軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十八話 新戦力

大和攻めを控える鈴鹿館。

上段の間には、芋粥家の武を司る侍大将たちが、

集結していた。

浅野、村瀬、鷺山である。

秀政が静かに話を切り出した。

「今日、お前達に集まってもらったのは他でもない。

芋粥の軍備強化のためだ。

鬼兵を作ったとして、それが弱兵では話にならぬ」

侍大将たちの表情が引き締まる。

秀政の隣に家老として座っていた政成が続けた。

「殿のご命令により、

堺にて人材を探しておりましたが、

遂に見つけましてございます」

「さすが義父殿だ。

かなり難しい注文だったはずだがな」

「はい、かなり難しゅうございました」

政成が苦笑いしながら返した。

そのまま手を打って合図すると、

予想外の人物が現れる。

南蛮人と通訳らしき男だ。

政成が言いにくそうに紹介した。

「じょあんで…あぜぶーと殿と、

通訳の木村新兵衛殿にござる」

二人は皆の前に座ると南蛮人の方が口を開いた。

「Sou o João de Azevedo, homem do mar e da pólvora.

Vim lá das bandas de Portugal, cruzando meio mundo.

Se precisarem de alguém que saiba montar cavalo,

disparar canhão e guiar navio, sou eu mesmo.」

新兵衛がポルトガル語を日本語に翻訳する。

船乗り傭兵らしい荒い言葉遣いを丁寧に言いなおす。

「私はジョアン・デ・アゼヴェードと申します。

ポルトガルから来ました。

騎兵術、砲術、航海術の熟練者にございます」

他の者たちは唖然としている中、

秀政が興奮しながら膝を叩く。

「おぉ。凄いではないか。

是非、家臣にしたい。

仕えてもらえないか聞いてくれ」

新兵衛がそれを受けてジョアンの耳元で呟く。

そうするとにやりと笑いながらジョアンが答えた。

「Depende do trato, meu amigo.

Quero um monte de prata, muito mesmo.

Quero viver bem, com vinho, carne e cama quente.

Eu não meto a cara na guerra — não sou burro de morrer por nada.

E as mulheres do Japão… ah, são uma tentação dos diabos.

Pequeninas, trabalhadeiras, doces como mel.

Gosto desse tipo, sim.

Quero uma mulher bonita na minha cama, e de preferência como esposa.」

直訳するか迷った新兵衛は少し間をおいて答えた。

「条件次第にございます。

高禄を約束いただきたい。

そして、師範として仕え、戦にはでません。

日本の女性に興味があります。

身を固めるため妻に頂きたく」

「良かろう、高禄を約束する。

南蛮人に偏見がなく、

言語を学ぶ向学心のある娘を探そう。

先に金と住居は用意する。仕えて欲しい。

木村殿もあわせて雇い入れたい」

木村たちは少し小声で話し合う。

そして笑顔で答えた。

「お仕えしましょう。」

秀政が笑顔を見せる。

村瀬達が目を丸くした。

「これで南蛮大砲の扱いを覚えられる。

一つ聞きたい。

南蛮の騎兵術で、

日本の馬でも通用するものはあるか?」

木村とジョアンが小声で何やらやり取りを繰り返す。

そして木村が答えた。

「難しゅうございます。

ポルトガルの騎兵術は重装の大槍での突撃です。

小柄な日本の馬では無理です。

ですが、一つ手があります。

カラコール馬上火縄銃です」

「カラコール?」

「巻貝の殻が語源にございます。

騎兵が突撃せずに、馬上から射撃して後退し、

自陣にて下馬した後、装填を行います。

そして再び出撃します。

出撃部隊と後退部隊、装填部隊が隊列を回転させながら、

連続射撃する戦術です。

南蛮では片手で打てる小型の銃を使って、

馬上から撃ちます。

槍衾に突撃するのではなく、馬の威圧で敵を抑えつつも、

直前で止まって銃撃・後退する戦術です」

「ホイールロック式のピストルを買えと?」

「ほぉ、お殿様は随分と博識な方でございますな。

ピストルをご存知ですか。

ですが、そうではありません。

ジョアンは通常の火縄銃を使って、

カラコール馬上火縄銃戦術を実現します」

「なんだと?」

(火縄銃で騎乗射撃するのは無理だと言われている。

ゲームで出る騎馬鉄砲隊も移動に馬を使うただの鉄砲隊だと。

馬上での装填はありえない。

そして火縄銃をもって騎馬で疾走すると火縄が消えてしまう。

結局移動後に下馬して鉄砲を運用することになる)

