作品タイトル不明
オープンワールド型ダンジョン③
「何から話していいのかわからないんですが、ダン博会場がダンジョン化しました」
『え、マジで言ってる?』
『ダンジョン化って何の話?』
『真壁さん落ち着いて、状況わからん』
『画面暗くて何も映ってないんだけど』
『冗談だよね?演出?』
「たしかに何言ってんだって話だと思うんですが、いまからその証拠見せますので」
配信機材をアメリカ館の方へ向ける。
その瞬間、視聴者からのコメントが恐ろしい勢いで流れ始めた。
『は?????』
『なんやあれは』
『いまZも荒れまくってる!』
『シルエットがドラゴンで草』
「緊急的に拡散してほしいんですが、いま見えてるのはドラゴンです。鑑定スキルが通って出た情報なので確定です。厳密にいうと、アンデッドグランドドラゴン、アメリカ館のグランドドラゴン骨格標本をダンジョンコアが利用して作り上げたみたいです」
コメントはお祭り騒ぎに陥っていく。
『いやいやいや』
『真壁さんの鑑定結果だとちょっと笑えねぇ』
『他のサイトでも似たような内容あがってるぞ』
『ここまで詳細な情報はこのチャンネルだけ』
『こういう時は安定の回収屋で草』
『いまダンジョンコアって言ったか?』
「このダンジョン万博会場に絶対に近寄らないこと! 出来れば離れてくださいっ! それと警察に大至急通報お願いします!! 頑張ってこの状況を可能な限り配信していきますが…生きて出るのは難しいかもしれません」
『まさかの遺言配信笑えねぇ』
『いま通報してきた』
『シオちゃんは無事???』
『他も似たような情報出始めてきたな』
『ここが恐らく最新情報だと思われ』
「誰かZでもどこでもいいので書き込んでください! あのドラゴンは腐属性で名前通りアンデッド化してます。ブレスを吐くんですが腐属性で生物に特効持ちです。ダンジョンボスとして設定されるのでこのダンジョンを攻略するにはまず、あのドラゴンを何とかしないといけないです」
「真壁さんっ! とりあえずここ離れるわよっ!!」
桐野が大声で叫んだ直後、アンデッドグランドドラゴンの口から迸る瘴気を圧縮したブレスをまき散らした。
こちらとは反対方向に放たれた瘴気ブレスは、射線上の建物を即座に腐らせていく。
「なななな…なんだアレは…」
「あれがドラゴンのブレス…」
お互い放たれたブレスの威力にドン引きしていて、言葉がそれ以上出てこない。
「ああああアレ…桐野さんなら防げますか?」
「ばば馬鹿な事いわないでよっ! あんなの喰らったら即死よ! そ・く・し!!」
「でで、ですよね…」
「うーーっ! まいったなぁ…武装一切してないし、防ぐ手段おもいつかない…」
「桐野さんのスキルって…」
「私はこれよ」
指で銃のポーズを取った。
すると周囲に魔法陣が浮かび、なにやら魔力の圧が周囲に波打った。
「射手スキル。主に魔力を弾に見立てて撃つスタイル取ってんだけど…ブーストする装備何も無いから威力がね…魔力量には自信あるんだけど。少なくとも今の私じゃアレにダメージ与えるのムリ」
「俺は…わかっているでしょうが一般人以下です…」
「知ってる。そんなことより今は逃げるわよ。あのブレス範囲にいるのはまずいわ」
「ですよね」
屋上から下を見た時、逃げ惑う人々がリング周辺に集まっていることに気付く。
「ん? なんであそこに集まってるんだ…」
俺の鑑定スキルが発動し、そこには驚愕の事実が記されていた。
「え……リング内の領域が閉じてる…?」
「なに? どうしたの?!」
「どうやら…ここの出入り封じられてるみたいです…」
「はぁ??」
俺の鑑定スキルが示すのはこのリングがダンジョンコアと融合状態にあり、疑似的な空間として固定しているということだった。現時点において出入り口は示されていない。
「出られないって…」
「空間的に閉じているみたいで…」
桐野も周囲を見るも、閉じ込められた人々で大パニックに陥っている様をみて絶句する。
「あいつのブレス圏内に助けがくるまでずっといろってわけ?! なにその無理ゲーは…」
その時、2人はまるで長年のパートナーのように、同じタイミングで後ろを振り向いた。
向いた方向には、アンデッドグランドドラゴンがこちらを座視していた。
2人が感じたのは殺気。
確実に今、視界に捉えているもの全てをこの世から消去させるという、剝き出しの意思を感じ取った。
それと同時に爛れた口元から瘴気が漏れる。
所々穴の開いた口周辺からどす黒い瘴気の塊と、異質に光る白色の牙が混じり合っては火花のような光を発した。
