軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第435話 商人ペロムスの戦い①

アレンたちが上位魔神の驚異的な力に圧倒される前日の話だ。

歌姫コンテストを明日に控え、アレンとペロムスは資料室にいた。

「やはり、水晶の種の在庫がなくなるのは不自然すぎるよ。搬出の形跡もないなんて」

「ああ、不自然だな。だが、もう明日は大会だからな。イグノマスがもしかして内密に貴族かどこかに売った可能性もあるぞ」

2人きりの資料室の中で会話が続く。

アレンがペロムスのためでもある聖珠獲得のため、ロザリナの大会参加の裏工作をしているころ、ペロムスは水晶の種のありかを追っていた。

店売り価格で1つ金貨100枚はする大変貴重な水晶の種だ。

そんな水晶の種3000個もの在庫が帳簿からも倉庫からもなくなっている。

この状況で考えられることといえば、人に言えない方法で売却したから帳簿に載らないのではと考える。

例えば、あまり関係のよろしくない属州や属国に流してしまった。

もしくは、同じ理由で貴族に渡したり、帝都外の商人に売ったりしてしまった。

イグノマスはアレンの中でかなり愚かな存在だと認識している。

理屈で動かない人ほど、予想外のことを無計画で行う。

感情を予想するのは簡単だが、長期にわたっての行動を予測するのは難しい。

「そうだけどね。倉庫の管理をしている役人を特定できたから、ちょっと話を聞いてみるよ」

帳簿上最後の記録がある日に、管理していた役人を特定できたという。

どこに流したのか役人が知っていれば、その後の足取りが追えるかもと考えた。

「そうなのか。これから、S級ダンジョンにペロムスのお陰で手に入れた耳飾りを渡しに行くからな」

アレンは魔導具の時計を見ると10時を過ぎたところだ。

まもなくアイアンゴーレムの狩りで休憩をするためにS級ダンジョンの最下層にクレナたちが戻る頃合いだ。

「分かった。ちょっと、役人に話が聞けそうだったら、聞いてみるよ」

無理そうだったら、諦めて昼食を摂りにルークたちのいる建物に戻ると言う。

「ああ、そうか。もしかしたら話が長くなるかもだから」

『アレン様、擬態の延長ですね?』

「そうだ」

アレンはこのタイミングで、擬態と香味野菜の効果を延長し、S級ダンジョンに向かった。

お昼前後に24時間しか持たない擬態と香味野菜の効果を延長しているのだが、もしかしたら、S級ダンジョンで食事を済ませるかもしれない。

魚Aの召喚獣に覚醒スキル「擬態」を延長させる。

これでペロムスも含めて、この宮殿、離宮、ルークたちのいる建物も含めて仲間たち全員が「擬態」の効果が延長された。

アレンが鳥Aの召喚獣の特技「巣ごもり」を使って移動したあと、ペロムスは役人の元に足を進める。

もう1ヶ月もこの宮殿で活動しているため、話をする役人も騎士たちも増えてきた。

名前と顔に見覚えのある役人が、水晶の種がなくなった直前に管理をしていた。

この宮殿内にいくつもある資料室や会議室、役人の待機部屋を見て回ると、会議室の1つにお目当ての役人がいた。

どうやら、終わった会議の片づけをしているようだ。

「手伝いますよ」

「ん? おお、すまないな」

一瞬誰だっけと思ったが、手伝ってくれるなら助かると役人は思う。

「ああ、これは明日のセレモニーの打ち合わせですか?」

「そうだぞ。役人は仕えている部署に関係なく駆り出されるから、明日からの数日間は激務だぞ」

若そうな役人なので、ペロムスに対して親切に教えてくれる。

「それは大変です。まあ、地上よりはましですが」

そう言って、ペロムスはため息をついた。

「ん~。ああ、そういえばお前は、例の陛下に取り入ろうとしている大使の部下だったか?」

「そうなんです」

そう言って、「もうやだ」を前面に出す。

ペロムスは芝居を打っているのだが、この態度は商人のスキル「交渉」による行動補正だ。

「聞いているぞ。なんでも3ヶ月で金貨1000万枚とか豪語して。どうなんだ、いけそうなのか?」

アレンがイグノマスと交わした約束は宮殿ではかなり有名な話になっていた。

「いや、えっと……」

ペロムスは何かを言おうとするが躊躇う。

「なんだよ。いいじゃないかよ」

「も、もしかして、賭けをしているんですか?」

「なんだ。知ってんのか。俺は無理な方に賭けてんだ。で、どうなんだ?」

宮殿内の噂好きの役人がとても多いようだ。

