軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第787話 応戦準備7日目:破壊神※他者視点

キュベルは意気揚々と魔王城へ転移し、オルドーには魔王への報告、シノロムに研究施設の後始末などを任せて、別の場所へと移動する。

『これはキュベル様!!』

『どう? 封印はしっかりできているかい?』

『もちろん、万全に守っております』

2体の魔神が門番として仰々しい扉の前で立っていた。

集合知力や化身を研究する場所と違い、たとえ参謀のキュベルであっても建物内への直接の転移は叶わないようだ。

対応する門番は魔神と、どれだけのものがこの先に閉じ込められているのか。

『うんうん、流石は僕の直属の配下だ。中に入っても良いかな?』

『もちろんです。どうぞ、お入りくださいませ!』

ゴゴゴゴゴッ

2体の魔神がそれぞれ片手を当てると魔力で10メートルを超える扉全体を幾何学の文字が満たしていく。

自動ドアのように勝手に観音開きの扉を開いていくと、スタスタと中へとキュベルは門番たちを置いて入っていく。

カツカツカツ

静寂に包まれていた通路をキュベルの足音がかき消していく。

キュベルが、迷宮に近い通路を迷うことなく進んでいく。

通路の左右には、いくつもの扉があり、どれもが封印の錠がかけられ、バスクに対して施したのとは比べ物にならないほどの仰々しさがあった。

ここは魔王城の中のこの一画は、「封印の間」とか「無限の監獄」とも呼ばれ、扱いの困った魔獣や魔神、または捉えた人間たちなどを拘束するための場所だ。

中には魔王軍の誰もが入れず長年、完全に封印された「開かずの間」があるらしい。

通路を進んだ先の突き当りの扉に手を当てる。

『……』

パキッ

バタン

無数の錠で封印されていたのだが、キュベルが無言で力を込めると接合面を失ったかのように開錠された。

扉を開けた先へ進んでいくと人影が見えてくる。

何か背中に大きな羽の生えた者が地べたの床石にうずくまっているようだ。

キュベルの足音に気付いて、首輪と手錠でガッツリ捉えられた者がゆっくりと頭を上げた。

『キュベルか……』

ここはキュベルが捉え、これから魔王の贄となる第一天使ルプトを封印する場所だ。

アレンとの戦いまであと3日を控えたこのタイミングで、キュベルはルプトに会いに来た。

『はあい。ルプト君も元気そうだ。あれから具合はどうかなって思ってね。お加減いかが~?』

道化師の姿が良く似合う軽やかなステップを取りながら、両手をパタパタと掲げ、体全体でくるくると回っている。

『具合ですって。餌の具合を確認してどうすると言うの? 私は自分の兄を殺した者と話をするつもりはないわ!!』

自らの双子の兄のメルスを殺したキュベルに対して、歯を食いしばり殺意を込めた目でルプトは睨みつけた。

魔王軍が火の神フレイヤから神器を奪う際、メルスはキュベルによって殺されている。

『おっとそうだった。僕は因縁の相手ってわけだね。もうそんなに怒らないでよぅ』

『貴様、この鎖を解きなさい。すぐに何も語れぬようその首を落としてくれる。ぐぐあっ!?』

バチバチ

封印の魔法陣が刻まれた首の錠を外そうとしたが、魔力による電撃が全身を焼き切る勢いで走った。

羽から背中にかけて煙が上がり、顔面から床に倒れてしまったが、それでもルプトはキュベルを睨みつけることを止めなかった。

『もう! 無茶するから。忙しい中、会いに来たのに~。実は魔王様の考えが変わって君を解放することにしたのさ』

『本当なの?』

ルプトは体を起こしキュベルの言葉の真を問う。

『冗談だよ。もう、毎日、君を食べたくてうずうずしているよ』

爬虫類に与える活餌用のネズミを見るような眼で、仮面越しにキュベルがルプトを見ている。

『ふざけないで! そんなに檻に入れられた餌の行く末をからかって面白いか!!』

キュベルのあまりにふざけた応対にルプトが怒りを露わにして大声で叫んでしまった。

『何て言い草だ。僕は君の先輩なんだよ』

『誰が先輩だ。貴様などを先輩だと持ったことなど一度もないわ!』

『ふ~ん……』

封印された建物はそれほど広くなく、ルプトの叫び声だけが反響する。

何度も反響してこだますが、次第にルプトの声が小さくなっていく。

静寂が訪れても見つめたままキュベルが次の言葉を発しないため、沈黙に耐え切れず、ルプトが改めて口を開いた。

『な、何よ……。もう、からかうのは終わったのかしら』

『……僕の言う「先輩」への反応に違和感がないね。おかしいな。君にとって僕のどの辺りが先輩だったのかな?』

仮面の底で、キュベルは来た時からふざけた態度をとっていたが、瞳はずっとルプトを捉え、正確に表情から思考を読み取ろうとした。

『え!?』

魔王やその幹部には自らが第一天使であると知らされる場面もあったが、なぜルプトがそれを知っているのかと問う。

『僕は「原初の魔神」と神界では呼ばれているはずだ。そんな風に天使たちと相対するときは名乗ってきたし。人間界で人類を誑かし災厄を語りもたらす者じゃないの。決して君の先輩ではない。だけどルプト君の応対に違和感覚えるな~』

