軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第393話 プロスティア帝国

既に魚人に姿を変えているアレンたちは船から伸びている階段を上がり、巨大な船に乗り込んでいく。

それを見送っていたクレナたちは、アレンたちが見えなくなった後、メルスの転移でS級ダンジョンに移動した。

「船の中も普通だな」

それなりに豪華な部屋に案内され、アレンはテーブルに腰かけて周りを見回す。

外の造りといい、船内も普通に感じる。

「すっげーな! これが本当に沈むのか!?」

「ああ、そうみたいだぞ」

普段ハイテンション枠のクレナとメルルがいない中、1人テンションの高いルークが壁にはめられた結構分厚い窓に顔を押し当てている。

透明感のあるガラスのようなものを使っていて、外が良く見える。

(ふむ。こういう時に船の中を歩き回ったりするのかな)

アレンは魔導船には乗ったことがあるが、こうやって海に浮かぶ巨大な船に乗ったのは初めてだ。

前世の記憶なら、別の大陸に行ったり、初めての冒険が始まる前に船に乗っていた。

そんなときは、イベントのために船の中を歩き回っていたような気がする。

アレンも仲間たちもそれなりに豪華な一室を見渡す中、シアはドゴラたちと別れた場所を窓越しに眺めていた。

「彼らならうまくやってくれるわよ」

そんなシアにセシルがフォローを入れる。

「そうであるな。ドゴラもいるなら問題なかろう」

シアはドゴラがいるなら問題ないと言う。

チームを分けたのは、アレン軍の強化も同時に図るためだ。

まもなく結成して半年になるアレン軍は、転職とA級ダンジョンの攻略を優先させてきた。

転職が全て終わり、獣人、エルフ、ダークエルフによる混成での戦闘訓練も既に始めている。

スキルレベル上げも兼ねてのことだが、何か月もそれだけやるのは効率が悪い。

転職して1からになったスキルレベルも随分上がったので、アイアンゴーレム狩りを開始する。

キールをチームリーダーにアレン軍の強化を図るのだが、パーティーを分けた理由はそれだけではない。

中央大陸でギアムート帝国を中心に動きがあった。

勇者ヘルミオスを中心に1000人規模の軍を作り始めた。

アレンと一緒にS級ダンジョンを攻略した剣聖ドベルグも参加しているらしい。

その軍の名前は「勇者軍」という。

ギアムート帝国の皇帝が名付けたと聞いている勇者軍は、魔王軍と戦う世界の希望の象徴にしたいようだ。

転職ダンジョンが始まり半年近くになる。

アレン軍の活動も参考にしたようだが、才能のある兵たちを自由気ままに転職させるのではなく、統制していくようだ。

優先順位を決め、勇者ヘルミオスや元星3つの才能のものたちを中心とした構成で、転職させて軍を作る。

ただ、アレン軍と同様に、全体の中で多くを占めるのは元星2つの才能らしい。

軍の構成の選定や、転職、軍の強化は順調に進んでいっているらしい。

どうもアレンが5大陸同盟の会議でしたことが随分な刺激になったようだ。

アレンだけではなく、勇者ヘルミオスを屠った獣王に正面からぶつかり、一度は獣王に膝を突かせたドゴラの名はゆっくりと世界に広がりつつある。

アレンは、ヘルミオスに対してアレン軍の活動について情報を提供している。