アレンの豪語した「1000万貯めれるのか問題」は、役人の中で娯楽と化している。

なお、この賭け事となっている事自体はアレンの魚Dの召喚獣によって知っている。

交渉事や情報収集に使えるので、あえて情報を吹いて回っているところもある。

「じ、実はかなり厳しくて……」

困り顔でペロムスは答えた。

「そうなのか。これは、2ヵ月後が楽しみだな」

役人はしたり顔で「儲けた」と言う。

「ちょっと、楽しまないでくださいよ。そのせいで、最近、アレク様の指示がひどくって」

ペロムスは泣きそうになりながら、荒い指示に耐えられないと言う。

「ん、まあ、新たな陛下は雑だが、細かいことを気にしない大らかな性格だ。何なら口利きしてやろうか?」

イグノマスは内乱を起こし、皇帝を討ったが、働く役人や騎士はそのままにしてくれたと言う。

こういう内乱を起こした成功者は、世の常では、信用する者だけで身を固めて、ほかは貴族領など身の回りから排除するものだ。

自分も内乱を起こしたから、ほかの者も自分を討とうとするのではと疑うことが多い。

しかし、イグノマスは自らに頭を下げた全ての者を宮殿に留めてくれた。

お陰で、働く役人が同じであったこともあり、つつがなく歌姫コンテストを開催できるというものだ。

この辺りのイグノマスの態度は、星4つの才能である槍王による自信からきているところも大きいようだ。

「お優しいお言葉ありがとうございます。じ、実はお願いがございまして」

いい役人そうなので、お願いしました感をペロムスは前面に出す。

「ん? 大使関係の話か?」

金貨1000万枚用意しますよ関係の話なのかと役人は聞いてくる。

ペロムスは「誰にも言わないでください」と念を押して、話を続ける。

「実は、アレク様曰く、地上で結構な値段で水晶の種が売れるらしくって、必死になって、その、種のありかを……」

「あ、ああ、なるほど」

そこまで言うと役人も何が言いたいのか気付いたようだ。

「実はな。俺は普段、宮殿内の宝物や倉庫を任されているんだが」

「へ~そうなんですね。だけど?」

「実は、忽然と消えたんだよ。その日は結構な騒ぎになってな」

その日のことを昨日のことのように役人は覚えていた。

3000個にもなる貴重な水晶の種が忽然と消えた。

上司の役人にすぐに報告し、賊がでたのかと大騒ぎになったと言う。

「え? そんなことがあるんですか。もしかして、負けたくないからって」

ペロムスは本当ですか、このままだと私に明日はないんですと必死に尋ねる。

「ばか。そんなんじゃないぞ。恐らくだが、陛下か宰相が横流ししたんだよ」

騒ぎはすぐに収まったと言う。

なんでも、宰相の指示で、これ以上探さなくてよいとお達しが出たらしい。

役人たちの中でも、内乱を成功させたイグノマスあたりが私腹を肥やすために、どこかに売りさばいたのが定説らしい。

宮殿の中でうまくやっていきたかったら、この話はもう黙っとけと役人は言う。

「そんなことが。たしか、東の倉庫ですよね」

「ああ、そうだ。明日放出される水晶の種を格納するために今は空になっているはずだぞ」

明日から、また管理に忙しくなると役人は言う。

ペロムスは何かあったら、また助けてくださいと言って、その場を後にした。

結局、何も手掛かりがなかった。

このままルークたちのいる宮殿傍の建物に戻ってもいいが、ちょっと倉庫を確認しようと思った。

空になり、貴重品のない倉庫は護衛も扉に立っておらず、すぐに入ることができた。

忽然と消えたというので、恐らく倉庫から隠し通路か何かあるのではと思った。

普段なら倉庫の入り口は常に守衛の騎士がおり、盗むのは難しい。

もしかして、騎士も懐柔した可能性もあるが、そういったうわさは先ほどの役人の話からはどうもなさそうだ。

床板が外れないか、確認をしていたところ、倉庫の扉が開く音がした。

見つかってしまうとペロムスは物陰に隠れた。

気配を殺して覗き見た先にいたのは導師シノロムだった。

昨日までいなかったシノロムが宮殿内に戻ってきていた。

これはアレンに報告しなくてはと思っていると、シノロムは中央に立ったままだ。

身を潜めたまま、何が起きているのかと見ていると、何か魔法陣のようなものが現れ、1体の道化師のような恰好の者が現れた。

『これは、キュベル様、よくぞ、お越しいただきました』

『やあ、シノロム。明日に備えて転移先の位置を変えに来たよ。それで、聖獣石の準備は整っているんだろうね?』

