軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「「「「かんぱーい!」」」」

良いところ丸っきりナシのドラゴン戦、そしてあまり楽しめなかった宴から明けて二日。我々は盛大な見送りを受けて、拠点のアルテンハイムに戻ってきた。

そして今は打ち上げ第二段こと、内祝いの最中だ。

ところは街の冒険者御用達の――というよりも、物騒な物をぶら下げて入っても文句を言われない限定的な店――酒場。その中でも一等上等とされる〝金鬣の雄獅子亭〟であり、この界隈では最も美味い酒を出すことで有名だ。

飽食の列島で育った、この私でさえ時に唸る物を出すほどに。

どうにも店主が列島の技術贔屓らしくて、エールのサーバーを導入し冷やして飲む文化を受け容れ、街ではここだけ、霜が降りたマグジョッキに泡を浮かべる、キンッキンに冷えたのがやれるのだ。

ここが常連になったのは、拙い翻訳AIが冷えたエールを好きなことを伝えた結果、リズが方々を飲み歩いて見つけて来てくれたからだ。

まぁ、その放蕩の結果、金がなくなったので貸してくれと頼まれ、結構な銀貨を渡してやるハメになったのは――尚、帰ってくる確率は、今のところ四割くらいだ――冷たいマグに免じて許してやろう。

錫製の酒杯を打ち合わせて琥珀色の表面を波打たせる。この店のエールはじっくり上面発酵させた上物であり、ちゃんとした酒蔵が拘って作ったからか麦殻が浮かんでいるなんてことはなく、喉越しが良いため冷えた方が一気にやった時の心地が良い。

強いて言うなら、米酒党の私には些か酒精が弱くて、幾ら飲んでも酔えないところだが難点なのだが。

「今回は皆、すごい活躍でした。誇りに思います」

「それより、早く、飲みましょう。沢山飲みます」

「……私は、お酒はこの辺で。店主、ジュースを、くだものの」

難しい顔をしていることが多いアゼリアも、この時ばっかりは微笑みを湛え、リズはリーダーの奢りだからと遠慮なく一息で欲し、酒の味があまり好きではないらしいリリムは口元を拭ってからレモン水に切り替えた。

私も一気に飲み干してからお代わりを頼みつつ――電子音で喋る板切れにも、ここの店員は慣れてくれたようで怪訝な顔をされなくなったものだ――アテをつまむ。

安酒場のお約束とも言える塩漬けにし過ぎたような肉はどこにもなく、朝に絞めたばかりの鳥の丸焼きや、よく浸かったキャベツの塩漬け、それにトロットロに煮込まれた豚のすね肉。この店名物の腸詰めをたっぷり入れたレンズ豆とトマトの煮物も絶品で、酒と飯がよく進む。

基本的に探索者は命の洗濯とばかりに、打ち上げでは良い物を山のように食うからな。それを分かっている店だけあって、平民が使う旅籠のように、一食一品を座った瞬間に出すような真似はしないのだ。

とはいえ、それに見合った金額を要求される。

そこで、細やかなりし良心が嘯くのだ。

お前はこの贅沢な食事と、勝利の美酒に預かる権利があるのかと。

いや、私は私でやれる限りの最善を尽くしたはずだ。仲間がトラップに引っかかるようなことはなかったし、ダンジョン内で見つけた〝探索者を狩る罠の一つである〟宝箱だって損害ナシで全て開けた。

異形小人などの倒せる敵は五十以上は始末したし、食料運搬に夜警も買って出た。

私の役割をスカウトやローグだとすれば、しっかりした仕事をしたと胸を張っても良いだろう。

ただ、心の中の未だ男の子である部分が、ドラゴン退治という大一番で何一つ活躍できていなかったのが、微妙な気分にさせてくるのだ。

「表情がよくありません。もっと楽しく飲みましょう」

豚のすね肉をフォークとナイフで切り分けていると、リズが絡んできた。ぐっと酒杯を押しつけてくるので唇をそっとよせて、私も彼女の口元にマグを運ぶ。それから互いに傾けて、一気に飲む、この辺りにおける探索者流の友好を示すやり方で同時に飲み終えた。

このやり方には、相手と自分のペースを知り合っていなければいけない。故に信頼関係が成り立つ相手でしか上手く行かないため、友情の証として成立するのだ。

「最高です。もう一杯、いきましょう」

「飲みすぎると、また倒れるぞ」

ふぅ、落ち着けよ私。行き過ぎた英雄願望は身を滅ぼすぞ。

元はただの特殊コマンド、今は補助金狙いの泡沫PMCに何とか引っかかったオペレーター風情だ。どちらかといえば対怪異戦闘より、対人戦闘や破壊工作技術を鍛えた人間が、ここまで上位の冒険者にくっつけていられているのだ。むしろ十分な方だろ。

