軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第561話 首長と守主

アレンはルークたちのステータスの確認をした後、魔導書を仕舞った。

(どんな感じになっているかな)

懐に入れていた1枚のカードを取り出した。

冒険者カードほどの名刺サイズのカードで、商神マーネの市場でここに向かう途中に買っておいたものだ。

(ほう、しっかり2億ポイントになっているな)

カードの表面には「2億ポイント」の表示が点滅している。

「何よ。移動中に転移していたのって、これを買うためだったの?」

「ああ、商神がお金の用立ては問題なさそうって言ってくれたしな。何かの取引に使えるかもしれない」

アレンが取り出したのは1枚の「信仰カード」だ。

商神マーネの市場でデポジットとしてキューブ状の物体に金貨1万枚を支払い、買い取ったものだ。

アレンの中で、金貨1枚は10万円ほどの価値があると認識している。

金貨1万枚なら日本円だと10億円ほどになる。

金貨1億枚を用立てる算段がつきそうなので、アレン軍の活動予算に少し余裕が生まれ、軍の金庫から用立てた。

魔導船の道中にアレンだけが転移していなくなり、購入して今回の霊獣ガニラとの戦いに臨んだ。

「そんなの貯めて何に使うのよ?」

ニヤニヤ悪い顔をしているアレンが持つ信仰カードを覗き込む。

「いや、神との交渉に使えないかなと」

(ただより安いものはないからな。神々は信仰ポイント欲しいみたいだし。これを使って神と取引ができるかもしれない。うふふ)

「もう神界で暴れないでよね。それで、悪い顔しているところ申し訳ないんだけど、そろそろここから退避しない。って、キャ!?」

セシルの話の途中で足場が大きく揺れ、さらに悲鳴を上げてしまう。

先ほどのアレンの一撃で、巨大な岩盤で出来たこの島は真っ二つに切り裂かれており、二つに分かれた後、さらに島全体が崩壊し始めた。

「そうだな。退避しよう。って、ん? ……岩か。これも使えるかもしれないな」

アレンは岩盤の大岩の断面を見ながらあることを思い出す。

「どうしたのよ。アレン、こんなときに……」

最後まで言い切らないところで、アレンは鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」を発動した。

「ああ、お帰り。島が砕かれて心配したけど問題なさそうね」

セシルたちと共に操縦室に転移して戻るなり、ララッパ団長に話しかけられた。

操縦席正面の巨大な画面には、望遠の魔導具が備え付けられており、アレンたちの戦いを遠くから見ていたようだ。

「問題ないです。ララッパ団長とピヨンさんはこのまま神界闘技場を目指してほしいです。セシルは少しやりたいことがある。ついてきてくれ」

軍のトップの総帥でも基本的に仲間以外には敬語を心がけている。

「アレン、まだ何かするの。戦いが終わったばかりじゃない」

亜神級の霊獣との戦いが終わった早々に、矢継ぎ早にアレンが指示を出すのにセシルは呆れている。

ソフィーたち3人には長時間に渡る戦闘で疲労が溜まっているだろうと移動中休むように言う。

アレンとセシルはもう一度、商神マーネの市場などいくつか移動した後、神界人や竜人などが住むシャンダール天空国にやってきた。

「ここは、吹き溜まりの入り口ね。こんなところに連れてきて何するのよ?」

アレンがぼっこぼこに敗れた霊獣ネスティラドが奥深くに活動する吹き溜まりの前にいる。

何度か再戦しているだが、未だに勝てる見込みのない強敵だ。

「ああ、そうだ。ここだと神界人たちが見ていないからな。悪さするにはちょうど良い」

「悪さって……。もう、また行っちゃったし」

セシルを残して、アレンが転移していなくなる。

すぐに人を連れて戻ってきた。

アレンの横には竜人の族長ソメイと守人長アビゲイルがいる。

「儂らに見せたいものとは何かの? ん? 行ってしまわれたな」

そこまで言うと、さらにセシルたちを残してアレンはその場から転移して姿を消した。

残されたセシルに族長とアビゲイルの視線が集まるが、「分からないわ」と首をかしげて見せた。

何秒もしないうちにアレンは戻ってきた。

「ぶっ!?」

茫然と何が起きているのか、成り行きに任せていたアビゲイルが噴き出した。

アレンは高さ数十メートルにもなる大岩と一緒に転移してきたからだ。

「こ、これは……。何と立派な大岩じゃ!」

(やはり、こんな感じの反応か。石材は貴重だからな。アビゲイルは地上にいったことがあるから族長ほどでもないか)

