軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第786話 応戦準備7日目:究極の化身※他者視点

究極魔造兵の研究成果が進んだと魔獣兵研究所長シノロムが言うので、オルドーとシノロムを引き連れてキュベルが研究室へ転移した。

『うぎゃあああああああ!? い、痛てえええええ!!』

先ほどのルキモネを置いた巨大な建物に比べて10分の1ほどの大きさの研究室を砕くような絶叫が響いている。

『ぬ? ん? バスクではないか?』

転移先でオルドーが透明なシールドで檻のようなところに入れられているのはバスクであることにかろうじて分かる。

数日前、神界に魔王軍が侵攻した際、バスクも攻めてきたのだが、アレンたちは倒しきれず逃がしてしまった。

『そうそう。バスク君だよ。彼がどうしても強くなりたいっていうからね。研究に協力してもらうことにしたんだ。ちゃんとまだ生きているね。安心したよ』

ドゴラにボコボコにされて絶対に許さないと泣きつかれたキュベルは言う。

「左様。まさかビルディガが邪神の化身になるとは思わなかったのじゃ。じゃが、おかげで魔神王でも化身にする研究は成功を見せたのじゃ! これで邪神への完成も近いぞい!!」

げらげらと笑うシノロムの目の前には変貌を遂げたバスクがいた。

研究室は研究員のいる魔族たちと、バスクのいる場所と中央で半透明な白い障壁で隔たっている。

バスクは研究によって苦しいのか、たまに変貌を遂げた両腕を地面に叩きつけて、絶叫している。

檻を隔てて、入り口付近では白衣を着た魔族たちが計測器や無数の連結した試験管の前に立ちなにやら研究を進めていた。

キュベル、オルドー、シノロムと部屋に入ってきたところを研究員の魔族たちが気付いた。

「これはシノロム所長!!」

「おお! 魔力量がこれまでの魔神王よりも上昇しています!!」

「こんな攻撃力見たことありません! 理論値を超えています!!」

「バスク様の耐久属性に変化が見られます。オヌバ様の耐性が侵食しているようです!!」

「騒がしいのじゃ。いっぺんに報告するでないわい!! ……どれどれ、おおお! 化身の肉体が魔神王の体に上手く適合しておるのじゃ!!」

シノロムが報告を忘れて、あまりの成果に興奮して騒ぎ立てる魔族たちを払いのけながら計測器をいくつも確認し始めた。

『こりゃ驚いた。まさか無数の研究の果てに究極魔造兵器の完成にたどり着くことになるなんてね。こんなことは初めてだよ』

さすがのキュベルも感心して仮面の奥で目を細めてみせる。

『どういうことだ。ん? 化身の研究を進めていると聞いていたがこれはそれか?』

『えっと、最初から順を追って説明してくれるかい。シノロム所長』

「畏まりましたのじゃ。まずは魔族を強化するところから始まったのじゃ……。それも、邪神に匹敵する力を持つために、生命はどのように力を持つのか根源を探る研究をずっと続けてきた……」