転職ダンジョンの特性や、軍で動く際のAランクの魔獣や魔神の狩り方についても惜しみなく情報を提供している。

目的は魔王軍と戦い、魔王を倒すことだ。

情報の提供は無償で行い、最終的な判断はヘルミオスであったり、ギアムート帝国に任せている。

アレンとしては、訓練や活動で死傷者をなるべく出さずに魔王軍と戦ってほしいと思っている。

それとは別に、グランヴェル子爵に仕えるゼノフ騎士団長やレイブランド副騎士団長に対しても転職の手伝いをした。

何かあった時にものを言うのがステータスと装備だ。

武器や防具もアダマンタイト製を提供しているので、随分強化できたはずだ。

そして、情報提供からしばらく経って、少し前にアレンの元にヘルミオスから連絡があった。

共同訓練をしようというものだ。

それで、魔王軍と戦う兵の強化に繋がるならと快諾した。

4月に終わった魔王軍との戦争も、またいつ再開されるか分からない。

今が対魔王軍のために強化を図る時だということはアレンも同意見だ。

もう少ししたら、転職を済ませた勇者軍1000人もS級ダンジョンにやってくる予定だ。

勇者軍は、最初は1000人から始まるが、数倍の規模になることも聞いている。

アレンに大いに刺激を受けたギアムート帝国の皇帝は、全力でこの軍に帝国の未来を賭けているように思える。

その共同訓練には、エルフのルキドラール将軍や、獣人のルド将軍など将軍格だけでは任せられない。

アレンはこれからプロスティア帝国に行くが、アレンの仲間たちはその場にいた方が良い。

勇者軍は、この演習によってドゴラの本気を見ることになる。

獣王と戦った時は全力でなかったことを知ることになるだろう。

もしドゴラへの畏怖が生まれれば、それは火の神フレイヤへの信仰に繋がるのではとアレンは考えている。

そういった状況も重なって、シアはドゴラと別行動をすることに反対はしなかった。

シアはドゴラにアレン軍を任せることにしたようだ。

(まあ、チームリーダーはキールだが)

ドゴラがエクストラモードでレベル95だからといってリーダーにはしない。

適材適所で、ドゴラよりもキールの方がチームを上手くまとめてくれる。

(さて、壺もタンスもない部屋を物色していてもしょうがないな)

旅人が来る部屋なら、壺とタンスを用意するのはマナーだとアレンは考える。

「まもなく出発だな。とりあえず、今後の話をするか」

「そうだな!」

窓に顔をくっつけていたルークが分かったと言って席につく。

仲間たちもゾロゾロとアレンを囲むようにテーブルに座っていく。

「それで、シア。ベクの動きは今のところないってことでいいんだな」

「そうだ。これからだと思うが、今のところ沈黙を続けているな。それもあって獣王国も身動きができない状況になっておる」

アレンがルド将軍から聞いた話をもう少しするよう、シアに話を振る。

シアはアレンがベクを呼び捨てにすることに抵抗はないようだ。

「そうか。身動きができないっていうのは、プロスティア帝国の挙兵を予見しているってことか?」

アルバハル獣王国が動かないことに、ベクの動向が関係しているようだ。

「そういう意見を重視しての行動だな。それがあって、アルバハル獣王国が大人しいとも言えるぞ」

(なるほど。獣人たちが動き出さないのにはこういう理由があるのか)