何やら、よく分からないが、アレンからキュベルは上位魔神で、魔王軍の参謀だと聞いていた。

『もちろんですじゃ。キュベル様、明日の復活の儀式には、その効果をいかんなく発揮するでしょう。今は研究室で調整中でございますじゃ』

『本当だろうね。よろしく頼むよ。魔王様には、つつがなく順調ですと伝えておくよ』

まだ完全に調整がついていないと言うシノロムに、明日には間に合わせるように念を押す。

『はい。水晶の種から聖獣石に加工しても管理者権限が水の神となっておりました。上書きするのに苦労しましたのじゃ』

ここにきて、ペロムスはとんでもない状況を見てしまった。

魔王軍の貴重な会話に対して息を必死にひそめて、この場から2体がどこかに行くのを待つことにする。

どうやら水晶の種3000個は魔王軍が持ち出してしまったようだ。

『ん? そこにいるのはだ~れだい?』

「!?」

息をひそめていたのだが、震えるペロムスの気配をキュベルが見つけてしまった。

『む? 誰じゃ?』

ペロムスは夢中になって倉庫の入り口に向かって走り出した。

入り口までもう少しというところで、途中で足を動かしているのに体が動かないことに気付いた。

「へ、わ!? ぐああああ!!」

いつの間にか後方に回り込んだキュベルがペロムスの首を握りしめ、持ち上げている。

『この宮殿の役人かな? もう、せっかく楽しい儀式が始まるのに。ネズミがいるなんてしかたないね』

魚人の姿をしたペロムスに対してそう言うと、キュベルはこのまま首を握りつぶそうとする。

『ま!? もったいないですじゃ。ちょっと、待ってくだされ!!』

そう言って、シノロムは少し遅れてやってくる。

必死に足をばたつかせるペロムスの頭を掴み、ルーペのようなものを目に当て、何かをのぞき込むように確認する。

そして、クワッとシノロムが目を見開いた。

『何かいいのがあったのかい?』

『天秤? 天秤じゃと!? ば、馬鹿な。なんて良いスキルを持っているのじゃ!! ぜ、ぜひ欲しい。キュベル様、是非この実験に欲しいのじゃ!!』

ペロムスのエクストラスキル「天秤」を何かの道具を使って見抜いたようだ。

実験に使うので、是非ペロムスを寄こすように言う。

『ちょっとシノロム所長。そんなに騒がないでね。ん~、今回の働きもいいし、仕方ないね』

『ありがとうございますじゃ。まじめに働いてよかったのじゃ!!』

キュベルはシノロムの態度に「やれやれ」と言いながら、ペロムスがシノロムの手に渡る。

そして、視界が一気に変わり、何か分からない辛気臭い石畳の場所に変わった。

「は、離してください。このことは誰にも言いませんので!!」

元々攻撃力を底上げしていないのだが、爺さんとは思えない力で抱きかかえられ、全く脱出できそうにない。

『ふぉふぉふぉ。離すわけないじゃろう。お前は、明日の復活の儀式が終わった後、解剖されるのじゃ。あんなところにいた自分を恨むんじゃな』

肩に担がれたままバタバタするが、ステータスを耐久力や素早さに振っているためか、攻撃力がたりず、老人のシノロムの手から脱出できないでいる。

廊下を歩き、いくつかの階段を下りて行った先に、2体の看守とその先に牢獄がある。

『お帰りなさいませ。シノロム様、あの、その者はどうされたのですか?』

牢獄の前にいた魔族の看守がシノロムに尋ねる。

『キュベル様からの褒美での。貰ったのじゃ。明日の儀式が終わった後が、楽しみじゃわい』

『そうでしたか。鎖でつないでおきますか?』

シノロムが実験に魚人を持って帰ったことに違和感がないようだ。

『その必要はなかろう。ただの魚人の役人じゃ。牢を開けてくれ。放り込むでな』

『は!』

そう言って牢獄を開け、ペロムスを投げ入れる。

『さて、忙しい忙しい。キュベル様にせっつかれたのじゃ。明日には間に合わせないといかんの』

シノロムはそう言って、バタバタと走って行ってしまった。

「だ、出してください!!」

牢獄のミスリル製の鉄格子を握りしめてペロムスが騒ぐ。

『おい、うるさいぞ。後ろの奴みたいになりたくなかったら黙っていろ!!』

ペロムスに看守は黙っていないと後ろのやつみたいにするぞという。

「え? 後ろ? って、うわ!?」

ペロムスはその時投げ出され、必死に逃げようとする頭が少し落ち着いた。

この牢獄にもう1人いたのかと後ろを振り向いた。

「ん? 誰だ?」

ペロムスの騒ぎに1人の男が目覚めたようだ。

手足を切り落とされた男が顔を上げると、ペロムスと視線が合うのであった。