軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第669話 シアの夢⑥

シアはルドと共にぼろ雑巾のような恰好をさせられて獣王の元へ運ばれる。

「両国の関係を良くするために受け入れてやったものを」

「どれだけの者があの騒動で死んだと……。我の倅がこいつらのせいで!」

「なんて面構えだ。まるで反省をしておらん。シアもどうせ知っていたのだろう」

謁見の間に並ぶ貴族たちは吐き捨てるようにシアに対して嫌悪感を口にする。

シスラック子爵家の三男や獣王親衛隊の騎士たちは役目を終えたかのように下がっていく。

その目は侮蔑に満ちており、シアに対する畏敬の念は感じられない。

宰相の言葉と共に、ムザ獣王が口を開く。

「ミアの件は申し訳なかったな。もう少し早く我が動いていれば、このような内乱は防げていたものを」

この言葉で泣き出す貴族もいる。

内乱の折に死んだ獣王親衛隊や王城に勤める役人たちの中に身内がいたようだ。

「話してもよろしいのですか?」

跪いたままシアはムザに問う。

「無論だ。だが、言葉を選べ。我らはお前たちを裁くためにこの場を設けておるのだ」

この状況に思わずルバンカは口を開く。

『裁くか。まるで断頭台に座らせる前の罪人のようだな』

『そのとおりだ。見よ、貴族たちの我らを睨みつける視線を。こうなってはバリオウの救いの手も厳しいというもの』

『平然だな』

『初心を思い出しただけの話よ』

つい先ほど、シアの母親が私室の窓から飛び降りる状況に対して、視線を外すことなく見つめていた。

だが、平然だったのはルバンカの横にいるシアだけではなかった。

「では獣王陛下は事前に内乱の状況を耳にしていた。ですが、母上の一派を掃討するために泳がせていたということでしょうか?」

膨張するだけ膨張させて一掃させたせいで無用な犠牲が出たとシアは言いたげだ。

「知らなかったということか?」

拳を握りしめシアに問う。

「もちろんです。そして、おそらくですがそのような内乱は誰かが起こした『デマ』ではないでしょうか?」

「言うたな。我は責任をもって口にせよと言ったが?」

「もちろんです。母の願いはたった2つです。そのどちらにも内乱などなかったことは明白」

シアは淡々とミアの潔白を口にする。

どれだけの覚悟があってこの場にいるのか、それが分かっているルドは黙って獣王の前に跪き、何も語らない。

「2つ?」

「1つは私を獣王にしたかった様子です」

「それで?」

「そのために、我らアルバハル獣王国に蔓延る邪教徒を一掃するべく、どうも動いていた様子でした」

シアは具体的に何をしていたかまでは分からないと獣王に答える。

「それで武器を集めていたということか。それでもう1つの願いは何だ」

「アルバハル獣王国の益々の繁栄でございます」

その言葉と共に狂気に満ちた目で獣王を睨みつけた。

誰のせいでミアが死んだのかと今にも叫びだしそうだ。

「なんという態度か。シアよ。今のお前に『獣王位継承権』は国家動乱罪によって凍結している。獣王に対する非礼はこの場での刑の執行も覚悟するのですぞ」

宰相は獣王の子でも、獣王継承権を持つ獣王子でもなく、あくまでもただの罪人としてシアと接する。

「それは宰相殿。失礼いたしました。獣王国の繁栄を願った母の思いが達成されず、あらぬ疑いをかけられたまま……、どうしたら魂を清めることはできましょうか?」

「申してみよ。貴様には母の汚名を雪ぐため、なすべきことがあるというのだな」

「はい。このシアに獣王になるため『試練』をお与えください」

「試練を与えろなどと! 流石はミアの子、狂っておる!!」

「今度は母を使い自らの栄誉を勝ち取るつもりか!」

「ここは貴様を裁くための審問ぞ!」

「静まれ。そしてテミを呼んでまいれ」

「へ? テミ様をですか」

「そうだ。宰相よ、早くせよ」

獣王は場を鎮め、獣王指南役の占星獣師テミをこの場に呼べと言う。

しばらくするとテミがテクテクとやってくる。

「なんじゃ。あまり私をあごで使うでない」

「すまんな。シアを占ってもらいたくてな」

「む?」

「私が説明いたします。テミ様、現在このような状況になっておりまして……」

宰相が一通り説明した後に、テミの体は陽炎のように揺れていく。

「なるほど、星のざわめきはこのせいであったか。…… 星の運命(スターディステニー) 」

エクストラスキル「星の運命」を発動した後に、絨毯にキラキラと輝く石ころを腰の巾着袋から取り出して、ばらまき始めた。

「……星はシアに試練を与えよと出ておるな。覇王の器であると」

謁見の間は震えるほど驚愕する。

並び立つベクやゼウ、その母の獣王妃も「覇王の器」という言葉に驚きおののく。

「試練の達成条件はなんだ」

「条件を伝える。1年以内に3000の兵を集めよ。それから3年以内に教祖を討伐せよ。それまで王城に足を運ぶことはならぬ……とあるの」

「は! この試練、必ず達成してご覧に入れましょう!!」

テミの占い結果に、誰よりもシアの発言は早かった。

シアは立ち上がり、大声で試練の内容を了承する。

あまりの衝撃に獣王親衛隊の騎士たちもシアの勝手な動きに止めに入ることはできない。

「そうか。グシャラの信徒の下へ調査隊をいくら送っても生きて帰らなかったからな。せいぜい強い兵を集めることだな」

「ありがたき情報感謝いたします。ちなみにミア様の遺品の片づけ、それに王城内でも兵として参加したいと思う者がいるかもしれません。数日、お時間を頂いてもよろしいですか?」