「あ…」
漏れた言葉と同時に俺らに向かってあの、腐属性ブレスが放たれた。
終わった。
そう思う間もなく俺らに向けた瘴気のブレスは、何も障害など感じさせないほどにあっさりと通り抜ける。
「………死ぬときはあっという間っていうけど、ほんとにそうなんだな」
独り言ちた俺はすぐに違和感に気付く。
目の前を見るとシオが床に降りていた。
周囲は白色のサークル状の何か覆っている。
「…………もしかして…生きてる?」
俺は咄嗟にドーム状に展開しているこの白の領域に向けて、鑑定スキルを走らせた。
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対象:ドーム状の白色領域(半径20m弱)
種別:結界スキルによる発動領域
スキル名: 絶対神聖領域(ホーリーサンクタム)
属性:聖属性
効果:内側に対する物理・属性攻撃を完全遮断/腐属性に対し強い拮抗作用
術者:シオ
判定:術者本体は規模超過のため簡易区分のみ・領域そのものは鑑定可
備考:聖職者系スキル群の最上位に位置する領域形成型スキル。
規模は術者の任意で可変・維持に要する魔力消費は規模に比例。
術者属性および規模の詳細は別判定要。
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「ははは…シオ…お前…」
シオは所々明滅させている殻をぷるっと、震わせてこちらを見る。
ヤドカリみたいなスライム状の足を同じくぷるっ、と少しだけ上げた。
まるでグッドサインを向けたかのような仕草に、絵も言えぬ感情がこみ上げてくる。
「うそでしょ…生きてる…」
配信機材の画面で、コメント欄が一気に画面を埋める勢いで流れ始めていた。
『生きてた!!!!』
『シオちゃん神!!マジで神!!』
『今のブレス生中継で見たんだが伝説回じゃん』
『シオの結界えぐい何あれ』
『画面真っ白になったと思ったら結界張ってた』
『真壁さん無事でよかった……ほんとに……』
『シオちゃん何者なんだよ』
『シオに足向けて寝られない』
『これ歴史に残る配信だろ』
『シオちゃん表彰しろ運営!』
「これって…結界? 普通の結界じゃないのはわかるんだけど…」
周囲には先ほどまでとは違った空気の清浄さを感じる。
まるで聖職者に祝福されたかのような聖気が周囲に満たされている、そんな感じだ。
一方、この結界の外に目を向けると悲惨な光景が広がっていた。
自分たちがいる建物の前後に何かが通った痕が残されている。
その線上に唯一残っているこの建物と、ここを起点に前後に引かれた線上の建物は朽ち果てていた。
濃い瘴気に当てられた木造建築やコンクリート建造物まで朽ちている光景に、これは本当にこの世に起こっている出来事なのか、と何回も自問するほどだった。
徐々に結界が縮小していく。
そしてシオはいつもの定位置でもある俺の肩上に飛び乗ってきた。
「お、お前、そんな器用に動けたんだな…」
「突っ込むとこそこじゃないでしょ。……この結界はシオちゃんが?」
その言葉にシオは殻を震わせた。
「鑑定結果だと絶対神聖領域っていうスキルが発動したみたいです」
「え? 聖域じゃなくて神がつくの?」
「…なんかまずいんですか?」
「いや、スキルには命名の法則ってのがあって…ってそれは後!」
遠くから大音量の遠吠えのような音が鳴り響いた。
低い音と高い音が不規則に混ざり合い、つい顔を顰めてしまう。
アンデッドグランドドラゴンが、米国館のもはや残骸と化した瓦礫を踏みつけて翼を広げた。
破れた翼の膜から、明らかに人体に害を成しそうな、灰色の粉のようなものがぱらぱらと散る。
体が重そうに浮き上がって、ウォータープラザに設置してあるドフレームの上空へ向かって重々しく滑空していった。
俺の鑑定結果からはダンジョンボスとして固定された、いわばコアを守護する本能だ。
ダンジョンボスは通常、コアの最も近い位置で守りに入る。
となれば現在はフレーム上部の球体、あれが今のこのダンジョンを構成している要でもあり、ダンジョンとしても最終フロアに当たるようなものだ。
俺の視線と共に配信機材を向けると、コメントが尋常ではない速度で流れていく。
フレームの真上で、アンデッドグランドドラゴンが滞空姿勢を取った。
会場全体に避難案内のサイレンが鳴り続けて、屋上の縁から見下ろすリング外周には誘導動線の照明が点り始めている。
「本格的なダンジョンとして、機能し始めたみたいです」