軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第459話 シアの思い

シアは今回の5大陸同盟会議でも父である獣王ムザの反感を買う行動を取った。

(言い切ったな。魔導書のシアの名前が「シア」のみになったと。それにしても、各国はアルバハル獣王国の行く末が知りたいようだな。全ての獣王国が来てるらしいしな)

魔導書のステータス欄から、シアの名前から王族としての家名が消えた。

各国代表の集まる席での獣王位継承権の放棄の発言は有効のようだ。

各国の代表がアルバハル獣王国という大国の行く末を見つめる。

今回の5大陸同盟会議はガルレシア大陸の同盟国が全て参加している。

もちろん、ブライセン獣王国の現獣王もこの会議に出席している。

ブライセン獣王国の獣王ギルはベクと再三に渡り、獣王武術大会で戦い、その結果ギルは命を落としている。

内乱を起こしたと言われるベクは、魔王軍の策略に乗ってしまった。

しかし、その策略を止めるため命を懸けて戦ったが命を落としたということになっている。

本会議でもアルバハル獣王国の行く末が議題が上がるのではと、全ての獣王国の獣王が会議に参加することにした。

今回の会議にもゼウ獣王子が呼ばれていることを聞いており、次期獣王が決まるのではと考える獣王国の代表もいる。

穏健派のゼウになるのか、ガルレシア大陸の支配を目指す獣帝国の野望を持つシアになるのか。

今後のガルレシア大陸の行く末が決まってくるからだ。

「シアよ。それは本当か。本当に獣王の座を降りるつもりなのか?」

会議に出席しているゼウがシアの真意を問う。

「そうです。獣王なら兄上がやればよいです。私にはやるべきことができた。そういうことです」

長兄のベクを畏怖していたシアだが、次兄のゼウに対しては尊敬の念は感じられない。

(まあ、元々シアが目指していたのは獣王ではなく、獣帝王だからな。獣王は過程に過ぎないと。だけど、それだとエクストラスキルはどうするかな)

シアの目標はアレンと出会う前から変わらない。

覇権主義の思想の強いシアは幼少期から獣帝国を築きたいと夢見てきた。

アレンとしては獣王の証の3点セットが欲しくて今回のベクの内乱騒動に手を出した。

獣王になれば、獣王のようにエクストラモードに「フルビーストモード」も手に入るかもしれないとアレンは考えていた。

(ふむ。獣王位継承権を捨ててもエクストラスキルの「ビーストモード」はやはり消えないか)

魔導書に乗っているシアのステータス欄から、「ビーストモード」は消えない。

誰にどこまでエクストラスキルを与えるのか獣神ガルムが決めていることは分かっている。

シアの決断にエクストラスキルを獣神ガルムは奪わないようだ。

「し、しかし」

「もう良い。ゼウよ。シアが譲ると言っておるのだ。貴様も獣王を目指すなら態々、止める必要がどこにある!」

会議室に獣王の声が轟いた。

シアの考えを改めようと必死になるゼウを獣王は立ち上がり制止した。

まるで1体の猛獣が会議室に現れたかのような緊張感が各国の代表者に走る。

「父上、も、申し訳ありません」

「それで、獣王の証を返せぬとはどういう了見か。それが、どういう物かシアよ、分かっているだろう?」

「もちろんです。父上。建国の祖が命を懸け、人族から尊厳を守るために戦った証であると認識しております」

獣王とシアの会話は続いていく。

もう誰も、司会進行役であるインブエル国王に発言の許可を求めない。

「そうだ。1000年、その装備を持った者は獣人の尊厳を守るために戦ってきたのだ。ただの飾りではない。シアよ、貴様にその覚悟があるのか」

獣王の証が装備であるのには理由があると獣王は言う。

獣人たちの代表である獣王が、獣人が歩んだ血の歴史を背負うために存在する。

「ベク兄様は獣人のために戦ってきたと今となって気付かされました」

「ぬ?」

一瞬回答になっているのかと獣王は顔に疑問符を浮かべた。

それでもシアはベクについての話を獣王に続ける。

3人の兄妹の長兄として、必死に生きてきたと今となって分かったと話をする。

誰よりも獣人のために行動をしてきた。

成人するとすぐにダンジョンに籠り、獣王武術大会では圧倒的な強者と命を懸けて戦ってきたと語る。

自国の領土を守るため、自らの血を流すことを厭わなかった。

ブライセン獣王国の獣王もシアの話を黙って聞いている。

ベクに殺されたギルを思い出しているのかもしれない。

「私の目の前でベク兄様は背中から心臓を貫かれ、獣王家に脈々と流れる獣人たちの血と尊厳が奪われてしまったのです。奪われた尊厳を取り戻さねばなりません」

(半生を獣人のために使ってきたベクの無残な死がシアを動かしているのか)

ベクが最期に口にしたのはシアを思う言葉であった。

ベクの命の浄化のためにも、獣王位を捨ててでもやるべきことがある。

「そのために獣王の証がいると」

「奪われたベク兄様の血を取り返せねば、獣人の尊厳は取り戻せません。この鎧を魔王の血で染め直す必要があります。返せというなら、その後返しましょう」

シアが思いの全てを語った。

絶対に考えを変えないという強い意思を示すシアに対して、獣王はこれ以上何も言えないようだ。

会場に沈黙が生まれる中、天井から1つの声が響いた。

『……分かった。シアよ。獣人の誇りのために生きると言うのだな。力を与える故に、獣人のために戦うがよい』

誰もが口をふさぐ会議室に1つの声が響いた。

「え!?」

一瞬、シアの体が淡く輝いた。

(ん? おお! シアのステータスが!!)

