作品タイトル不明
第559話 霊獣ガニラ戦
ソフィーとルークが大精霊たちの加護により、ステータスを強化しているところ、霊獣ガニラが蟹歩きで迫って来た。
一枚岩と思われるほど硬い岩盤で出来たような島を、足元を粉砕しながら、こちらにやって来る。
アレンたちと数キロメートルは離れていたが、時間にして10秒もなかっただろう。
(いきなりの戦闘開始だな。さて初手が大事だぞ)
「来やがったな! 神技・太極図!!」
強敵であることは分かっているので、ルークはいきなり神技を発動する。
廃ゲーマーのパーティーは「初手の重要性」をアレンがこれまでも懇々と説明してきたため、判断に迷いがない。
神技を使うためにソフィーもルークも6時間のクールタイム解除のための時間を空けた。
空に飛ばしているクワトロが、全身から霊力を纏ったルークの足元を中心に100メートルを超える陰陽の太極図の出現を捉える。
(当たり前のように皆、神技が使えているな。最初、クレナやドゴラがスキルの使用を苦労していたのは何だったのか)
クレナとドゴラが、セシルやキールに比べて、スキルの発動に苦労していた学園時代を思い出す。
今でも、クレナもドゴラもエクストラモードになって、才能レベルが上がり、昔ほどではないが、新たに手に入れたスキルを使いこなすのに苦労している。
『アゥアアアアァアア!!』
『アゥアアアアァアア!!』
2つの人間の胴体から上の部分が蟹の目の部分にあるガニラは太極図に足を踏み入れる。
「ん? 速度変わんねえぞ! 避けろ!!」
水、光、火、毒の4体の大精霊たちに構わず、ルークやソフィーのいた位置にすごい勢いでガニラが突っ込んで来た。
ルークとソフィーは左右に分かれるようにガニラの攻撃を避けた。
「効果はあるようですが、それ以上に強いということでしょう。神技は維持しておいてください!」
ソフィーは自らの力の変化に気付いたようで、神技「太極図」は効いていると判断した。
アレンは、ソフィーやルークから少し離れた位置で、魔導書を見ながらアレンも含めた全員のステータスの上昇を確認する。
(ステータス3000上昇って感じか。まだスキルレベルが低いからな。というかスキルレベル1だし)
召喚獣、精霊も含めた全員のステータスが3000ほど上昇している。
「分かった!!」
大声で叫んで、指示をし合う。
エルフとダークエルフの未来を背負うソフィーとルークの意気込みが違う。
この戦いに勝利するという強い意思があるのは、きっとそれぞれの種族を守ってきた精霊神たちと別れ、自らの役目に目覚めたからだろう。
こんな敵に負けては、これまで数千年間に渡って溝があった2種族の関係の回復など夢のまた夢だと考えているに違いないとアレンは思う。
「物理攻撃が主体のようです。ソフィアローネ様は距離をとってください!!」
フォルマールは、ソフィーがいるのもあって、口調がとても丁寧だ。
ガニラが初手で攻めてきたことに攻撃手法が接近戦での物理攻撃であることをすぐに理解する。
これまでの長い戦闘経験から、フォルマールは敵の得手不得手をしっかり分析するようだ。
全身に炎を纏い、空を軽く浮く、火の大精霊カカがソフィーたちよりも前に出る。
『そうみたいだな。俺たちが前衛務めてやるからよ。お前らはしっかり補助しろ……。って、ぐは!?』
ガニラのステータスは大精霊たちを圧倒するようだ。
巨大な片方のハサミを振るうと、セリフを最後まで言い切らないカカは勢い良く吹き飛ばされてしまう。
『回復じゃな。カカは無用に攻撃を受けるでないぞ。ほいっとな!』
水の大精霊トーニスが無用に攻撃を受けていいわけではないと諭す。
『うるせえ! 分かってるよっ!!』
トーニスにちょっと注意されて、カカは顔を真っ赤にして怒る。
トーニスが貝殻のついた杖を振るうと、水しぶきが出て、カカの体力が全快する。
