軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第266話 先駆者③

ポポッカ支部長はこの資料を作るのに必要な、不可能と言える難易度について口にする。

アレンもそれは分かっているが、聞き流し説明を続ける。

大事なのは信用させるために時間を割くことではなく、信用に足る情報を提供することだ。

(信用なら勇者に借りているからな)

アレンになくて、圧倒的にヘルミオスにあるものが1つある。

それは世界における信用だ。

ヘルミオスが長年勇者として活動して築き上げてきた信用は伊達ではない。

勇者として生まれ、その人生を勇者として捧げてきたヘルミオスは、その辺の王族より信用力がある。

ギアムート帝国の皇帝の話は聞きたくないが、ヘルミオスからなら話を聞くという各国の王族もかなりいる。

これはデスゾーンの補足資料ですと、デスゾーンについてまとめた資料も合わせて渡す。

そうかと補足資料を見るが、こちらについても事細かくデスゾーンに出てくる魔獣のランクや強さなどについてまとめ上げられている。

「ん? この1829って数字はなんだ?」

「それは、倒した魔獣の数だそうです。どうやら無限に魔獣が湧くのは事実のようです。1000体を超えて倒しても魔獣が出てきたとヘルミオスさんから聞いています」

(1万超えて検証してもいいけど、逃げの1手なら1000で十分だろう)

助かりたいなら逃げの一手が大事だと言う話をする。

「これは4階層の話だよな?」

「そうですが、資料の下に2階層と3階層でも同じことをして、同じく1000体超えても無限に湧いたことは書かれています」

ポポッカ支部長は自分の記憶が間違っていたのかと頭の中の記憶を確認する。

記憶が正しいなら、4階層のデスゾーンはAランクの魔獣しか出てこない。

目の前の補足資料にもそう書かれてある。

勇者ヘルミオスとはそれほどの力があるのか。

あるのかもしれない。

しかし、ポポッカ支部長も確認することがある。

「おい、あれを用意してきたか?」

「は、はい。こちらです」

ポポッカ支部長は手ぶらで今回、アレンの報告を聞きに来たわけではない。

どれどれと担当者から渡された羊皮紙の中身を確認する。

「何々グランヴェル領の領主に仕えていた。10歳でマーダーガルシュを倒した可能性あり。支部長が聞き込みで確認しに行ったところ、断られると」

「……」

アレンは黙って聞いている。

「学園に在籍している間にA級ダンジョンの5つ制覇か。俺は初めて聞くがどうなんだ?」

「は。学園制度が始まって以降では世界で初です。1000年の歴史書をひも解くなら3人目です」

担当者が補足で説明する。

「む? この前の戦争に参加しているな」

「申し訳ありません。こちらはラターシュ王国とローゼンヘイムが協力的ではありませんでして」

戦争に参加した以上の記録はないようだ。

「しかし、かなりの活躍をしているのは間違いないか。参謀だと? ローゼンヘイムの参謀か。どれだけの戦果を上げれば、初戦で大国の重鎮になれるのか」

そこまで言ったところで、ポポッカ支部長はアレンを見る。

「あの、何が言いたいのでしょうか?」

「目的は何だ?」

「え?」

「なぜ、こんなことをする。すまんが、それだけは教えておいてくれねえか。貴重な情報なのは分かる。感謝もしている。しかし、冒険者はこんなことしねえんだよ」

(だからやってるんだよ)