アレンはシアの状態を確認するため魔導書を見た。

シアのステータスはドゴラやクレナのようにエクストラスキルの欄が消えていた。

レベルカンストしたはずのシアに、経験値欄が戻っていた。

エクストラモードに突入したようだ。

【名 前】 シア

【年 齢】 16

【加 護】 獣神 超極小

【職 業】 拳獣王

【レベル】 60

【体 力】 3211

【魔 力】 2134

【攻撃力】 3640

【耐久力】 3211

【素早さ】 3640

【知 力】 2134

【幸 運】 2906

【スキル】 拳王〈1〉、真強打〈1〉、真駿殺撃〈1〉、真地獄突〈1〉、真粉砕撃〈1〉、獣王化〈1〉、組手〈6〉、拳術〈6〉

【経験値】0/6億

・スキルレベル

【拳王】 1

【真強打】 1

【真駿殺撃】 1

【真地獄突】 1

【真粉砕撃】 1

【獣王化】 1

・スキル経験値

【真強打】 0/100

【真駿殺撃】 0/100

【真地獄突】 0/100

【真粉砕撃】 0/100

【獣王化】 0/10000

(完全にエクストラモード突入だな。フルビーストモードはドゴラを見た感じだと職業スキルを7以上上げると覚える感じか? っていうか加護少なすぎ)

ドゴラは破壊王の職業レベルを7にした段階で「戦破陣」のスキルを取得した。

今のやり取りで、竜人の里チームとS級ダンジョンチームで分けなければなとアレンは考えていた。

シアは竜神の里に行くのではなく、S級ダンジョンへの鬼特訓行きが決定した瞬間だ。

アレンは魔導書をガン見して「フルビーストモード」の取得方法を模索する。

「獣神ガルム様、ありがとうございます」

シアは頬に一滴の涙を流す。

何をされたのか、自分がどうなったのか悟ったようだ。

「ぬ? シアよ、お前まさか!?」

シアの呟いた言葉の意味を獣王は理解する。

「はい。獣神ガルム様が新たな力をお与えくださいました。道は示されたのです」

シアの言葉に獣王は一瞬言葉が詰まる。

しかし、その後の言葉は詰まることなく自然と出てくる。

「そうか。では、次期獣王については、シアよ。お前が帰ってくるまで保留としようぞ」

「父上?」

「保留だ。アルバハル獣王国の次期獣王はお前の生き様をもって決定する。それまで、我がこの会議に出席することにしよう」

つまらない会議だが自分が出てやると獣王は言う。

「し、しかし、私は獣王位継承権を」

「知らん! 我は何も聞いておらぬ。貴様らもそうだな!! 我の決断に不服な者は一歩前に出よ!!」

毛深くても分かるほど血管を走らせる拳を握りしめた獣王は目の前に並び座る各国の代表たちを恫喝する。

シアの「獣王位継承権の放棄」は聞かなかったことにしろということだろう。

(ぶ? シアの名前に家名が戻った件について。何だ、これは力業だな)

魔導書のシアの名前が「シア=ヴァン=アルバハル」に戻った。

現獣王の決断がシアの獣王位継承権を元に戻したようだ。

現獣王は不服な者がいないことを確認し、ようやくテーブルに腰を下ろした。

獣王の決定にゼウも何も言わないようだ。

(これがシアの生き様か。メルルもそうだったけどな)

アレンはどうやってシアを獣王にしつつ、獣王の証を手に入れるか模索した。

シアが獣王位継承権を放棄すると言ってきた時、エクストラモードへの道が潰えるかもしれないと考えを変えるように説得した。

しかし、シアは自らの生き様までは変えることはしなかった。

その結果獣王への道を残し、獣王の証を手にしたまま、エクストラモードになることができたようだ。

アレンはパーティーのリーダーだが、仲間たちの価値観や生き様までは変えられないと思う。

この世界に「めいれいさせろ」なんてコマンドはない。

あっても、戦闘中の一時的な瞬間だけだ。

(メルルの決断はタムタムに命を与えられたしな)

先日、メルルは自らの願いをディグラグニに伝え、そのお陰でタムタムは命を与えられた。

これはアレンの考えていたダンジョンマスターディグラグニの討伐報酬とは異なる願いだ。

アレンはディグラグニを手にして、メルルを強化することしか頭になかった。

それでも、メルルは自らの思いを口にした。

そして、ディグラグニを石板として強化する道と、タムタムを成長させることができるというアレンの考える以上の報酬を手にすることができた。

「ようやく落ち着いたか。なんかとんでもない親子だよな」

獣王とシアの対峙にキールが呆れ顔だ。

「そうだな。そういえば、ああ、お前もそうだったな」

「ん? 何か言ったか、アレン?」

「いや、今を生きるって感じが楽しいなと思っただけだ」

アレンの言葉の意味がキールは分からなかったようで首をかしげる。

アレンは従僕であったころ自らの持つミスリル鉱採掘権の全てを放棄して、グランヴェル家に非道なことをしたカルネル元子爵を捕らえた。

しかし、キールは魔王軍と戦った功績の全てを懸け、自らの父であるカルネル元子爵を牢から釈放させた。

これはキールの価値観であり、生き様なのだろう。

この世界で仲間と共に生きるということの意味を改めて知ったような気がして、笑みが零れるアレンであった。