軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22.冷たくしたから、ホットココア

風呂から上がり、ほかほかの体で脱衣所に出ると、そこにはうら寂しい光景が広がっていた。

脱衣所の隅で、バスタオル一枚のジークフリートが体育座りをしていたのだ。

唇が少し青い。

「……何してんのよ」

「リリーが出てくるのを待っていた……」

ジークフリートは捨てられた子犬のような目で見上げてきた。

「バカなの? 死ぬわよ?」

「リリーに拒絶されたショックで、寒さなど感じない……」

「ガタガタ震えてるじゃない」

リリアナは呆れて溜息をついた。

過去の所業とはいえ、この真冬の空の下、裸同然で放置したのは少しやりすぎたかもしれない。

ほんの少し、罪悪感がチクリと胸を刺した。

(ほんの少しね、ほんの少し)

「ほら、お湯はまだ温かいから。さっさと入ってきなさい」

「……いいのか?」

「許可するわよ。温まってきなさい」

「リリー!」

ジークフリートはパァッと顔を輝かせ、浴室へと飛び込んでいった。

リリアナはリビングへ戻ると、キッチンに立った。

冷蔵庫(魔道具)から牛乳を取り出し、棚からカカオ豆(取り寄せた)を取り出す。

「ちょっと悪いことしたしね。埋め合わせくらいは」

リリアナは指先で空中に文字を描く。

『粉砕』

カカオ豆が一瞬で微細なパウダー状になる。

それを鍋に入れた牛乳に混ぜ、再び文字を描く。

『加熱』

『混合』

『甘味』

ふわりと甘く濃厚な香りが立ち上った。

特製ホットココアの完成だ。

マグカップに注ぎ終えた、ちょうどその時。

バーン!!

リビングの扉が開き、ジークフリートが戻ってきた。

湯気が立っているが、あまりにも早すぎる。

「ただいま!」

「……早っ!?」

リリアナは目を丸くした。

入ってから一分も経っていない気がする。

「烏の行水かよ。ちゃんと洗ったの?」

「洗った! だが、リリーがいない広い風呂は、ただ寂しいだけだった……! だから速攻で上がってきた!」

「……あっそ」

どこまでもめんどくさい男だ。

リリアナは呆れつつも、手に持ったマグカップを差し出した。

「はい」

「ん? なんだこれは」

「ココア」

ジークフリートは不思議そうに茶色の液体を受け取った。

温かい湯気が、彼の冷えた顔を撫でる。

「……なぜ?」

「あんたが外で冷えてたから。温まると思って」

リリアナはプイと顔を背け、ボソッと言い足した。

「あと、私がちょっと『冷たく』しすぎたから。……そのお詫び」

「え?」

「だから! 体が『冷たい』からココア! 私が『冷たくした』からココア! ……って、なんかダジャレみたいになったけど! 違うし! 深い意味はないし!」

リリアナは一人で顔を赤くして早口でまくし立てた。

ジークフリートは数秒ぽかんとした後、愛おしそうに目を細めた。

「……ありがとう、リリー」

彼はマグカップに口をつけ、ゆっくりとココアを飲んだ。

「うん……甘い。すごく温かいよ」

「ならよかったわね」

リリアナはコタツに戻り、ごろんと横になった。

ジークフリートもその隣に座り、幸せそうにココアを啜っている。

「ワフン(やれやれ)」

その様子を見ていたポチが、呆れたように一つ鳴き、コタツの中に潜り込んだ。

外は寒いが、離れの中は甘い香りと温もりに満ちていた。