「む? まあ、そうだな。シアよ、今日の明日出て行けとは言わぬが、それほど待ってはやれぬぞ」

「感謝の言葉もありません。誰か余と共に邪教徒の教祖を討伐する者はおらぬか! 余は必ずこのガルレシア大陸を支配する獣帝王になってみせようぞ!!」

ぼろきれを着るシアは胸を張り堂々と配下を募る。

だが、並び立つ貴族たちは誰もシアが試練を達成することを信じていないのか、手を上げる者はいなかった。

「シア様、このルド! どのような地獄もついて行きますぞ!!」

「ふん! 我らが目指すは大いなる覇道よ!! 気合を入れてついてまいれ!!」

ルドも大きく返事すると立ち上がり、シアと共に謁見の間を後にする。

誰も止めず、誰も語り掛けるものはいない。

「それで最初はミアの遺品の収集でございますな」

「何を言う。武器と防具を身に纏え。出発前に挨拶したい者がおるだけの話よ」

背後でシアとルバンカの視界が切り替わる中、ぼろきれを着させられた2人は速やかに装備を整え、ゼウたちの住まう王城の一角へ向かった。

「こ、困ります!!」

「そう言うな。ここにおるのだろう。王城を追い出される身ゆえに、別れの挨拶がしたくてな」

武装したシアはニヤリと犬歯を見せて、一室を守る狼の獣人の騎士に言ってのけた。

確認すると言われ、しばらく待つと通されて私室に向かう。

部屋の中にはブライゼン獣王国からやってきたレナ妃がテーブルに座っている。

レナはゼウの妃で、謁見の間にはいなかったため、装備を整えて真っすぐ向かってきた。

「珍しい客人がくると聞いてな。牢獄の中にいて喉が渇いただろう。茶を飲んだら出て行くがよかろう」

「ほう、では失礼する」

シアはどかりとレナの前のテーブルに座る。

しばらくすると狼の獣人の女中が盆に乗せられたお茶を運んでくる。

シアの前に置かれたが、手を運ぶ様子もない。

「どうしたのだ? 冷めてしまうぞ」

「申し訳ない。この場には毒見はおらぬのだ。やはりお茶は遠慮しておこう」

「なんだと! レナ妃様に向かって無礼な!!」

その言葉に女中は犬歯を見せ怒りに満ちた表情をする。

ゆっくりと女中は腰に隠した短剣に手を伸ばそうとすると、今度はルドが口を開く。

「やめるのだ。戦争をしに来たわけではない」

その言葉に女中も固まってしまう。

「茶も飲まずどういう用件か?」

「いや、冷える石の上で数日眠らされて、余も頭が冴えたのだ。だれが今回の騒動を起こしたのだろうとな」

「お前の母だろう。バリオウは弱腰でこれ以上の肩入れはできぬ様子だった。獣王になるのはゼウで決まりよ。ならば内乱を主導するしかないわな」

「そう吹き込んで余の母上を殺したと。我らが訓練で出て行く日程はゼウにしかしておらぬ」

タイミングが良すぎると言う。

シアは獣王位継承権を得てから貴族たちから配下にしてほしいという申し出が後を絶たなかった。

