軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第858話 神々の戯れ

雲の上の景色の広がるここは神界の全ての神域の中心に当たる場所だ。

シャンダール天空国も、原獣の園も、全てはこの大神殿を中心に天の上を回っている。

神界最高の神が治めるこの大神殿は入室する相手を選ぶのだが、今日は来訪者が来る予定のため、神殿の扉が開いていた。

パアッ

『ほいっと。ちょっと遅れたけど怒っていないといいんだけど』

1体の道化師が右手に光り輝く石を掲げて転移してやってきた。

スタスタッ

天井も通路も人間が使用するにはとてつもない大きさの大神殿を道化師は、少し速足でまっすぐ歩いている。

ゴゴゴゴッ

突き当たりの巨大な扉の前に到着すると自然と開き、当たり前のように中に入ってく。

室内には3人の女性と玉座に座ると男性が、道化師の来訪に気付き視線を送る。

『……ようやくやってきたか、キュベル。遅すぎて父様はお怒りだぜ』

無言で見つめる武神オフォーリアの横で、剣神セスタヴィヌスが道化師の姿をした来訪者であるキュベルに対してニヤニヤと挑発する。

『それは怖いですね』

軽く返事してキュベルは正面に向き直った。

『そこで止まれ。かつての第一天使であっても無礼は許されぬぞ』

玉座に座る創造神エルメアの側に立つ、闘神三姉妹の長女である戦神ルミネアが声を上げると、キュベルは言われた場所で跪いた。

『……遅かったですね。私の渡した転移石が効果を失い、神界に来れないかと思いましたよ。キュベルよ』

創造神エルメアが感情の起伏のない優しい口調で語り掛けると、キュベルの右手に握り締める転移石がキラリと光った。

『申し訳ありません。人族の戦力が思いのほか残っており、落ち着くまでお時間をいただきました』

『そんな言い訳を今まで考えていたのですか。私はてっきり私の指示を聞けず、怖くて神界に来れないかと思っていましたよ』

『そ、そんなはずはありませんよ!? いやだな、地上で優先すべきことをやっていたのでやってくるのが遅れただけです!!』

キュベルはいつもの調子で跪いたまま上半身だけで大げさに驚いてみせる。

『……』

そんなふざけた態度では話は進めないと言わんばかりにキュベルを静かに見つめた。

『これは全知全能の神の前で大変失礼しました』

キュベルは再度跪いた。

それでもエルメアは表情を変えず、ゆっくりとした口調で語り掛ける。

『ほう? 優先すべきことですか……。何を優先されたのですか?』

『はい!! 魔王軍は管理、運用していくのはとても忙しくて……。アレンたちとの戦いで消耗した軍の再編は急務であり……』

『おかしな話をまだ続けると言うことですね。今回の戦いで私は「アレンを殺せ」と命令したはずですが? それ以外に優先すべきことがあるのですか? 私には分かるのです。アレンは死んでいない。どうやら人間界からも神界からも消え失せた。違いますか?』

話が違うと発するエルメアの口調はとても重く、この大神殿の広間の空気が一気に変わり、闘神三姉妹の3柱の表情が一瞬で厳しいものになる。

『いえ、申し訳ありません。実は配下のシノロムが勝手に転移させてしまいまして。人間界が落ち着いたらすぐにでも追って始末を……』

『そういえば、オルドーだけでなく死神クリーパーも自軍に引き込んだ様子ですね。まさか彼の者は暗黒界に行っているものだと思っていましたよ。隠し通していたなんて驚きを隠せません。アレン君の件についても隠し通せるといいですね?』

神界からでも様子は魔王軍とアレンたちの戦いの様子は分かっているぞと言わんばかりに、キュベルの出鱈目な話を遮った。

『えっと、それは……。その……』

『それで、自軍を静かに強化して私の寝首でも掻こうとでもしているのですか? かつて手の焼いた光魔八将のうち戦力に長けた2柱がそちらの軍に入ったってことですからね。あれほどの神力を持ったものなど、そうはおりません』

スタスタ

ここまで言うとエルメアの側にいた戦神がゆっくりとキュベルの下へと歩みを進めた。

肩に斜めに担ぐ大剣をゆっくりと引き抜き、剣先を跪くキュベルに見せる。

だが、キュベル仮面の下で無表情のままジッとエルメアを見つめる。

戦神ルミネアは今にも一刀に首を切り落とさんとばかりに振りかぶり、メキメキと万力の力を込めるがそれでもキュベルは微動だにしない。

『……』

『……』

キュベルは、この状況でも逃げることも抵抗することも許されないのか、それとも別の意図があってか一切動かない。

今にもルミネアが今にも大剣を振り下ろそうとした時だ。

『このままではエルメア様の「悲願」は達成されません。ですが、僕の命はここまでのようですね。残念です』

そう言ってキュベルは、死ぬ覚悟はあると言わんばかりに目を瞑った。

これを合図にルミネアが一気に振り下ろそうとした時だ。

『ルミネア、待ちなさい』

『はっ』

『キュベルよ。私の「悲願」ですか? 話を続けなさい。貴方のしたことがとても私のためになるとは思えませんが、どうなのでしょう』

『はい。あの状況でアレン君を殺したら確かに神界は大いなる生命の力を得られることになるでしょう。彼には膨大な命を宿していますから。さらに調停神ファルネメスから魔王軍に渡った信仰値のほとんどもアレン君が回収しました』

