軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オープンワールド型ダンジョン④

アンデッドグランドドラゴンはフレーム上空で滞空姿勢を崩そうとしない。

あの巨体が上空にいるだけで、周囲はこれ以上の無いプレッシャーを一方的に受け続けており、避難場所を探している客たちはそれを見て泣き叫ぶもの、座り込んで動かなくなるものなどが増え始める。

この逃げ場のない地獄が、より一層地獄へと化そうとしていた。

俺の肩の上では、シオが殻の縁にうっすらと光を残しながら、半径2メートルほどのドームを薄く張り続けてくれている。

視界の隅で配信機材の表示が点きっぱなしになっていて、コメント欄の流速だけがいつもの数倍に跳ね上がり、画面の下から上へ文字の塊が次々に押し上げられていった。

その流れに気を取られていた俺の隣で、桐野が射手の構えを解かないまま、屋上の入口側へ一度だけ顔を向けた。

「なにかくる」

桐野が顔を向けた先、屋上入口側のドアの上から、3つの影が音もなく落ちてきた。

手すりの内側に、横並びで降り立つ。

軽装で最低限の武装に留まっている3人は降り立った瞬間、周囲を注意深く警戒していた。

見たこともない3人組だが、明らかに探索者だということは俺でもわかる。

ちらりと配信画面を見ると、この降り立った3人に対してコメントが凄い勢いで付き始めていた。

『3人?』

『誰?』

『装備軽すぎ』

『どこから降りた』

『あれ後ろの細い男見覚えある』

『真ん中の』

『待って』

『ちょっと待って、八咫烏じゃね?』

『真ん中、服部?』

『マジで?』

桐野が、射手の構えを下ろし、降りた3人のほうへ体を向け直す。

「えっ? 八咫烏?? 今日ここに来てたの?!」

その八咫烏という単語が桐野の口から出て、ようやくコメントの流れと繋がった。

俺はというと名前を知っているわけがなく、もちろん聞いたこともなかった。

桐野が知っていて、それに応じるかのようにコメントが沸騰している。

それだけで、相当な相手なんだと察するしかない。

3人の中で一番ガタイのいい男が髪を片手で雑に撫でながら、シオが張った神聖領域を見て頷きながら近づいてくる。

「あー、ここでなんかやばい結界みえたんだが……これか」

細身のスーツ男が、ガタイのいい男の隣に並ぶとすぐに補足を始めた。

「これは聖域ですね。聖職者系統はこういう領域に特化した聖域を作ることが出来るんですが、腐属性ブレスを完全遮断する聖域となると世界でも稀。それも…その肩のそれが構築しているとなると、聞いたことがないですね」

「服部さん! それに東雲さんと久遠ちゃん!」

「よぉ。お前も運がねぇなぁ」

「そんなこと言ったら私たち全員凶以下だと思うんだけど」

「お久しぶりです、桐野さん。そして……となりの方が…噂の鑑定士、ですか」

(俺ってそんなに噂になってんの?)

「あー、そうです。この人が真壁さんです。ダン博で一緒になったんですけど…ってそれよりも一旦状況整理しましょう!」

「そうですね。この均衡状態が崩れる前に、お互い知っている状況をすり合わせましょう」

そして八咫烏の3人と俺、桐野の5人で軽いすり合わせを行った。

「この状況を作り出した2人、か。東雲、どう思う?」

振られた東雲は一瞥して深く頷いた。

「状況自体は簡単で、ダンジョンコアを止めることが出来れば、それでこの閉鎖空間も解除されるでしょう」

「その前にあのドラゴンなんとかしねぇとなぁ」

「おじさん、あれとバトってきてよ」

「あほかできるかそんなこと」

「なんにしてもダンジョンコアを止めるには、あの守護するドラゴンを何とかしないとですね」

「おじさんやっぱり出番だよ?」

「ことね! やかましいっ!」

「みんな普通にダンジョンコアの存在を受け入れてるのね…」

「まぁ、な。そもそもだが、話を聞く限りあそこに設置してあるダンジョンコアは、俺らが最近捕獲してきたやつだ」

「ふーん、そっちでほか…ってえええええ!」

『しれっととんでもない話が配信されてるぞ』

『俺らこの話聞いていいんか?』

『明日のニュースはこれ一択だな…』

『ダンジョンコア、日本にあった』

『八咫烏がダンジョンコアを捕獲していた件』

「詳細は端折るが、まぁ依頼されて、結果として捕獲したんだが。ダンジョンコアの止め方は結構簡単で、ダンジョンボスを討伐するとアクセスキーが手にはいるんだ。それで停止したりさせるんだが、今回は依頼の都合上、地上に運び出すということになっててな。かなり厳重な措置を施して地上に持ってきたらこのザマだ」

「日本政府、ウケる」

「おい、依頼主の名前を出すんじゃない」

『明日、総理大臣の謝罪会見確定だな』

『下手すれば政権変わるぞこれは』

『日本はなにやってんだって言われるの確定やん』

「多分ですが…直接操作すればダンジョンボスを倒さなくても、ダンジョン止められると思います」

俺の言葉に八咫烏の3人は一斉に俺に向かって視線を向けた。

「本当か?」

「はい。現在の状況ですが、外部の汚染術式で通常の起動が出来ていないようです。実は前に八咫烏の皆さんが確保してからの後だと思うんですけど、一度ダンジョンコアを鑑定してます。その時の実感ですが、マニュアル操作できると思います」

「まじかよ…」

「本当ですか…」

「ふーん。なんかすごいじゃん」

「となると話は簡単ですね。パーティーを2つに分けましょう。一つはダンジョンコアに近づいて直接操作するチーム。これは真壁さんしか出来ないので、護衛として桐野さん、お願いします」

「分かったわ。命にかけても守る」

「そして近づいて操作してもらうためにも、まずはダンジョンボスを引き離して、安全に処理する環境を作り出さないといけません。それは我々3人で受け持ちましょう」

「そうだな。それがいいか」

「ちょー怠い」

「その結界はまだ維持はできそうですか?」

東雲の言葉に反応したのか、シオは殻をふりふりとさせる。

「…いけるみたいです」

「でしたらブレス系の攻撃で死ぬことはなさそうですね。となると、ことね」

「はいはい。スキル発動…運命視」

ことねが片手をひらりと広げた。

手のひらの上に、淡い光が一度だけ集まって、すぐに散る。

散った光の中から、白い小さな立方体が、ぽとり、と床に落ちた。