軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第601話 サンクチュアリ

アレンが剣を鞘から抜いて、獣神ギランに向けた。

アレンの仲間たちはアレンの態度に自らの覚悟を決める。

武器や魔法の詠唱、精霊の顕現など直接的な攻撃行動はしていないものの、お互いの立ち位置を変え、いつでも動き出せるよう戦闘態勢に入った。

『何のつもりですか?』

白銀の狼の姿をしたギランは目を細め、アレンの行動をつぶさに見つめるが、首を軽くかしげているのは、何故そんなことをするのか分からないようだ。

「仲間が攻撃を受けた。剣を向ける理由が他にありますか?」

当たり前なことへの問いに答えるよう、アレンは疑問符で返した。

アレンのこの言葉に、仲間たちがさらに覚悟を深める。

「トーニス様、守りと回復よろしくお願いいたしますね」

『はぁ、まったく……。 耄碌(もうろく) してしまったかの。儂には目の前のお方が獣神ギラン様に見えるのじゃが……』

ソフィーは水浸しのローブに、貝殻が先端についた杖を持つ老人を顕現させる。

精霊の園で契約を交わすことができた水の大精霊だ。

顕現する前から様子を見ていたトーニスは、粘度の高い水の結界を、霊力を込めて作り出す。

シアも拳を握りしめ、前衛としてソフィーやセシルたちが攻撃を受けないよう、獣神ギランに立ち塞がるように躍り出た。

『ずいぶんな態度ですね。相手が神であることが分かってのことでしょうね?』

「信仰は熱心な方ではありませんので」

(神がなんぼのもんじゃい)

『ほう、言いましたね。神に剣を向けた者はどうなるのか知らない様子です』

白銀の銀の狼をしたギランは巨大な体でも、体勢をギリギリまで低く、むき出しの爪をアレンたちに向ける。

「無学で申し訳ありません。自らの思いに嘘偽りはなく、仲間のために筋を通すことについては、神に誓わせていただきます。シア、お前じゃおそらくギランの攻撃に耐えられない。防御は俺に任せろ」

(精霊の園の精霊獣神と比べて、どっちが強いかな。メルルたちの下で活動する召喚獣たちを連れ戻すか)

大地の迷宮の攻略を止めてでも、獣神ギランへの対応をしたいと考える。

「ほ、本当にやるんだな。仕方ない」

『すまない! 待ってくれ!! 何故、こんなことをするのだ!!』

シアの前に躍り出たアレンよりも、叫びながらルバンカがさらに前に出る。

『どうしたのですか? ルバンカさん、皆、あなたのために戦おうと言っているのですよ。誰に刃を向けたのか教えるのが私の役目でしょうか』

『申し訳ありません。獣神ギラン様、そもそもの不敬な態度は我の行動が原因。お怒りをお納めください』

『なりません』

神へのこのような態度は看過できないと言う。

『アルバハル様の次にと、獣神ガルム様に言っていただいたのに、このような行動をとったのは我でございます。全ての原因は我に……』

飛び出たと同時に地面に頭をこすりつけ、ルバンカは土下座をする。

(ルバンカは興味ないって言ってんだろ。まあ、長年に渡って目をかけたルバンカの行動が失礼なのは、たぶんそうなんだろうけど)

アレンは獣神ギランとルバンカの行動と生い立ちを知り、概ねどういう状況か理解していた。

500年前、アルバハルで生まれたルバンカは、魔獣から村人を守る為、ゴリラの獣人から聖獣になった。

きっと、将来有望だと判断すると獣神ガルムが声をかけ、聖獣にするのだろう。

さらに自ら進んで善行を積む聖獣を、獣神ガルムは神界に招き、幻獣の下でさらなる修行に励む。

かなり老齢なアルバハルに代わって、幻獣の地位に就くことが期待されていたようだ。

(それだとクワトロが人間世界にいたのは、幻鳥レームが神界にいたからなのか。幻鳥は神鳥になるのかな。幻鳥はまだ幼いとか)

獣神ギランの行動と、ルバンカの過去から見えてくる神界の世界観もあるものだなと思う。

聖獣や幻獣だろうと寿命のある世界だ。

獣神ギランは何歳まで生きるのか知らないが、老いた姿をしているので永遠に生きると言うわけでもない。

(遥か広大な原獣の園で、岩山神の支配したエリアを任せる候補が、勝手に道を踏み外した。まあ、俺が強引に誘ったわけだけど)

何十万年も何百万年も続く世界で、神であれ、聖獣であれ、永遠に生きるわけではない。

広大な原獣の園を管理、支配できる体制を獣神ガルムや獣神ギランは維持するため、取り組んでいるのだろう。

幻獣アルバハルにはもうあまり時間がないのかもしれない。

シアにスキルを与え、さらに力を失ったのも、神獣を目指すには力不足なのかもしれない。

創造神エルメアが創造したと言われる神界人や、神界人に霊晶石を与えて誕生する天使たちに比べても霊獣や幻獣の命は短いのだろう。

【人種による寿命】

・第一天使(ほぼ不老長寿)

・天使、大天使、主天使(数万~数十万年)

