軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第458話 参加と放棄

何事だと各国の代表者たちも驚きを隠せないと言った顔をしている。

会議室に設けられた大きな入り口が観音開きにされ、それは中に入ってきた。

1人の大男が大理石のような白く美しい箱状のものを、足を踏みしめる度に地響きをたてながら運んでくる。

「クレビュール王国のホラノロ国王の話は本当であったか」

「半魚だと? 本当にプロスティア帝国の女帝がやってきたのか」

「なんて重いものを1人で持っているのか。まるで罰ではないか」

イグノマスの背に水槽ごと担ぎあげられ、女帝ラプソニルが会議室にやってきた。

「もういいです。イグノマス、ここに降ろしなさい」

「はい」

イグノマスはゆっくりと床に水槽を置いた。

(確か予行演習も何度かしたんだっけ)

夕方過ぎにラターシュ王国にやってきたイグノマスはラプソニルの命により、会議室入場の予行演習を何度もしている。

水槽からラプソニルの上半身が見え、尾びれがはみ出ていた。

また、ロザリナや外務大臣など帝国の外交を担う主要な魚人たちを何人も連れてきた。

ドレスを纏ったロザリナは一緒に登場したから用は済んだと、皆の注目を集めながらアレンたちのいるテーブル席にゆっくりと移動する。

「このような体ゆえに、皆さんお騒がせしましたね」

地上に上がってみたら分かるが、会場に広がるラプソニル女帝の声はとても透き通っていた。

「おお、なんて美しい姿と声だ。まるでお伽話の世界のようだ……」

「ぬ! 何をじろじろ見ている!!」

「よしなさい。イグノマス!」

ドカッ!

どこかの国の代表者が魂も口から出ていくのかという顔で見入っている。

イグノマスが前のめりになってメンチを切るので、イグノマスを尾びれで叩く。

「では、プロスティア帝国のラプソニル陛下がいらっしゃいました。5大陸同盟の会議に先駆け一言ございますので、静粛にお願いします」

騒然とする中、インブエル国王が引き続き司会を続ける。

「インブエル国王陛下、ありがとうございます。では、早速ですが、我が国の立場をはっきりさせたいと思います。プロスティア帝国は、この5大陸同盟に参加いたします」

各国の代表が目を見開き、息を飲んだ。

歴史が動いた瞬間であった。

プロスティア帝国の女帝ラプソニルは5大陸同盟への参加を表明した。

5大陸同盟の盟主たちも、各国の代表者たちもプロスティア帝国の動向が気になっていたので安堵の表情を示した。

プロスティア帝国はギアムート帝国やバウキス帝国にも引けを取らない大帝国だからだ。

上位魔神たちが途中で邪魔に入ったためアレンの召喚獣による中央大陸の完全制圧は達成していない。

何十年にもなる戦いの中、プロスティア帝国の同盟参加は軍事力の向上に繋がる。

「ほほ。これまで、クレビュール王国を通して交易のみであったのに、どんな心境の変化があったのか?」

沈黙を破るようにバウキス帝国の皇帝ププン3世が真意を問う。

今この場で発言が許されているのは5大陸同盟の盟主だけだ。

それ以外の者は手を上げ、司会進行役のインブエルに発言の許可を求めないといけない。

「私たちは先月ほどになりますが魔王軍に襲われました。私たちプロスティア帝国も関係ないでは済まない状況にある。そういう事態となったのです」

ラプソニルは魔王軍に攻められたため、今回の5大陸同盟の会議で協力の姿勢を示したと理由を正直に言う。

「魔王軍に!? それは真かの?」

ププン3世は他の盟主に視線を送る。

現在も連合国の代表として盟主をするクレビュール王国のホラノロ国王もローゼンへイムの女王レノアティールも視線に合わせて頷く。

2人が知っていたため、お前もかとププン3世はギアムート帝国のレガルファラース5世に視線を送る。

「ふん。そんなに公で語る事ではないからな」

知っていたが言わなかったとレガルファラース5世は言う。

ドワーフであるメルルも、アレン軍にいるゴーレム隊のサレレレ将軍、ララッパ団長もバウキス帝国に態々情報を提供する立場にはない。

「連絡とお礼の言葉が遅くなりました。皇帝ププン3世陛下」

ププン3世の顔が曇ってしまったので、申し訳ないように女帝ラプソニルは見つめながら言う。

「い、いや、謝らないでいいのだ」

(なんか妖艶な雰囲気に飲まれているな)