「どうやって実現する?」

「このカラコールは、装填を安全な自陣で行います。

そして馬で高速に近づいてから撃つため、

長い火縄が必要ありません。太く短い火縄を用意します。

短い火縄は揺れず、風に強いです。

また不安定な馬上でも火皿に正確に落ちます。

雨覆い(蓋のこと)を閉じた状態で、

疾走するため、火皿の火薬は飛び散りません。

また暴発もしません。

撃つ直前に蓋を開け、狙い、放つのです。

そして鞍にも一工夫があります。

南蛮鞍は前輪も後輪も和鞍より高くなっております。

そして和鞍では平坦な座面が、

南蛮鞍では深く窪ませます。

さすれば、馬上においても銃撃の衝撃に耐え、

そのまま後退に移れます」

「なるほど……。

そういうことか。

騎乗撃ちは不可能だという先入観はよくないな。

撃つだけならばできるということか。

待てよ。

鉄砲を騎兵の倍用意すれば、

装填役を別の者にやらせることができる。

そうなると出撃部隊、後退部隊、装填部隊の三分割ではなく、

装填せずに受け渡しだけで済むため、

出撃部隊、後退部隊の二分割にできる。

より高速にカラコール攻撃ができるわけか」

秀政のアイデアを木村がジョアンに伝える。

思わずジョアンも叫んだ。

「Ha! Isso sim é uma ideia da boa, ó Rei do Japão!

Só de ouvir minhas palavras já sacaste tudo, danado.

Retiro o que disse antes — um rei esperto sempre agarra a vitória.

E se me pagares uma boa fortuna, eu mesmo entro no inferno contigo!」

「名案にございまする。

さすがです。前言撤回です。

あなたのような賢王の元なら戦場にも立ちましょう

と申しております」

秀政は嬉しそうに答える。

「そうか、それはありがたい。」

(騎乗撃ちがこの時代にできるなら……。

チートだぞ。

槍衾の手前まで突撃する。

足軽は馬が恐ろしくて固まるしかできない。

普通は犠牲覚悟で突っ込んでくる騎馬が、

目前で止まって、馬上から指揮官を狙い撃つ。

撃った途端に馬で逃げ出す。

それが何度も繰り返される。

ぞっとするな)

「ジョアン、それに木村。

新居を用意する。

それまでは宿場町での宿泊代を用意しよう。

今日はもう下がってよいぞ」

「Ah, pois trata disso, meu Rei.

Vou esperar um palácio de primeira e mulheres de fazer inveja aos santos!」

「は!ありがとうございます。

新居と妻のことはよろしくお願いいたします」

二人が下がる。

浅野は黙り、村瀬と鷺山は顔を見合わせた。

鷺山がようやく口を開いた。

「うぅむ。何を言っているのか理解できませなんだ。

肩凝る?

殿、後で我らにもわかるようにご教示くだされ」

「あぁ。肩凝るではない、カタコールだ。

……俺が説明するより、現物を見てみたら良い。

画期的な戦術だぞ。

馬と種子島を補充せねばならんな」

しばらく沈黙が流れ、

今度は浅野が咳払いしたあと、報告する。

「拙者からもあります」

「浅野、伊賀で見つけたか?」

「はい、殿のお申し付け通り、

芋粥に仕官してくれそうな達人を見つけました」

浅野が合図すると、

今度は四十前後の侍が入って来る。

皆の前に座り、平伏した。

「比自山兵庫実綱にございまする」

浅野が補足する。

「比自山殿は一条流槍術皆伝の伊賀地侍で、

ちょうど全国修行を終えて伊賀に戻ってまいりました。

仕官先を探しております」

「おぉ、一条流槍術か。

良いな、芋粥の鬼兵の底力を上げる。

兵法指南役として仕えては貰えぬか?」

「は!喜んでお仕え致します」

村瀬が慌てて割り込む。

「殿!兵法指南役はわしの役目であるぞ」

秀政が面倒くさそうに返す。

「別に二人居ってもよかろう。

刀と槍じゃ。

それに村瀬、お前最近腹が出てきたぞ。

少々たるみすぎじゃ。

比自山が兵法指南役になる方が、

競い手がおってよかろう」

「な!?

わしのこの腹は鉄の如き固さじゃ!」

勢いよく叩いた腹が、ぶよんと揺れた。

「……村瀬、お前は俺の切り札だ。

信用しておる。

励め」

「殿!言葉と表情が合っておらぬ!

見ておれ!

比自山殿、切磋琢磨しようぞ」

「願ってもない」

二人のやりとりをみながら、秀政は微笑する。

(芋粥は層が薄い。

少しでも厚くしていく必要がある。

ジョアンの南蛮兵法、

比自山の槍兵法。

この二つの追加は頼もしい限り)

「浅野、早速だが、伊勢留守番組は、

槍兵法と南蛮騎兵術の訓練を組み入れてくれ。

大和などすぐに片付けてやる」