カカは回復してくれたことには礼はないようだ。
(大精霊は倒されると1日は顕現できなくなるからな。体力管理は大事だぞ)
精霊の体力が0になると、完全に丸1日顕現できなくなるという制約があるので、簡単に倒されるわけにはいかない。
「皆さん、『精霊神の祝福』と『祈りの舞』を使います!」
ソフィーは強敵相手に、スキルを出し惜しみせず、「精霊神の祝福」と「祈りの舞」を発動させる。
『精霊神の祝福』により金色の雨が降るように、輝きが辺り一面に現れ、ソフィーたちに降り注ぐ。
ソフィーたちのステータスがさらに増加する。
さらに祈りの舞により、空から世界樹の葉がヒラヒラと舞い降り、全員の体力と霊力が秒間1000ずつ回復しだす。
(霊力回復まじありがたい。創生スキルの向上が捗るね。ソフィーは神界闘技場に連れて行こうと思ったが、我のスキル経験値稼ぎのために働いてもらおうか)
ソフィーの神技の効果はアレンにとっても喉から手が出るほど必要なものだった。
「うし、盛り上がって来たぜ!!」
ルークはソフィーのスキルによる強化を受けて、さらに興奮している。
(相手が相手だけに、秒間1%回復であっても、そこまで恩恵ないけどな。初めて魔力回復リングを手に入れた感動を返してほしい。勇者は今でも許せないが)
アレンたちは長い冒険の中で1%回復のアイテムやスキルにも限界を感じ始めている。
ここはステータスのある世界で万を超えるステータスの戦いに1秒を待ってくれるほど敵の行動は遅くない。
数キロメートルを10秒で追いつくということは、接戦すれば秒を切る速度で攻撃を受けるということだ。
2発連続で攻撃を受けると死んでしまうほどのダメージを負うこともあるので、長期戦に備えた気休め程度だ。
アレンの思考を他所に、精霊王エリーゼから貰った弓を握り締めるフォルマールが、魔導コアを魔導袋から取り出した。
「神技発動、無限の矢筒……」
「真・強引……。真・金弓箭」
カン!
「むう……」
フォルマールは流れるように、先ほど手に入った魔導コア2つを神技「無限の矢筒」で矢に変え、スキル「真強引」で威力を増し、さらに、耐久力のある敵にも貫通力があり有効なスキル「真金弓箭」を発動させた。
人型の部分に当たったが甲高い音が鳴ったと思ったら矢は少しもガニラの体にめり込むこともなく爆散した。
『ルークよ! 敵は硬過ぎるようだぞ! このままでは全滅だ。我と一緒に敵の耐久力を下げるぞ!!』
毒の大精霊ムートンがガニラの耐久力の高さに叫んだ。
「ああ、分かった。食らえ! 毒沼津波だ!!」
『形ある全てのものよ! 腐食せよ! 毒沼津波!!』
ルークがスキル「毒沼津波」をガニラに発動させた。
ムートンは毒々しい原色の黄色で、巨大な津波と変わりガニラに襲いかかった。
強酸に触れたかのように煙が上がった。
体力と耐久力を削り、敵を毒状態にする有能なデバフスキルだが、このままでは終わらなかった。
「酸の渦!」
ルークの全面に五芒星が現れたと思うと、粘着質の黄色の酸が空気中に溢れ、敵目掛けてぶち当てる。
『アゥアアアアァ!?』
『アゥアアアアァ!?』
絶叫するガニラの体からさらに煙が吹き上がる。
「よし、これも効果があるようだな。すぐにふにゃんふにゃんに柔かくするからな。酸の渦をもう一発食らえ!」
さらに連続して、スキル「酸の渦」を発動させる。
(お? 耐久力が下がってるな。物理耐性も下がり始めたし。耐性が多い敵が出てくる中、デバフ持ちのルークは助かるな。クールタイムが短いのも良い。射程距離が長いのもステキやん。虫系統は軍隊系になってしまったし)
アレンはパーティー「廃ゲーマー」において、ルークの希少性を改めて考える。
パーティー内でバフスキル持ちはロザリナを筆頭に、キールやソフィーなど何人もいるが、デバフ持ちで敵のステータスや耐性を下げるのはルークだけだ。
