軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第670話 風神ヴェスの試練②

壁が明るくなった朝早くから風神ヴェスのいる建物の中央へ向かって移動する。

マス目状に張り巡らされた足場の真っすぐ進んだ先で浮いている。

シアたちに興味がないのか、ヴェスはこちらに視線を移すこともなくただただ顔を横に向け、壁を見つめる表情は虚無で溢れていた。

「今日こそ、攻略させてもらうぞ」

ルバンカを背後にして、気合の入った目でシアは口にする。

『その言葉は聞き飽きた。いや楽しかったと言っておこう』

「楽しかったか」

ヴェスの言葉にざわつきを覚えて、呟いてしまう。

どれだけ悠久の時をヴェスはこの巨大な建物の中で、昼夜を過ごしてきたのか。

人の身では計り知れぬが、心を失うには十分過ぎる時間が過ぎてしまったと、無表情のヴェスを見て思う。

『我らはこの先へ通してもらうぞ』

シアがヴェスの言葉に心に少なからずダメージを負っていると、背後のルバンカが口を開いた。

ルバンカの発言はどうも、ヴェスに必要以上に感情移入するなと言いたいようだ。

『ゆくぞ、獣帝化!!』

『作戦通り動くのだぞ』

『分かっている』

『こい。そして、いつものように去っていけ』

獣帝化したシアが太い後ろ足で蹴り上げて、ヴェスを正面に横へと大きく跳躍する。

5メートルの幅の足場と次の足場まで50メートル間隔を、当たり前のように飛び上がり、次の足場へ移動していく。

ヴェスは両手に風の刃を纏い始めた。

グルグルと足場を飛び越えながら回っていくシアにカウンターを狙う作戦だとヴェスは判断する。

シアは距離を保っていたのだが、直角に移動を変え、ヴェスに迫ろうとする。

ヴェスの視線がシアに向かったところで、背後でルバンカが迫っていた。

『単純な作戦だ! 風神斬鉄閃!!』

背後に迫るルバンカにヴェスのスキルが炸裂する。

『絶対防御』

ヴェスが振り向いた先で、ルバンカは距離を詰めていたものの攻撃の体勢には入っていなかった。

6本の腕全てを手の甲を顔の前に見せるポーズでガードする。

皮膚は硬化し、体を覆う体毛が鋼鉄以上の硬度となる。

しかし、ヴェスの圧倒的な力によって鮮血を吹き出すのは免れなかった。

『ルバンカよ!?』

『問題ない! ここで決めよ!!』

ヴェスの両腕から放たれる2つの小さな竜巻の刃は、皮膚は避けたが肉が絶たれることはなかった。

頑強なルバンカが守り特化になるとさすがのヴェスでも一撃で倒しきることはない。

『ふん、それで裏をかいたつもりか!!』

ヴェスがスキルを行使している間にヴェスを中心に対極に位置するシアが距離を一気に詰める。

だが、そんなことはヴェスの予想の範疇だった。

『むん!』

『螺旋旋風脚!』

ヴェスの攻撃はシアよりも速い。

『ぐわ!?』

回し蹴りをするヴェスはそのまま回転し、風の刃を全身に纏う。

スキル「風神斬鉄閃」はモーションの少なく、次のスキル発動への発動につなげるのは容易な部類なのだが、シアは随分距離を詰めている。

ヴェスはスキルの発動をあきらめたのか、腰を捻り、吹き飛ばされるルバンカから、シアを正面に見据える。

その時、遠心力を活かして背後に向けた時から握りしめていた拳をそのまま、フックの形でシアに迎え撃った。

ヴェスの攻撃力も素早さもシアとルバンカを圧倒するため、後発のヴェスの一撃はシアの腹に決まった。

シアの手に込められた魔力は四散し、吹き飛ばされる。

『シアよ! 問題ないか!!』

『問題ない! それで発動できそうか?』

『いや、不十分のようだ! 作戦は続行だ!!』

骨が砕けるほどの一撃を受けたシアは、吹き飛ばされながらもスキル「獣帝化」の効果で体力の自然回復に努める。

また、シアとルバンカが距離を開き、ヴェスへの攻撃の機会を伺う。

『ほう、混乱させるのが目的か。それとも、本当に狙いがあるのか』

意味深なシアとルバンカのやり取りに警戒しながらも、ヴェスは攻撃の手を緩めることはなかった。

ヴェスを挟んで対極の位置にいるシアとルバンカはお互いの動きに合わせて散発した攻撃を繰り返す。

スキルを受ける役目は絶対防御ルバンカなのだが、30分ほどの攻撃のやり取りの中で、シアたちに好機は訪れる。

『ええい! まとわりつくな! 螺旋旋風脚!!』

シアとルバンカ両者が同時に距離を詰めた状態でヴェスのスキル「螺旋旋風脚」が吹き荒れる。

シアもルバンカも等しく深い怪我を負い、吹き飛ばされる。

両者の血が噴き出したところで、ルバンカは特技を発動させた。

『ここだ! 獣の血!!』

ルバンカの6つの拳に噴き出した血が集約し、手の回りに圧倒的な硬度で固まり、ナックルを形成する。

『よし! 十分な出来であろうな!』

『当然だ。7割といったところだろう!! これならば「幻獣化」!』