『……くっ』

歯ぎしりしたルプトはキュベルを睨みつける。

『本当の原初の魔神は僕の傍らにいてね。今は魔王様にこれからアレン君たちと戦うための、魔王軍の状況について報告に行っているんだ。彼は本来の記憶と力を戻せば、こんなもんじゃないけど、それだとそれこそ全ての魔神の源なる存在で、僕には扱いきれないんだ……。おや、僕ばっかりしゃべっているよ。ルプト君、ねえ、もっと会話しようよ』

『……随分おしゃべりね』

『ああ、そうか! 僕が君からアレンたちの情報を聞き取ろうと思ってると考えているんだ! お兄ちゃんのために不利になることは言えないってこと!? 流石はよく出来た賢い妹だ!!』

魔王に食べられそうになったその日、ルプトはキュベルがアレンにクワトロの特技「追跡眼」越しに語り掛けている様子を意識が朦朧としながらも見ていた。

あと3日以内にアレンたちがやってくる直前に戦いに備えてやってきたと考えているのかと、キュベルは大げさに感動して身を振るわせる。

『だけど、ごめんね。僕たちの勝利は間違いなくて、その前に君が神界で何をしていたのか気になってね。こうやって遊びに来たというわけさ。魔法神の研究施設をなんであんなに手伝っていたの?』

『あなたたちを倒す手段を手にするためよ』

良く口を開くキュベルと対照的に無駄な言葉を言わず、ルプトは答えた。

『あれれ? おかしいな~。古代魔法は完成できないはず。それなのに魔法神の研究を随分、手伝っていたようだけど、そんな無駄なことを……。あれ? なんだい、その目は? 何か変なこと言っているかな?』

何か疑問があるような表情をしながらルプトはキュベルの仮面の中を覗き込むように話を聞いていた。

『……不思議ね。私が魔法神の研究を手伝ったのは第一天使になった後の話よ。なんで、魔王軍の内通者だったマーラがいなくなった後の話に詳しいのかしら?』

『え!?』

『まるで、まだ内通者がまだ神界にいると言われているみたいだわ。神界の状況をあなたに伝えるならある程度以上の立場と力を持った者ね。天使にそんなことができるかしら。もしかして神の中に……』

ルプトの核心を突くような語り口調に、キュベルが身振り手振りを大きくして叫んだ。

『今は僕が困惑する君を問い詰めて気持ち良くなるターンなの! 何勝手に、僕のこと分析しているの!!』

『……そうか、その反応。私はようやく「答え」にたどり着けたのかしら。でも不思議ね。そんなことして何になるって言うの? キュベル、あなたがやることの結末が何なのか分かっているの?』

キュベルの行動に大きな矛盾があるとルプトは言う。

『知りたい? でも結末ってことは君も行きつくことが出来たんだ』

『知りたいわ。破壊神って何なの?』

『……やっぱり破壊神に行きついていたのか』

『そうよ。結局、魔王とかそんなの関係なくなっちゃうんじゃないの。神々でも止められないっていうし』

『なるほど、これから起きる破壊神の目覚めに備えて、アレン君たちに協力していたのか。破壊神の存在を知っているなら、魔法神が昔から研究を進める古代魔法の手伝いをするのは当然か。……いや、おかしいね』

『……何がおかしいのよ。なにもおかしくなんてないわよ』

『順序がおかしんだよ。あるべきピースを君は語っていないね』

『ピース?』

『だって、破壊神の力を古代魔法って呼ぶんだよ。古代魔法を調べても破壊神の存在には行き着きっこないんだよ。破壊神は誰に教わったのかな。魔法神じゃないとすると、ガルムかな? まさか、破壊神にビビっていた彼がそんな冒険を犯すはずもない。僕らだって破壊神の研究などせずに邪神の研究をしているわけだし』

魔法神の研究には破壊神の存在などどこにも書かれていない。

シノロムに研究させる対象は「邪神」で決して「破壊神」ではない。

破壊神の研究しても無理だとキュベルは最初から諦めていた。

古代神が使う魔法程度の研究であったとマーラからキュベルは聞いているが、その時は破壊神の研究につながるし無駄に終わると思っていたと言う。

『……』

キュベルの分析をルプトは黙って聞いている。

『ねえ、僕ばっかり話してないで教えてよ』

『さっきから何を言っているのか分からないわ。何を妄想しているのかしら』

『おやおや、焦っているね。もう少しで答えにたどり着けそうだ。そういえば、無理やり寝言で未来を変えて勇者と合わせ、魔神との戦いに協力し、神界へ誘導する異端の獣、いや、精霊がいたね……。もしかして彼から聞いたのかい?』

『なっ!?』

『正解のようだね。まったく、イースレイ君もとんだ食わせもんだ。自分は大精霊神として中立で古代神とも歩調を合わせるなんて言いながら、裏でローゼンに好き勝手やらせるなんて』

『……私も信じられないの。本当に破壊神なんてものが目覚め、世界を滅ぼすの?』

『なるほど、ローゼン君の話を鵜呑みにはしなかったけど古代魔法の研究を手伝っている内に確証を持ってしまったって口か』

『自分ばかり理解していないで答えなさいよ。どうせ檻に入れらた餌でしょ』

『よろしい。殊勝な心構えだね。ではこれから起きることを教えよう。「破壊神」がまもなく目覚め、三界を破壊するだろう。魔王の行動は行きつく先は破壊神の目覚めだからね。世界は本当の絶望を知ることになる。イースレイ君もガルムも復活を恐れて震えていたね。いや、諦めたと言った方が正確かな』

キュベルと封印の間に閉じ込められたルプトの会話が続いていくのであった。