耐性や優秀な耐久属性を持ちながらもステータスが10万を超える敵が出てくるようになった。
前世の記憶を持つアレンは、このような相手をデバフなしで戦うなんてあり得ないと考える。
だが、ここまで一方的に攻撃を受けていたガニラの頭の2つが不規則に動き出した。
まるで2つの頭が蟹の2つの突き出た目のように、辺りを見回したように見える。
『アゥアアアアァ!!』
『アゥアアアアァ!!』
ブクブク
ガニラは蟹の部分の口から大量の泡を放出した。
泡が全身を包み込むと、ルークの攻撃を受けて溶けたりヒビが割れたりしている甲羅を回復し始める。
紫色の毒々しい泡が空気中を覆いつくすほどの勢いで、辺りを埋め尽くす。
「え? はぅ!?」」
「ど、毒か!? ソフィアローネ様、距離をとってください! 明鏡止水!!」
Sランクの魔石を無限の矢筒で変えた矢を仲間たちの中心目掛けて放った。
スキル「真強引」で威力を増していたこともあって、その効果は絶大だった。
ガニラが吐いた毒々しい紫の泡は一気に掻き消えてしまう。
毒状態になったソフィーたちは、アレンが生成した「香味野菜」を数回使用して、何とか毒状態を脱出する。
(さて、敵にデバフと回復を一度に使えるスキルがあったわけで。これは長期戦確定だな。強引のスキルを重ね掛けする時間がないのは痛いぞ)
アレンは戦いの長期化を予想する。
フォルマールはスキル「真強引」を使用すればするほど、次に使用するスキルの威力が増す。
しかし、せっかく溜めたスキル「真強引」の効果も、仲間たちの命を削る敵の毒泡攻撃を治す数少ない手法だ。
「おい、トーニス。お前が頑張んねえと、倒せねえだろ」
『無茶を言うでないわ。回復をこれ以上減らせぬぞ!』
全体回復を一手に引き受けるトーニスが毒も何とかしろとルークは言う。
ルークも、フォルマールが明鏡止水を使ってしまうことがどういう状況か理解できているようだ。
それから2時間が経過しようとする中、ソフィーたち3人の戦いは続いていた。
(さて、そろそろタイムオーバーか)
アレンは腰に下げた魔導具の時計で戦闘終了を確認する。
魔導書のホルダーから召還した鳥Fの召喚獣に覚醒スキル「伝令」を発動させた。
『2時間になるぞ!』
「おい、フォルマール! そろそろ溜まってんじゃねえのか!!」
既にソフィーたちの執拗な攻撃でダメージが蓄積しまくっただろうとルークが大声で叫んだ。
「ああ、分かっている。真強引……、神技・疾風迅雷!」
魔導コアを使用したフォルマールの神技「疾風迅雷」が、巨大な蟹の姿をしたガニラの甲羅を粉砕し、矢が体を貫通する。
ガニラの体から力が抜け、胴が地面に着いた。
「お、やったか!!」
(おい、ルーク。気を抜くな)
『アゥアアアアァ!!』
『アゥアアアアァ!!』
一瞬気が緩んだルーク目掛けて、甲羅が粉砕され、体の中身をぶちまけながらもガニラが全力で突っ込んで来る。
僅かな油断がルークの退避の時間をほんの少し遅らせた。
残りの命の全てを燃やし尽くすほどの勢いでルークの元に接近したガニラは、両手のハサミを天高く振りあげ、全力で叩きつけようとする。
ソフィーやフォルマールも助けに入ろうとするが、元々敵の方が圧倒的にステータスが高い。
とても守り切れそうにない中、毒の大精霊ムートンだけが体を巨大にし、ルークを身を挺して守ろうとする。
しかし、傷ついたガニラよりも、ムートンよりも圧倒的な速度でアレンは動いていた。
既にガニラの上空に到達しており、抜いた剣を上段に構えている。
「ソウルセイバアアアアアアアアア!!」
『ヘグア!?』
『ヘグア!?』
目玉の位置にある2体の人間の上半身の間を裂く様に、ガニラの甲羅は2つに裂かれ、勢いそのままに島の岩盤を叩き切っていく。
「ちょっと、島が壊れるわよ!!」
地面がぐらつき足場の悪くなっていく状況にセシルが絶叫したのであった。