作品タイトル不明
第548話 抗う者たち ※他者視点
アレンたちが精霊の園を出発した後、大精霊神イースレイの神殿は修復が進められていた。
精霊獣との激しい戦いによって山は中腹から上部にかけて破壊され、大精霊神の神殿の場所を変えることになった。
『ポンポン、ポンポコポン』
幼精霊化した土の精霊のポンズが、軽快な動きで腹を叩きながら、火口の岩盤を変形させ、源泉に触れないよう床石を形成させていく。
コンズは高さ10メートルを超える積まれた資料の整理に当たっている。
資料の中にはアレンから回収した大量の精霊たちとの契約書も含まれる。
ポンズとコンズがせっせと働く中、大精霊神の台座の前では神樹の種がふよふよと浮いている。
ローゼンとファーブルは、まるで卵を温める母鳥のように、バランスボール大の神樹の種にへばりつき眠りについたまま、神力を注ぎ込んでいる。
『足場はこれくらいでいいかポン。さて、この「先見の宝玉」はどこに置くのがいいのかポン。……、まさか源泉の底に投げ込んだのに取りに行く者がいるとは思わなかったポンよ』
巨大な手鏡の取っ手の先に宝玉のあるものを、ポンズは抱えながら呟いた。
今度は誰も手に取らなそうなところに置いておきたいようだ。
ポンズの言葉に、やれやれと大精霊神はため息をついた。
『……ポンズさん、「先見の宝玉」は創造神エルメア様に、先の件の不始末として処分したと伝えていますよ』
ローゼンが未来を知り、その結果、エルフがダークエルフをローゼンヘイムから追い出す結果に繋がった先見の宝玉は、処分したことになっている。
『そうだったポン!? ……「真実の鏡」は大精霊神様の御背中に配置するポンね』
ポンズは大精霊神の言葉にしまったと思いながらも、大精霊神の背後に回り、言い直した真実の鏡を取り付けはじめた。
ここなら、誰も手に取ろうと思わないだろうと考えたようだ。
『大精霊神様、人間世界に行く精霊たちの選定を進めていますが、このままだと100体に達しそうですコン。あの味が忘れられないと言っているコン』
コンズが地上に行く精霊のリストをまとめ、大精霊神に報告をする。
『さすがコンズさんは早いですね。動機はともかく、そのまま選定を進めてください』
『畏まりましたコン。それにしても……』
『コンズ、どうかしましたか?』
『いえ、今になっても信じられないコン。大精霊神イースレイ様に、精霊神に至ったとはいえ、ローゼンがあのようなことを言うなんてコン……』
コンズが今回の騒動が起きたことを振り返る。
『そうだポン。大精霊神様、本当にローゼンは一切の謝罪もなかったポン?』
神殿造りをしているポンズも話に参加する。
精霊の園において、信じられない発言をローゼンはしたと言う。
『ええ、ございませんでしたよ。いや、私も大精霊神になって随分経ちましたが、あのように「何も間違っていない」なんて言われるとは驚きです』
あまりの衝撃に、大精霊神は一瞬何が起きたのか理解できなかったと言う。
謝罪の一言でもあれば、もっと違った対応もあったが、ローゼンは一切の謝罪をすることなく反抗してきた。
全面的に敵対的な姿勢を崩さないローゼンには、精霊の主として厳しい罰を与えざるを得なかった。
『結果、最も重い課題を与えることになったコン? その結果が……、何だか出来過ぎているコン……。この場にエルメア様の第一天使まで代理としていらっしゃったコン』
『コンズさん、何が言いたいのですか?』
『全てが出来過ぎているコン。とんでもなく重い課題を出した結果、3人のエルフに対して開放者、さらに神器まで貸し与えるなんてコン……』
課題の大きさと、その解決による報酬は比例するのが、神々の常識だ。
神域に達した強力な精霊獣との戦いに勝利するとは、神域に属している者なら誰もが分かる人なら超えることのできない課題であった。
その上で、アレンたちが課題を解決する全ての状況を、創造神エルメアの第一天使ルプトが立ち会う形となった。
正式な形式をとったため、今回の一件は創造神エルメアであっても、覆すのは難しいことになる。
『ローゼンさんが課題をアレンさんたちが解決すると思っていたからこその発言、……まあ、先見の宝玉を見たとは言え、細かい戦況までは分からないはずですが、きっと、必死だったのでしょう』
アレンたちの解決の細かい方法や確信を持てなかったというのが大精霊神の見解だ。
ローゼンには、精霊の主たる大精霊神イースレイと対決しても最大限の見返りを求める必要があった。
