軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

嫉妬(コミックス1巻発売記念)

「とても美味しいよ、ありがとう」

「ふふ、良かったです」

私は今、執務室で仕事をしているゼイン様の元へ、手作りのお菓子を届けにきていた。

ゼイン様は一旦休憩し、お茶と共に焼きたてのクッキーを食べてくれている。

そんな中、彼の机へ目を向けると、そこには気が遠くなるほどの書類の山が積み上がっていた。

「それにしてもゼイン様、本当に大変そうですね。お忙しい時期はいつまで続くんですか?」

「これはいつも通りの量だ。少ない方かもしれない」

「えっ」

こんな量の仕事を普段から捌いてるなんて、どう考えても普通ではない。

とは言え、ゼイン様が無駄な仕事をしているはずがないし、これも全て必要なことなのだろう。迂闊に休めだとか仕事を減らせだなんて、言えるはずもない。

「私にもお手伝いできることはありませんか? その、あまり難しいことはできないんですが……」

少しでもゼイン様の負担を減らしたくて、食べ終わった頃合にそう声をかけてみる。

するとゼイン様は金色の切れ長の目を瞬いた後、ふっと口元を緩ませた。

「では、この領収書を整理してくれないだろうか。月単位に分けて日付順に並べてほしい」

「はい! お任せください」

「ありがとう」

それくらいなら私にもできそうだと、張り切って早速作業に取り掛かる。

「…………」

そうして作業を始めたけれど、お金の使い道を見るというのはなんというか日々の生活を覗いているようで、少しだけ落ち着かない気持ちになった。そんな仕事を私に任せてくれたことも、嬉しい。

ゼイン様は贅沢をせず、自分のためにお金を使ったりはほとんどしていないようだった。ゼイン様らしいと思いながら、手を動かしていく。

そんな中ふと、気になる領収書を見つけてしまった。

「……修繕費?」

それも、カジノで。何かを壊してしまったのか、貧乏性の私はお腹が痛くなってしまうくらい高額だった。

一体何を……とつい考え込んでいると、このカジノは確かランハートとの偽装浮気デートで行った場所だということにも気が付く。

そして日付を見た私の口からは「えっ?」と大きな戸惑いの声が漏れてしまう。

ゼイン様はペンを走らせていた手を止めると、こちらへ視線を向けた。

「どうかしたのか」

「あ、あの、これ……」

気まずい気持ちになりながら、あの日の日付が書かれた領収書を見せると、ゼイン様は表情ひとつ変えず、平然とした様子で「ああ」と呟く。

「カジノで君とランハート・ガードナーの浮気ごっこを目撃した後、気が付いたら壁に穴を開けていたんだ」

「…………」

「フリだと分かっていても、苛立ってしまって」

いつも通りの様子で語るゼイン様を前に、私は冷や汗が止まらない。確かにあの日、壁に大きな穴が空いていたのを帰り際に見た記憶もある。

私はてっきりカジノで負けてイライラした人によるものだと思っていたけれど、まさか自分が原因でゼイン様が空けたものだったなんて、想像すらしていなかった。

「す、すみません……本当に……」

いつも冷静で穏やかなゼイン様が、そんなことをするなんて……と思ったものの、先日のブレスレット破壊事件を思い出すと、妙に納得してしまう。

申し訳なさを感じて俯いていると、ふっと影が差す。

顔を上げるといつの間にか、私のすぐ側までゼイン様が来ていることに気が付いた。

ゼイン様は私の頬にそっと触れると、こちらへぐっと整いすぎた顔を近づける。

「俺は君のこととなると、余裕がなくなるんだ」

「…………っ」

「頼むからもう、俺を嫉妬させないでくれ」

私が慌ててこくこくと何度も頷けば、ゼイン様は満足げに唇で綺麗に弧を描く。

これからはもうゼイン様に嫉妬なんてさせないよう、細心の注意を払おうと固く誓ったのだった。