軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第380話 商人ペロムスの告白②

ペロムスは勇気を振り絞って告白したのだが、はっきりと断りの意思を示された。

落ち込むペロムスを連れて、どこかうまい店でも連れて行こうかとアレンは思った。

「お、おい、フィオナ!?」

フィオナがにべもなく断るのでチェスターはたまらず間に入る。

チェスターが、フィオナ1人でペロムスに会わせなかったのは、このような状況が容易に想像できたからだろう。

「ペロムス殿がどれだけの商会を築いたのか、何度も話をしただろう」

チェスターはペロムスとの交際に前向きであり、ペロムスの商人としての力をフィオナに語って聞かせてきたようだ。

ペロムスはラターシュ王国で2番目に大きい商会の会長だ。

世界的に見ても87番目の年商を上げている。

数年でこれだけの規模の商会を作ったペロムスは、これからもっと商会は大きくなるとチェスターの商人の勘が囁く。

チェスター自身も自分1人の力でグランヴェル領の富豪として上り詰めた。

商品だろうと人だろうと目利きには自信がある方だ。

そんなペロムスはラターシュ王国でも圧倒的な地位にあり、伯爵になるかもしれないと言われているグランヴェル子爵の愛娘であるセシルに連れられてやってきた。

そして、セシルとともにやってきたのはアレンだ。

アレンの世界的な活躍についてチェスターも耳に入れている。

今回、ペロムス廃課金商会を大きくできた大きな原因の1つにアレンがいることも把握している。

ペロムスは商人の才気あふれ、交友関係に恵まれている。

今後の自らの商会やフィオナの将来を考えれば是が非でも、フィオナとペロムスの交際は成功させたい。

(おいおい、俺を見てもこれはどうしようもないぞ)

何かチェスターからこの状況を何とかしてほしいとチラチラ見られているような気がする。

この世界が格や地位で婚姻が決まることを知っているが、アレンは前世に感覚を引っ張られているので、自由恋愛が基本だと考えている。

だからフィオナが断るのであれば仕方ないと思う。

「そんなの関係ないですの!」

ペロムスがどれだけ優秀な商人であるか説くチェスターの話にも、耳を傾けようとしない。

フィオナはさらに頑なになってしまった。

「僕はダンジョンにも通っているし、これからフィオナに認められるくらいの強い男になるよ」

フィオナは強い男が好きだと以前に言われて断られた。

ダンジョンに通い随分強くなれた。

これからもっと強い男になると言う。

「そういうことは、強い殿方になってから、言ってほしいですの!!」

「ちょっと、フィオナ。商人に強さなんて求めてもしょうがないじゃない」

セシルがたまらず割って入る。

「だ、だって……」

皆の視線が集まる中、1人だけカッカきてしまった自分が恥ずかしくなったようだ。

「それとも何よ。ペロムスにドラゴンでも1人で倒せなんて言うんじゃないでしょうね?」

「え? ドラゴン、そうですわね……」

(お! セシル、これはナイスだ)

どうやら、フィオナとしては、ペロムスは好みの男性ではないようだ。

だから、あれこれ理由をつけて断りたいように思える。

商人1人でドラゴンを撲殺する。

これは、力が支配するこの世界で誰もが不可能と思える条件に思える。

フィオナもこの条件ならペロムスが諦めるかなと考え始めた。

「ペロムス、1人でドラゴンを倒せばフィオナさんが交際を考えるかもしれないけど、いけそうか?」

アレンはペロムスに問う。

その口調からも無理難題感を全力で出す。

(装備は全力で貸してあげるんだからね)

フィオナに見えないようにアレンがペロムスに目配せをしている。

アイアンゴーレムから出した武器や防具、そしてクレナが装備しているルバンカの聖珠。

これからS級ダンジョン最下層ボスの周回も考えている。

もしかしたら貧相なステータスの商人でもドラゴンはいけるんじゃないのかなとアレンは考えている。

「ひ、1人でドラゴン……。それで交際してくれるなら」

ペロムスはマジかと思いながらもその条件を受け入れるようだ。

「こ、断らないのですの!?」

1人でドラゴンを倒すという条件を断らないペロムスの態度にフィオナは驚愕する。

「ペロムスはやるって言っているわよ。フィオナどうするの?」

ペロムスの覚悟をどう受け止めるのとセシルは問う。

「わ、分かりましたわ。そこまでするなら、考えなくもないですわ」

(お? それでいいのか。だったらそこまで嫌いではないのかもしれないな)

