軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24.めんどくさいけど、作ってあげる

翌朝。

離れのリビングに入ると、床に何かが落ちていた。

ジークフリートだった。

彼はしゃがんだ状態からの、見事なフォームで土下座をしていた。

「頼むリリー! あの『布コンロ』を量産してくれ! 百枚……いや、五十枚でいいんだ!」

「やだ」

リリアナは即答し、ソファに座って本を開いた。ルナがすかさず紅茶を煎れ、ぽちが彼女の傍らに座りモフられスタンバイ。

優雅なリリアナのティータイム、しかしジークフリートは土下座した状態で、妨げる。

「お願いします! 一生のお願いだ!」

「あんたの一生、軽すぎない?」

リリアナは冷ややかな視線を向けた。

「めんどくさいのよ。それに、どうせ国に売りつけて金儲けしたいだけでしょ? 自分の私利私欲のために、私を内職扱いしないで」

「ぐっ……! そ、それは……」

ジークフリートは言葉を詰まらせた。

いつもの彼なら、「そこを愛の力で!」と食い下がってくるところだが、今日は違った。

「……そう、だな。すまない。無理を言った」

彼はのっそりと立ち上がると、肩を落として部屋を出ていった。

その背中は、妙に小さく見えた。

「……変ね」

リリアナは本を閉じた。

あの金とリリアナに執着する男が、あんなにあっさり引き下がるはずがない。

「ルナ。探ってきて」

「御意」

ルナの姿が影のように消えた。

数時間後。

ルナが戻ってきた。

「報告します。騎士団は三日後、北方山脈への遠征を控えているそうです」

「北方? あの極寒の?」

「はい。前回の遠征では、ブリザードによる気温低下と燃料不足で、多くの騎士が凍傷を負ったとか。旦那様は、部下たちが温かい食事と暖を取れるよう、携帯できる熱源を欲していたようです」

「……ふぅん」

リリアナは顎に手を当てた。

「なんだ。自分のためじゃないんじゃない」

金儲けでも、リリアナへの無茶振りでもなく、部下の命を守るためだった。

それならそうと、最初から言えばいいのに。

(ったくもう……はーあ、まったくもう)

「ルナ。厚手の布をあるだけ持ってきて。あと裁縫セットも」

「……主様」

ルナが不服そうに眉を寄せた。

「まさか、あの駄犬のために作って差し上げるおつもりですか?」

「違うわよ。騎士団が壊滅したら、私の平穏な生活も脅かされるでしょ? これは安全保障上の投資よ」

「……」

ルナは納得していない顔だった。

主様が慈悲深いのは素晴らしいことだが、その慈悲があの男に向けられることが生理的に受け入れがたい、という顔だ。

だが、主人の命令は絶対である。

ルナは渋々、布の山を持ってきた。

「あー、めんどくさ」

リリアナは布を広げ、指先に魔力を灯した。

「なんで私がこんな内職しなきゃなんないのよ。めんどくさ。あーめんどくさ」

口では文句を垂れ流しながらも、その手は神速で動いていた。

一枚あたり五秒。

魔法文字を刻み、魔力回路を定着させる。流れ作業のように次々と『布コンロ』が完成していく。

ポチがその様子をじっと見つめていた。

「わふん?(じゃあなんでやるんだ?)」

「……なによその目は」

リリアナは手を止めずにポチを睨んだ。

「私がやらないと、あのバカがまたうるさいからよ。あと、寒いところで冷たい飯を食うのは、可哀想だから。それだけ」

「ワフン(素直じゃないねぇ)」

ポチは呆れたようにあくびをした。

夕方。

ジークフリートが疲れ切った顔で戻ってきた。

遠征の準備と、代替案の熱源確保に奔走していたのだろう。

「ただいま、リリー……」

「ルナ、あれ渡して」

リリアナは本から目を離さずに言った。

ルナが無表情で、風呂敷包みをジークフリートに突き出した。

「はい。ゴミです」

「え?」

ジークフリートが風呂敷を開く。

中には、五十枚の『布コンロ』が詰め込まれていた。

「こ、これは……!?」

「暇つぶしに作ったわ。端切れが余ってて邪魔だったから、あげる」

ジークフリートの手が震えた。

彼は一枚を手に取り、そこに込められた精緻な魔法術式を見つめた。

ただの暇つぶしで作れるような代物ではない。

「リリーーーッ!! ありがとぉおおおお!!」

ジークフリートの目から涙が噴き出した。

「やはり君は女神だ! 私のために、こんなにたくさん……! 愛している! 一生ついていく!」

彼はリリアナに飛びつこうとしたが、ルナに足払いされて床に転がった。

「うるさい」

リリアナはページをめくりながら、冷たく言い放った。

「勘違いしないで。あんたのためじゃないから」

「えっ」

「部下の人たちが可哀想だからやっただけ。あんたが凍えようがどうでもいいけど、他の人が巻き添えになるのは寝覚めが悪いから」

「リリー……」

ジークフリートは床に這いつくばったまま、感涙にむせび泣いた。

「部下思いの妻を持って、私は幸せ者だぁあああ!!」

「あー、うるさ。……あと、遠征のお土産、期待してるから」

「ああ! 任せてくれ! 世界中の宝石と名産品を買ってくる!!」

「(……チョロ)」

リリアナは小さく息を吐いた。

めんどくさい仕事は終わった。

これでしばらくは静かになるだろうと、彼女は安堵の表情でココアを啜った。