軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第392話 大使②

国王がアレンを特命全権大使にすべきかどうか迷っているところへ、カルミン王女は意を決して口を開いた。

「よろしいのではないでしょうか。お父様」

(お? 擁護してくれるの?)

「カルミン?」

「私も、王女としてプロスティア帝国に行こうと思います。このような状況ですと、クレビュールの未来も危ぶまれます。邪教徒をはびこらせ、帝国の信任を失ったことは私たち王家に責任があります」

カルミン王女が語るのは、クレビュール王国の未来であった。

魚人たちは水の神アクアを信仰してきた。

それはプロスティア帝国であろうがクレビュール王国であろうが変わらない。

しかし、帝国の支配に反発するかのように邪神教の信者たち、水の神アクアを信仰しない者が増え始めた。

その結果、現在ではプロスティア帝国から睨まれている状況だ。

最後にクレビュール王家が帝国にある王宮に足を踏み入れたのは、1年以上前になるという。

このまま帝国の信任を失い続けるのは良くない。

属国には属国なりに確保せねばならない立場があるとカルミン王女は語る。

「たしかに、そうだな」

(ふむふむ。カルミン王女が来てくれるのは助かるな。完全に偽装できるし)

プロスティア帝国の常識がないアレンたち一行のみで帝国に特命全権大使として潜入すると、帝国内で活動する中で不自然さが生まれる。

それでも口八丁に適当なことを言いながらなんとかしようと思っていた。

多少不自然でも、強引になっても、目的であるベクから獣王の証を取り返せたら、後はどうなっても良いだろう。

しかし、カルミン王女が来てくれると助かるのは事実だ。

「それに、ドレスカレイ様とのお話も止まったままですし」

(ドレスカレイ様?)

「えっと?」

何のお話でしょうという顔をアレンは前面に出す。

「申し訳ありませんわ。アレン様」

そう言って、カルミン王女がクレビュール王国と自らの状況について話をする。

属国であるクレビュール王国は、次期国王または王妃に、プロスティア帝国から王侯貴族を受け入れてきた。

今回は、カルミン王女の夫として、そして次期クレビュール王国の国王としてドレスカレイ公爵という男を受け入れる話が進んでいたのだが、邪神教の関係で話が進んでいない。

このまま放置すると、婚姻の話が飛びかねず、それはクレビュール王国としてもまずいらしい。

一度、プロスティア帝国に行って、ドレスカレイ公爵に挨拶に伺う必要があると言う。

その護衛兼使節団としてアレンたちを一緒に入国させてはという話であった。

(護衛もかねて一石二鳥ということか)

プロスティア帝国に入りたいアレンと、クレビュール王国の未来を考えるカルミン王女の目的は一致するという。

「たしかに、そうであるか。これも王家の務めなのか。イワナム騎士団長よ。護衛を頼まれてくれぬか?」

「御命令とあらば」

「う、うむ。頼むのだ」

国王はカルミン王女の説得を受け入れた。

その話は筋が通っているため、カルミン王女をプロスティア帝国に行かせるという。

その際、王家の後ろに立っていた近衛騎士団のイワナム騎士団長も護衛に付けるようだ。

(おお、これは貴重なおっさん枠だ)

今回、アレンのパーティーがプロスティア帝国に入るわけだが、平均年齢がかなり低くなりそうだ。

あまり若い構成のみだと、無駄に怪しまれるので、おっさん枠に何人かクレビュールの騎士に来てもらえたらなと思っていたところだったので丁度良いと思う。

ついでに、道中にプロスティア帝国の風習や決まり事も聞くことにする。

若干、流れに任せてしまった感があるが、クレビュール王国の国王は同意する。

こうして、アレンたち一行は魚人に姿を変え特命全権大使として、カルミン王女は属国の王女として未来の国王に挨拶に行くことになった。

それから5日が過ぎて、出発の準備が整った。

思いのほか時間が掛かったが、先方のプロスティア帝国に向かう旨の連絡や積み荷を準備するなどを考えれば急ピッチに対応してくれたのだろう。

(ふむふむ。それにしても、これがプロスティア帝国に向かうための船か。結構大型だが、形は普通だな)

アレンは港に接する巨大な船を見る。

これからこの船は海底にあるプロスティア帝国に向かうのだが、見た目は大きいが普通の船のように見える。

ただ、外に飛び出た大き目のオールが水面よりも随分高い位置にあるのは、船が潜水したとき水中を進むためなのだろう。

運んでいる積み荷は属国であるクレビュール王国がプロスティア帝国に納めるものだ。

プロスティア帝国は、交易をクレビュール王国のみに絞っているため、クレビュール王国がプロスティア帝国産の鉱石や貴金属などを世界に販売している。

そして、出た利益でクレビュール王国はプロスティア帝国が求めるものを買い集めて、貢物と合わせて毎年数回に分けて納めてきた。

一度に、この大型の船一杯の積み荷を納めるということだ。

(それにしてもクレビュール王都から港まで随分近いんだな。クレビュールの国王は、それでも港じゃなくて内陸に逃げたんだな)

船を見ているとあることに気付く。

魚人国家であるクレビュール王国は、プロスティア帝国との交易のためなのか王都が大きな港町からすぐの場所にある。

邪神教の信者が邪教徒に変貌し、人々を襲う中、王侯貴族はこれだけ近いなら、遠い場所にある要塞よりも海に逃げた方が安全だったのかもしれない。

しかし、王都にいる多くの人々のほとんどは岸に停泊している船に乗り切らず、だからといって船もなく海に避難させるわけにもいかない。

海には海獣系の魔獣がおり、避難した人々に襲い掛かられたら地上に逃げることもできず餌食になってしまう。

王家がしんがりを務め、100万を超える人々と共に、要塞を目指して内陸に逃げ続けた。

そんな中、シアが率いる獣人部隊とアレンは合流を果たした。

(ゼウさんとシアの占いか。占いの神、ああ、運命の神の仕業なのかな)

