作品タイトル不明
7
エイファにはホテル王都店のキッチンで半年修行してもらって、その後はポンタ村の外れにあるグランドキッチンで後半6ヶ月を研修にあてる事にした。
最初は研修期間はずっと王都でと思っていたんだけれど、エイファの上司から彼女が色んな物に興味を持ち始めている様で、短期間で良いのでグランドキッチンの仕組みも学ばせてあげるべきだと言う進言があった。だから最終的に半年程グランドキッチンへ行かせる事にした。
ポンタ村の皆とも親戚なんだから親交を温めて欲しいしね。
それでもって学園の研修が終ったら、本当にウチで働くかどうかエイファ自身が決めたら良いよ。でも、父さんたちが心配するから出来たら王都のホテルかレストランのどちらかにしてくれるとお姉ちゃんとしても安心なんだよね。
そして、エイファにくっついてローマちゃんもウチを希望したんだけれど、彼女の希望は高級ホテルのメイドなので、ホテル王都店でメイド修行をしてもらう事になった。
「今日もエイファちゃんはここに来るのかい?」
ユーリが朝食のハムエッグを口に運びながら、何気に聞いて来た。
普通の家ではこのハムエッグは食べられない。何故なら、このハムは私のスキルで呼び出した前世で食べた事のあるハムなのだ。ウチのホテルでは出しているけどね。
別に高級って訳では無いんだけれど、こちらの世界の保存を主とした塩味の強いハムとは一線を画す味なのだ。乾燥だけでなく燻製という技法も駆使して肉としての食感を残しているため舌触りも断然に良い。
結婚直後に一度このハムエッグを出した時にユーリが殊の外美味しそうに食べたので、あれからちょくちょくこのハムで作ったハムエッグを出しているのだ。
今朝も美味しそうに食べてくれている。
「う~ん、どうかな?あややクラブの皆とは昨日飲んだの知っているから、今夜は誰も来ないと思って突然来るかもしれないかも。ごめんね」
そうなのだ。学園最終学年の研修が始まってから、エイファは以前にも増してちょくちょく私たち夫婦の家を訪ねる様になった。
研修先のすぐ横だし、エイファなりに私と仲良くなりたくて来てくれてるんだろう。
偶にローマちゃんと約束して二人で来る事もあるんだけれど、研修が終わってからとなると時間的に、週一くらいの頻度で集まる元あややクラブの面々とかち合う事もあるので、事前に来る事を伝える様にと口をすっぱくして言っているのだけれど、身内と言う事もあり、エイファは思い立った時にやって来るんだよね。
私も学園に所属していた頃から国内をあっちへこっちへと出張る事が多く、普通の姉妹の様にひっつきもっつきで成長したのではないので少し距離感がある様に思ってたんだ。だから、こういう風にエイファと仲良く出来る機会はとっても嬉しい。
でも、結婚したから、やっぱり旦那様が寛げる家にしたい訳で・・・・。
「いやぁ、別に何時でも遊びに来てくれていいよ。ただ、もしかしたら今夜はセシリオとアーベルがウチに来るかもしれない」
「珍しい組み合わせね」
「うん。セシリオの奴の新事業に関する情報交換と打ち合わせだから。やっぱりアーベルが持って来る情報が一番早いし正確だからね」
「なるほど!」
今日はホテルに出勤の日なので手早く朝食を終えると、出勤の準備に取り掛かった。
馬車を使うより、早朝の綺麗な空気を吸いながらゆっくりとホテルの庭を横切って行く心算。
昨日はお休みをもらったので、今日はいつもより少し仕事が溜まっているはずだから、少し早く家を出るくらいの方がいいかも?なんて算段をしていたら、「オレも事務所へ行くから、一緒に出よう」とユーリからお誘いが。二人で腕を組んで小鳥の声を聴きながら木陰から木陰へと歩いた。
宿泊客もまばらに散歩をしている人を見掛けるが、結構広い庭園なので、お互いに避けようと思ったら十分に避けられる。
そんなこんなで遠巻きに人影は何度か目に入ったけれど、誰とも行きかう事なくホテルに到着した。
「じゃあ、オレはこのまま事務所へ行くよ」
「分かった。あ、今夜セシリオ様やアーベルはウチで食事していく感じ?」
「いや、食事まではいらないから、何かツマミになる物があればいいよ。どっちにしてもこの後、二人共来れるかどうかの確認をする予定になってる。来る事が決まったらウチの者から伝える様にするよ」
