軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2.狂気

奏の発言が起因となり、今日一日中、美少女の転校生の出現に浮かれていたクラスメイトが一気に静まり返った。

クラスメイトの視線を集まる現状は、些か気分が悪かった。

具体的に言うと吐きそうだった。

奏の奴、こんな大衆の面前でこんなことを言い出さなくてもいいではないか。

こちとら、自他ともに認める根暗人間だぞ?

「ね! ね! 早く帰ろうよ! あっくん!」

俺の憂いき気付く様子もなく、奏は相変わらず浮かれている。

「い、一ノ瀬さん! ちょっと……」

「え? 何?」

そんな浮かれた調子の奏を、クラスメイトの男子が呼び止めた。

「……えっと、ハギワラ君、だっけ? 彼と君って、知り合いなの?」

クラスメイトの男子……もとい、イケメン陽キャの吉田君、よく俺の名前を知っていたな。

同じクラスになったものの、彼と会話をしたことは一度もなかったはずなのに。

「吉平君、うん。そうだよ」

……俺の方が彼の名前を間違えていたら、世話ないな。

「へぇ、どんな関係?」

「うーん。……どんな関係かと言われれば、説明には結構な時間が必要になるかも」

「是非、聞きたいな」

……本当か?

奏の態度に、食い下がっただけのように見えて仕方がないのだが。

「そう? なら……あー、でもなるべく、手短に説明するとだね」

どうして、わざわざ手短に説明する必要があるのだろう?

「あたし、小学生の頃に余命宣告されたの」

教室内がザワついた。

「でね、あっくんはあたしの幼馴染。毎週のように面会に来てくれて、苦しんで弱音を吐くあたしを何度も励ましてくれたんだ」

……励ました、か。

「だから、帰国したらまずはあっくんと過ごしたいなと思って。ごめんね」

奏の説明により、数人のクラスメイトは諦めたように見えた。

「なるほど。それなら確かに、彼との時間を優先したい気持ちもわかるね」

吉平君も笑顔を見せて引き下がったらしい。

「じゃあさ、ハギワラ君も入れて、皆で遊ぶと言うのはどうだろう?」

いや、どうやら吉平君はまだ引き下がってなかったらしい。

「なるほど。それは中々、良いアイディアだねっ」

「そうだろう?」

「うん」

……引き下がっていないところ、申し訳ないけども。

「でも、ごめんね。今日は遠慮するよ」

あなた達、少しは俺の意思も尊重してくれないかい。

俺はまだ、奏のバーター役とはいえ、クラスメイトと遊ぶことも……何なら、奏と遊ぶことにも、了承をした覚えはないっていうのに、話がドンドン勝手に進んでいって、困るばかりだ。

「よし、あっくん。行こう」

「わっ……」

呆気に取られた様子のクラスメイトを放って、奏は俺の手を引いて歩き出した。

……今朝、転校生としてやってきた奏と再会を果たして、数時間。

正直、今の今まで、奏と再会を果たせたことの実感が湧いていなかった。

ただ、彼女に手を引かれ……強引に手を繋いで、彼女の手の温もりを感じて。

「……生きてるんだ」

俺は呟いた。

「あはは。死んだと思った?」

「……」

「……ふふっ」

「……うん」

「あははっ」

俺の先を歩む奏は笑っていた。

「だよねっ」

こちらを振り向いた奏が、意地悪そうに微笑んだ。

相変わらず、俺は奏に手を引かれて歩いていた。

「……良かったのかい」

下駄箱に差し掛かる頃、俺は奏に尋ねることにした。

「何が?」

「……皆の誘いを断って」

「うん」

即答だった。

「まあ、出来ればこれから約一年間一緒に生活するクラスメイトとも親睦を深めたかったけど、優先順位だよ」

「優先順位?」

「そうそう。吉平君とかに遊びに誘われて、どうしようかなーって考えて、あたし、冷静に考えたわけ」

「何を?」

「クラスメイトと親睦を深めるか。あっくんと一緒に遊ぶか」

「……」

「今のあたしは、クラスメイトとの親睦を深めるより、あっくんと一緒に遊ぶことの方が大切だったってわけ」

「……そっか」

俺は俯いた。少しだけ照れ臭かった。

「……でも、それだと吉平君の提案に乗らない理由にはならないのでは?」

「だってあっくん、クラスメイトと遊ぶの嫌だと思ってたでしょ?」

「そんなこと、一言も口にはしていないけども」

「でも、思ってたでしょ?」

確かに、口には出さないが、クラスメイトと遊ぶことを嫌だとは思っていた。

仲が良くない人と数時間一緒にいるだなんて、苦痛以外の何物でもないと考えていた。

でも、どうしてそれを奏は気付けたんだろう。

「顔を見てたらわかるよ」

……敵わないな、奏には。

「……まだ俺、奏と遊びたいとも言ってないけど」

「あはは。それは無理。妥協不可」

「そっか」

「昔からあたし達の関係って、こんなんだったじゃない? あたしがごり押しして、あっくんが渋々引き受ける、みたいな。だから、今回もあたしのごり押しに渋々付き合って」

確かに、俺達の関係は昔からこんなんだった気もする。

「……楽しみだなあ。久しぶりの日本だもん。色んな場所に行きたいな」

「……」

「あっくんと二人でねっ」

……まあ、今日は彼女の快復祝いも兼ねて、再び彼女に手を引かれるのも良いのかもしれない。

「あっくん! これからどこ行こうか!? 海。山。カラオケだとか、映画とかもいいかもねっ!」

「……そうだね」

「うん。うんっ! ああ、本当、行きたい場所が多すぎる! 時間がずっと止まっていればいいのにっ!」

「……そうだね」

「うん! ……それじゃああっくん、とりあえずさ」

「うん」

「スマホ貸して」

「……え?」

「え?」

……聞き間違いだろうか。

「あっくん、スマホ貸して」

……笑顔を見せる奏の瞳は、さっきまで希望に満ちていたのに、今はなんだかハイライトが見当たらない。

「え、なんで?」

「なんでって……もうっ。連絡先交換のためだよっ!」

……あ。ああ、そういうことか。

「いや、連絡先交換のためだけなら、スマホを貸す必要はなくない?」

冷静になったら、全然納得出来なかった。

「……えー? 何? あたしにスマホを貸せないようなやましい理由があるの?」

「あるよ。ある。スマホだよ? 個人情報の塊だよ?」

誰だってやましい情報の一つくらい、入っていて当然だろう。

「……うーん。そっか駄目か」

奏は意外とあっさりと引いてくれた。

このあっさりとした引き具合、口振りの割に、断られる前提でスマホを貸せと迫ってきたのだろうか。

「わかった。じゃあさ、あっくん」

「ん?」

「今日はあっくんの家で遊ぼうよ」

「……えー」

「今日はあっくんの家で遊ぼうよ」

「でも……」

「今日はあっくんの家で遊ぼうよ」

「……わかった」

さっきまでの感動的な雰囲気、どこ行った?

「やった。じゃあ決まりだね」

奏は嬉しそうにスキップを始めた。