軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十四話 長政の完勝

「千は討ち取ったな」

橋に殺到する門徒兵とそれを容赦なく討ち取る鬼兵。

陽動に成功したのを見届けた長政が呟く。

ほぼ無傷で討ち取ったとはいえ、これでもまだ千。

上々の戦果ではあるが、元々敵は一万二千、

圧倒的多数のため、まだ勝敗は決まらない。

(頃合いか。

後手に回った方が負ける)

「小母衣衆!」

三騎が長政の傍に寄り頭を下げる。

「ここはもう良い。

敵の士気は極限まで落ちた。

放っておけば離散が始まる。

もはや鬼兵で当たるまでもない。

それよりも、ここは俺に任せて、赤、青、黒の鬼兵は、

動橋川の浅瀬の傍の林に移動して伏兵せよ。

黒鬼騎馬は最後の最後まで待機。

下間頼祐の首を討つときに一斉に駆け出でよ」

各隊に向けて伝令が飛ぶ。

それと同時に長政は常備兵二千を鬼兵の後ろに展開させて

包み込むように配置する。

伝令を受けた鷺山が敵陣をひと睨みしてから、

静かに笑う。

「ふふ、若。

やるな、常ならばここまで上手く嵌れば、

楽しゅうていつまでも討ち続けたくなるものよ。

だが次の先手に乗り出した。

お見事!」

そう呟くと槍を掲げて青鬼兵に指示を出す。

そのまま後退し、長政の常備兵と入れ替わる。

その後、次の渡河地点に向けて走り出した。

正則も伝令を受けて太く息を吐いて悔しがった。

「うぅむ、面白うなってきたところだが、

大将命令ならば致し方ない。

者ども、退くぞ!」

赤鬼兵も正則の指示を受けて、

長政の常備兵と交代し、

渡河地点へ向かった。

清正が伝令を受けて辺りを見回す。

「なるほど。俺は少々視野が狭くなっておった。

これが戦場を見渡す総大将の采配というものか。

退くぞ!」

清正が声を上げ黒鬼も長政隊と交代して、

次の戦場へと向かう。

整然と大聖寺川渡しの戦場は長政主導に切り替わった。

「行くぞ、皆の衆!

芋粥が鬼兵だけでないことを示せ!」

「「おぉ!!」」

常備兵たちも声を上げた。

今までと同様、橋を渡る門徒が順番に討ち取られていく。

芋粥有利の包囲戦に何の揺らぎも生じず、

引き続き芋粥軍は戦果を積み重ねていく。

「なぜだ!なぜ渡り切れん。

こちらは三倍ぞ!敵は戦を知らん小童どもだ!

くぅ!!」

下間頼祐が口惜しそうに叫ぶ。

「待て待て落ち着け。焦れば負ける!」

パンパン。

自問自答して頬を掌で二度叩く。

その表情は冷静さを取り戻していた。

「兵を二手に分ける。

我に続け!

動橋川の浅瀬を渡って挟撃する!

お前達は引き続き大聖寺川の橋を押さえよ。

心配致すな!

二手に分かれてなお、双方我らの方が多勢よ!」

頼祐率いる門徒兵六千は大回りして渡河地点に向かう。

だが、一歩早く長政が手を打ち、芋粥の伏兵が渡河後に待ち受けていた。

大聖寺川では長政の采配のもと、門徒たちはさらに五百の死者を積み上げていた。

ついに門徒側にも動きが生じる。

兵が六千に分かれ、内、千五百が既に討たれた。

後ろから押す門徒たちもようやく気付く。

……味方が少ない。

“前は地獄”。

そこで初めて恐怖が生き残った四千五百に伝播する。

長政は見逃さない。

「よし、敵の色が変わった。

全軍突撃!

討ち倒せ!逃げる者を追う必要はない。

ここでの勝利を確実に掴め!」

今度は長政の隊が細い橋を渡って敵に向かって突撃する。

その咆哮を受けて、敵四千五百は戦意を無くし、

方々へ散り始めた。

勝負はついた。

下間頼祐率いる六千は動橋川の浅瀬に到着し、

渡河を開始する。

先頭の千が渡河し終わった時点で渡河中の兵に向けて、

黒鬼鉄砲隊が一斉に射撃する。

こちらでも川を血で染めた。

同時に赤・青・黒の鬼兵が一斉に渡河成功した門徒兵に襲いかかった。

門徒兵の千が全滅するのにそう時間はかからなかった。

鷺山が叫ぶ。

「もはや待つまでもない、我らも渡河せよ。

頼祐の首を獲るは青鬼ぞ!」

正則も負けない。

「青鬼に負けるな!赤鬼こそ最強であることを証明せよ。

渡河せよ!狙うは頼祐の首!」

清正も続く。

「猛々しい奴らよ。

焦る必要はない。最後に勝つのは我ら黒鬼よ。

全軍、進め!」

鬼兵が一斉に川を渡る。

川向かいの門徒兵、千が無惨にも鬼によって惨殺されるのを、

目の当たりにした門徒に、もはや戦意は残っていなかった。

数にして四倍になるにも関わらず、

鬼兵千によって、残る門徒兵がなすすべなく切り捨てられていく。

戦において、心が折れた軍は驚くほど脆い。

遂に頼祐の顔から余裕が消えた。

「ば……化け物よ。地獄の鬼が現世に現れた……」

その顔は恐怖に引きつる。

「ひ、退け退け!!」

頼祐を先頭に門徒兵は潰走した。

「今だ!」

清正が笛矢を放たせる。

ひぃろろろろ。

同時に黒鬼騎馬兵が一斉に駆け出した。

槍で逃げる門徒を薙ぎ倒し、一直線に頼祐の乗る馬を追う。

「ひっ、ひぃぃぃ。鬼じゃ、鬼が来る!

お前達何をしている!

は、はよぉ止めよ!」

頼祐を守ろうとした僧兵が、背中を突かれて馬から転げ落ちた。

「は!?」

それが頼祐の最期の言葉だった。

先頭を走る黒鬼騎馬の薙いだ槍が頼祐の首を跳ね飛ばした。

「黒鬼隊、彦坂太衛門、総大将下間頼祐討ち取ったりぃ!」

清正が遠くからそれを見て満足そうに鼻を鳴らす。

「俺の隊が一番手柄よ」

正則は歯を剥いて悔しがった。

「虎之助め、騎馬とは卑怯な」

鷺山は冷静に勝利を確信して笑う。

「若も大した将よ。

完勝だ。ほとんど被害は出ていまい。

それにしても羽柴殿のあの若造ども。

思った以上にやるな」

そこまで言うと小母衣隊を呼び寄せて、

長政に勝利を報告させた。

三倍の敵を相手にしていながら、

負傷者二百余り、死者なしという快挙だった。