それに餅は餅屋というもの。あんまりグチグチ悩んだところで酒が不味くなるばかり。

「これくらいで潰れません。もう一回。もう一回」

「あのなぁ……お前の反吐を片付けるのはもう御免なんだがね」

これくらいで吐きません! と気炎を上げるリズと、もう一度腕を重ねてつつ酒を飲ませあった直後、扉が開いた。

職業病か、新しく入室した者には自然と目が行ってしまう。

何度か荒事に巻き込まれた経験もあって、手は無意識に腰元の海兵隊時代からの愛銃にいき――生身向けの45ACPなんて、お守り程度のものだが――脳が自然と酒精を振り払って冴え渡る。

おや、なんと珍しい。

やって来たのは、七人連れの列島人であったのだ。

ピクセルパターンのグレーカラー都市迷彩を着た姿は、何処かの企業が派遣した探索者なのだろう。見たことのない徽章――民間らしい、清らかな滝と紅葉の風雅なデザインだ――を肩に抱いており、被っているグリーンの略帽は私と同じ陸上自衛軍のお古だろう。

おうおう、先頭をいくイカツい旦那の記念賞も中々豪華だな。空挺、 特殊野戦(レンジャー) 、重戦車登場時間章に……げっ、流鏑馬章に金烏厚労章!? ガチモンのエースじゃねーか!!

「あれ? 同郷?」

元軍人の性として、ついうっかり胸元に並んでいる物はジロジロ見てしまう癖があるのだが、それを見抜かれて、列の最後尾にいた人物が声をかけてきた。

若い女性だ。まだ二十代頭ってところか。

良く焼けた褐色の肌に、目鼻立ちをぱっちりさせるアイラインが目立つラメたっぷりのメイク。戦場には似つかわしくないつけまつげなどで飾った顔は、正しくギャルという言葉を思い出させる。

華美な化粧で彩った顔のパーツは全体的に丸っこくて、愛嬌のある猫のような目。しかし、つけまで派手にデコった左目は、一目で分かるメカニカルさをした機械式義眼に置換されているではないか。

列島では一般的なサイバネ化の一つだが――私は後方浸透要因なので、メンテのため生身でいることを選んだ――お洒落として浸透している。

ただ、あれはキチンとした軍用、あるいは準軍事用だろう。造りからして O(オリンピア) M(メカニカル) システム製だろう。激しくシノギを削り合っている光学素子メーカーの中でも大手であり、堅実な造りで人気がある会社だ。

となると、青い右目はカラコンかな? 髪もご丁寧に金髪に染め上げており、インナーカラーは目映いネオンブルー。それを引っ詰めて簪で纏め上げた姿は、軍服よりも制服の方が似合いそうだ。実際、胸元をがばりと開けて、タンクトップで覆った豊かな双丘を見せ付けているし。

一応、同郷なので礼儀として頭をさげておいた。

「……どうもって、あれ?」

しかし、久し振りに肉声での母国語語を聞いたな。しかも若い女性ともなると何年ぶりだろう。

「おやおや? 元自衛軍? リーマンの匂いがしないや」

普通はちょっとしたやりとりで終わるはずだったが、ギャルが身を乗り出して話題が膨らんだ。

彼女は、私が惰性で野戦服に付けていた略称に気が付いたのだ。

「えっ、 メンコ(徽章) の数凄くない!? 三日月に短剣……月下凪海章じゃん! 特野章(レンジャー) と 偵特(特別偵察員) に潜水技能章と 選抜射手特技(マークスマン) 章まで!? うっわ、しかも挺身銀翼章!? えー!? すっごー!!」

「……所属は?」

やけにフレンドリーな彼女は仲間に一言断ってこちらにやって来て――ウチの一党は、露骨に何だコイツという顔をしている――他の同郷人が被っているのとは違う帽子を脱ぐ。市街迷彩ではなく野戦迷彩のそれに私は酷く覚えがあった。

彼女の胸にあるのは、私と同じ特殊野戦技能章と潜水技能士資格、敵中単独活動技能章、それから……すげぇ女だてらに格闘徽章まで持ってるし、私と同じ選抜射手特技章まである。

つまり、これが意味することはだ……。

「海兵隊!」

その懐かしき、誉れ高き名を聞いて、私は思わず椅子を蹴立てる勢いで立ち上がっていた。

踵を打ち合わせ、棒を呑んだように姿勢はよく。そして、掌を軽く表向きにした陸式の敬礼は、軍から離れて六年以上経っていても完全に体へと染みついていた。

「私もだ! センパーファイ(常に忠誠を) !!」

やっぱり! あれは我が古巣、陸上自衛軍海兵隊の帽子じゃないか!

