軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第213話 おかわり

ヘルミオスはどうやら、中空から湧くように出てきたピエロの格好をした男を知っていたようだ。

このピエロの仮面をつけた男は上位魔神キュベルという名前らしい。

(おいおい、上位魔神が出てきたぞ)

『これはこれは勇者ヘルミオス様、お久し振りでございます。なんつって』

そう言って、まるで道化師のようなふざけたしぐさで頭を下げ、礼をする。

しかし、そんな軽い態度の上位魔神キュベルに対して、ヘルミオスは過去に見たことがないほどきつい目つきで睨みつけている。

「何をしに来た」

そして、普段のヘルミオスでは考えられないほどの低い声でここにいる理由を問う。

『大丈夫だって。精霊神もいるこの状況で、戦ったりしないよ。この前だって君は生かしておいたでしょ?』

「き、貴様!!」

ヘルミオスの剣の柄を持つ手に力が入っていく。

『それで何をしに来たのかな? 事と場合によってはってこともあるからね。はは』

ライオンのような姿に変わった精霊神ローゼンが、ヘルミオスとの会話の間に入って上位魔神キュベルに問う。

(お! 精霊神さま~ 。やったれやったれ)

アレンは精霊神の威を借りることにする。

『だから、さっきも言ったじゃない。魔王軍の幹部として、今回敗北した理由を調べているだけ。本当にそれだけ! 僕も精霊神と戦うと骨が折れそうだからね』

『ふ~ん? 骨だけで済むか試してみてもいいよ。はは』

そう言うと、ライオンの姿をした精霊神が牙をむき狂暴な顔つきとなり、上位魔神キュベルを挑発する。

(上位魔神で魔王軍の幹部か。とうとう魔王軍の幹部まで出てきたか。っていうことはレーゼルは幹部ですらないと?)

アレンは魔王軍の組織について考える。

あれだけぎりぎりの状態で奇跡的に倒せた魔神レーゼルが、幹部ですらないなどありえるのかと考える。

『こわいこわい。それにしてもレーゼルは素質有ったんだけどな。やられちゃったの残念だな。捨てる捨てると言って結局は一番大事なものは捨てきらなかったんだよね』

灰の山となり、少しずつ風で飛んで消えていく魔神レーゼルを見て残念に思っているようだ。しかし、仮面をつけていて表情は見えないが、壊れたおもちゃを見るようで、慈愛のようなものは一切感じない。

「「「……」」」

アレンの仲間達はいきなり現れた、ヘルミオスが上位魔神と呼ぶ者を全力で警戒する。

そんなアレン達の攻撃体勢をお構いなしに視線を、魔神レーゼルの灰に向けている。

(強者の余裕ってやつか。お、こっちを見た)

『それで、この中にアレン君がいます。手を挙げてくださーい』

「「「……」」」

『あれれ~。怖がらないで出てきてくださーい。一歩前に出てみよう!』

アレンも含めて誰も名乗らない。

上位魔神キュベルはおかしいなと、ここにいる全員に視線を移していく。

(道化師か? ピエロか? ふむ仕方ない)

「……アレンはいません」

皆が沈黙する中、アレンが悲痛な表情で言葉を発する。

『え?』

上位魔神キュベルはアレンに視線を移し、固まってしまう。

アレンの仲間達はなんとなく何かが始まったことを分かっているので、「え?」と言いたい気持ちを我慢している。

「ここを見てください。アレンは僕らのために、自らを犠牲にして魔神を倒してくれました……。もう影も形もありません」

この巨大な凹みは自らを犠牲にして魔神と死闘を行った痕跡だとアレンは言う。

まるですべてを失った少年のような口調だ。

『え? 嘘? アレンは粉みじんになって死んじゃったの?』

「はい。……魔神は強すぎました。もう希望はありません。これで満足ですか?」

(お? いけるか? アレンのことは忘れてくれ)

『なわけないだろ! お前がアレンだろ。黒髪はてめえしかいねえし! アレン、てめえのせいで作戦を立案した僕の身まで危ないんだよ!!』

両手を天に上げ地団駄を踏みながら、上位魔神キュベルが全力でツッコミを入れる。

(無理だったか。ていうかこいつが今回の侵攻を計画した奴か)

容姿を知っているならわざわざ聞くなよと思いながらも、上位魔神キュベルの魔王軍内での立ち位置を理解する。

「……」

アレンは、俺がアレンだからなんだと上位魔神キュベルを無言で見つめる。

『ふむふむ、だがまあいい。なるほど、アレン君はこんな感じか。この戦争は君のせいで敗北したみたいだからね。また、君を殺しに来る魔神もいるかもだけど、その時は遊んであげてね。今日は本当にそれだけなんだ。じゃあね~』

バイバイと手を振り、上位魔神キュベルは足元から透明になるように、ゆっくりと消えていった。

(人相がバレてしまったのか。まあ、仕方ない)