・神界人は1万年

・ハイエルフ、ハイダークエルフは3000年

・竜人は1000年

・エルフ、ダークエルフは300年

・人族、獣人、鳥人、魚人は100年

地に伏し、頭を下げるルバンカは、何も望んでなかった。

獣人だったころの名前も捨ててしまった。

自らの命もいらないし、名誉も求めていない。

幻獣になって、ゆくゆくは獣神を目指そうなど、自らの罪の意識を肥大させるだけに過ぎない。

今ならアレンの誘いに、すぐに乗ってくれた理由も分かる気がする。

きっと、聖獣としての立場を捨てたかったのだろう。

獣神ギランは、ルバンカを静かに見つめた後、むき出しにした爪を指の中にしまった。

『仕方ありませんね。先に刃を出したのは私です。私から引くことにしましょう』

それが筋ですと言わんばかりに、一つため息をついた後、ゆっくりと全長100メートルにもなる巨躯を起こし、アレンたちの上をゆっくり歩き、丘の上に登った。

「もう、全て失うところだったわよ」

(完全にチキンレースだったな。引くつもりはなかったけど。ビビった方が負けなんや! さてと、だったら次にすることは1つだな)

「セシル。許してもらって何よりだ。皆、獣神ギラン様の御前だぞ!」

アレンは体を背後の丘に向き直り、ゆっくりと頭を下げる。

仲間たちにも獣神ギランに失礼な態度だぞと平伏を勧める。

『さきほど、「ギラン」と呼ばれていましたが……』

「御冗談を。本日は、お目にかけていただきありがとうございます」

『ふむ、まあ、いいでしょう』

「はい」

向き直り、跪くアレンたちと獣神ギランの間で一時の沈黙が生まれた。

『いつまでそうしているのですか』

「え? シアへの試練の内容を聞くまででしょうか……」

『あのようなことがあって、冗談……ではないのですね。こんなに困惑する日が来るとは。長生きをするものですね』

「ご自愛くださいませ。それで……」

『あくまでも話を続けるのですか。まあ、いいでしょう。私からの試練はそうですね……』

獣神ギランは目をつぶり、考え始めた。

(何を今更考え始めてんだよ。ここに来るまでに決まってるんじゃないのか)

流石に行き当たりばったりの試練にはならないのではとアレンは考える。

わざわざもったいぶった感じにはしないでほしい。

「対価に見合った厳しい試練を仲間たちと共に望む所存でございます」

『そうですね。では、1つ目の試練を与えましょうか。私のサンクチュアリに上がってきなさい』

(話が逸れてしまったが2つ試練をくれるって話だったよな。神技と神器どっちの試練だろう)

獣神ギランからは1つ目の試練を与えてもらうことになっている。

「え?」

『ここまで上がってきなさいということです』

最初から「丘の上に上がるよう」と言ってほしいと思うが、シアが試練に乗り込めるまでの辛抱だ。

アレンたちは一瞬お互いに目を合わせた後、45度はあるだろうか、傾斜の丘を登っていく。

この丘は標高1000メートルもなく、頂上部分に岩のようなものが乗っており、山が途中で切れている姿をしている。

数百メートル登ったところで、真っ白な石材の板が目の前まで見えてくる。

厚さは10メートルほどある一枚岩が丘の上に乗っており、高床式のネズミ返しのごとく、目の前に壁のようにアレンたちの行く手を阻む。

「足を踏み入れてもよろしいので?」

『もちろんです。皆さんも気になるでしょう。上がってきてください』

「ありがとうございます。では」

ステータスの存在する世界で、アレンたちにとって数メートルの垂直飛びなど造作もないと言わんばかりに、軽く台の上に跳躍した。

「あら、上から見ると綺麗な円なのかしら?」

「そうだ。完全な円だな」

ギランが乗る大きな一枚岩は、表面が綺麗に整えられ、凹凸がない。

大きさは半径500メートル未満かそこらで、円の形をしていた。

獣神ギランは丘の頂上に載った円形の台座の上から、アレンたちを頭から肩までをのぞかせていたことになる。

アレンは鳥Eの召喚獣越しに不思議な円の上に巨大な狼が乗っていたことを知っていた。

アレンたちが台の上に上がった少し先に、全長100メートルほどのギランが立っている。

(試練か。戦闘になるのかな。っていうか狭いな。まるで相撲の土俵だな。枠もあるし)

精霊獣神との戦いを思い出すが、なかなかの激闘であった。

半径500メートルに満たない円の中にいる、全長100メートルのギランの存在が大きすぎる。

円形の台には端から50メートルのところに、円の端から均一な距離にある10センチメートルかそこらの石材の隆起がある。

円形の台はギランの大きさと比べて小さく、上空に飛ぶ鳥Eの召喚獣が見たら、円形の隆起が相撲の 土俵(つちだわら) に見える。

さすがに距離が狭すぎて、逃げ道も少なく、戦闘になるならハンデがほしいところだ。

先ほど、ルバンカを瞬殺した動きはほとんど目で追えなかった。

アレンがシアを見ると、同じ考えのようで緊張で顔が強張っている。

「ちょっと、アレンのせいで、試練が厳しくなったんじゃないの。こんな人数じゃ無理よ。召喚獣たちをよこしなさいよ」

ギランの下に向かいながら、杖を握りしめるセシルから苦情の申し出を受ける。

「何? 俺が何かしたか。だが、確かにそうだな」

一切の苦情は受け付けないぞという強い意志を伝えながら、先頭を歩くアレンが石材の隆起を片足が越えようとしたところだ。

『アレンさん、あなた方はそれ以上踏み入れてはいけません。ここから先こそ私の 神域(サンクチュサリ) です』

「へ? と言いますと」

(え? もしかして、クレナの時の試練のノリなの……)

審判の門を超える際の試練の内容がアレンたちの脳裏を巡る。

『シアさん、この神域に足を踏み入れて良いのはあなただけです。さあ、覚悟を持って、私の聖域に来るのです』

「な!? 余1人で試練に望めと!!」

シアが絶句するのであった。