特技「獣の血」はルバンカの性格と 業(カルマ) に合った効果をもたらすなと、分析する際、アレンは随分ため息をついていた。

【特技「獣の血」の効果】

・発動条件は自らの体力が5割以上削れた時

・流れた血が6本の腕の集まり強力な血のナックルになる

・自らと仲間が5割削れた場合、攻撃力5万上昇、クリティカル率50%増

・自らと仲間が6割削れた場合、攻撃力6万上昇、クリティカル率60%増

・自らと仲間が7割削れた場合、攻撃力7万上昇、クリティカル率70%増

・自らと仲間が8割削れた場合、攻撃力8万上昇、クリティカル率80%増

・自らと仲間が9割削れた場合、攻撃力9万上昇、クリティカル率90%増

・武器判定のため、バフスキルや魔法の対象にはならない

・該当の仲間は1人で良い

・効果は1時間

・クールタイムは1時間

ルバンカの特技「獣の血」は発動条件があるため、使用の頻度はとても少ない。

回復役も精霊も、攻撃を受けた仲間たちの体力が正確に分かるわけではない。

怪我の受け具合などから察して、多めに回復魔法を振りまくのが基本だ。

さらに回復魔法は範囲魔法であるのがほとんどで、攻撃を受けた瞬間に回復するように、回復役が先手で行動する。

敵のスキルの種類や非クリティカルの発生、バフの重なり具合でも変わってくる中、よっぽど何度も戦わない効果の良い結果は引くにくい。

48体で攻略していた大地の迷宮でシアとルバンカの体力を半分以下にするという選択をする余裕などなかった。

だが、それだけにヴェス相手に何度も戦うことに価値があった。

17日かけて、ルバンカと戦術を練りながら、ヴェスの攻撃力、スキルによるダメージも十分把握した。

シアは絶体絶命な状況を打破するのに有効な特技だと認識し、なるべく高い条件下で特技「獣の血」が発動するよう今回の戦いで調整した。

『ここからが勝負だぞ』

幻獣化したルバンカが唸った。

『当然だ。上の階層への道開けてもらおうか』

『何か分からんが、それで勝てるつもりか』

特技「獣の血」も覚醒スキル「幻獣化」も効果時間は1時間だ。

この1時間の間にコンボを10回連携させ、神技「豹神無情撃」をヴェスに食らわせないといけない。

『むん!!』

爪の生えたルバンカの拳がヴェスに襲い掛かる。

お互いの拳とぶつかり、爪先に火花が散るのはヴェスの耐久力が高いからだ。

圧倒的な耐久力と攻撃力がぶつかるとこのような現象が起きる。

シアは一瞬だけ気持ちにほころびが生じる。

ルバンカの攻撃力がヴェスの攻撃力をとうとう上回ったようで、お互いの拳がぶつかった際、ヴェスの体勢がとうとう後ろへと仰け反ってしまう。

『よし! 勝てるぞ!!』

力で押し勝ったルバンカに勝利を確信する。

『この程度の力の差! 螺旋旋風脚!!』

『阿修羅突!!』

『ぐぬ! だが、調子に乗るな!!』

『むぐあ!?』

ルバンカはヴェスが発動しようとしたスキル「螺旋旋風脚」にかぶせるように特技「阿修羅突」を繰り出した。

体の上下を反対にし、全身を使って回転をするのだが、ルバンカの攻撃力が上回り、横殴りに吹き飛ばしてしまう。

だが、吹き飛ばされた先にいたシアに対して、行き場をなくした蹴りが襲い掛かる。

シアは腕を使ってガードしたが、勢いが殺せず吹き飛ばされてしまう。

スキル「螺旋旋風脚」に込められた神力は四散し、タダの蹴り上げとなっていた。

吹き飛ばされたものの、シアはくるりと体を捻り足場に戻る。

スキルを当てコンボを繋げるにはただただ相手に攻撃を与えれば良いというものではない。

攻撃スキルを発動できるかはスキルレベルやステータスによっても依存する。

【攻撃スキル発動条件(相手に当てれるかどうか)】

・スキルレベルが高ければ、スキル発動時の動きが巧みになって当てやすい

・攻撃力が高ければ、※同時間帯にスキルを発動しても、押し勝ち、スキルを発動できる

・耐久力が高ければ、スキルを受けながらも、スキルを発動できる

・素早さが高ければ、相手のスキルを避け、スキルを発動できる

※同時間帯とは、スキルの発動は構えから発動中までの時間のこと

今、スキルを乗せた上でもルバンカの特技はヴェスのスキルを攻撃力で上回ったことを意味した。

【風神ヴェスとのステータスの勝負】

・獣帝化シアは攻撃力で負け

・幻獣化ルバンカ(獣の血)は攻撃力で勝ち

・獣帝化シアは素早さで勝ち

・幻獣化ルバンカ(獣の血)は素早さで負け

ルバンカが獣の血を発動したおかげでヴェスに対してシアが素早さを、ルバンカが攻撃力を上回った。

『余裕を見せるのが早いようだな』

攻撃力を上回っただけでは勝てないぞとヴェスは言う。

『よし! 「壁」に追い込むぞ!! 無限コンボだ!!』

『うむ、今こそ試練を超える時だ!!』

ヴェスを挟んで2人は作戦を叫んでいるので内容は筒抜けだ。

『壁だと?』

遥か先にあるこの建物の壁にヴェスは視線がいった。

その瞬間にヴェスを挟んでシアが飛び上がったのであった。