上位魔神キュベルがいなくなり、この場に沈黙が生まれる。

「アレン、どうするのよ?」

「え? そうだな。とりあえず、帰るか。戦況報告は済ませているけど直接報告はしておかないとな。ヘルミオスさんも帰りは一緒に帰りましょう」

アレンは霊Bの召喚獣を1体、ティアモの街に置いてきた。

魔神レーゼルを倒した知らせは女王並びに将軍達に伝えてある。

こうして、魔神レーゼルをアレン達は倒した。

魔神レーゼルを倒した知らせを受けた女王は、全ての街や避難場所にローゼンヘイムの勝利を伝えた。

2ヵ月以上に亘ったつらい戦争の日々は終わりを迎えた。

魔獣達の残党が僅かにいるのだが、エルフ軍の力で十分に掃討できるだろう。

そして、魔神討伐から3日ほど過ぎた日の朝、アレン達はティアモの街にある女王のいる建物の広間にいた。

女王からローゼンヘイムを代表してお礼が言いたいとのことだ。

(戦争では活躍しなかった長老達も何人かいるな)

女王と軍部の将軍ばかりであったが、内政を司る長老達も女王の間にいる。

ネストの街が襲われるということもあり、最長老を含め数名の長老をティアモの街に移動させた。

お陰で長老達は、アレン達やヘルミオスによる正式な戦勝報告に間に合った形だ。長老たちも政治的な意味を含めて参加している。

「まずは、ローゼンヘイムを代表してお礼を言います。本当にありがとうございました」

「いえ。まだ、やることはたくさんあるかと思いますが、最後までいられず申し訳ありません」

ヘルミオスもこの場にいるのだが、女王はアレンに話しかけるので、アレンが受け答えをする。

(即行で帰らねば)

アレンは女王に対してフォルテニアの現状を説明していない。

魔神はとても強く激戦であったとだけ伝えてある。

1日も早くローゼンヘイムを離れる必要がある。

「何を言いますか。魔獣だけでなく魔神まで倒し、エルフ達を世界樹の下に返していただいたお礼は必ずします」

「ああ、それですが。魔神については勇者ヘルミオスが倒しました。この点について、お忘れなきようにお願いします」

アレンは、ヘルミオスのお陰で魔神を倒せたんだよと伝える。

(実際、魔神の心臓の2つを潰した上に止めを刺したのは勇者だしな。残り1個はドゴラだけど)

その言葉に魔神を倒した功績はヘルミオスにあるということなのかと、将軍や長老達がざわざわする。

アレンは女王を見つめている。

既に、魔神討伐についてはヘルミオスに全面的な功績があることにするよう話をつけてある。

(まあ、魔王軍側には俺のことがバレたかもしれないが、こっちの人間世界では有名になっても得るものは少ないしな。魔神を倒せたのは奇跡のようなものだし)

英雄と持て囃されてはたまらないとアレンは考えている。

それで、不自由になりS級ダンジョンに行けなくなれば困るのはアレン達だ。

魔神は強かった。奇跡的に勝てたと言っていいだろう。

そして、上位魔神には勝てる気がしない。

やるべきことはたくさんあることをローゼンヘイムにやって来て知った。

課題も見つかった。今大事なことは自由に動き回れることだ。地位や名誉では決してない。

そんなアレンを見て女王は、「もう人間世界にもずいぶんあなたの名前は知れ渡ったわよ」と困った顔でアレンを見つめ返す。

『アレン君らしいね。はは』

そういうとソフィーの肩の上からフワフワと精霊神がエルフの女王の膝の上に移動する。精霊神は、エルフの女王だけでなく、ソフィーの肩の上にいることが多かったような気がする。

精霊神はどうやら、精霊王であったころのモモンガと、精霊神になったときのライオンの2つの姿でいられるようだ。上位魔神がいなくなってからはモモンガ状態のままソフィーの肩に乗っていた。

「いえいえ、私は精霊神様と戦争中に交わしたお約束である、全員を星4つにして頂けるという、この上ない褒美を頂ける予定でございます」

地位も名声もいらないよと言う。

『なんか既成事実を作ろうとしているね。まあ、僕のかわいいエルフ達を救ってくれたし、別にいいけど。はは』

精霊神は星4つまで上げるといってはいない。

あくまでも星は4つが上限、星1つずつしか上げないとしか言っていない。

しかし、アレンの星4つまで上げるという言葉に駄目だと断りはしないようだ。

(うしうし、後はもう1つだ。これも断らないでくれよな)

アレンはもう1つ精霊神にする話がある。

「ありがとうございます。それと、私は『目の前の少年が自らの行いを何度も僕から肩代わりしてくれた』と精霊神様がおっしゃっていたことが頭を離れません」

「え?」

『はは? それはどういうことかな?』

「いえ、大した話ではありません。私は精霊神様の神化へのお手伝いのお礼が何なのか楽しみで仕方ないのです」

そこまで言って、みんなにも何が言いたいのか分かったようだ。

アレンはここにきて精霊神と約束していた、全員を星4つまでの転職以外に、お礼の「おかわり」を要求したのであった。