軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もう一度、ここから 5

「う、浮気現場に遭遇しても怒らなかったのは、最初からフリだと知っていたからですか?」

「ああ。それでも目の当たりにすると腹が立ったが」

「私がいくら逃げても、行き先がバレていたのは……」

「最初から行き先が分かっていたからだ。三度目の時にはアルフレッドだけでなく複数人を雇ったし、途中からは君が乗り換えそうな馬車を全て先に買収した」

「…………」

もう、本当にゼイン様に敵う気がしなかった。

これまでの私の努力は全部、ただの空回りでしかなかったのだ。お金も全て無駄だった。

そしてゼイン様は思っていた以上に、なんというか、私のことが好きだと思う。

「君の行動には全て理由があるはずだと思っていたし、食堂での姿を見て話を聞いたことで余計にそう考えたからこそ、あんな提案を受け入れたんだ」

ゼイン様がそこまで私を信じてくれていることに胸を打たれつつ、やはり納得もしていた。

『俺は君を見つけるのが得意だから』

『……君は、本当にすごいな』

『君の夢がこれからも上手くいくよう、祈っているよ』

初対面なのに一緒にいて居心地が良かったのは、ゼイン様だったからだということ、そして距離を置くという提案をすんなり受け入れてくれた理由についても。

「あと、他に聞きたいことは?」

「ええと……」

数えきれないくらいあるはずなのに、いざとなるとなかなか出てこない。

そうして悩み口籠もっていると、不意にゼイン様は私の顎に手を添えた。そしてそのまま彼の方を向かされ、顔と顔が一気に近づく。

「な、なにを……?」

「恋人同士が触れ合うのに、理由が必要か?」

余裕たっぷりな笑みを浮かべると、ゼイン様は私の頬に軽くキスを落とした。それだけで顔が熱くなり「ひゃっ」という声が漏れ、くすりと笑われる。

「かわいい。好きだよ」

あまりにも何もかもが甘くて、全身が火照っていく。

「ずっと君に会いたくて、触れたくて仕方なかった」

存在を確かめるみたいに頬や首、手に触れられる。

私はもう指先まで火照って落ち着かなくて、ゼイン様の顔を見れなくなっていた。

「そ、それにしたって前よりも近いし、いつものゼイン様らしくないというか……」

「君が好きだと言ってくれて、浮かれてるんだ」

そんな言葉が嬉しいと思うのと同時に、ぎゅっと胸が締め付けられる。

──これほど喜んでくれているゼイン様は私が突き放してしまっていた間、どれほど傷ついたのだろう。

もしも私が今、別れようと言われたり逃げられたりしたら、辛くて悲しくて立ち直れないかもしれない。

それでも私の気持ちを大切にしてくれていた彼が、改めて好きだと実感する。

これからはその分もたくさん気持ちを伝えていこうと思いながら、柔らかな銀髪をそっと撫でた。

「……本当に、すごくすごく好きです」

すると、金色の瞳が驚いたように見開かれる。

予想外の反応に戸惑いを覚えていると、ゼイン様は私の首筋に顔を埋め「ありがとう」「嬉しい」と呟いた。

いつも大人びているゼイン様らしくなくて、たった一言だけで大好きな人がこんなにも喜んでくれるのに、今まで伝えられなかったのが悔やまれた。

「これからは絶対に、逃げたりしませんから」

もう、終わりにするつもりだった。ゼイン様との追いかけっこも、『運命の騎士と聖なる乙女』という物語の舞台装置としての役割も。

これから先、私達にはまだまだ問題も山積みで、不安がないと言えば嘘になる。

それでも今は自分自身の幸せのために、もがいていこうという決意も勇気もあった。

「グレース」

「はい──んっ」

名前を呼ばれ顔を上げると、そのまま唇を塞がれる。

啄むような軽いキスが繰り返された後、大好きな体温と香りに包まれた。

「……本当に、幸せだ」

心からの言葉に視界が滲み、胸がいっぱいになる。

大好きなゼイン様に幸せになってほしいという一番の願いは、ずっと変わっていない。

この先どんな困難が待ち受けていたとしても、ゼイン様と一緒なら大丈夫だという自信だって、今はある。

「はい。私もです」

私の言葉に対し嬉しそうに微笑んだゼイン様が、何よりも大切で愛しいと思う。

再び近づいてくる彼の唇を受け入れながら、私はこれ以上ない幸せを噛み締めていた。