実は、女帝ラプソニルの美しさに心を奪われる配下は魚人でもかなり多い。

アレンが一切気にしなかったため、帝都パトランタにいるころは顕在化しなかったが、美しさを前面に出す女帝に心を奪われる者は多いと言う。

イグノマスもその1人であり、自ら手にするために離宮に閉じ込めた。

帝都パトランタではアレンが一切気にせずラプソニルと話をするので、ラプソニルは自信を失っていた。

皆の視線を集める今日という日はラプソニルの自信が復活する日を意味する。

バッキバキのドレスを身にまとったラプソニルは流し目を送り、各国の代表者をメロメロにする。

魚人たちは芸術や美意識がとても強いようだ。

「実は帝都に多くの魔獣が攻めてきまして、アレン軍のゴーレム隊の活躍により被害を未然に防いでくれたのです。当然、バウキス帝国が誇るゴーレム兵は大変な活躍を見せてくれました」

アレンのパーティーメンバーとヘルミオスのパーティーメンバーに次いで、ゴーレムたちの活躍はとても大きかったのは事実だ。

「そうかそうか」

ラプソニルに褒められてププン3世が満更でもなさそうだ。

盟主の立場にあり、唯一の女性のローゼンヘイムのレノアティールが困り顔だ。

「それで、同盟に加盟するにあたりイグノマスとロザリナの2人をアレン軍へ参加させます」

ラプソニルはプロスティア帝国からの協力について説明をする。

1人目は、プロスティア帝国最強の槍使いイグノマスで、槍王の才能の持ち主であり元近衛騎士団長だと言う。

2人目は、歌姫ロザリナで、去年の歌姫コンテストの唯一の覇者であると言う。

申し分ない肩書の2人に各国の代表は度肝を抜かれる。

2人は各国の代表の視線を集めるが、一切物怖じをしていない。

視線を集めることが当然の立場であるという強い自信に溢れていた。

プロスティア帝国最高の魔法技師であるカサゴマと2000人の兵をアレン軍に参加させることも包み隠さず伝える。

「ほほ。随分な対応であるな。アレン軍へというのはいささか気になるがの」

「もちろん。5大陸同盟軍への直接の支援もしていくことになりますわ。兵の数では数万規模になります。そのほか、物資の補給もしていくことがプロスティア帝国の決定事項ですわ」

ラプソニルの発言に一緒についてきた外務大臣の魚人が深く頷いた。

「そ、それは、随分な。立場としては、どのようなものを望みで?」

思った以上の提供ぶりにププン3世は苦笑いをした。

「そうですね。相応の席を用意していただきたいですわ」

どれだけの支援をするつもりか分かったのだろう。

その言葉にレガルファラース5世は反応した。

「それは、新たな5大陸同盟の盟主になりたいと」

「皆さまには魔王軍と戦ってきた歴史があるでしょう。私にはそれほどの歴史がありません」

「というと?」

レガルファラース5世に色仕掛けは通じないようだ。

「ギアムート帝国の皇帝よ。あなたと同じ席で話をする。それだけでいいですわ」

「なるほど。肩書は求めぬが立場は求めると。ある意味良いとこ取りな気もするね」

「そういうことです」

とラプソニルの意思が通じたのか、2人はにやりと口角を上げた。

(5大陸同盟プラスワン的なやつか)

ラプソニルの言葉は、盟主の立場はなくてもいいですよと言いながらも立場を求めるということだ。

「だが、これだけの対応をしてくれたのだ。各国と同じ席に座らせるのもどうかと思うの。朕も賛成するぞ」

ププン3世は賛同の意思を示す。

もしかしたらラプソニルと一緒に席に座りたいだけかもしれない。

「まあ、たしかにそうだな」

レガルファラース5世も嫌味を言ったものの反対ではないようだ。

盟主たちの全会一致の決によってプロスティア帝国の5大陸同盟への参加が決まった。

(獣王は何も言わなかったな。って、お?)

魔導書を出して魔力消費を繰り返しながら、会議の行く末をアレンは見ている。

5大陸同盟の盟主は全て揃っており、この場には獣王ムザもいる。

プロスティア帝国の加盟にのみ賛成の意思を示したが、無言を貫いている。

そんなムザは、目を開きゆっくりとラプソニルを見る。

「我が愚息を国に返してくれて礼を言う」

「愚息ではありません。魔王軍の野望を阻止するため命を懸け戦ったと私は聞いております」

プロスティア帝国は氷の結晶となったベクの死体を丁重に回収してアルバハル獣王国に返した。

ラプソニルは「愚息」という言葉を否定する。

「そうか」

「プロスティア帝国はあなたのご子息の命を懸けた戦いのお陰で救われた。改めて礼を言わせてください。ありがとうございます」

「そうか。そうだな」

頭を下げて礼を言うラプソニルの言葉に救われたようだ。

アレンは議長国であるラターシュ王国のインブエル国王に向かって手を上げる。

アレンは今回の5大陸同盟の会議に呼ばれたが発言したい話があった。

「な!? アレンよ、何か発言があるのか」

「む。インブエルよ。随分仲が良いようだな」

レガルファラース5世はインブエルの言葉使いに、アレンとの関係を探る。

「そ、そうではないです。手を上げたので発言があるのか確認をしただけです」

(完全な従属関係だな)