「えー!? マジ奇遇! センパーファイ!! どこ連隊? 何中!?」

返ってきたのは見た目と喋り口の軽さに反した、教本に載せても恥じぬだろう答礼。完全な陸さんのそれと違って、艦艇内を彷徨くことが多いため、肘を若干畳み気味にする所作も私と同じであった。

「第一連隊A中隊!」

自衛軍の海兵隊は一個師団、時勢によっては二個師団まで増強されるが、現在は一個師団と、離島直援用の二個連隊が編制されているはずだ。私はその中でも南方の重要海警拠点に配備される第一連隊の所属だった。

「えぇー!? マジでぇ!? ウチB中隊201 強行偵察小隊(フォース・リーコン) !」

「兵科も同じか!? 私は101小隊だ!」

何と、兵科まで同じかとは。強行偵察小隊の仕事は、私が今やっているのと大体同じことだが、必要とあれば敵奥地まで水際から密かに上陸し、連絡線や補給路を寸断することも含まれている。それをサイバネ化と外骨格の助けがあるとはいえ、女性の身で熟すとは凄まじいな。

「シングルナンバー!? 超エリートじゃん! 凄い凄い! 奇跡じゃーん! 階級は!?」

「一等陸曹! 今は予備役だけど!」

「おっとぉ!」

元の階級を言うと彼女は再び踵を合わせて、海兵隊式の敬礼をとった。何度見ても外見のギャルっぽさに似合わぬ美事な礼だ。

「陸曹殿、失礼いたしました! 小官は亘理・ありあ予備役陸士長であります!」

「私は有明・江月予備役一等陸曹だ。予備役同士、階級抜きでいこう」

敢えて答礼ではなく握手の手を差し出すと、彼女は嬉しそうに応えたのち、携帯端末を取りだした。

「やったー、海兵隊員に会えるの超久し振り! ウチの会社、陸でも普通科と機甲科メインだからぜんっぜん話合わなくて! 一等陸曹、フレコ交換してくださいよ!」

「江月で構わない、亘理陸士長」

「じゃあウチもありあでいいですよ江月パイセン!」

いやほんと奇遇だな! 私は喜んで端末を差し出して触れあわせると、自動でフレンドコードが交換された。

これで、衛星圏内ならいつでも通話やショートメッセージのやり取りができるようになった。

コッチに来てから、初めて同郷の友人ができたのではなかろうか。

「西方に派遣されて二年になるけど、同郷と合うのは久し振りだよ」

「えー! パイセンこっち長いんすか!? 自分、初の海外派遣っすよ! 今度美味しい所とか教えてくださいよ!!」

「ああ、いいぞ! 列島料理を出す秘蔵の店だって紹介してやる!」

マジでー!? と喜ぶ彼女の肩に、怖ろしく分厚い掌が添えられた。

あの豪華絢爛極まる徽章の持ち主だ。

経歴も然ることながら、お顔のおっかなさも半端ねぇ。こりゃ跳ねっ返りの新兵も、ひとにらみされただけで姿勢を正すだろうな。

「騒がせて失礼した、予備役一等陸曹」

「はっ、いいえ!! とんでもございません!!」

「亘理、いつまでも余所様の卓を騒がせるな」

「あっ、さーせん部長。じゃ、また、江月パイセン!」

またなーと掌を振って、ほっこりした気分で振り返ると……背筋がゾッとした。

「え? 何?」

何か凄い目で見られている。

怒っているとか呆れているとかそういうのではなく、人生で目にしたことのない視線だ。

ジットリとした半眼で、私の心を見透かそうとしているかのような……。

オフにしていた翻訳AIを再起動して問うても、アゼリアは何も言わず酒杯をグッと煽り、流し目で別の卓に向かっていくありあを眺めていた。

据わった目をしてマグの縁を撫で、つまらなそうに頬杖を突いているリズは初めて見る表情で、何を考えているのか分からない。

そしてリリムは、こちらを色のない顔でじぃっと見ている。いつもの顔ではあるのだが、虹彩が薄ら蒼い光を帯びているのは霊力が昂ぶっている時のソレと同じだ。

え? 私なんかした? いや、そりゃ身内で飲んでる時にたまたま出会った人と盛り上がったら微妙な空気になることもあるだろうけど、ここまで空気が冷えることってある?

私がどうしたらいいか分からず困惑していると、三人の目線が交錯し、何か女性にだけ分かる意思疎通をしたのだろう。

リズがまたグッと肩を組んできたのだが、妙に力が強い。さっき、友好のために組み合った時と比べて三割増しといったところか。

普段着のツナギが少し悲鳴を上げる勢いで掴まれて、そのままずいっと顔が近づいてくる。睫の長さまで分かるような間近に接近されると、自分より年上で大酒飲みのくせに限度が分かっておらず、都度都度反吐を掃除させられている相手だということを忘れそうになった。

くそ、この合法ロリ、やっぱ顔立ちが半端なくいいな……。

「楽しそうでしたね。誰ですか? ※酷いスラングにより平易に翻訳しております」

「いや、たまたま会った同郷人で……同じ海兵隊出身だったから盛り上がって……親しみやすかったというか……」

「同じ兵隊、それから、親しみですか・※酷いスラングにより平易に翻訳しております」

意味深長に呟いた彼女が何を考えているか分からないが、何となく机上に置いてしまった端末がポコンと通知音を立てて、画面を起動させた。

嫌に明るく映る画面には、何故か扇情的なビキニ姿のポートレートがアイコンになっているありあからの短文通信で「せんぱーふぁーい!」と叫んでいる、陸自のやたらケモナーに定評があるマスコット〝まもるにゃん〟のスタンプが送られていた。

どこで売ってるんだコレ、あとで私も買おう。

すぅーっと冷えた空気が漂って、その日、珍しく誰も酔い潰れることなく、静かに打ち上げは解散となった…………。