軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最高の誕生日 4

「……もしかして、ハニワちゃんが描いてくれたの?」

尋ねると、ハニワちゃんはこくりと頷いてくれる。

──絵の具で描かれたピンク色の髪の女性と銀色の髪の男性の絵は、輪郭も歪んでいてパーツはなんとか判別できる、三歳くらいの子どもが描いたような拙いものだった。

それでも一生懸命に描いてくれたのが伝わってくる。

そしてここに描かれているのが誰なのかなんて、聞かずとも分かっていた。

「もちろん筆なんて持ったことがないので、最初は線すらまともに描けなくてそれはもう苦労していて、一晩中練習していたんですよ」

「ぴ」

エヴァンはそう言い、ハニワちゃんを指先でつつく。

確かにここ最近、夜一緒に眠っていたハニワちゃんがいないことが多かった。エヴァンに懐いているからだと思い、少し寂しく思っていたのに。

まさか私に隠れて絵の練習をしてくれていたなんて、想像すらしていなかった。嬉しくて愛おしくて、ずっと我慢していた涙が溢れて止まらなくなる。

「ハニワちゃん、本当にありがとう。すごく、すごく嬉しいわ。部屋に飾ってもいい?」

「ぷぽ!」

ゼイン様も感動した様子で「とても上手だ」と褒め、ハニワちゃんを撫でている。

マリアベルやみんなからもたくさん褒められて照れたらしいハニワちゃんは、顔を隠すように私の腕の中に飛び込んだ。

かわいいハニワちゃんを抱きしめながら、この絵は家宝にしようと誓う。

「俺は個別で渡すよ。後で部屋に行っても?」

「あっ、はい! もちろんです」

ゼイン様にそう返事をした後、私は改めてみんなに向き直った。

「本当に本当にありがとう。最高の誕生日だわ」

何度言っても足りないくらい、感謝の気持ちが溢れてくる。たくさんのプレゼントを抱えながら、幸せな気持ちで誕生日パーティーは幕を閉じた。

◇◇◇

パーティーの後はゆっくりお風呂に入り、寝る支度を終えた私は自室で過ごしていた。

ゼイン様は急な仕事の連絡が入ったらしく、少し遅くなると聞いている。

「……ふふ」

まだ心がふわふわしてみんなからもらったプレゼントを箱から出して眺めては、一人でにこにこしてしまう。

そうしているうちに時間が経っていて、ノック音が響くと同時にバッと立ち上がった。

「すまない、遅くなった」

「いえ、お疲れ様です」

ゼイン様を出迎えて部屋に通したものの、ソファやテーブルの上には帰宅に向けた荷物や眺めていたプレゼントが置かれたままだということに気が付く。

「すみません、こちらに座ってください!」

片付けておくべきだったと深く反省しながら、ひとまず空いているベッドの上に座ってもらうよう促す。

「…………」

少しの間無言だったものの、ゼイン様はやがて「ああ」と頷き、腰を下ろした。

その隣に私も座り、ゼイン様を見上げる。ラフな服装をした彼はお風呂上がりなのか、先程私も使った石鹸の良い香りがふわりと鼻を掠めた。

「君と二人きりの時に渡したかったんだ」

ゼイン様はそう言って、私の目の前に小さな箱を差し出した。

高級感のある紺色の箱には見覚えがあって、王族も御用達だという宝石店のものだ。

デザインはどれも素敵で気になっており、以前屋敷に届いたカタログを少し見たことがあるけれど、見たことのないゼロの数に悲鳴を上げ、ものの数秒で閉じた思い出がある。

「誕生日おめでとう。どうか受け取ってほしい」

「ありがとうございます、開けてみても……?」

「もちろん」

緊張しながら箱を開けると、綺麗なブレスレットが輝いていた。

華奢なチェーンの合間でダイヤモンドでできたいくつもの眩い花が輝いていて、その美しさに息を呑む。吸い込まれそうなくらい綺麗で、目を奪われてしまう。

「以前、君のブレスレットを壊してしまったことを気にしていたんだ。それに君が俺の恋人だと一目で分かるものを贈りたいと思っていたから」

そう言われて、この花はウィンズレット公爵家の紋章に使われているものだと気付く。

──シーウェル王国では、上位貴族の紋章には必ず花が使われている。

その花がどれほど重要な意味を持つのかなんて、言うまでもない。家門の人間ですら気軽に用いることはなく、大切に重んじられているものだ。

「…………っ」

そんな大事なものを贈られる意味だって、分かっているつもりだった。

言いたいことはたくさんあるのに、色々な感情が溢れて何も出てこない。

目の奥が熱くなって泣いてしまいそうになるのを、ぐっと堪える。ゼイン様の腕をきゅっと掴んで胸元に顔を埋めると、ゼイン様は私を両腕で抱きしめてくれた。

ようやく口から出てきたのは「うれしい」「大好き」という、ありふれた言葉だった。

「そうか、ありがとう。俺もだよ」

けれどゼイン様は優しい声音でそう言ってくれて、余計に視界がぼやける。

こんなにも誰かを好きになることなど、きっともう二度とないだろう。