冒険者はこんな攻略の記録を調査したり、まとめたりしない。

なぜなら、このS級ダンジョンは毎年5割も死ぬ最も危険なダンジョンだ。

ダンジョンに入れば短期間で金貨数千枚を手に入れることも可能だ。

ある程度稼いだら、十分稼げたと冒険者を辞めるのがほとんどだ。

ダンジョンの攻略を夢見る冒険者もいるが、このダンジョンの難易度を知って直ぐに挫折する。

結果、誰もが情報をまとめず金を稼いで辞めていく。

もしくは、ダンジョンで命を失う。

アレンから届けられる情報は尋常じゃないほど価値が高い。

前回貰った、ビービーやスカーレット、クリムゾンの行動範囲、転移先などをまとめた情報には、ギルド全体が大騒ぎになった。

ないと思われていたSランクの階層ボスの移動経路や転移先の法則性が、実はあった。

こんなことS級ダンジョンに冒険者ギルドが立ち上がって以来だれも分からなかった。

調べようともしなかった。

調べる対価が冒険者自らの命ならだれも調べようとしない。

しかし、実は8割の確率で、時間帯によってSランクの階層ボスはどこにいるか特定が可能だった。

それに近い情報がこの2、3ヵ月どんどんもたらされるようになった。

もたらしたのは目の前の黒髪の少年だ。

黒髪の少年が魔獣を出す不思議な力があると、S級ダンジョンに入る冒険者からの報告を受けたのは半年ほど前の話だ。

不思議なのは力だけではなかった。

どうやって調べているのかも大事だが、目的が分からない。

それだけは聞くように担当者に言うが、毎回はぐらかされているので支部長自らが対応しようと今日に至ったのだ。

「このS級ダンジョンでは、毎年5割の冒険者が亡くなると聞いています。最も大きな要因はSランクの階層ボスとデスゾーンですよね」

「そうだ」

最も多い死亡要因の話をする。

Sランクの階層ボスは逃げ切れないと死ぬ。

デスゾーンは無限に湧く魔獣から逃げつつ、デスゾーンから脱出するためのキューブ状の物体にたどり着けないと死ぬ。

特にデスゾーンは脱出できずに死亡するため、失踪から一定期間経つと死亡したと冒険者ギルドが認定する決まりとなっている。

「ヘルミオスさんは、どうにかこの状況を1割以下にしたいと言っています」

「1割以下だと。は? 何故?」

「目的の話はしました」

何故情報を提供するのか聞かれたので答えたとアレンは言う。

「……」

それが表層的な目的であることは支部長も分かる。

その真の理由が知りたいとアレンの顔を覗き込む。

「あと2ヵ月ほど待ってほしいとヘルミオスさんは言っていました」

(年明けには転職について神託があるからな。それで理由を察してくれ)

アレンは魔王軍に神器を奪われた話を聞いて、ローゼンヘイムなどに武器や防具の確保に協力を求めるなど色々なことをしている。

しかし、それだけではない。

魔王軍と戦ってくれる者達がどうしても必要だ。

そして、戦う者には最上級の武器や防具が必要だ。

才能がある者にはぜひ転職してさらなる力を手にしてほしい。

それがS級ダンジョンにも通えるほどの猛者なら、なおのことだ。

しかし、現状はバタバタと冒険者が死んでいる。

元々5割も死ぬと聞いて、少しは改善できないかと調べられる範囲で調べて情報は提供するつもりであったが、全力で情報提供に力を注ぐことにした。

武器や防具が暴落しようが構わず、宝箱の位置などの情報を積極的に提供している。

火の神フレイヤが力を失い武器や防具が作れなくなる。

それなら、少しでも多くのダンジョン産の武器や防具が冒険者や兵の手に行きわたるようにする必要がある。

情報提供の対価は人類の存続だとアレンは考えている。

昨日の今日でデスゾーンについてまとめ上げたお陰でとても眠い。

仲間たちにも資料作りを手伝ってもらっているが、地図なんかは魔導書を使ってアレンが作った方が早いため、どうしてもアレンに負荷が集中する。

ダンジョンの日程を3日半から3日にしたのもそれが理由だ。

疲労困ぱいだが、それでもやらないといけない。

冒険者が死なずに年が明けたら、転職できることを知り、そして、さらなる力を手にするかもしれない。

それは魔王軍と戦う力になる。

今を生きてほしいとアレンは冒険者ギルドに情報を提供し続けている。

「2ヵ月だと。2ヵ月後に何かがあるのか」

「はい。2ヵ月後、それを聞くと納得していただけるらしいです」

アレンは、今はこれだけで納得してほしいとポポッカ支部長を真っ直ぐ見つめる。

流石に、世界的な組織の冒険者ギルドに対して神託前に、神託内容を話すと今後の活動に支障が出る可能性がある。

「分かったよ。情報ありがとうな」

やっているのはヘルミオスではなく、アレンであるのはなんとなく分かった。

しかし、理由は分からないが、悪いことではないことくらい長年冒険者を見てきたから分かると支部長は思う。

アレンの瞳に邪念がないことが分かっただけでも今は良しとしようと、小さくため息を吐いた。

「では、また何かあれば提供します。ああ、情報は好きに使ってもらって構わないのですが、ダンジョンはダンジョンマスターの力でいくらでも変わりますので、それだけはご注意ください」

ダンジョンの情報の信頼性はダンジョンマスターディグラグニがいくらでも変えられるとアレンは考えている。

「そうだな、その辺りも注意を促すよう担当者に伝えておくよ」

「ありがとうございます。では」

ポポッカ支部長が、聞きたいことの全ては聞けず若干気落ちする中、アレンたちは席を立ちだす。

目の前の地図をもう一度ポポッカ支部長は見る。

よくできたデスゾーンの地図だ。

よく見たらより安全に脱走するための経路の案まで書かれてある。

どれだけの犠牲がこの1枚で無くなるのか想像する。

なぜ、こんなことを無償でしてくれるのか分からない。

「なんなんだよ。アレンって何者だよ」

ポポッカ支部長は出て行くアレンに対して、聞こえないほどの大きさで独り言を言った。

「ふふ」

今までアレンと支部長の会話を黙って聞いていたソフィーだが、ポポッカ支部長が見ると、微笑を浮かべている。

アレンは席を立ち、個室から出て行こうとしたが、ソフィーは席を立たずまだ座っていた。

「あん?」

何がおかしいのかと声を出してしまう。

「アレン様は先駆者ですよ」

「は?」

ソフィーは一言、アレンが何者か断言する。

「どうした? ソフィーもフォルマールも行くぞ。クレナたちが待っている」

「はい。アレン様」

そう言って、何のことだと固まるポポッカ支部長を置き去りにするように、ソフィーは立ち上がりアレンのところに向かう。

そして、アレンの話で聞いた先駆者がどれだけ素晴らしい者なのか誇りに思うソフィーであった。