軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第221話 謁見③

フィラメール長老は宰相にお願いがあると言った。

「願いとは何だ? 我らにローゼンヘイムの力になれる物があるとは思えないが」

大国ローゼンヘイムの願いに若干の警戒を宰相は示す。

「ローゼンヘイムは魔王軍の侵攻を受け、たくさんの要塞を落とされ、街々も破壊された」

「う、うむ」

フィラメール長老の話に、宰相は重たい話なのかとさらに身構えてしまう。

(フォルテニアも破壊されたしな。魔王軍マジ許さん)

「我らは強い意志で魔王軍とは戦っていくつもりじゃ。女王陛下も、王位継承権を持つソフィアローネ王女殿下に、ローゼンヘイムから離れ力をつけるようにおっしゃった。この意味を分かっていただきたい」

「そ、それは、つまり」

宰相はソフィーの肩に乗る精霊神を見てしまう。

ローゼンヘイムに王位継承権を持つ王族は何人かいることを宰相は知っている。

しかし、肩に精霊神を乗せている王族は何人いるのだろう。

フィラメール長老は全てを言い切らなかったが、次期女王は神を肩に乗せた王女で決まりではないのかという話だ。

「これはローゼンヘイムの未来に関わることである故、察してほしいのじゃ。そしてそのソフィアローネ王女殿下が力をつけるためバウキス帝国のS級ダンジョンを攻略したいと考えておる」

「な!? 試練の塔! ヤンパーニの神殿を攻略するということか!! あの勇者ヘルミオス殿が行ったように」

バウキス帝国にS級ダンジョンがあるという話を宰相は知っている。

「しかり、そのソフィアローネ王女殿下とアレン殿は当然として、今回ラターシュ王国から送っていただいた王女殿下の仲間達も一緒に向かわせてほしいのじゃ」

クレナやセシルが、学園でもアレンと一緒に活動をしてきたことを国王は知っている。だから全員ローゼンヘイムに送ったともいえる。

全員がバウキス帝国に向かうことを許可してほしいとフィラメール長老は言う。

なぜなら、入国許可証の発行はそれぞれの国で行うため、ソフィーと参謀になったアレンは、ローゼンヘイムでも入国許可証の発行手続きができるが、それ以外のクレナ達まで発行することはできない。

「な、なるほど。それはいつからという話になるのだ? まだソフィアローネ王女殿下は学園があるかと思うが?」

「学園については既に卒業の手続きを済ませておる。これ以上学ぶものはないのでの。出来るだけ早くといったところじゃの」

そこまで言ったところで、謁見の間に沈黙が生まれる。

宰相が即答できなかったからだ。

今の話が本当なら剣聖であるクレナもS級ダンジョンに行かせることになる。

何かあれば、王国から剣聖が1人いなくなるかもしれない。

宰相は答えを求め、国王を見つめる。

国王は難しい顔で思案を始める。

(おいおい、さっさと許可をしろ。俺もろとも滅びそうなローゼンヘイムに送ったくせに)

何を悩むことがあるとアレンは思う。

「フィラメール長老よ。剣聖は我が国にとっても貴重な存在だ。試練の塔は多くの英傑達の血を啜って来たと余も聞いている。勇者ヘルミオスであっても試練の塔を完全に攻略していないとも聞いている。我らも剣聖を失いたくはないのだが、もし断ればどうするのだ?」

ここに来て初めて国王がフィラメール長老に話しかける。

(そうだな。どや顔で勇者は魔力回復リングはディグラグニでは作れないって言ってたが、ダンジョンを攻略しきれているわけじゃないからな)

ローゼンヘイムで勇者ヘルミオスにアレンは聞いたが、ヘルミオスもS級ダンジョンは攻略の途中であると言っていた。

「協力いただけなかったということで、残念ながら国交の話は無しと女王に申し伝えねばなりませんのじゃ」

国王に断ったらどうするかと問われ、フィラメール長老は想定していた回答を即答する。

「そうか、やはり。分かった。この機会を失うわけにはいかぬな。ここにいる全員がバウキス帝国に行くことを許可しよう」

(国王感出したかったのか?)

入国許可証の手続きに少し時間がかかるが許可をしてくれると言う。

「国王陛下ありがとうございます。これで安心してヤンパーニの神殿に挑戦できます」

ソフィーがお礼を言う。

しばしの沈黙が、ローゼンヘイムからやって来た3人がこれ以上の用件がないことを示す。

「うむ。夜は舞踏会を開く故、ぜひ我が国の者達と仲良くしてやってほしい。よくラターシュ王国にやって来てくれたな」

話はもうないのかと国王が締めの挨拶をし、その言葉が合図だったようだ、貴族たちは拍手をしソフィー達に歓迎の意を示した。

「では、これをもって国王陛下との謁見を終了する」

「な!? ちょっと待て!!」

「おい、キール」

宰相が謁見を終了しようとしたので、慌てたキールが遮ぎってしまった。

それを横にいるアレンがさらに遮る。

(ほう、キールに対する褒美の話はないと。だったら遠慮する必要はないな)

