軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34.勝負当日

奏からの宣戦布告から数日。

宣戦布告こそあったものの、俺達は互いの学力向上のため、放課後は一緒に勉強をするようになった。

「奏ちゃん。今日こそ一緒にカラオケ行かないー?」

「ごめん。門倉さん。今日も勉強しなくちゃいけなくて」

「えー、残念」

テスト期間開始前の奏は、門倉さん達と放課後、時折一緒に遊ぶこともあったが、テスト期間中は勉強に相当入れ込んでいるようだった。

まあこれに関しては、門倉さん達はテスト期間中くらいカラオケに行かずに勉強しろよ、とは思う。

門倉さん達の学力がどんなものかは知らないが……こんなんじゃお先真っ暗だぞ?

「なんだか人を見下した目だね、萩原君」

「あ。最近、全然俺と絡んでくれない高垣さんじゃないか」

「何よ。その久しぶりの登場キャラをざっくばらんに紹介してくる漫画みたいな説明口調」

高垣さんはため息を吐いた。

相変わらず、勉強に明け暮れているのか。なんだか顔色は優れない。

「……で。視線の先は……ああ、門倉さん達か」

高垣さんは俺の隣の席に腰を落として、参考書を開いた。

俺のところに来た目的は、わからない問題の解き方を教えてほしい、とかなのだろうが……先に世間話に興じるくらいの余裕があるようだ。

「そうだね」

「……浮気?」

「浮気?」

「一ノ瀬さんから乗り換えたの?」

「あはは。乗り換えたも何も、俺と奏は付き合ってないよ」

「死ね」

あはは。これはこれは。相変わらず、高垣さんのジョークはエッジが効いているな!

「で、なんで門倉さん達を見ていたの?」

「あー。テスト期間中なのに、カラオケに行く余裕があるんだと思って」

「……」

「いやその……なんだろう。仮にも彼女達は、奏と友達なわけだろう? こっちも困るんだよね。奏の友達が不良なのは」

「親か?」

「彼女達に唆されて、奏が犯罪に加担とかしたら困るだろう?」

「親かって」

「奏は優しい性格をしているから。……友達付き合いは考えてほしいよね」

「だから親かって」

高垣さんは深いため息を吐いた。なんだかマリアナ海溝よりも深いため息だ。大変な人生を歩んでいるんだろう。

「ま。一ノ瀬さんに非行に走ってほしくないなら、門倉さん達はうってつけな友人になるんじゃない?」

「え?」

「……門倉さん達の学年順位、一桁だよ」

「……えっ」

それってつまり……。

「……君よりも高順位ってことじゃん」

「今日のあんた、全方向に煽りまくりね。勉強を教えてもらっている立場じゃなかったら絶交だった」

「ごめん。……テスト期間中は、ピリピリしてるんだ」

「……そういえば、前回のテスト期間中は、互いに酷い罵詈雑言の浴びせあいをしたわね」

なんだか遠い昔の出来事のように高垣さんが言った。

……正直、わりかし、あの時に言われた暴言の数々を根に持っている部分は多いにある。

「ま。今回は紳士協定をキチンと結んだ上で切磋琢磨しているわけだし、煽り合いはここまでにしましょ」

「そうだね。……ごめん」

「ううん。気にしないで」

問題の解き方を教えた後、高垣さんはさっさと席を立った。

「じゃ」

「もう行くの? どうせならもう少し一緒に勉強してもいいけど?」

「いいの?」

「え?」

「紳士協定を結んだから穏便に済ましているけど、あたしもテスト期間中だから内心ピリピリだよ?」

「……あー」

つまり、これ以上ライバル同士で一緒にいたら、また喧嘩になる、と言いたいわけか。

「それと……教室の扉でこちらをジッと見ている一ノ瀬さんが怖いし、今日はこれくらいにしておくよ」

「え?」

高垣さんが指さした方向を見ると……奏が教室の扉を遮蔽物にして、こちらを覗きこんでいることに気が付いた。

「う、うふふ」

俺達に気付かれた奏は、上履きをキュッキュッと鳴らしながら近寄ってきた。

「一緒にお勉強していたの? あっくん。……あ・や・かちゃん」

「ち、ちがいましゅ……」

高垣さんの声は震えていた。

あれ。奏って高垣さんのこと、下の名前で呼んでいたっけ?

プレゼントを贈ったりしていたし、知らない間に仲良くなったのだろうか?

「じゃ、じゃああたしはもう行くから」

「あ……。折角なら、三人で一緒に勉強しようと思ったのに……」

奏はシュンとしていた。

どうやら俺と高垣さんを勉強に誘うタイミングをコソコソと見計らっていたらしい。

「俺達も帰ろうか」

「うん」

俺達は帰路につくことにした。

「いよいよ明日からテストだね」

帰りの電車の中、奏に言われた。

「そうだね」

「……あたしとの勝負、忘れてないよね?」

「勿論さ」

「……むぅ。なんだか余裕綽々って感じだね」

「そんなことはないさ」

テスト期間中、奏の学力レベルは間近で見てきた。油断出来る相手ではないことは言うまでもない。

「……本音を言えば、吐きそう」

「で、電車の中では吐かないでね?」

「テスト直前だと、ずっとこんな感じでね。……これでも毎回、結構必死なんだ」

「……そっか」

奏は俯いた。

「心、折れたりしないの?」

そう奏は尋ねた。

「しないよ」

俺は即答した。

「……フランス留学のため?」

「そうだけど。……本音を言えば、それだけじゃない」

勿論、それも理由ではあるが……それよりも、もっと単純な理由で、俺は頑張っている。

「負けたくないんだ」

車窓から見える景色が……流れていく。

「俺は……自分が無力であることを知っている。大切な少女を助けることも出来ず、泣き喚いてばかりの無力な存在であることを知っている」

「……」

「だから努力を惜しまない。努力を惜しまなかった結果、今度こそ大切なものを救うことが出来ると思っているから」

「……あっくん」

「だから、負けたくない。俺が一番、頭が良い。俺が一番、誰よりも努力を惜しんでいない。俺が一番……夢に向かって頑張っている。テストを通じて、それを再確認したいから」

「……そっか」

奏の微笑みは優しかった。

「奏、明日はお互い、頑張ろうね」

「うん」

そして俺達は、翌日から始まるテストに向けて、互いの健闘を祈り合った。

……そして、迎えたテスト当日。

「おはようございます」

朝のショートホームルーム。

「一ノ瀬さんは今日、体調不良のためお休みとなります」