自分のせいでペロムスが死ぬかもしれないことを心配しているようにも見える。

フィオナはペロムスのことを完全に毛嫌いしているわけでもないようだ。

「じゃあ、私たちが立ち会うから、ペロムスが1人でドラゴンを倒したら交際を考えるでいいわね。まあ、倒せそうになかったら、アレンや私たちが直ぐに加勢するから安心なさい」

フィオナが心配そうにするので、無理だったら割って入って私たちがドラゴンと戦うという。

アレンがいるし大丈夫なのかなとフィオナは思う。

何となく話がまとまってきそうだ。

これで話が終わり、どのドラゴンを倒すか、どうやってペロムス1人でドラゴンを倒すか、パーティーの皆を集めて相談しようとアレンは思った。

「そ、そうですわね。本当にドラゴンを1人で倒せるなら、ってあれ、セシル、何を腕につけているの?」

話がまとまりそうになった時に、フィオナがセシルの腕につけているマクリスの聖珠に気付いた。

馬車の中までスキル経験値を手に入れるため、最大魔力の上がるマクリスの聖珠をアレンが装備していた。

しかし、馬車から降りるや否や、返せと言わんばかりに奪い取るようにセシルの腕に戻った。

「あら? よく気付いたわね。これ、アレンから貰ったものよ!」

フィオナの言葉に聖珠の存在を思い出したセシルが、ようやく気付いたなという顔をする。

そして、満面の笑みでアレンから貰ったものだという話をする。

(お? 今その話をすると……)

セシルが当たり前のように、アレンから貰ったマクリスの聖珠だと言う。

「な!? こ、これが、1国が買えるというマクリスの聖珠か……」

グランヴェル領きっての富豪であるチェスターでさえ、マクリスの聖珠を初めて見た。

「そうよ。クレビュールって王国を知らないかしら? その王国が大変なことになっているからって、助けてあげたら王女様がアレンに渡したの。それをアレンったら、私にこそふさわしいって……」

フィオナとチェスターの視線を集めてセシルのニマニマが止まらない。

フィオナはゆっくりとマクリスの聖珠とアレンを見る。

購入しようと思えば金貨なら数百万積み上げる必要があり、1国が買えるともいえるマクリスの聖珠をアレンから貰ったとセシルが言った。

セシルのその話と表情から嘘ではきっとないのだろうとフィオナは思った。

そして、フィオナの中にふつふつとある言葉が湧いてくる。

「わ、私も聖魚マクリスの涙がいいわ!!」

フィオナは立ち上がり拳を握りしめて叫んだ。

ドラゴンなんてどうでもよくなってしまった。

マクリスの聖珠は、「プロスティア帝国物語」では聖魚マクリスの涙と紹介されている。

(まあ、そうなるよね)

夢中になって話をしてしまったセシルが、自分がしたことが分かったようだ。

「何でそうなるのよ!?」

「当然じゃない。セシルよりいいものがほしいわ!!」

セシルとフィオナがまた喧嘩を始める。

その光景をアレンは従僕をしているころからずっと見てきた。

そのほとんどがフィオナの方が優勢であったと思う。

王都でも中々手に入らないお菓子をいつもお土産に持って、グランヴェルの館にやってくるフィオナは、セシルよりも上等な服を着ていた。

ずっと富豪の娘であるフィオナがうらやましかったセシルの思いも分からんでもない。

「どうするんだ? 諦めるか?」

アレンはペロムスに問う。

廃課金商会の年商金貨180万でも、売上であって利益ではない。

単純な売上を全て、マクリスの聖珠を買う資金にすることはできない。

利益だけでマクリスの聖珠を買おうと思ったら10年以上かかるかもしれない。

「分かったよ。僕、マクリスの聖珠をフィオナのために手に入れるよ」

フィオナは、ペロムスは無理だと言うと思っていたがそうではなかった。

この時、ペロムスの覚悟のようなものを強く感じてしまった。

少しの沈黙の後、皆の視線を集める中、フィオナはゆっくり口を開く。

「……ペロムスさん、聖魚マクリスの涙を取ってこれたなら交際じゃなく、わたくしペロムスさんに一生添い遂げますわ」

フィオナはマクリスの聖珠を持ってきたら、交際ではなく結婚すると言う。

「ほ、本当!? 絶対だよ。絶対に持ってくるから!!」

ペロムスが立ち上がった。

全てを賭けてペロムスはマクリスの聖珠を取りに行くという。

「ただし、先ほども申しましたが、セシルより良いのがいいわ」

アレンが渡したセシルが持っているマクリスの聖珠よりも良いものを持ってきてほしいという条件を付け加える。

「え? どういうこと?」

聖珠に良いも悪いもあるのかとペロムスは思う。

アレンもセシルも言葉の意味が分からなかった。

「わたくし、ペロムスさん以外誰にも触れられていない聖魚マクリスの涙がほしいわ!」

(ん? 何だ、その話は? 買ったら駄目ってことか?)