『そうですね。そのためにアレンにはレベルアップを餌に頑張ってもらったのです。ですから殺すようにお願いしたのですが……。途中でレベルアップを制限しており、あなた方の戦力なら確実に倒せると踏んでいましたよ』

『たかだか人間。おっしゃるとおり彼を殺すことは簡単です。ですが、それでもエルメア様の悲願が達成できるとはとても思いません。ですので、彼を「無の世界」に送りました』

『ほう、悲願達成のための「無の世界」ですか……。興味深い話ですね』

『たとえ破壊神が目覚めることになっても同じ歴史が巡るだけです。100万年、エルメア様はこの時を待っていたのではないでしょうか』

『破壊神ですか。そして、無の世界……。なるほどあなたの言いたいことは分かりました。まさかあなたの口から破壊神という言葉がでるなんて驚きです。私の目の届かないところで何かまだ、よからぬことをしていたのではないのですか?』

『いえ、滅相もございません。強力な魔法陣の結界をかけた牢獄の中で第一天使と会話しただけです。破壊神の目覚めが近いことを知り、不安に思っていましたよ』

『そういえば、破壊神について勝手に調べる煩わしい「かつての」第一天使がいましたね。キュベル、その言葉を次から使わないようにしてください。貴方の命も保証できませんので。同じ運命は辿りたくないでしょう?』

魔王に食べられた第一天使を「かつての」と言い切ってしまう。

『申し訳ありません。新たな第一天使は……。名前は何でしたっけ。そうそう、ホマルは余計なことをしない素直な子だといいですね』

まるで第一天使がすげ代わる予定が組まれていたかのような発言だ。

『まったく、その言葉が余計なことだと言っているのですが……。まあ、話を戻しましょう。たしかにキュベルよ、貴方の言いたいことは最もかもしれません。彼にはまだ「使い道」があるということですね』

『はい。私は必ずエルメア様の悲願を達成させます。貴方の言われるままに私は自らの名を捨てました。アレン君はまだ活用すべきです』

キュベルはエルメアに下る時、「キュプラス」の名を捨て仮面を被ることにしたようだ。

『分かりました。今回はキュベルの計画に乗ってあげましょう。もう行きなさい』

『はい。地上のせん滅に戻りたいと思います』

『よろしい。もうあの世界も必要ありませんからね。次からもキュベルよ、私のために行動してもらいますよ。進捗状況の報告も怠らないように。その石がずっとあなたを見ていることを忘れないように。あなたもいつでも始末できることを忘れないようにしてください』

『もちろんです。これからも、このキュベル、エルメア様のために働かせて頂きます。それでは失礼します』

闘神三姉妹が睨む中、創造神エルメアの許しを得たキュベルは背中を見せてスタスタと歩いていく

広間を出ると扉が自然と締まった。

キュベルはそのまま通路を来た道を歩いていく。

『……ふう、命を永らえちゃったよ。でもさすがに今回は終わったかと思ったね。魔王軍に神界と良い顔し続けるのも限界なんだけど』

このままでは命がいくつあっても足らないとキュベルは歩みを止めずに毒づいた。

『まあ、それでも今まであんなに頑張っていたのに全ては「神々の戯れ」の中で踊らされていたアレン君を思えば涙が止まらないよ。レベルが上がったの何だの喜んでいたのに本当に可哀そうだよ』

彼に比べたらとキュベルがそこまで言うと右手に握り締める転移石がキラリと光る。

『それでも僕も命懸けで交渉したんだ。君にはまだ仕事が残っていることを忘れないでほしいものだよ』

大神殿の外にやってくると日の光がまるでキュベルを監視するようにサンサンと光っていた。

眩しいと天を見ながらも手で抑えるキュベルが仮面の下で笑みを零す。

『諦めるのはまだ早いよ。ねえ、始まりの召喚士アレン君。もし奇跡的に戻ってくることができたなら覚悟しておいた方が良い。抗いようのない圧倒的な力の前で、君が全てを失い絶望し崩れ行くだろうから……』

仮面の下で笑みを零すキュベルが天に向かって転移石を掲げると光りに包まれて、その場から消え去ったのであった。