作品タイトル不明
73
事件は会議室ではなく火魔法講堂で起こっていた。
水魔法講堂から飛び出た生徒たちは、マデレーン先生の指示に従って比較的余裕をもって講堂から避難する事が出来たが、他の講堂、特に火魔法講堂から出てきている生徒たちはパニック状態の者もいた。
「範囲魔法を使いやがった!」と誰かが叫んだ。
決闘を行っている生徒たちを守っていたのが先生か誰かが呼び出した盾と呼んだ方が良い壁だったが、その盾を消すにはより強い攻撃力のある魔法で攻撃すれば良いのだ。
それには範囲魔法が効率的ではあると思うんだよね。
だけど込める魔力の調整を間違うと大惨事になりかねない。
だから常識があればこんな狭い場所で範囲魔法を使う馬鹿はいないはずだけれど、たまたま1年生の中に1種類だけだが範囲魔法を使える子が交じっていたらしい。
上級生に1年生がバンバンやられているのを見て、どうしても勝ちたかったその子は範囲魔法を使ったんじゃないかというのが、食堂に避難している生徒の間で実しやかに囁かれている。
だから最初にルールを決める必要があるのだ。
何を使って良くて、何を使ってはいけないか、誰でもがはっきりと認識できる形で知らせるのはイベントを企画した側の義務だと私は思う。
想定外の事態というのはいつでもどこでも起こりえるのだが、それでも出来るだけ先回りして考える必要がある。
特に安全に関してはそうだ。
今回はそこを怠っているので、学園側が誰に責任を追及するのかが重要になってくる。
入園してそんなに時間の経っていない範囲魔法を使った1年生になのか、ルールをちゃんと決めなかったイベントクラブなのか、審判として参加している各属性魔法の先生方なのか、イベントを許可した学園側なのか・・・・。
全員に少しづつ責任があると私は思うんだよね。
中でも責任が重たいのは、ちゃんとしたルールを作らずにイベントを決行したイベントクラブと、イベントの中身をちゃんと精査せずに許可を出した学園じゃないかな。
「怪我人はでたの?」
周りにいる学生たちの誰にというわけでもなく声に出したら、「決闘の対戦相手と審判のドナルド先生が火傷をしたみたい」と恐らく火魔法講堂にいたであろう生徒が答えてくれた。
「それだけじゃないぞ。俺の友達は講堂から逃げる時に後ろの奴らに押し飛ばされて怪我をした」
「私も壁に叩きつけられたわ」
なんて、避難の時に軽傷を負った者も少なくないらしい。
水魔法講堂から避難した生徒たちが迷わず学食に向かったので、その流れに他の講堂から逃げて来た学生たちも続いたこともあり、学食の中には相当数の学生が避難している。
「みんな、良く聞け!」
風魔法のフント先生が学食の複数ある入口の内、一番大きな扉の前に立ち、大きな声で生徒たちの注意を引いた。
「楽しいイベントの最中、こんな事態になってしまい申し訳ない。まず全生徒がちゃんと避難できているかどうかの確認を取りたいのでクラス毎に集まってくれ。私に近い方が1年生、調理場に近い方が4年生、私から見て右側から貴族の成績上位クラス、左側が平民クラスとなる様に並び直してくれ」
フント先生の指示に従って生徒たちはノロノロと移動を開始した。
「クラスメイトの数を数え、全員いるかどうかを代表が私の所まで伝えに来なさい」
各クラスの生徒がフント先生に結果を伝えに行くと「1年生は火魔法決闘の選手以外は全員揃っている。2年生は貴族成績下位クラスの4人がいない。3年生は全員揃っており、4年生は火魔法決闘の選手と他に2名いない。この中で今から名前を上げる生徒が今どこにいるか知っていたら教えて欲しい」と、フント先生は各クラスから聞き出した所在不明の生徒の名前を順次大声で告げて行く。
2年生の4名は最初からイベントに参加していなかったらしい事が2年生の別のクラスの子から申告された。
フント先生は横にいた学園のメッセンジャーボーイに言いつけ寮にその4名がいるかどうか確かめにやった。
4年生の方は誰もどこにいるか知らなかった。
「4年生成績中の上クラス以外は解散で良い。申し訳ないがそれぞれ寮の自室に戻り、夕食までは部屋を出ない様に」
4年生成績中の上クラスは行方不明の2名の生徒が所属するクラスなのだ。
再びフント先生が中の上クラスの生徒に聞き込みをすると、この2名はちゃんと決闘イベントを観覧していた様だ。
これ以上拘束しても意味がないと思ったのか、中の上クラスも解散となった。
今、この食堂には先生方ともう一人のメッセンジャーボーイ、イベントクラブの面々、そして何故かイベント運営に慣れているだろうということでフント先生に協力を要請された私たちあややクラブの面々しかいない。
「先生!申し訳ない。この様な事態になるとは・・・・」
サムエル皇子の謝罪を遮って「今は謝罪より、残り2名の生徒がどこにいるか。無事でいるか確認する方が大事だ。我々教師は各講堂に誰も残っていないのを確認してからここに来たけれど、行方不明者がいると分かって直ぐガスペール先生とアルト先生に再度全部の講堂をチェックしてもらっている。その結果が分かるまではここで待機しつつ、他の場所の可能性も探る必要があると思う。おい、あややクラブ、お前達はこういうイベントモノに慣れているだろう?こういう場合はどうすれば良いとか何か案はないのか?」
フント先生、まずはイベントクラブにそれを訊ねるべきでは?と思わなくもないが、怪我をしているかもしれない2名の生徒・・・・怪我!
もしかしたら医務室に自分たちで向かった?
「あのぉ・・・・」
闇王様を見つめながら遠慮がちに声を上げたら、闇王様より先にフント先生が「何か思いついたのなら教えてくれ。間違ってても気にしないから」と直に私に話しかけて来た。
闇王様を見ると、黙って頷いているので発言してみる事にした。
「講堂から避難する時怪我をしたのかもしれません。元々避難場所が食堂と決められていたわけではないので、ここへ来る必要性を感じず、医務室へ直行というのも考えられます」
「なるほど!誰か医務室へ行ってくれ」と言うフント先生の指示で残っていたもう一人のメッセンジャーボーイが医務室へ走って行った。
ガスペール先生とアルト先生が学食に戻り、講堂には誰もいない事が分かった。
しばらくすると寮に2年生4人を探しに行っていたメッセンジャーボーイが彼女たちはちゃんと寮の食堂にいたと報告し、最後に医務室へ行ったメッセンジャーボーイから4年生2名が医務室に居たと報告があり、火傷を負った火魔法決闘者とドナルド先生以外は無傷或いは軽傷で全員所在が判明したため、私たちも解散して良い事になった。
「アウレリア、医務室を思い付いてくれてありがとうな」というフント先生に見送られ、私たちあややクラブは全員で部室へ向かった。