よく分からない条件が加わる。

聖魚マクリスから直接取りに行かないと駄目なように聞こえる。

「ちょっと。それって絵本の中の話じゃない!」

どうやら、アレンは知らないが絵本の中にそんな話があったようだ。

「この条件は譲れませんわ。どうなの! 諦めるの!!」

「分かった。聖魚マクリスから貰ったらいいんだね?」

「そ、そんな。どうして……」

どうして諦めないのかとペロムスの覚悟に問う。

自分のためにドラゴンに挑もうとし、マクリスの聖珠を手に入れようとしている。

「僕は、フィオナさんを愛しているんだ。すぐに取ってくるから待っていてほしい」

マクリスの聖珠を取ってくる理由は1つしかなかった。

クレナ村の村長に連れられてやってきたグランヴェルの街で初めてフィオナに出会ったときから気持ちは変わっていない。

「そうですの、待ってますわ……」

フィオナはこれ以上何も言えなかった。

ペロムスがマクリスの聖珠を持ってくるのを待ってみようと思った。

それからいくつか話をして、チェスターの営む高級宿をアレンたちは後にした。

そして、鳥Aの召喚獣を使ってS級ダンジョンにある拠点に移動する。

S級ダンジョンで新しくアレン軍の拠点に使っている。

一応、アレンのパーティー用の部屋も確保しているのだが、今は誰もいない。

クレナやドゴラたちはアイアンゴーレム狩りであるし、シアやルークたちはA級ダンジョンを攻略中だ。

「ちょっと、わ、私のせいじゃないんだからね!!」

転移するなり、セシルがアレンとペロムスから距離を取り、シュタッと両手を胸の前でクロスに構え防御の姿勢を取る。

どうやら責められると思ったようだ。

「いや、そんなこと言ってないぞ」

(思ってはいるけど)

「いや、いいんだ。ありがとう。フィオナさんが結婚してくれるって言うし。僕頑張るよ」

ペロムスとしては、条件は確かに難しくなったが、交際ではなく結婚に話が進んだので良かったと思っているようだ。

「ペロムスしか触ったことのないマクリスの聖珠ってどういう意味だ?」

「そういう話がいっぱいあるのよ。っていうか、館にもあるんだけどね」

セシルの話では、全世界で読まれている「プロスティア帝国物語」に感化されて作られた創作物が世にたくさんあるらしい。

そのほとんどが、愛を証明するため恋人のために聖魚マクリスから涙を取ってくるというものだった。

(なんだ。プロスティア帝国物語の二次創作か)

あまりに有名なため、プロスティア帝国物語を元にたくさんの話が作られているようだ。

この世界に著作権なんてないのかもしれない。

「ん? じゃあ、クエスト達成条件が購入不可で、ドロップのみってことか?」

前世の記憶なら、クエスト達成に必要なアイテムがあるとする。

購入や他のユーザーから取引可能なものもあれば、そうでないものもあった。

取引不可の場合は、別のクエストを達成したり、敵を倒したりしないといけなかった。

当然、取引不可の方が条件は厳しくなる。

「たぶん、そういう感じよ」

アレンのゲーム脳をぎりぎりセシルが理解した。

「ちなみに、直接手に入れたって話はあったのか?」

具体的な成功した記録はあるのかとセシルに聞く。

「そんなのあるわけないじゃない。聞いたことないわよ」

どうやらないらしい。

しかし、ペロムスを見るがやる気満々だ。

ペロムスは諦めるつもりはないらしい。

(なんだか、ペロムスだけ別のゲームをしている感じだな)

ゴーレム使いのメルルを見た時に思った感想をペロムスにも感じる。

「じゃあ、とりあえず、シアにも声かけてクレビュールあたりにも交渉して、プロスティア帝国への入国を許可してもらうか」

「え? そんなことできるの?」

「まあ、交渉してからだな」

アレンは今後の話をする。

どちらにせよ、聖珠集めはアレンのパーティー強化に必要だ。

魚人王国クレビュールと関係のあるシアに交渉をお願いするところから始めようと思う。

商人ペロムスの人生を掛けた前人未踏の挑戦が始まろうとしているのであった。