作品タイトル不明
31
「メグ!」
プラットフォームに降りたメグが私の声のする方向をきょろきょろと見ている。
鉄道利用者が多いので、車両が到着するとプラットフォームは人でいっぱいなのだ。
それでも大人たちに交じって背の低い私を何とか見つけた様で、にっこり花が咲き誇った様な綺麗な笑みを浮かべて勇者様がこっちへ走って来た。
「リア~~!」
勇者様は私の首に両腕を回して飛びついて来た。
もちろん私はその勢いを受けて後ろにひっくり返りそうになったが、すかさず背中を支えてくれたダンヒルさんのお陰で事なきを得た。
「おひさぁぁ~」
「うん、おひさぁぁ」
メグは少し背が高くなった気がする。
髪もかなり伸びていて、卒園した時から多少見掛けが変わっていた。
私も髪を伸ばしていて、今は腰のあたりまで伸びているので、2人が考え方の傾向が似てると笑い、手を繋いでホテルの王都店に向かった。
「ここがね、私専用の事務所なの」と言いつつドアを開けて中に入ると、ランビットがソファに座って待っていた。
「お久し振り!」
「あああ、ランビットだぁ。お久し振り~」
3人でソファに座ると、すかさずラウンジ担当の給仕係が紅茶とケーキを運んで来てくれた。
「これこれ!リアって言うと美味しいおやつだよね」
ランビットも無言で頷いている。
「俺は時折、飲茶を無性に食べたくなるんだよね」と言っているけれど、コンビニで売っているので自分で買って食べてちょ!
そう言うと、「いやぁ、コンビニで売っているのも美味しいんだけれど、リアお嬢様が作ってくれたのは出来立てだったし、味が違うんだよね」とちょっとこちらを伺う様に覗き込んで来た。
「ぶふーっ!リア、お嬢様って呼ばれている」
勇者様が先日のフェリーペみたいな事を言っているよぉ。
ランビットが先日と同じ説明をすると、流石勇者様、素直に「ほぉ~」と感心していたよ。
「今日は、ウチの家に泊まってもらう心算だけれど、明日の同窓会はこのホテルの貸会議室でするからちゃんとホテルの中も見て貰えるよ」
「おおお!楽しみ。ゴンスンデ店のデパートは良く見に行くんだけれど、お部屋とかは今回の移動中で見たのが初めてだったんだぁ。本当に凄い宿だよね。駅町のビジネスホテルもとっても居心地が良かったよ」
実は元あややクラブの平民の中ではメグたんの所だけがウチの事業に関る事もなく、何の恩恵にもあずかっていないんだよね。
フェリーペん所は全国規模でコンビニを展開し、ウチからの商品なども卸しているので、結構儲かっているみたいだし、ボブん所もいろんな錬金術の製品を定期的に卸してもらっているからやっぱり儲かっている。
でも、勇者様の所は雑貨屋なのでウチのデパートに出店できるわけもなく、何か製品を作っているわけでもないので、事業としての関りはないんだよね。
だからそれがちょっと申し訳ないのだ。
まぁ、そんな事を思っている事自体、上から目線に思われちゃうと思うから口には出さないけどね。
お茶の後、私は早退扱いでメグたんと一緒にウチの家へ馬車で向かった。
最近、町中を歩いての移動が禁止されているんだ。
何故って、私が色んな事業をやっているので金持ちだと思われているらしく、ってか、実際に金持ちなんだけどね、そうなると誘拐とかの危険も出てくるらしく、護衛付きの馬車を利用する様に言われているんだ。
まぁ、歩くより馬車の方が楽っちゃ楽なんだけど、揺れるんだよねぇ、これが!
鉄道での移動に慣れてくると、馬車が苦痛で苦痛で・・・・。
こりゃぁ、マジでサスペンションを考えた方がいいかな?
でも、あまり仕組みしらないんだよね。
恐らくバネみたいなもんだとは想像はつくけれど、じゃあお前作ってみろって言われると困っちゃうレベルの知識しかないから、これもスイカズラ工房案件かな?
あそこには魔石で動く鉄道から何から、色んなモノの開発も頼んでるから、一つくらい増えてもOKでしょう?
機械や装置に関してはプロにお願いするのが楽だもんねぇ~。
実際に画像ではなく映像保存機や自動車とか電子レンジなんかも開発してもらう様に頼んでるんだよね。
これって出来上がればラッキー♪程度の依頼なんだけどね、一応は開発資金も出しているので細々と開発を続けてくれているみたいよ。
レストラン前で馬車を降り、真直ぐ勝手口から3階まで階段を登る。
「ただいまぁ。メグが来てくれたよ~」
「まぁまぁ、いらっしゃい。疲れたんじゃなくて?まずはお部屋へ案内するわね」と母さんがメグを客間へ連れて行き、夕飯の前にお風呂に入れる様にしてくれた。
メグがお風呂から出た頃に、父さんも仕事から帰宅し、一緒に3階で家族全員揃ってのお夕食。
母さんたちがメグが居心地良く過ごせる様に、色んなモノを用意してくれていた。
夕食もそうだけれど、肌触りの良い寝間着とか、遅くまで2人で話し込んでも良い様にって寝る前にホットミルクを差し入れてくれたり、床にふかふかのファーを敷いてその上に山ほどのクッションが置かれていたり、こういうのを見ると親心ってありがたいと思ってしまう。
前世と前々世を合わせると私も結構なお年だもんね。
大人の考えって言うのはまぁまぁ分かる。
だけど、残念な事に子供を持った事は一回もなかったから、未だに親の気持ちってウチの両親を見て何となく推察しているだけなんだよね。
そんな事を考えていたからだろう、その晩の女子会の話題はお互いの恋や結婚、はたまた将来欲しい子供の数についてだった。
私は恋のコの字も無いなんだけれど、なんと勇者様にはあったんだよね!!!
「皆には内緒にしてね」とお決まりの前置きの後に、ゴンスンデの幼馴染と結婚の約束をしていると頬を染めて打ち明けてくれた。
彼は学園には通っていない平民で、陶器窯を持つ工房の4男だそうだ。
で、2人で結婚して独立したら、食器やテーブルクロスや簡単な洋服を扱う雑貨屋を始めたいとのこと。
もちろん食器は勇者様の幼馴染の所の窯で焼いたやつ中心に売り出したいそうだ。
ほぉほぉ。勇者様には好きな人が居たんだ。
だから闇王様の恋心に答えなかったのか?と思っていたんだけど、メグは闇王様の思い人は私だと思っていたらしい。
ええええ?
でも、闇王様の婚約者はアドリエンヌ様だから、闇王様が誰に初恋しようが関係ないんだけどねぇ~。
お互いがお互いに闇王様の初恋の相手は自分じゃなく相手だと思っていた事がおかしくて大きな声で笑って、「あなたたち、もう夜中なのよ」と母さんに怒られちゃった。テヘペロ。