作品タイトル不明
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「対戦方法は今回もデュエルだぁぁぁぁ。調理時間は1時間半!この砂時計の砂が落ち切るまで、各料理人は精いっぱい調理に専念できるぞぉぉ。開始と終わりの合図は、不肖、この私の笛で。終了の笛が鳴っても料理や皿に触れていたら失格! 引き当てた食材以外を使っても失格!」
競い合いの方法は単純明快!間違えようが無い。
「審査はこちらの舞台の半分から奥をAグループ、手前をBグループ、あちらの舞台をCグループとして、各グループに5名ずつ審査員が付く。大聖堂の中で待機して直接料理人を見ない。各テーブルの上に置いてある皿はどれを使ってもOK。各調理台の皿裏には既に調理台番号が書かれているぅぅ。審査員はテーブル番号を知ることなく審査するぞ。それでは料理人諸君、準備は良いか?」
男性司会者がニタついた顔で会場をゆっくり見回した後、笛を口元へ持って行った。
「では、開始! ぴぃ――――!」
私の頭の中では、男性司会者が延々としゃべっていた時間に作る料理の算段は付いた。
マトンとリーキの重ね蒸しだ。
本当はグラタン風にしたいのだけれど、何せオーブンが無い!
蓋付き鉄平鍋を使って、木炭を蓋の上に載せて、鍋の上下から加熱し、蒸し焼きにする心算だ。
そう、これは二つある火口の横にこんもりと積み上げられている薪と木炭を見て思いついたのだ。
昨日は薪しか置いてなかったのだが、今日は何故か木炭もある。
今回は鉄の深鍋、平鍋以外にも肉焼き用の網もあることから、ステーキ用に木炭が追加されているのだと思う。薪だと火力が安定しないから、スープだと使えるけど、焼き加減がシビアなステーキだとちょっとねぇ。
それに、昨日のテーマ食材は鯉! ステーキにする人は皆無だろう。
今回の私の料理のポイントも昨日同様、如何に臭みを取り除くかにかかっている。
マトンも、山羊のチーズも結構臭い。
この世界の人達は匂いや騒音に鈍感と言えど、山羊のチーズ程強い匂いには結構反応する。
仔羊肉のラムならまだしも、獣味が強いマトンは好き嫌いがはっきり分かれる食材なのだ。
硬い肉でもある。調理法に工夫がいる。
でも、油が多いし、その味は甘めなので、マトン肉の油を使わない手は無い!
山羊のチーズも臭みがあり、好きな人は大好きだけれど、これまた好き嫌いがはっきり分かれる食材だから、量の調整が大事なんだよね。
今回も審査員の属性についての説明が無かったので、山羊のチーズを食べ慣れている層が審査するのかどうか見当も付かない。
でも、やるっきゃない。
「ナスカ、鉄平鍋を使ってマトンとリーキの重ね蒸しを作ります」
「はいっ!」
「マトンの肉の処理をした後、5㎜くらいに切り分け、先にマトンの油で肉の両面を軽く焼いてから、重ね蒸しにします。器具は鉄平鍋と蓋を使います。蓋の上には火の付いた木炭を並べて、火力を確保しますね。味はグラタン風にホワイトソースで。で、私はこれから調味料の台の方へ行くので、その間、こちら側の火口でお湯を沸かして。マトンの下処理に使うから。あ、火は薪でお願い」
「はいっ!」
昨日は食材が載せてあった広い台の上には、今日は調味料やハーブが載せてあった。
台の端には持ち手付きの籠がたくさん置いてあった。
これに調味料を入れて運べということだろう。
各調理台に置いていないのは、何度でも取りに来て良いというルールのせいかな?
うん、牛乳もある! ニンニクなどの香味野菜もある。
あっ!乾燥パセリ!
胡椒もふんだんにあるねぇ。
王家もかなり奮発しているってことね。
生クリームは無いけれど、牛乳があればホワイトソースはできる。
小麦粉もある。できるだけ綺麗に精製されているものを選ぶ。
タイムがある。生のものと、乾燥したもの、両方置いてある!
重ね蒸しなら乾燥したものの方が調理しやいかなぁ?
