軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十二話 若き鬼軍議

柴田・丹羽勢が大聖寺城を立って、能登へ向かった。

それから五日後。

大聖寺城の一室。

能登へ向かった柴田・丹羽勢を見送り、

城内には芋粥軍の長政、鷺山、加藤清正、福島正則が集まっていた。

だが、鷺山を除く三人の若手の顔には緊張が色濃い。

長政がゆっくりと口を開く。

「……正直に申す。

此度の戦いは芋粥四千二百で門徒一万二千と対峙する。

かつて俺は播磨で毛利に何倍もの兵に囲まれて戦ったことはある」

正則が目を輝かせて口を挟む。

「長政殿!今度はどう戦う?」

静かに佇む鷺山と異なり、正則と清正が長政へ詰め寄る。

「どう戦えばよいのか、まだ掴めぬ。

先に正直に申すと伝えた。

俺は大した将ではないのだ。

播磨では父の采配に従って戦ったのみ。

大軍を相手に勝ち切る策はすぐには出てこぬ。

正則殿や清正殿は何か腹案が?」

「あるわけなかろう。我らは此度初陣ぞ」

正則が即答し、清正も続く。

「拙者もです。

門徒は一万二千……我らは四千二百。

数にして三倍、とてもではないが

まともに当たるは下策と考えるべきだろう

どう押さえればよいのか……」

「今回は長政殿が総大将ではないか。

ここは策を決めてもらえれば我らは、

それに全力を尽くす」

「……、門徒に比べて鬼兵は質が圧倒的に勝る。

正面から受けるでも勝てるとは思う。

だがそれは下策……」

若い三人の声は、どこか不安を帯びていた。

その時、静かに歩み出たのは――

鷺山であった。

「……やれやれ。

なぜ俺に聞こうとせぬ。

年はそう離れておらぬが、

俺は場数が若よりも圧倒的に多いんですよ」

三人はハッと顔を上げる。

鷺山は地図の前に立ち、

指先で大聖寺川と動橋川をなぞった。

「一度軍師をやってみたかった。

殿の前では拙策を述べるも憚られるからな。

まず心得よ。

門徒は数こそ多いが、兵ではない。

統率も、装備も、経験もない。

ただ“押せば勝てる”と思っておるだけの群れだ」

「……群れ、ですか」

「うむ。

ならば“群れ”の弱点を突けばよい」

鷺山は地図の一点を指した。

「ここ、大聖寺川の渡し。

そして動橋川の浅瀬。

この二つが“門徒が必ず通る道”だ」

長政の目が鋭くなる。

「……狭い」

「そうだ。

狭い場所に三倍の兵が押し寄せれば、

隊列は伸び、足並みは乱れ、

退路も塞がる」

正則も応じる。

「つまり……三倍の兵力差が意味を失う」

「その通りだ、正則。

そして待ち受けるは鬼兵ぞ。

お前も訓練を見たであろう。

あの密集、まるで城壁よ。

誰一人超えることは出来ぬ」

清正が悟ったように呟く。

「戦とは戦う場も含め、舞台を設定した者が勝つ。

常であれば、敵将も自ら死地には向かわぬ。

だが相手は烏合の百姓門徒ども。

いくらでもおびき寄せられるという訳か」

鷺山は頷きながら続ける。

「そうだ。真っ向から出たとこ勝負で当たるなど

下策も下策。

勝てても被害は出る。

ならば我らは一当てした後、わざと後退し、

門徒に“押せば勝てる”と思わせる。

油断したところを、

渡河の途中で鉄砲隊が迎え撃つ」

清正が呟く。

「渡河中なら……敵は最も脆い」

「うむ。

そして退路は塞ぐな。

逃げ道を残せば、勝手に崩れる」

長政は息を呑んだ。

「……なるほど。

これなら、四千二百でも……いや、

四千二百だからこそ出来る戦だ」

「そうだ。

精鋭は少数でよい。

芋粥の兵は、質で勝つ。

我が青鬼兵が一番手柄を立ててくれようぞ」

清正も応じる。

「長政殿……やれますぞ。

いやいや、鷺山殿、一番手柄は我ら黒鬼じゃ!」

「鬼兵どもは播磨での自信もある。

たかが門徒に囲まれようが崩れることは考えにくい。

ここは俺様の赤鬼が一番手柄じゃ!」

長政は静かに立ち上がった。

「鷺山、見事だ。

だがもう一つしかけよう。

清正殿、黒鬼騎馬をここ、

渡河前のこの林に隠してもらおう。

敵が崩れるまで、一切気付かせるな。

敵が逃げ始めたならば、そこで突撃じゃ!

逃げ腰となった門徒では騎馬の恐ろしさに耐えられまい。

馬上から槍で突き崩せ。

何往復も繰り返せ」

清正が力強く頷く。

「は!

突撃を知らせる合図はあらかじめ決めておきましょう。

門徒は地獄の黒鬼に追われているような恐怖を感じましょうな」

長政が武人の目で、

地図上の門徒を示す碁石を見つめる。

「そうだ。

ただ勝つだけではない。

二度と立ち上がる気を失わせるほど、

恐怖を叩きこめ!」

「おう!」

最後に長政が顔を上げて諸将を見回した。

「……皆の者。

加賀の背後は、我らが守る。

柴田様と丹羽様が能登で上杉を討つためにも――

ここは決して崩せぬ」

若手三人の目に、迷いは消えていた。

鷺山は満足げに頷いた。

「三人とも、よい顔になったな。

これで芋粥は戦える」

長政がそれに応えて力強く頷く。

「伊賀忍びを方々に放って門徒の動きを事細かに探れ。

少しの異変も見逃すな!

門徒を率いる将も突き止めろ。

本願寺が関わっているかもしれん」

清正もここで提言する。

「あらかじめ大聖寺川の渡しと動橋川の浅瀬の周辺も、

忍びに探らせましょう。

敵に伏兵を仕掛けられるやもしれませぬ。

また黒鬼騎馬の隠し場所も考える必要があります」

長政も同意する。

「そうだな、地形を知るは必要だ。

特によそ者である我々にとっては危険が潜む」

正則も口を挟む。

「そうだな、渡河地がこの二か所に限るという

先入観も良くない。

地元民でしか知らぬ渡河地を洗っておくのも必要だろう」

鷺山が笑う。

「お前達、本当に初陣か?」

三人がその笑いに続いた。

もはや不安は見られない。

むしろ狩る側の余裕さえみられる。

芋粥は強くなった。

長政が締める。

「各々、準備を頼むぞ!

出陣は十日後じゃ!」