軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33.散歩のルートは、偶然(必然)に

夕暮れ時。

離れのリビングで、リリアナは内職に勤しんでいた。

魔石の欠片を組み合わせて、簡単な『魔導ライター』を作っている。

手元の作業は完璧だが、彼女の意識はそこにはなかった。

チラッ。

壁掛け時計を見る。

針は午後六時を回ろうとしている。

騎士団の定時退勤時間だ。

「ん~。そろそろ散歩でもいこっかなー」

リリアナはわざとらしく独りごちて、伸びをした。

「ほーら、ポチ~。散歩の時間よねー」

「ワフン(へいへい)」

ポチがのっそりと立ち上がる。

彼は察していた。

この時間の「散歩」が、どこへ向かうためのものなのかを。

「よし、行くわよ」

リリアナはリードもつけずに外へ出た。

そして、庭を数歩歩いたところで、ポチが(主人の意思を汲み取って)本邸の正門の方角へ歩き出した。

「あー、ポチ、おま、どこいくんだよー(棒読み)」

リリアナの声には、これっぽっちも感情がこもっていなかった。

「そっちは本邸のほうだぞー。困ったなー。引っ張られるー(手ぶら)」

彼女は自分の足で、しっかりと地面を踏みしめてポチの後をついていく。

誰がどう見ても、自分から進んで歩いている。

だが、これはあくまで「犬に連れて行かれた」というテイでなければならないのだ。

正門前。

ちょうど、一台の馬車が滑り込んできたところだった。

扉が開き、ジークフリートが降りてくる。

「ふぅ、今日も疲れたな……」

彼は肩を回し、ふと顔を上げた。

そして、目を見開いた。

「……リリー!?」

そこには、ちょうど散歩(?)に来ていたリリアナとポチの姿があった。

「あ」

リリアナは「げっ」という顔を作った。

「ただいまっ! リリー! まさか、出迎えてくれたのか!?」

ジークフリートが尻尾を振る幻覚が見えるほどの勢いで駆け寄ってくる。

「おかえりなさい」

リリアナはため息交じりに言った。

「はー、ポチがさー、はー、こっちに来ちゃうからさー」

彼女は大げさに肩をすくめた。

「散歩してたら、勝手にここに来ちゃったのよ。はー、困った犬だわー。出迎えたくもないのに、偶然、あくまで偶然、出迎えちゃったわー」

「そうか! ポチのおかげか!」

ジークフリートは満面の笑みだ。

彼とて馬鹿ではない。リリアナがその気になれば、ポチを指一本で制止できることくらい知っている。

つまり、これは彼女の意思だ。

「ありがとう! 疲れが吹き飛んだよ!」

「うるせ。ポチに言えよ」

リリアナはプイと顔を背けた。

「私はかーえる。散歩は終わり」

彼女はくるりと踵を返した。

その足取りは、来る時よりも少しだけ軽やかだった。

「待ってくれリリー! 私も行く!」

ジークフリートが隣に並ぶ。

「ご飯も、一緒に食べよう。君の顔を見ながら食べたいんだ」

「……勝手にすれば~」

リリアナは拒否しなかった。

並んで歩く二人(と一匹)。

夕日が二人の影を長く伸ばしている。

ふと、リリアナが足元を見ると。

ポチがこちらを見上げて、ニッと口角を上げていた。

そして、前足の親指(狼爪)を器用に立てて、

グッ。

とサムズアップしていた。

「……なによ」

「ワフッ(イイネ!)」

「グッ、じゃないわよ。……なんなのよ、もう」

リリアナは赤くなりかけた頬を隠すように、少しだけ歩く速度を上げた。

その背中を、ジークフリートとポチは温かい目で見守りながら追いかけた。