作品タイトル不明
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「お嬢様……」
ナスカは私が落ち込んでいると思っているのだろう。
それはある意味合っている。
でもね、さっきの『リスの宿』からの宣戦布告で、負かしたい! という気持ちがぐ~んとアップしたからね。
次は負けない!
そう思いながら、父さんたちとユーリの待つ『フローリストガーデン 光』へ向かってナスカと二人歩いていた。
どうにも肩がいかっていた様で、ユーリが門から道まで出てきて、私の肩に腕を回した。
「どうしたの?」
「いやぁ……。なんか勇ましい感じだったからね。ついね」
むぅ~。
まぁ、心配してくれたということで、良しとしよう……。
「アウレリア。どうだったの?」
あまり勝敗に拘っていなさそうだった母さんが心配そうに聞いてくる。
つまり、それ程私の様子から悔しさを感じたのだろう。
「2位だったの」
「そう。十分良い成績ね」
「……うん。……でもね、後一歩で1位に手が届いたと思うとね……」
「そうなのね」
「まぁ、次の試合にも出れるんだろう? これで大会が終わりってわけじゃないよな?」
ユーリの言う通りなんだけどね……。1位が『リスの宿』ってのがね……。
場所を店の3階にある父さんたちの家に変えて、バーテンダーのトマムにカクテルを作ってもらって、急遽飲み会をすることになった。
父さんたちとこうして酒を飲むのは久し振りで、それだけで少し肩の力が抜けた。
「ねぇ、ナスカ。一緒に飲まない?」
「でも……」
「今日は慰労会ってことにしましょ。ドムも仕事が終わったら呼べばいいわ」
「……いいんですか?」
「むしろ来てほしいの。今回、ナスカが居てくれて本当に助かったから」
ナスカはちょっと頬を赤くして嬉しそうなのに、まだどこか遠慮がちだ。
オーナー一家だから遠慮しているのかしら?
「おい! ドムに仕事が終わったら3階に来るように言っといてくれ」
「はいっ」
門の近くで庭の手入れをしていた見習いに父さんが声を掛けた。
「す、すみません。ウチの人まで……」
「何言ってんだ。慰労会と決起集会兼ねてるみたいだからな。大事なメンバーと一緒じゃなきゃぁな」
父さんの言葉に、ナスカはようやく肩の力を抜いた。一緒に3階まで来てくれた。
「そうか……ヤンモリ村にできた宿かぁ……」
ナスカと私で、『リスの宿』がライバルとして気になるという話をすると、父さんは一生懸命ヤンモリ村にそんな店あったっけ? と思い出そうとしてくれていた。
「父さんは『リスの宿』って知ってた?」
「いやぁ……。ウチのホテルはどこも大入り満員だからなぁ。他の店は、ウチのお零れを期待して建ててると思っていたからなぁ……」
「で、料理はどうなの?」
料理について母さんが口を挟むのは珍しい。
「庶民的な料理はバッチリだと思う。スープも審査員の口に入るまで熱いままでサーブできるように気を配ってたし……」
「でも、お嬢様。あちらは今回の大会、大分楽しているんじゃないでしょうか?」
「え? 楽?」
「はい。パースニップを使う地方は少ないのに、その地方出身だったり、庶民向けの宿だから、課題の料理も扱い慣れていると思うんですよ」
「まぁ……そう言われればそうだけど……。でも、どうすればお客を喜ばせることができるのかって視点は揺るがないというか……」
「それは強敵だな」
ユーリがカナッペを口に放り込みながら、頷く。
「でしょう?」
「ああ。客の視点になれるっていうのは、店として強いよな」
「う~ん。今日は量で満足してもらう料理を出せなかったこちらの落ち度だった……」
「でも、お嬢様。インタビューでは一番美味しいのはお嬢様の料理だって皆言っていましたよ?」
「ええ。でも、これは大会だからね。参加するからには勝ちたいじゃない」
「そりゃぁ、もう!」
「「「「あははははは」」」」
「アウレリアも負けん気が強いけど、ナスカも相当だな。なんか安心したよ」
「父さん……」
「しかしヤンモリ村にそんな凄い宿が建ってたんだなぁ……」
父さんは偶にあっちこっちのホテルを私の代わりに視察に行ってくれていたから、『リスの宿』の存在に気付かなかったことを落ち度として捉えているのかもしれない……。
「何なら、ウチの支店の者に探らせることはできるぞ」
ユーリの新聞社は鉄道網を使っている。調べようと思えば、地方の情報もすぐ集まる。
「まぁ、そこまで神経質にならなくてもいいんじゃないかしら?」
母さんの言う通りだ。
「オレはお前がちゃんと『リスの宿』の長所に気付いているから、あんまり心配してないぞ」
「ん? どういうこと?」
ユーリはニヤリと口元を緩めた。
「相手の長所が分かっていれば、対策だって立てやすいだろう?」
「うん……」
「元々、実力が覆せないくらい離れているのでない限り、彼我の差を知っているなら、相手の良いところを採り入れ、自分の長所を更に延ばせば良いだけだしな」
「むうぅぅ。言うは易し、行うは難しだよ」
「まぁな」
今迄の対戦について洗いざらい皆に説明していたところへ、トントンと玄関をノックする音が聞こえた。
母さんが席を立って玄関へ。
暫くすると母さんが戻って来た。
後ろに大きな影を引き連れて。
「ごめんよ! お邪魔するよ!」
そこに立っていたのは、『リスの宿』の料理長とその息子だった。