ラターシュ王国の王族席にいるレイラーナ姫が、さっきから当たりのきついレガルファラース5世をがん睨みしている。

「アレンよ、発言を許可しよう」

「では、アレン軍の活動について、皆さんにもまず伝えておきたいことがあります。私たちの活動する要塞の移動が可能になりました。各国上空を飛ぶことを許可してください」

アレンは席に立ち渡された拡声の魔導具を持って話をする。

ヘビーユーザー島の各国上空での移動の許可を求める話をする。

「ほほう。天空を移動する要塞か。朕もいずれ見てみたいの」

好奇心が強めのププン3世が目をキラキラさせながら話をする。

この世界には魔導船があるお陰で、領空権に近い考えやルールがある。

前世ほどの厳しい規則ではないのだが、無闇なことをしたら反感を買ってしまう。

現在も各国の上空を通らないよう、慎重に移動をしているのが現状だ。

「ふん、だが、そのような大きいものが帝都の上から落ちたらたまらぬぞ」

レガルファラース5世は難しい顔をしながら、不測の事態を予測する。

「たしかに、要塞程度の大きさなのでそこまで大きくはありませんが、帝都などの上空、人口密集地は避けたいと思います」

アレンは両手を使い、島の大きさが要塞程度なのでそこまで大きくないと言う。

ついでに通常の魔導船よりも高い位置を普段移動するので、魔導船の衝突も避けると言う補足もする。

実際は八丈島ほどあり、街の上空を飛ぶと街は真っ暗になるほどに大きい。

アレンは今回、ヘビーユーザー島を持ってきていない。

竜神の里に向かって移動中だ。

力を誇示して、制約がかかることは避けたい。

そんなつまらないことで、自由を失うわけにはいかない。

まずは許可を貰って、結構な上空を移動して反感を買わないことが大事だ。

アレンは名声や畏怖よりも利益を優先してきた。

「レガルファラースよ。よろしいのではないですか? 力は使えるようにしないと意味がありません」

実際の大きさをソフィーから聞いているレノアティールは顔に出さないようレガルファラース5世に同意を求める。

細かいことだと異論がないププン3世も賛同し、沈黙しているムザ獣王も何も言わないようだ。

「ふん。まあいい。だが余の帝都の上は飛ぶでないぞ」

「許可を頂きありがとうございます。私の話は以上になるのですが、仲間のシアがこの場で発言があります」

「そ、そうか。まだあるのか。各国の代表も来ておる。手短に頼むぞ」

インブエル国王がシアの発言を許可する。

(ゼウ獣王子も何を発言するのか気になるのかな)

この会議にはゼウ獣王子も参加している。

アルバハル獣王国のあるガルレシア大陸にある他の獣人王国や鳥人王国も参加している。

大陸の覇者であるアルバハル獣王国のシアが発言するということで、各国の視線が集まっていく。

「本日は、このような会議の中、発言の機会を設けていただき感謝する。余はシア=ヴァン=アルバハルだ」

各国の代表は獣王ムザの顔を窺う。

去年はムザとの戦いで一切の容赦なくボコボコにやられたという事を強く記憶している。

その獣王女シアが改めて皆の前に立つ。

「何を話すか知らぬが、手短にな。あと、ベクが持ち出した獣王の証はさっさと返すのだ」

ムザは娘の態度に今度は何だという不快な態度を明らかに示す。

未だに返ってこない獣王の証の3点セットについても返すように言う。

シアはムザに頭を下げ返事をした後、各国の代表たちを見つめ口にする。

なお、現在、獣王の証3点セットはシアが身に纏っている。

「余はアルバハル獣王国の獣王位継承権を放棄する。アレン軍にこのまま籍を置き、魔王軍と戦っていくことに決めた。獣王の証は餞別に頂いていくことにした」

「な!? ば、馬鹿な!!」

メキメキ

シアの言葉にムザの手のひらによってテーブルに無数の亀裂が入る。

獣王ムザの声が会議中に響いたのであった。