エルフとダークエルフが滅びる可能性があっても、他に選択肢がなかったと大精霊神は理解を示す。
『……そう言われたらそうですコン。では、「真実の鏡」の効果でローゼンとファーブルが精霊獣の束縛から脱出したと報告しますコン』
真実の鏡は先見の宝玉であった。
ルプトに提出する資料をまとめる上で、必要なことをコンズは大精霊神に確認を取る。
『もちろんですよ。真実の鏡は精霊獣を精霊に戻す唯一の方法と私は謳っています。私が2体を精霊に戻したなど資料に載せてはいけませんよ。あそこには創造神エルメア様の代理がいらっしゃったのですから。「真実」の鏡とはよく言ったものです』
創造神エルメアにも精霊獣を精霊に戻す「真実の鏡」の存在について、以前に報告をしていた。
第一天使ルプトの前で、セシルは真実の鏡を使用している。
あそこでローゼンとファーブルを精霊獣から開放しなければ、これまでついた嘘の報告が創造神エルメアに全てバレてしまう。
その状況で、「嘘」を「真実」に変えないといけないことに嫌味が漏れる。
結果、ローゼンとファーブルは精霊獣から脱出し、アレンたちの勝機が上がることとなった。
『何故、そんなことをして……、よく分からないポン。』
『ポンズさん、ローゼンさんは、この世界が間もなく終わることを知っていたのですよ。大切なエルフたちも間もなく滅びるのです。この日のため、命を懸けたのでしょう』
数千年前、ローゼンは先見の宝玉を覗き込んだ。
その時から、未来を変えようと今日のために準備をしてきたのだろうと大精霊神は言う。
『……そうだったポン。大精霊神様でも、もう止められないのですかポン』
『定めの前では私も無力です。変えられません。コンズさん、それで報告についてですが……』
『はい、エルフのフォルマールについては、課題を解決したから、大精霊神自ら褒美として加護を与えたと報告をしておきますコン』
大精霊神は気になることが伝わっていたため、コンズの回答に小さく頷いた。
フォルマールは精霊獣を倒してから大精霊神が加護を与えたとコンズは資料にまとめるようだ。
『それでいいですよ。課題を解決していないのに、私が加護を与えるはずはないのですから。ただ、細かい経緯が分からないとルプト様もお困りになるでしょう。精霊の園に来た時からの状況を全て資料に載せるのですよ』
アレンたちが精霊の園に踏み入れた時からの経緯など、全て資料に載せるように、大精霊神は微笑みながら言ってのける。
100体を超える精霊を地上に向かわせるための選定資料など、膨大な資料に虚偽の結果を隠すようだ。
『え? 大精霊神様が加護をいつお与えになったポン?』
ソフィーとルークに神技を与えるところしか覚えていないとポンズは言う。
『ポンズさん、素晴らしい神殿を期待していますよ』
話についていけないポンズに細かいことは言わないのが、彼らの会話の流儀のようだ。
『お任せですポン! 素晴らしい神殿を作り直すポン! ポンポン!!』
ポンズは軽快な足取りで大精霊神の神殿の改築に戻った。
大精霊神はゆっくりと目の前に浮く2体の精霊に目をやる。
『もしかして、大精霊神様がローゼンにわざと鏡を見せたのですコンか?』
コンズは、ローゼンの判断と行動だけでここまで上手くいくのかと思えてきた。
大精霊神が解決以前にフォルマールに加護を与えた件、できすぎている結果に、大精霊神も協力していたのではと思えてきたようだ。
『……私たち精霊は全ての世界に繁栄と恵みをもたらすことが役目です。古代神も含めて全ての神々と中立の立場にあります。それだけのことなのです』
大精霊神はコンズの発言を肯定も否定もせず、自らの立場を語る。
『そうですコンか。では、彼らの抗いが無駄に終わるのは何か悲しいコン』
『それも定めです。彼らの魂が命の循環に還ることも含めて全てが理なのですよ。私たちは諦めることを知らない、抗う者たちの最後を思うことにしましょう』
未来は変えられないと大精霊神イースレイは言い、コンズは頷いた。
どうやらアレンたちにはこれから絶望が待っているようだ。
『はは』
その時、会話に参加するように小さな笑い声を零す者がいた。
『え? なんでしょう、ローゼンさん?』
『あれ? 寝て……いますコンね』
会話の相槌を打ったのかとローゼンを見るが、大精霊神たちの言葉には反応を示さない。
エルフの未来を守ろうとしてきた1体の小さな精霊は、やるべきことをやったと満足そうに眠りについているのであった。