そんな中、アレンは占星術師テミの占い結果をたまに考えることがある。

ゼウ獣王子に「獣王になる」と占わなければ、S級ダンジョンに向かうことはなかった。

シアに「連合国のある大陸で試練を与えよ」と占った。

ゼウの試練が達成しなければ、シアはクレビュール王国に足を運ぶことはなかった。

それは、アレンがシアと出会っていないことを意味するのかもしれない。

テミがゼウ獣王子とシア両方を占った結果、シアがアレンの仲間として行動を共にしている。

この世界にある神の一柱である運命神の手の中で、随分手の込んだクエストを踊らされているのかもしれないなとアレンは考える。

「まもなく、出発しそうだぞ」

アレンがクレビュール王家の判断とテミの占いについて考えていると、魚人の姿をしたシアに話しかけられた。

「もう出発か。シア、それで獣王国は大丈夫そうか?」

「ああ、問題ない。ルド将軍が見てくれている」

5日の間にいくつかのことを話し合い、そしてアルバハル獣王国の状況も確認させた。

獣王親衛隊にも在籍していたルド将軍には、アルバハル獣王国の状況を確認してもらっていた。

王都も王城も随分落ち着きを取り戻しているが、短気で好戦的な人たちの多い獣人たちは血眼になってベクの後を追っている。

ベクについては、内乱の3日後には、本人はいないが正式な場で王位継承権及び王太子の座を失った。

また、王城から逃げたベクの足取りについても、分かってきたことがある。

アルバハル獣王国の東部海岸線にいる住民に聞き込みを行ったところ岸から少し離れたところに、大きな船が何日も停泊をしていた。

そして、内乱が起きた日を境に巨大な船は忽然と姿を消したとシアは言う。

「それで、クレビュールやプロスティアへの報復みたいな話は出ているのか?」

「そのような話も出ているな」

「流れた血を清めるために、魚人どもの血が必要だ」みたいな物騒な声も出ているとか。

アルバハル獣王国にとってクレビュール王国もプロスティア帝国も一緒の扱いのようだ。

それに、無実を伝えてもクレビュールが関わっていない証明を出すのも難しい。

どこの国も軍部は血の気が多いなとアレンは思う。

今は意見が割れたりしながらも、王城内で話し合いが続いているようだ。

「まあ、本格的に戦争になると5大陸同盟からも脱退を視野に入れないといけないからな」

「だから、慎重派も多いぞ。すぐに決起するような話にはならぬと見ておる」

せっかく、今回の会議でゼウ獣王子と十英獣がローゼンヘイムや中央大陸への魔王軍との戦争に参加したことが公になった。

アルバハル獣王国は、これまでの非協力的であった魔王軍との戦争に本腰を入れるものだと同盟各国は見ている。

そんな中、加盟国であり、今年は連合国の盟主をしているクレビュール王国をアルバハル獣王国が攻めるとなると話は大きく変わってくる。

5大陸同盟の解体まで世界が動くかもしれない。

(ふむ。5大陸同盟の混乱を狙ってのことか。ローゼンヘイムの女王にも説得をお願いしておかないとな)

1つの可能性が頭をよぎる。

ベクが何のために獣王の証を盗んだのか分からない状況で、いくつもの可能性を考えなくてはいけない状況だ。

「ローゼンヘイムの女王にも獣王国に話をするように伝えておくよ。ルド将軍には引き続きアルバハル獣王国を見張るように言っておこう」

「そうだな。む、皆乗り込み始めたぞ」

積み荷の移動が終わり、魚人たちが船に備え付けられた階段を上がり、乗り込んでいく。

まもなく船は出航しそうだ。

「じゃあ、頑張ってね。私も特攻隊長として頑張るから」

すると、クレナが「ふんぬ」と意気込み、別れの挨拶をしてきた。

「ああ、頼む。アレン軍を引っ張ってくれ。ドゴラもな」

「ああ、任せろ」

(ドゴラが頼もしい件について)

そう言って、ドゴラを見る。

ドゴラも分かったと言って頷く。

今回、アレンのパーティーは2つのチームに分けた。

チームプロスティアはアレンをチームリーダーとして、セシル、ソフィー、フォルマール、シア、ルーク、ペロムスの計7人だ。

チームアレン軍はキールをチームリーダーとして、クレナ、ドゴラ、メルル、メルスの計4人と1体だ。

チームを分けたのは、チームキールにアレン軍のことを見てほしいからだ。

アレン軍は既に全員転職を済ませてしまっている。

「ドゴラ、もうすぐレベル96になるからな。しっかりカンストするまで上げてくれ」

「分かってる」

そして、ドゴラのレベルがまだカンストしていないこともドゴラを残す理由の1つだ。

エクストラモードになるステータスの上り幅の大きいドゴラにはアイアンゴーレムを狩っていてほしい。

レベルがいくつまで上がるか知らないが、アレンのレベルを抜いてさらにレベルが上がり続けている。

そして、チームプロスティアについては搦め手が必要なので、そういったことが得意な者を連れて行くことにした。

仲間にはそれぞれ役割があるということだ。

アレンが声をかけている中、シアがドゴラの下に向かう。

「ちゃんと、何でも食べないと駄目だぞ」

いつもの口調でドゴラのことを心配するようだ。

「ああ、分かっている」

ドゴラは分かったと言うが、いつものめんどくさい感は出さないようだ。

準備出来ましたというので、魚人の姿をしたチームプロスティアの面々が小舟に乗り込む。

こうして、船に乗り込み、プロスティア帝国に向かうアレンたちであった。