激しい愛に。
「ジュエラルにとって『異能』の存在は大きいわ。並みの貴族なら話は違ったかも知れないけれど、王となる彼が『異能』を持たない他国の人間を正妃にするなど 赦(ゆる) されることじゃなかった」
アイリーンの言葉に少女たちがはっとした顔をする。
そう、アイリーンは『異能』を持たない他国の人間。それはつまり、生まれる子供はかなりの確率で『異能』を持たぬ王族となるわけで。
当時、それは大騒ぎだった。学生時代から互いを想いあっていた二人が、結婚までに時間がかかったのも全てその為だ。優秀なティハルトが王位の放棄まで仄めかし、長年かけて重鎮その他を説得し成し得た結婚なのだ。
「わたくしたちが結ばれたのはカイザー様のお蔭よ」
「えっ?」
思わずキョトンとしてしまった。
そんな顔を見て「わかってないのね」とアイリーンはふふっと含み笑う。
「ティハルトは幼い頃から、『異能』なんて持たなくても優秀で有能な貴方をずっと見てきたもの。貴方という人を知っていたから、ティハルトは王族であれど『異能』に縛られなかった。そしてそれはわたくしも同じ。未来を、『異能』を持たず生まれてくるだろう子を思って全てを諦めずにいられた。
わたくしたちがこの愛を得、守るために闘えたのはカイザー様のお蔭よ」
真っ直ぐに向けられる真摯な瞳。
「貴方の存在に、わたくしたちは心から感謝してるわ」
「ところでカイザー様ってロリコンなの?」
「やめて」
お茶会も終わりに近づいたところで、さらりと零された発言に死んだ目で返す。
なに、その不名誉な疑惑??
茶目っ気を含ませた流し目を寄越すアイリーンは、すっかりいつもの女王様だ。
さっき語ってた感謝とか嘘っぱちだろ、絶対!
それが感謝してる親友に対する 揶揄(からか) いか?!悪質!?
「だぁってぇ、満更でもなさそうだったじゃない?」
揶揄い好きなどっかのお姉サマと違って、純真なマオのなんと可愛いことか。
そりゃあ顔も緩むっしょ。それに……。
「あんな可愛らしい発言をしてくれるのも今だけだろう?年頃になったら、ちゃんと素敵な男性を見つけて離れていっちゃうんだから」
「おっきくなったらパパと結婚するー!!」的な発言は小っちゃい時だけなんだよ。パパじゃないけどさ。
視線の端ではベアトリクスとシェリルちゃんが頬を染めて俯いていた。
ベアトリクスも小っちゃい頃は「カイザーお兄様と結婚するの!」って言ってくれたし、シェリルちゃんも「じゃあ私も!」って便乗してくれてたしね。重婚だね。
そして彼女の兄たちにめっちゃ 僻(ひが) まれたのもいい思い出だ。
慕ってくれたのも、その好意が嘘だとも思わない。マオは言葉でも行動でも、溢れる心の声でもいっぱい「好き!」を伝えてくれるしね。
でも恋や愛を知らなくて、特別な「好き」の区別がつかない、今だけの反応だってこともちゃんと理解してるんだ。
「だから今は、素直に喜んでおくよ」
恋愛対象ではないけど。そこの主張は譲れない。
断じてロリコンではない!!
「カイザー様って……時々女の子の扱いがうかつよね」
半眼で呟いて、アイリーンはやれやれとばかりに首を振った。
なんなの?感じ悪っ!!
そしてみんなも「あ~あ」みたいな 胡乱(うろん) な瞳やめてくれるかな?
休みを挟んで翌週。
バレンタインデー当日、女生徒たちのチョコ攻撃をかわしつつ一人食堂へ向かっていた。チョコを渡すなら邪魔者はいない方が良かろうと、今日はお昼を一緒に食べるのは自粛したのだ。
ついに告白しちゃうのかな?それともされちゃうのかな??と胃をきりきりさせつつ、邪魔したりはしないよ。
ブラコン兼シスコンだって節度は大事!
空気はちゃんと読めるんだ。
それでも気になるもんは気になって、ベアトリクスたちの学年の廊下を通り過ぎる際にちらりと視線は教室の在る方へ。
すると、廊下の片隅にはなにやら人混みとざわざわした雰囲気があった。
ちょうどベアトリクスたちの教室の前じゃん。なんて思っていると、人混みの中心に立つのはなんとマイエンジェル。こちらに背を向けて立ち尽くすベアトリクスの姿に、思わず踏み出しかけた足が次の瞬間止まった。
「ベアトリクス様は、誰であろうと振り向かせられる『魅了』の異能の持ち主ですものね」
対峙した少女、勝ち誇ったような笑みを浮かべたイザベラ嬢の言葉によって。