魚人たちの協力を得て内乱を起こしたベクは、この5日間、姿を隠して沈黙を続けているらしい。

アルバハル獣王国がクレビュール王国に攻め入らず、踏み留まっているのにも理由があるようだ。

クレビュール王国を攻めた場合、その隙をついて、プロスティア帝国から攻められる可能性を考えているのかもしれない。

アルバハル獣王国はベクが攻めてくることを想定している。

獣王位の継承戦でベクが獣王になる可能性を真っ先に弾いたからだ。

そのベクが次に何をしてくるのか分からない状況が膠着を生んでいるようだ。

アルバハル獣王国は、海底にあるプロスティア帝国を攻めることは今まで想定していなかった。

プロスティア帝国を攻める手段は今のところないらしいので、今のところ迎え撃つ方が有効だという意見が主流になってきている。

「じゃあ、当面アルバハル獣王国は動かないってことか」

「それもベク次第であるな」

「でも、アレン。海底にあるのはプロスティア帝国だけじゃないんでしょ?」

セシルもアレンとシアの会話に参加する。

「まあ、プロスティア帝国が支配しているみたいだが、その辺はこれからの調査次第だ」

これまでアレンたちもクレビュール王家に色々確認して分かったことがある。

プロスティア帝国は海底にある大帝国だ。

連合国のある大陸から、アルバハル獣王国がある大陸、そして中央大陸の3つの大陸の海底にそれぞれ接した広大な統治領域を持っている。

プロスティア帝国は帝国ということもあって、帝国に隣接するように帝国の支配下にある属州とも言うべき地域が存在する。

そして、地上にあるクレビュール王国だけではなく、海底にあるプロスティア帝国の属国もあるようだ。

もしかすると、属国や属州の暴走という可能性もあるかもしれないとセシルは言う。

アレンはその辺りも含めてこれから調査しないといけないという考えを仲間たちと共有する。

『まもなく、本船はプロスティア帝国の帝都パトランタに向けて潜水を開始します』

アレンたちがどうすべきか議論していると、この船が潜水を開始すると魔導具を通じて船内にアナウンスされる。

積み荷を詰め込み終わった巨大な船が潜水を開始した。

窓から見える景色がゆっくり下降し、ルークのテンションもどんどん高まっていく。

ルークはS級ダンジョンにある街でダンジョン攻略と勉強をし続けており、退屈だったことを体で表している。

「本当に大丈夫なのかしら」

「水の中でも息ができることは実験しただろ?」

いくつもの壁の穴から海水が注ぎ込まれてくる。

魚人の姿をしたアレンたちは、既に水中で問題なく呼吸ができることを確認している。

それでも、ビジュアル的に海水がドバドバ部屋の中を満たす様子に不安で仕方がないようだ。

なお、この世界でも川や湖は基本的に淡水だし、海は塩分濃度がそれなりにある海水だ。

そんな海水が既に胸元までを満たしてしまっている。

「アレン様が大丈夫と言っています」

ソフィーもセシルに問題ないと言う。

エビを抱える魚人の姿をしたソフィーも不安であったが、問題ないと自分に言い聞かせる。

部屋を海水で満たしたが、皆大丈夫のようだ。

『はは。アレン君と一緒にいたら退屈しないね』

「それは何よりです。ローゼン様も問題ないようで」

『僕はもともと呼吸をしていないから』

アレンの仲間たちは海水で満たされた部屋で、息ができることを実感している。

そんな中、アレンは魚Aの召喚獣の特技「擬態」でエビに姿を変えた精霊神ローゼンに問題がないか確認をする。

ソフィーとルークが一緒にプロスティア帝国に向かうので、精霊神ローゼンも精霊王ファーブルも同行している。

精霊神も精霊王もそもそも呼吸や食事が必要ないらしいのだが、海底にモモンガやイタチの姿をした生き物はいない。

擬態を使って、精霊神ローゼンはエビに、精霊王ファーブルはカニに姿を変えさせてもらった。

魚人には首元に2つの小さな穴があり、そこから水中の酸素を取り込むことができる。

そのお陰で、陸上でも海中でも魚人は呼吸をすることができる。

(ふむ、船の中も海水で満たすって話は本当だったな。当面水中暮らしか)

完全に船の中も海水で満たしてしまった部屋の中もアレンたちには問題がないようだ。

海水で満たすこともプロスティア帝国の法で決まっているらしい。

魚人以外の種族が勝手に帝国に入ってこない様にするための措置のようだ。

「外もずいぶん暗くなってきたわね」

「日の光が入らないからな」

巨大な船は岸から離れながら潜水を続けている。

窓の外の光はだんだん弱くなり、そして真っ暗になる。

(日の光が水中に届くのって水深100メートルとか200メートルまでだったっけ)

プロスティア帝国の帝都パトランタは日の光の届かない深海にあると聞いた。

真っ暗な水中を進んでしばらくすると、窓の外が再び明るくなり始めた。

「お? なんだなんだ!!」

部屋を満たすほどの光が降り注ぐので、ルークが窓の外を見る。

そこでは海底の植物が明るく輝いていた。

「これが、水晶花か。ずいぶん綺麗だな!!」

「本当ですわ。すごくきれいですわ」

ルークとソフィーが外の景色に感動している。

こういう時はエルフとダークエルフは気が合うんだなとアレンは思う。

(この世界のサンゴ的な植物は光るんだっけか)

プロスティア帝国が深い海底に存在すると聞いたときアレンは、随分暗いところで住んでいるんだなと思った。

しかし、クレビュール王家に話を聞くと、そんなことはなく、海底は光で覆われていると聞いた。

海底一面に眩い光を放つガラスのような花弁を持つ植物が広く分布している。

その花弁の周りを、魚たちが踊るように群れを成して泳いでいる。

とうとう足を踏み入れたプロスティア帝国は、とても幻想的な世界であった。