ワナワナした族長が大岩に近づいていく。

「神域を目指していたら、亜神級の霊獣が縄張りにしている岩で出来た島を発見しました。せっかくなので、竜人たちの生活をもっと豊かにできないかと思いまして……」

アレンは、この岩をどうしてほしいのか、驚く族長とアビゲイルに説明をする。

この神界にあるシャンダール天空国は雲の上にあるので、木の柱や床石などの建材がとても不足している。

特に、木々は雲の上でも成長するのだが、岩となるとほとんどない。

大地の神ガイアが神界よりも地上に注力しているのも、神界の石材不足を加速させている原因のようだ。

神界人の思いを集めるように、王都ラブールにある貴重な石をふんだんに使った巨大な城は、天空王の権威を証明することになった。

竜人たちの暮らしは、住居に使える木材などはほとんどない。

石材にもなると、あまりにも貴重でほとんど使われていない。

地面にふんだんにある雲を粘土のようにこねくり回して、雪国で見られる「かまくら」のようにして暮している。

族長の家ですら、扉や廊下など、必要最小限の木材しかなく、石材はほとんど使われていない。

「まだまだ大量にあります。こちらを竜人や神界人に売り捌いてください」

(神界で手に入れたものを竜人が売り捌く。関税とは何だったのか)

この大岩の100倍以上の体積の岩石がある。

無限にあると思って、族長が先導して売り捌くように言う。

地上の人間世界は一切関係ない石材売りなら、関税をかけようもない。

「な、なんと!? それは本当ですかの!!」

「取り扱いにはご注意を。神界人に目をつけられると、皆さまの暮らしは決して良くなりませんので」

アレンが大岩を竜人を使って売り捌いていると吹聴されても痛くもかゆくもないのだが、竜人たちに自らの首を絞めるようなことはするなと言う。

「もちろんだ。しかし、こんな大岩、本当にいいのか?」

「アビゲイルさんには地上へ転職しにきて分かったと思いますが、私たちは石材をそこまで大事にしていません」

「た、たしかに。地上は世界が違ったな……」

(まあ、俺が生まれた時は、スカスカの隙間風の吹く不揃いの木材で出来た掘っ立て小屋だったけど)

農奴時代はあれはあれで楽しかった良い思い出だ。

「そ、それで、売り上げの一部をという話ですかの……」

アレンが金策に走っている話は、族長もアビゲイルも知っている。

これもアレンの金策の一部であると族長は認識したようだ。

「たしかに。売上の5割は私たちが頂きます」

「半分も我らに!? それだけで大丈夫なのですかの?」

(ふむ、何か警戒されているな。だが、この反応は悪くない)

アレンは疑問に思うが、セシルはため息をついている。

族長はこの話を進めて大丈夫なのかとアビゲイルを不安そうに見ている。

アレンたちが金策に走っていることは知っているが、それだけではない「何か」があると感じてくれたようだ。

前回、天空王への謁見の際、霊晶石をちらつかせ、天空王と神界と取引したいと交渉に入ったりしている場に同席していた。

「……大岩はこの数十倍も数百倍もあります。この大岩を見て、何を思いますか?」

族長の質問を質問で返してみる。

「それはもちろん素晴らしいの一言に尽きる。皆を岩に囲まれた家に住まわせることができますのじゃ。感謝の言葉も……」

何の問いか分からないが、礼を言うタイミングだと思ったようだ。

「違います。そうではありません!!」

アレンは目をクワッと見開き、ワザとらしいほどの身振り手振りを行い、大きな声で叫んだ。

「へ!? ち、違うとは」

「この岩を竜人たちに提供し、神界人には売り捌き、あなたはその力で残り8人の族長を取りまとめ、首長を目指すのです!!」

「首長とな!?」

「そうです。なぜ、竜人たちがこんな暮らしがよくならないのか。それは、あなた方、竜人たちが神界人によって9つの族に分けられているからです!!」

決して、神々の恩恵を神界人が独占しているわけでも、神界人に比べて能力が劣っているわけでもない。

(神界人は竜人たちを団結させないようにしているがな。まあ、何度か内乱を起こしてるみたいだし、それも当然か)

天空王率いる神界人は、一部の族長が力を持ち過ぎないよう優遇する族長を定期的に変更しているらしい。

きっと、ソメイ族長が力を持ち出すと、何らかの動きを見せてくるはずだ。

「そ、それは吹き溜まりが9つあるからで……」

(天空王にそう言われてきたからだろ)

