軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第698話 霊獣ネスティラド戦⑥

首を切り落とさんとばかりにアレンとメルスが切りかかる。

ルークがデバフをかけたこともあり、アレンの剣が首元から深くめり込んでいく。

「おっと!?」

ネスティラドはここに来て、初めて大きく仰け反り、一歩、二歩と後退した。

予想外の動きにクレナは思わず、背中が迫ったネスティラドから距離を離す。

メルスと左右で切りつけた結果、血が噴水のように吹き出し、後退しよろけるがまだ倒れない。

『皆、畳みかけろ!! 勝利は目前だぞ!!』

「おう! まだまだデバフかけてやるぜ!!」

「うん! 倒すよ!!」

鳥Fの召喚獣の特技を通じたアレンの檄に、ルークとクレナ、そして、仲間たち全員が大声で答えた。

(む? この動きは!! その手には乗らないぞ!!)

『前面は下がれ!!』

アレンは知力と鳥Eの召喚獣の特技「鷹の目」を駆使してネスティラドが何をするのか、誰を狙うのか、つぶさに見つめている。

ネスティラドが自らの体力を回復させる

(馬鹿め。焦って、既に見せた技を使いやがったな。その技はためが長いんだよ)

スキルは、溜め、発動、クールタイムに分けられる。

狙いを定め、拳を引き正拳突きをする姿勢とその向きで誰を狙っているのか丸わかりだ。

『ドゴラは後退!!』

『吸引爆拳!!』

「おっと! 当たらねえよ!!」

アレンの指示のタイミングでドゴラが後退し、間一髪、ネスティラドの拳を避けることができた。

後退したドゴラはネスティラドが拳を引き戻すタイミングで、再度距離を詰め、斬撃を振るう。

『き、貴様らに構っている場合など! 駿円斬界!!』

今度は右腕の大技を振るう。

だが、そのタイミングもアレンは読めていた。

『フリーズキャノンなのらあああああ!!』

マクリスは魔力を練り、すでに特技の発動を待っていた。

ネスティラドのスキル「駿円斬界」が溜めから発動へと切り替わる刹那のタイミングに合わせて、円錐形の氷塊がネスティラドの顔面で爆散し、一瞬だが視界を失った。

おかげでネスティラドのスキルは狙いが定まらず、仲間たちは余裕をもって躱すことができる。

前衛、中衛、そしてハク、マグラ、タムタムと共にマクリスの遠距離攻撃がネスティラドに襲い掛かる。

(悪あがきが過ぎるぞ! さっさとやられてくれ!! 絶対に体力は回復させないぞ!!)

『陣形は絶対に崩すな。確実に倒すぞ!!』

ネスティラドのスキルの発動が間隔が短くなってきており、いわゆる体力の減ったボスの攻撃パターンの変化だと判断し、戦いは終盤に入ったと理解する。

ネスティラド戦はクライマックスに突入し、興奮する仲間たちを落ち着かせる。

敵が変則的な行動をとってきても、当初の戦法を守ることがボス戦では大事だ。

(む? 2体目のスキル「呪詛禁刃」も効果が切れそうだな。3体目は無理そうか。だが、ここまでの動きでネスティラドはスキル「吸引爆拳」でしか体力を回復できないとみて良いか)

ネスティラドの背後で骸骨が骨だけの両手で喉元をひっかくのだが、息が出来ず苦しそうな態度を示している。

だが、スキル「呪詛禁刃」やその他のデバフが解除されても、いずれまた掛かる。

『まだだ。まだ負けられぬ。儂の決断は間違っていなかったのだ?』

どこを見るともなくネスティラドは語り掛けてきた。

(ん? 何の話だ?)

雨あられのように攻撃を受け、血が噴き出し、肉片が飛び散り、少しずつであるが死へと近づくネスティラドが虚空を見つめだした。

その後、ゆっくりと左腕を前へと突き出す。

『何かしてくるぞ!! 攻撃しつつ警戒を!!』

突き出した左腕の拳の前に溢れんばかりの光の玉が現れ始めた。

(え? これは神聖属性?)

