軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夢の在処 6

以前、アルに「友達と来てね」と声を掛けたところ「知り合いと行く」と返事をされたことを思い出す。

確かに年齢的にも私よりも年上のようだし、友達というカテゴリではなさそうだ。落ち着いた雰囲気を纏った美形の男性は身なりを見る限り、平民らしい。

とても背が高くてすらりとしていて、平民とは思えないほど品がある。

「こちらの席におかけください」

ひとまず席に座るよう勧め、メニューを手渡す。

腹減ったーと騒ぐアルの向かいで男性は物珍しげにメニューを眺めており、もしかすると外食はあまりしないタイプなのかもしれない。

「お前、すげえだらしない顔してるぞ」

「だって嬉しいんだもの」

いつもツンツンしているアルがこうして人を連れて本当に来てくれるなんてと、笑みがこぼれる。普段は憎まれ口ばかり叩いているというのに、とんだツンデレだ。

二人から注文を聞いたあと、私はじっと店内を見つめている男性に声をかけてみる。

「あの、アルとはどういう関係なんですか?」

「友人だ」

「は」

「まあ、アルにも友達がいたのね! 良かった!」

「そういうのやめろ! 俺が可哀想な奴みたいだろ」

ぷんすかしているアルにエヴァンが子ども用のおもちゃをそっと差し出したせいで、余計に怒ってしまった。

私はエヴァンとアルの微笑ましいじゃれ合いが、実は好きだったりする。美形同士なのがまた眩しい。

「アルに失礼なこととか言われていないですか? 私なんてこの間、絶対に男を見る目がない、真剣に身の振り方を考えた方がいい、なんて言われちゃって」

「……へえ? そんなことを言っていたのか」

「お、おい! お前、余計なことを言うな!」

やけに焦った様子のアルは「違うんです」と何故か男性に対して必死に弁解している。何かまずいことを言ってしまったのだろうか。

そうしているうちに、再びドアベルが鳴ったものの、誰かが入ってくる気配はない。

どうしたんだろうと少しだけ開いたドアの隙間から外を覗けば、そこには三人の子どもの姿があった。

「こんにちは、料理を食べに来てくれたの?」

笑顔でそう尋ねれば、子ども達は顔を見合わせた後、もじもじと少し躊躇いながら口を開く。

「……本当に、お金を払わなくても食べられるの?」

「ええ、もちろん! デザートでも何でもどうぞ」

私の言葉に、子ども達の表情がぱあっと明るくなる。

その装いからは、生活にあまり余裕がないことが見てとれた。私はすぐに「いらっしゃいませ」と手を引き、店の中の子ども専用のコーナーへと案内する。

混雑時でも子どもたちがいつでも入れるように、小さなサイズのテーブルスペースを用意してある。

料理を作っている間も楽しめるよう、本やおもちゃも用意してあり、みんな遠慮しながらも色々手にとってみていて、可愛らしくて笑みが溢れた。

それぞれの食べたいものを聞いた私は厨房へ戻ると、ホールはエヴァンと従業員に任せて料理を始めた。これから先毎日は無理だけれど、最初はやっぱり自分の手で作ったものを食べてもらいたい。

ヤナは厨房を担当してくれていて、手伝ってもらいながら急ぎ作っていく。エヴァン同様、彼女もメイド以上の仕事をしてくれていて、本当に頭が上がらない。小さな弟達のためにも、しっかりお給料を弾まなければ。

少し緊張しながら子ども向けのプレートを3つ持っていくと、子ども達はおもちゃに夢中になっていて、そのかわいらしさにまた笑顔になった。

「どうぞ、たくさん食べてね」

「わあ……! おいしそう!」

「おかわりもあるから、すぐに言って」

ファミレスなんかでよくあるお子様ランチプレートを意識して可愛らしく盛りつけてみたけれど、目を輝かせて喜んでくれて嬉しくなる。

「おーい、注文いいかい?」

「はい、ただいま!」

子ども達が食べ始めたのを確認すると、混雑する店内に冷や汗をかきつつ、私はすぐさま仕事へ戻った。

それからも絶えずお客さんがやってきて、あっという間に満席になった。正直、これほど多くの人が来てくれるとは思っておらず、準備不足を実感する。この人数で回すのは、ギリギリだった。

ミリエルは元々大きい街な上に発展途中で、現在も飲食店は少なくない。だからこそ、新しい店だからと言ってこれだけのお客さんが入るのは少し不思議だった。

「こちら、お釣りになります」

「ありがとう。美味しかったよ」

そんな中、食事を終えた男性は店内を見回し、やがて料理を食べている子ども達の方へと視線を向けた。

「本当に子ども達に食べさせてやっているんだな」

「はい、そのためにこのお店を作ったので」

男性はそうか、とだけ言うと、柔らかく目を細めた。

「あんたは若いのに偉いな。こんなこと、やろうと思ってもなかなかできることじゃない」

「い、いえ、そんな……」

「俺も子ども達に何かしてやりたいとは思うが、自ら何か行動するというのは難しいことでね。だが、ここで食事をするだけで少しでもあの子達のためになるのなら、いくらでも来ようと思うよ」

この盛況ぶりはそう思っている人が俺以外にも多いからだろうと、男性は言った。

「ありがとうな。これからも頑張ってくれ」

「あ、ありがとうございました!」

また来ると店を出ていく男性に、慌てて頭を下げる。姿が見えなくなり振り返れば、エヴァンと出会した。

「お嬢様、何か苦い物でも食べたんですか? しわくちゃのすごい顔してますよ」

「……だ、だって、こうしていないと、泣きそうで」

ぐっと涙を堪えて唇を噛んでいたせいか、エヴァンに笑われてしまう。けれど、どうしようもなく嬉しくて、気を緩めると泣いてしまいそうだった。

「俺はあの席の片付けをしてくるので、お嬢様は注文を取ってきてください。そろそろ決まる頃ですから」

「わ、分かりました!」

てきぱきと動き指示をするエヴァンは、こういった仕事もできてしまうらしい。

「──かしこまりました、少々お待ちください」

そうして注文をとり終えて厨房に伝え、再びホールへ戻ってきたところ、くい、とエプロンを引っ張られた。