「分かった。いってらっしゃい」
ニヤリと笑ったユーリに「???」と言う顔を向けると、「奥さんにいってらっしゃいって言われるのって、存外良いな」とニヒルなのかニヤケなのか分からない笑みを浮かべ、軽く手を振って、新聞社の方へ去って行った。
私専用の事務所へ入ると、入口付近にあるダンヒルさんのデスクには既に彼が座っており、一番奥にある私のデスクでは業務時間前にも関わらずランビットが私の席に座って幾つかの書類を処理していた。
「おはよう!」
「おはようございます。アウレリア様」
「おはよ~。昨日が休みだったから、今朝は早く来ると踏んでたんだ」と、こちらの動きを見透かしていた様なランビットがダンヒルさんの後に挨拶を返してくれた。
「早速だけど、色々聞きたい事がある」
そう言うランビットは私の椅子から立ち上がって私に席を譲り、自分用には別の椅子を一つ持って来てデスクを挟んで向かい側に座った。
てか、ここは私の事務室であり、ランビットの事務室は別の所にあるから、本来はあっちで私を待つべきなんだけどね・・・・まぁ、いいか。
ランビットの質問に答えつつも保留中の書類箱の中身を二人で一緒に処理し始めた。
思ったよりも仕事が溜まっていないのはランビットとダンヒルさんが有能な証拠だと思う。
人材がちゃんとあり支えられていると言うのはとっても恵まれていると思う。
まぁ、他の大店なんかと比べると年功序列みたいな制度を取っていない分実力主義が反映されて、能力のある人には働きやすい職場だと思う。
そこそこの能力しか無い人でも、割り当てられている仕事をちゃんと出来る人ならば、他と比べて高時給で休みも比較的取りやすい職場なので、何度も思うがウチは働き易い職場だと思うよ。小さな子供がいる人にはお客様と従業員の子供を一緒にみる保育園が敷地内にあるから、画期的な職場なんだよ、ウチは。
問題は、その割り当てられた仕事すら出来ない人だ。
面接等でちゃんとそういう人物が混ざらない様に気を付けてはいるのだけれど、どうしても少数は紛れ込んじゃうんだよね。
なんだっけ。働きアリの中にどうしても1~2匹はサボる個体が出て来る論だっけ?
それと仕事はそこそこ出来るけれど、周りの人たちとの和を保てず、職場の雰囲気を壊して、周り全体の効率を下げちゃう人物もちらほら。
今、問題になっているのは子供が病気がちで薬代が嵩むのに、夫が働かないので自分が働かざるを得ないと面接で言っていた中年女性のプルミエだ。
給仕をやってもらっているんだけれど、年は取っているので給仕長と勘違いされるらしく、お客様からその様な扱いを受けている事が散見されている。
確かに彼女は給仕は出来るけれど、お尻が重い。
あ、物理的に大きなお尻なので重いと言うのではなく、他にスタッフが居れば自分は最後まで動かないと言う意味でお尻が重いのだ。
年齢的には同僚たちよりも上だが、経験や入社時期を見れば彼女が一番後から入って来た下っ端となるのに、先輩たちが動くまでデーンと構えて、自分は指一本動かさないってのは頂けない。
それなのに給仕長がいる時は、率先して動いてみせたりと、かなり姑息だ。
彼女自身が甲斐甲斐しく働かないのも問題なんだけれど、噂話が大好きで仕事中でも仲間やお客様のあれやこれやを話しているのを良く目にすると直属の上司から報告が上がっている。
どうも自宅では会話があまりなく、近所からは避けられており、職場くらいでしか話をする相手がいないらしいので、恐らくそれで職場で噂話をしたがるのではないかとダンヒルさんが調査の結果を教えてくれた。
これはお客様目線で考えればすぐ分かる事だが、くつろぎに来ている場で、人のうわさ話など耳に入って気持ちの良いモノではない。
ランビットと一緒に溜っている仕事を片付けながら、プルミエを辞めさせるかどうか、二人で意見交換をしている。
それを少し離れた所でダンヒルさんが聞いている。
う~ん。この世界、解雇は簡単に出来るのだけれど、ウチは理想の職場との呼び声が高いので、あまり変な噂を流されない様に上手に解雇する必要があるんだよね~。
そんなこんなでランビットと手は動かしながらもプルミエの話で午前中はあっと言う間に過ぎてしまった。