アレンはキールに視線で俺が話をすると合図を送り、キールはアレンの強い視線に頷いてしまう。

「ぬ、どうしたのだ? ここは国王陛下との謁見の場である」

子供が騒ぐんじゃないと宰相が窘める。

「いえ、申し訳ありません。先王との約束の話がこの場でされませんでしたので、口に出してしまいました」

そう言うとアレンが当たり前のように、この場で一番国王に近い位置で立っているソフィーに寄り、さらに前に歩みを進める。

国王はもちろんのこと、そばにいる近衛騎士団長、その背後にいる近衛騎士達に緊張が走る。貴族たちも黒目黒髪をしたアレンに視線を集中させる。

「先王との約束であると?」

宰相も緊張しながらもアレンに受け答えをする。この緊張感の強さからアレンにどれだけ畏怖しているのかが分かる。

少なくとも国王も宰相も近衛騎士団も、アレンのことは学園武術大会で勇者ヘルミオスと戦った頃から知っている。

「はい、お取り潰しにあったカルネル家の復興の約束についてでございます。なんでも、戦果を上げれば、カルネル家を復興させていただけるとか? 宰相殿もご存じの話かと」

お取り潰しにあったカルネル家はキールの働きによる復興を先王に約束されている。

これは口約束ではなく、しっかりとした書面により記録されている。

・5年間、王国もしくは5大陸同盟が指定する戦場で活躍すること

・相応の戦果を上げれば、期間の短縮を検討する

今回のキールの働きは相応の戦果に上がるのではという話だ。

「その話なら知っている。しかし、約束を検討するかどうかは国王陛下が決めることだ」

「ん? 検討しないと言うことは先王との約束を反故にすることになるのでは? 宰相殿」

そもそも検討しないと言う選択肢はないとアレンは断言する。

「宰相殿だと? さっきから何だその口の利き方は。我はラターシュ王国の宰相であるぞ。学園ではどのような教育を受けてきたのか」

「私はローゼンヘイムの参謀として話をしております」

「な!?」

「先ほど、うちのルキドラール大将軍から説明があったはずでは? 私の一存で今後、魔王軍との戦いにおけるエルフの部隊による助力もエルフの霊薬の支援も途絶える可能性があるということをお判りいただけませんでしたか?」

(思った以上の立場を与えてきたなと思ったが、こういう話をするのには便利だな)

「そ、そのようなことができるはずは……」

そう言いながも、宰相はアレンの後ろにいるソフィー達を見る。

誰もアレンの言葉を正す者はいない。

「宰相殿、もしキールさんの働きに疑問があるのであれば、書面も用意したので受け取っていただけますか?」

アレンと宰相の緊張状態に割って入るように、ソフィーがキールの働きの証拠があると言う。

後ろから2名のエルフが、丸めた羊皮紙を何本も重ねた盆を持って前に進む。

「こ、これは?」

「戦場で活躍したキールさんの記録でございます。キールさんの御家復興の助力になるだろうと記録を残しておきました」

(いや、マジで作るの苦労したし)

アレンがあった方がいいんじゃと言って作り始めたキールの活躍記録だ。ローゼンヘイムから学園に戻る途中、学園都市のホテルでアレンたちが皆で協力して作った盛りに盛ったキール英雄譚となった。話の内容の9割は創作だが、ローゼンヘイムの女王が持つ、公的な文章に使う王印も拝借して押してある。

王位継承権を持つ王女のソフィーまでキールの活躍を評価し、先王との約束を守るように宰相に促す。

アレン達やソフィー、ルキドラール大将軍、フィラメール長老全員の視線が宰相に行く中、宰相はたまらず国王を見る。

「ふむ、それほどの働きか。この後検討する予定であったが、ローゼンヘイムからやって来た客人の前で王国内の話をすることもどうかと思ったのだがな」

(おい、嘘つけ。このまま終わらせようとしてただろ)

「では、キールさんは御家再興に見合った働きになると言うことですね」

アレンに代わりソフィーが話を進める。

「キールよ。前に出よ」

「は、はい」

国王が前に出ろと言うので、アレンと違ってキールは緊張しながら、アレンと同じくらいまで前に出る。

「キールよ。戦果を上げたことをラターシュ王国の友好国であるローゼンヘイムが証明すると言うのであれば、それは事実なのだろう」

国王がローゼンヘイムは友好国であると念を押す。

「はい」

「お前の父であるカルネル卿のしたことは許されるものではない。王家は厳しく対応せざるを得ない。これをそのまま子爵家に戻し、領土の全てを戻すことは他の貴族に示しがつかぬ。それは分かってくれるな」

「はい」

「故に、領土は元の半分、爵位は男爵からだ。それで良いな?」

(なるほど、この辺が落としどころか)

「良かったな。キール。お陰で領土もちの貴族に戻れるみたいだぞ」

アレンが反対しないことを示すためにキールに話しかける。

「ああ、みんなありがとう」

こんなことをしていいのかと思いながらもキール英雄譚をワイワイ言いながら作ったことをキールも思い出す。

「あとで、半分はどの部分を貰えるのか聞いておかないとな」

「ん? 当然、カルネル家はこの数百年、白竜山脈を管理してきた。当然白竜山脈から半分の領土だ。カルネル領の領都もその半分に入るから安心するがよい」

国王がアレンの疑問に答える。

白竜がいるが頑張って管理してくれと言うことだろう。

(ほう、白竜山脈側から半分なのか)

アレンがそれを聞いて悪い顔をする。

「キール、白竜がいて大変かもしれないが、ここは折角の国王陛下の恩情だぞ」

「国王陛下、先王の約束を守っていただきありがとうございます」

キールは男爵になり、元あった領土の半分を国王からいただく形になった。

最後にキールが国王に深く礼をして謁見は終わったのであった。