キュベルから報告を求められ、興奮するシノロムがこれまでの研究の流れをツラツラと報告する。

魔王が魔王軍を結成する以前から、キュベルやシノロムを中心に、魔族や人間を強力でランクの高い魔獣や、さらにその上の魔神にする研究から始まった。

モデルとなったのは「邪神」とはかつて世界の理であった、法の神アクシリオンだった。

魔王軍が侵攻が始まってから生きた才能ある人族、ドワーフ、エルフを得られるようになる。

国を落としたり、人族の領土を奪ったり要塞ごと陥落させたりしながら、膨大な数の人々が海を渡り、忘れ去られた大陸で研究のモルモットとして活用する。

研究の果てに魔獣でも人でもない「化身」と呼ぶ者たちを作ることに成功し始める。

これを「邪神の化身」として名付け、邪神の力に近づけるため、さらなる強化を図っていく。

最初はBランクの魔獣程度の力に過ぎなかったのだが、大量生産の方法を確立できた。

その後、魔神や上位魔神、さらに亜神級の力を持つ邪神の化身を作ろうとした。

だがそのほとんどの化身は意思疎通のできない失敗作で、数十万の化身たちは「集合知力」に吸収させて知力を向上させる結果になった。

『気の長い話だな』

人の魂を集めての邪神の復活、集合知力の作成など邪神の化身の研究が複数の成果に結びついてきた。

『膨大な時間が必要だったけど、それだけに成果は大きかったね。アレン君たちがやってくる直前だったらなおさらだね』

『確かに……』

両手を腰に当て胸を張るキュベルの言葉にオルドーが同意しようとする。

激痛で床に突っ伏していたバスクが、キュベルたちが障壁の先で話をしていることに気付いた。

『んが? こ、ここは、ぐゆがああああああ!?』

「い、いけない。化身への変貌が進んでいます。これ以上の肉体の浸食は!?」

「体力が異常に減少しています」

「自我が崩壊。精神ごと化身に飲まれます!!」

「障壁の出力を上げよ。牢が破壊されるぞ!!」

メキメキ

『おご!? おでのか、肩が!? へぎゅれげ!?』

『ひゃはああっ!! ぶっ殺す!! お前ら皆殺しだ!!』

『ギイイイイイ!?』

全長10メートルほどの巨躯のバスクは右肩から右腕までゴツゴツとした漆黒の岩がへばりついている。

右手首の先から漆黒で真っ赤な血管が張り巡らされ、肩の部分に無数の牙の生えた口がある。

どうやらバスクの右手に魔剣オヌバを移植したようだ。

さらに、右腕を最終魔造兵器ギイが取り込んでおり、かろうじて原形のある左手がオリハルコンの大剣を握りしめている。

魔改造されたバスクは下半身に比べて両肩が異様に大きくなり、かなり不格好な姿をしている。

右腕も左腕も肩から胸や首のあたりまで浸食を進めており、それがどれほどの痛みなのか自我が消し飛んで絶叫する。

ズウウウウウン

ズウウウウウン

ズウウウウウン

バスクはキュベルたちへの殺意が暴走し、襲い掛かってきた。

『障壁強度79%に低下』

『障壁強度45%に低下』

『障壁強度19%に低下。障壁維持率が20%以下避難開始してください!!』

『避難開始してください!!』

『避難を……!!』

障壁を管理する計測器が警戒音と共にランプを真っ赤に点滅させる。

異形の姿に変わったバスクが障壁の中で暴れ始め、体当たりしたり、右の魔剣オヌバや触手のようにあり得ないほど伸びる右腕を鞭のように使って叩きつけ、白く半透明な障壁を破壊しようとする。

メキメキ

「お逃げください。危険です!!」

『仕方ない。実験の途中なのだろう。バスクを大人しくさせたら良いのだな?』

恐怖に表情が引きつった魔族と違い、落ち着いたオルドーはやれやれと言わんばかりに、肩にかけた大剣を握り締め、キュベルとシノロムの前に出た。

ガシャン

障壁が壊れ、正面に立ち塞がったオルドーに向かってバスクが、剣を振り下ろしながら飛び上がってくる。

『ぐらひゃ!! なんだぁ? てめえ、死ねや!!』

『ぬん!!』

魔王軍総司令にして魔王軍最強を謳う筋肉隆々のオルドーが躍り出た。

巨躯同士の大剣がぶつかると火花と共に鼓膜が吹き飛びそうな衝撃音、さらに衝撃破を発生させ機材と一緒に魔族たちが研究室の端の壁まで吹き飛ばされてしまう。

『げひゃげひゃ!?』

『殺せええええ!!』

『ギイイイイイ!!』

魔剣オヌバとオルドーの大剣が十字に重なったところをさらに畳みかけるように左腕をしならせ上部からオリハルコンの大剣を勢い良く叩きつけた。

自らの力に絶対の自信のあるオルドーはかつてないほどの力で撃ち合い驚愕してしまう。

余裕を見せて前に出たものの、研究室の床石を粉砕して地面に両足が埋もれ、明らかに力負けして押されている。

『馬鹿な!? 何だ、この力は!! ぬぐうううう!? ぐおおおお!!』

ズウウウウウン

あまりの力に絶句する間もなくオルドーはバスクの攻撃に耐えられず、その場から吹き飛ばされてしまった。

床に並べられた研究設備をいくつも薙ぎ払いながら背後の壁に叩きつけられてしまう。

「いかん!! こりゃ手が付けられぬ!! キュベル様、転移を!!」

そのままバスクの勢いが止まらないため、シノロムは襲い掛かる暴力の塊の前にキュベルが片手を出して前に出る。

パアッ

『やれやれいけない子だ。ん? これは……。加護かな』

突進しようとしたバスクの体がいきなり硬直するようにピタリと止まり、全身が金色の神聖な光に包まれる。

狂気に歪んだバスクの表情が幾分か和らぐと、魔剣と最終魔造兵器の両手の暴走を止まった。

『ああ? なんだここは? うげげ? 俺の両手が凄いことになってんぞ!!』

そこに来て、吹き飛ばされたオルドーが戻ってきた。

『なんだいこれは……。創造神エルメアの加護ということか?』

「なんという生命力じゃ。それになんということじゃ。計測できぬほどの力が!! け、計測不能じゃ!! 実験が成功した。成功したのじゃ!!! 究極の化身じゃ! 究極の魔造兵器の完成じゃ!! 邪神に近づいた……。いや、こやつこそが邪神じゃ!!」

衝撃を受けて転がってしまったバスクの力を図る計測器が、あまりの数値に煙を上げる様を見て、シノロムが喜びのあまり絶叫する。

『うおおおおおおおおおおおおおお!! これが俺の力か!! もう誰にも負けねえぞ!!』

両手を魔改造され化身になってしまったとかバスクには関係ないようだ。

体の中から沸き上がる力に喜びの声を響かせる。

『バスク君、君はもう少し落ち着いてくれ。3日もすれば、アレン君たちがやってくるから』

『お? キュベルじゃねえか。アレンの陰気臭い奴はいいんだよ。俺はドゴラをぶっ殺したいぜ。あの勘違い野郎をグチャグチャにな。いひひひひっ!!』

『もちろんだ。彼も好きにして構わないよ』

『やったぜ。少し眠くなったぜ。ドゴラが来たら起してくれ……』

化身になっても卑しい笑い方は変わらないようだ。

バスクはそのまま疲れたと障壁の中に戻って大の字になって、さらなる戦いに涎を垂らしながら寝てしまった。

『全くなんなんだ……』

オルドーは魔王軍最高幹部の自らを吹き飛ばしたことを叱責しようとも思ったが既に、馬鹿高い寝息を立てて眠ってしまい、呆れるばかりだ。

『オルドー総司令殿。バスクの最終魔造兵器は安定して扱えそうだね。集合知力のルキモネの件も兼ねて、魔王様にはオルドー殿より報告してもらえると助かるんだけど……。僕は他の作戦で考えないといけないんだ』

『ぬ? そうだな!! これは我らの勝利間違いなしだ!! キュベルよ、他にあるなら全て報告するのだぞ!!』

キュベルとオルドーがアレンたちとの戦いに備え、研究施設を離れたのであった。