神々しいまでの光は、異形の姿をしているネスティラドには似つかわしくはなかった。

まるで創造神をも思わせるほどの慈愛に満ちているのだが、右腕を見た時、神聖さは消し飛んだ。

垂直に振り上げ、力強く握りしめた拳から禍々しい漆黒の霊力があふれ出した。

『前衛は中衛の位置まで下がれ!!』

鳥Fの召喚獣を通じたアレンの言葉には前衛を全員下がらせるほどの重みがあった。

背面にもいるクレナやシアも含めて仲間たちを下げ、アレンはメルスと共にネスティラドが何をしてくるのか見極めようとしたからだ。

何をしてきても対処しようと40万を超える知力でネスティラドの次の一手を見る。

ネスティラドはこれまで長さが不ぞろいの2つの手を使ってきたが、両腕を使うスキルはなかった。

仲間たちが何だなんだと警戒心が最高潮になる。

中衛も後衛もわずかではあるが後退し、戦況を見つめる。

フォルマールはソフィーとネスティラドの中間地点に陣取り、何があっても自分の命と引き換えにしても、自らの主を守るつもりのようだ。

『万引牙双!!』

スキル名を叫ぶとネスティラドは、左腕で創った神聖な光の玉に向かって、漆黒の右腕を振り落とした。

バキッ

神聖な光の玉が右腕によって粉砕されると、バキッと何かが砕けるような音がした。

「ん? 空間?」

ここに来てアレンが疑問の声を上げてしまう。

振り下ろした拳は地面についていなかった。

では、何が砕けてしまったのか。

アレンが凝視すると、中空の右腕によって殴られ四散した光の玉があった場所に、ヒビが入ったように見えた。

何もない中空がネスティラドの一撃によってバキバキと崩れ、虚無のようなものが現れ、その先にあるネスティラドの腹部が見えなくなる。

仲間たちを下げ、アレンは残ったのだが、一切のダメージも、自らのステータスに変化も感じられない。

何だと声を上げようとした時だ。

ゴゴゴゴゴッ

「キャア!?」

「ソフィアローネ様!!」

ソフィーの声にフォルマールが反応した。

ネスティラドの前に現れた虚無の空間に体の全てを持って行かれそうになる。

虚無の空間が全てを飲み込むほどの吸引力を示し、前衛、中衛、後衛、背面にいる者たちをネスティラドの下へと近づけた。

「え? うわあああ!!」

『む? うお!?』

転職を繰り返し、力をつけたクレナや獣神化したシアですら、その力には抗えない。

ヒビが生じ、人が入れるほどの虚無の空間を見せた穴はゆっくりと自然にふさがっていくのだが、穴がふさがり、吸引する力もなくなるころには陣形というものは完全に破壊されていた。

雲上の地面にスタッフをめり込ませ、必死に抗うキールがようやく止まることができた時は、手を伸ばせばネスティラドの足に届くところの位置だった。

「うおおおお!?」

両手でスタッフを持ったキールが思わず声を荒げ、腰を抜かしそうになるほど仰け反る。

絶望する仲間たちにさらなる攻撃をしようとネスティラドの左腕に霊力を込め始める。

禍々しい力にアレンは速やかに次の指示を出した。

『全員下がり、陣形を立て直せ!!』

「うらあああああ!!」

『ドゴラ、指示を聞……。おい、フォルマール!!』

ドゴラは学園にいるころから前衛として中衛、後衛を守ってきた自負がある。

アレンに指示の前に、既に跳躍したドゴラはネスティラドに神器カグツチを振るっていた。

さらに中衛で下がらないといけないフォルマールもだ。

「もう、何なのよ!!」

なお、ロザリナは一切背後を振り向くことなく不満を垂れ流して脱兎のごとく逃げ出した。

追い詰められた状況の中で、仲間の思いがバラバラに交錯し、アレンの指示の前に立ちふさがる。

どうやって、仲間を下げるか考えたところで、ネスティラドが次のスキルを振るう。

『無法掌底!!』

霊力を込めた左腕の掌底が雲上の地面に当たり、大きく波打つと、波紋状に広がっていく。

アレンは明らかな脱力感を感じた。

「こ、これは!?」

魔導書を見るまでもない明らかなバフの解除であった。

全てのバフが解除され半分以下のステータスになってしまった。

(波紋状ってことは?)

知力が低下したこともあって、アレンの中で無数の作戦が四散する。

波紋状ということは仲間たちのバフも消えたのか。

無法掌底の効果範囲はどれほどあるのか。

バフを消されなかった仲間はいるのか。

空中にいる召喚獣はどうなった。

魔導書を見る暇はあるのか。

前衛でも即死してしまうし。

ネスティラドの右腕に霊力が籠り始めた。

マクリスのバフは間に合うか。

この体勢は駿円斬界だ。

「疾風迅雷!!」

カンッ

ソフィーが逃げるための1秒の千分の1でも時間を稼ごうと、フォルマールはその場で神技「疾風迅雷」を発動した。

バフのかかっていないフォルマールの神技では、ネスティラドの無情な一撃は1秒の万分の1秒も遅らせることはできず、手に当たり空しくも四散する。

『一心同体解除! 絶対防御!!』

刹那の瞬間、メルスは天使Cの覚醒スキル「絶対防御」を発動し、アレンたちの前に躍り出た。

「メルス!! 解除を!?」

メルスがアレンの許可なく特技「一心同体」を解除したことを感じる。

『逃げよ!! がは!?』

スキル「駿円斬界」を受けたメルスは鎧を粉砕され、逃げ出したロザリナを通り越してはるか先まで吹き飛ばされる。

バフが消えたメルスでは覚醒スキル「絶対防御」でも耐えられず、瞬殺される。

同じくバフのないアレンと体力を共有していたらアレンも即死だっただろう。

『このままでは!?』

勝ち方よりも勝利に拘るシアが思わず声を上げた。

ネスティラドの左腕に霊力が籠り始める。

既に戦いの行く末は決まってしまっていた。

メルスは絶対防御を解除しないと何も特技も覚醒スキルも使えない。

だが、解除すれば、早々にアレンは倒されるだろう。

ここから形勢を逆転する前に自らも含めて仲間たちが何人死ぬか分からない。

「……ツバメン。帰巣本能を!」

『ピッ!!』

パーティーのリーダーとしてアレンは撤退を決断する。

誰もいなくなったことに一瞬、何が起きたのか分からなかったネスティラドがその場で固まってしまう。

『おお、そうだ。何をしていたのだ。儂は探さなくては……』

霊獣ネスティラドはまるで何もなかったかのように、霊障の吹き溜まりの散策を再開したのであった。