このシャンダール天空国には目の前に広がる霊障の吹き溜まりと同じく、霊獣の溢れる吹き溜まりが全部で9つある。

その数と同じ数だけ、族長がおり、守人長がいる。

アレンは、竜人たちの生活が良くならない理由に、組織の在り様があった。

「分ける理由にはなりません! あなたは神界で初めての首長を目指すのです。アビゲイルさんは守主を目指しましょう」

「我もか!!」

ソメイ族長は全ての族長を取りまとめ、アビゲイルには守人長たちを取りまとめ、守人長を治める守主になるように言う。

「だけど、なんで首長なの。これだけの人数を取りまとめるなら王と……ああ、そういうことね」

ここまで言ったところでセシルも理解できたようだ。

「誇り高い天空王が同じ国の中に「王」がいることを許すはずがない。族長も決しておごる事のないように、天空王には石材を定期的に献上し、 下手(したて) に出てください」

誇りよりも実益を目指し、神界人の邪魔が入らないようにするように言う。

力関係では、神々がバックにいる天空王が圧倒的に上の立場だ。

「も、もちろんじゃ」

「しかし、他の族長には、自らの下につくようしっかりお声かけお願いします。そのための販売価格を設定しておきます」

【ソメイ首長計画】

・ソメイ族の竜人は7割引きで販売

・ソメイを首長とする竜人は5割引き

・ソメイを首長としない竜人は3割引き

・神界人は10割で値引きなし

・天空王には定期的に質の良い岩石を献上

「あら、首長としない竜人たちにも値引きしてあげるのね」

「ああ、神界人と分けることで竜人たちに一体感が生まれるからな。従いたくなる竜人たちもこの方が増えるはずだ。それで、アビゲイルさんはソメイ族長を首長と認めた部族の守人長を、守主となって、まとめ上げてください」

「そうか。いきなりの話で驚いているが分かった。軍をその若さでまとめ上げるだけのことはあるのだな。ああ、そう言えば、これが2万個の霊石だ」

話のついでにアビゲイルが、アレンたちが精霊の園に行っている間に竜人の守人たちが霊獣を狩って集めた霊石が入った魔導袋を、アレンに手渡す。

「ありがとうございます。次回からこれも持っておいてください。魔導袋に入れておいても問題ないです」

新たな魔導袋と、アレンは来る前に、商神マーネの市場で買った2枚目の信仰カードをアビゲイルに渡す。

霊獣を狩りつつ、信仰ポイントも回収させる。

「分かった。持っておくだけで良いのだな?」

「その通りです。自然とカードに表示する数字が変わっていきます。そちらのポイントも私が買い取らせていただきます。溜まったポイントは武器や魔法具と交換としましょうか」

アレン軍の武器や魔法具をアビゲイルが率いる竜人たちに貸与している。

細かい交換レートはまだ決めていないが、ただでポイントを頂くことはしないとアレンは言う。

そこまで言ったところで、どうしてほしいのかだいたい族長とアビゲイルに伝わったようだ。

2人は両者の目を見つめ合い何か言いたいようだ。

アビゲイルが一歩発言を引いたような態度を示したので、族長が口を開いた。

「し、しかし、何を望んでいるのですか? たしかに売り上げの一部は必ずお渡ししますが……」

アレンたちにとって石材がそこまで価値がないことは分かったようだ。

それでも、アレンが手間をかけて何故そこまでするのか疑問が残る。

アレンの提案に乗るためにも納得がしたいようだ。

(腹を割って、目的を話してほしいと? よかろう)

「あなた方は同じ竜人たちを思うように、私たちには大事な家族がいます。その家族であり、仲間たちと共にする世界が存亡の危機に瀕しております。手段を択ばず、魔王軍を滅ぼさねばなりません。そのためにも、神界で協力してくれる方々には力を持っていただきたいのです」

「そ、そうですか……」

アレンのあまりに強い覚悟に、息を飲んだ族長はそれ以上の言葉が出なかった。

首長や守主を通じて神界での力をアレンが持つことは、今後の魔王軍との戦いに少しでも優位に運べるかもしれない。

可能性を1%でも上げるための対応がこれだと言う。

「お世話になった方々に良い暮らしと立場をという思いもありますが、全て私の大切な人たちのためなのです」

「うむ、分かった。我も竜人たちを取りまとめよう」

アレンの気迫のこもった言葉に、アビゲイルも腑に落ちたようだ。

こうして、アレンたちは族長とアビゲイルに岩の販売をお願いしたのであった。