乾燥したタイムの中から色が鮮やかで、葉が多く、茎が固くなさそうなのを数本選んでみる。
指で軽く揉んで香りを嗅いでみて、強すぎず弱すぎず、マトンやリーキの旨味を引き立てる香りのものをチョイス!
その他の調味料を籠に入れ、調理台の方へ戻ると、丁度お湯が沸いていた。
「マトンの下処理の説明をするわね。塊に塩をたくさん振って、沸騰した湯をまわしかけるの。白く固まった油と灰汁を即捨てるのがポイント! これを手早くしないと臭みになるから、大事な作業なの。水で軽く洗って水気をふくまでが下拵えね。その間にリーキや玉ねぎをカットしたいんだけれど、ナスカはどっちの作業をしたい?」
「……興味があるのはマトンの下拵えですが、失敗したら目も当てられなくなりそうだから、野菜のカットの方にします」
「分かったわ。じゃあ、お願いね。リーキはこれくらいの厚さに、玉ねぎと山羊のチーズは乾燥パセリと合わせてみじん切りにして、最後にホワイトソースの上に散らすから、できるだけ小さいみじん切りにしてね」
「はいっ!」
お湯をかけまわしするので、マトンの下処理の間はナスカは調理台の反対側に、ウチを担当している監視員に汚れないようにちょっと距離を置いてもらいながらの作業だ。
監視員は全ての食材をちゃんと使っているかどうかの確認のため、各調理台に一人付けられているのだ。
ナスカも私もお互いやる事がはっきりしているので、手を止めることはない。
実はマトンの下処理なんてやったことが無いのだけれど、昨日同様、鑑定で臭み取りの方法を知る事ができたのだ。
何とか鑑定に書いてあった通りに処理できたと思う。
今日も段取りの勝負だと思う。
調理時間は1時間半。
でも蒸し焼き時間は20分もあれば十分。
その前に肉をカットしたり、両面を軽く焼く時間を入れても40分もあれば十分。
早めに作り終わると、冷めた料理を審査されてしまう。
作り始めるタイミングはとっても重要。
もちろん、二口も火が使えるから、皿はお湯で温めるけどね。
砂時計を見るまだ1/3も砂は落ちていない。
ふと、隣のテーブルを見てみる。
ハリスタ子爵家調理長が引き当てた食材は、玉ねぎ、キャベツ、かぼちゃ、鯉そして白子。
ここから見る限り、白子はプリプリっとしていて、海なし町の王都でも鮮度の良いものを揃えたのが分かった。
隣のテーブルをちょい見して、そろそろこっちも作業に入る。
ナスカに蓋の上に載せる木炭に火を付けてもらう。
鉄の平鍋にマトンの脂を薄く引き、私は厚み5㎜ほどの肉片を一枚ずつ載せる。じゅう、と脂がはぜ、乾燥タイムの良い香りと、マトンの甘い油の香が混じる。表面が軽く色づいたら裏返し、両面に焼き目をつける。その間にもマトンの油と香りが鍋に溶け込み、空気にほんのり甘く混ざる。
次にリーキを手に取り、白と緑の層を交互に肉の上に重ねていく。厚みの偏りができないように真剣に並べた。層ごとに肉の香ばしさと野菜の甘みが絡み合い、鍋の中に微かな湯気が立ち上がる。
蓋をして蒸し焼きにする時は、鍋の上に火のついた赤くなった木炭を置き、上下から熱を与える。体感で15分待つ。
その間にホワイトソースをもう一つの火口で。
今日は2つ火口があるから楽ちん♪
最後にホワイトソースを静かにかけ、その上にみじん切りした少量の山羊チーズと乾燥パセリ、味の決め手の一つ、みじん切り玉ねぎは心持ち多く散らす。ふわりと立ち上った香はキツクない。じっくりと時間をかけることで、マトンは柔らかく、リーキはとろりと甘くなり、チーズとソースが全体を包み込む。
砂時計をチラ見し、残り僅か。
ナスカにお皿にお湯を入れ、温めてもらう。
さぁ、そろそろ盛り付けに入ろう!