それは、熱意を示すため訓練先へ押しかけるほどであった。

押しかけられては訓練に支障が出ると、行く先と日程を誰にも言わずに向かいたかったが、シアでも許されることではない。

だから、今回はぎりぎりになってゼウ側にだけ訓練の日程を伝えていた。

『レナが主導したのか』

『恐らくな。ベク兄様もゼウ兄様も余には甘かったからな。だが、レナは母上と同じ立場の野心家よ』

ブライセン獣王国からアルバハル獣王国との友好のため、レナはゼウと婚姻を結ぶことになった。

そんな中でミアを殺す必要がどれだけあったのか分からないと言う。

だが、もし武器を集めるミアの行動がシアの邪教徒の討伐へ繋がるならベク以上に困るのはゼウだ。

「勝手な妄想だな。それで私を殺すのか。その手にはめた武器で」

「まさか。それこそせっかく免れた断頭台に上がらなくてならんよ。余ははっきりとさせておきたかっただけの話。今回起きたことに首謀者がいるなら、覚悟しておけと王城を追い出される前に言いたかっただけだ」

犬歯をむき出しにするほどの表情と共に、激しい殺気がこの当時のシアからは溢れてくる。

「そうか。だったら早く行くことだな。まあ、貴様について行きたい貴族などおらぬがな」

「仲間はゆっくりと探すとしよう。寝首をかいたものを攻めるにも手間がかかるゆえに」

そこまで言うとシアは立ち上がり、ルドと共にレナの私室から出て行く。

『どうも、この行動がレナがゼウに試練を与えるために動き出すきっかけになったらしいぞ』

『そうなのか。黙って出て行けば良いものを』

鬼気迫る表情のシアにレナに炊きつけられて、ゼウは獣王に直訴し、S級ダンジョン攻略の試練を与えられることになる。

『所詮は子供であった。だが余が達成する不安を抱いて生きていってほしかっただけのこと』

シアはニヤリと笑う。

『ベクとゼウでシアの接し方に差があったのは納得いったな。む? もう朝か』

『そのようだ。今日こそは試練を超えようぞ』

『うむ、そうだ。余は試練を超えねばならぬ……』

シアの意識はゆっくりと消えていくような気がする。

眠りが終わり覚醒の時刻となったようだ。

ルバンカが消えてなくなる中、シアは今回の顛末を思う。

『余の夢とは何だろうか』

『醜くも美しいアルバハル獣王国』

『獣神ガルムの血を引く者』

『始祖アルバハルの末裔』

『バリオウ獣王家の一族』

『余はいったい何者なのか。生まれてきてから軸がずっと定まらなかった』

『自らの願いはどこから来たものなのか』

『本当の余の願いは何なのか』

『捨てたはずの獣王位継承権が余の本意を確認することもなく戻ってきた』

『余がこの因果の全てを壊してやる』

『……余が獣帝王になる』

シアは初心を思いだし、風神ヴェスとの戦いに胸を熱くするのであった。