軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

中層手前の廃棄エリア来てみました

朝、スマホを開くと管理局からのメッセージが届いていた。

昨日持ち込んだ地図の件だ。

『提出いただいた記録図について、現在確認中です。内容によっては謝礼をお支払いする場合があります。今しばらくお待ちください』

今しばらく、か。

それよりも前から気になっていることがあった。

それは中層エリアについてだ。

品川第七ふ頭ダンジョンの上層は3回の配信を経て、俺はここの構造をだいぶ覚えてきた。

どこに何が落ちやすいか、どの通路にゴミが集まりやすいか、どのタイミングで探索者が増えるか。

その感覚が分かってきた分、逆に少し物足りなくなっている。

中層の廃棄エリアはどうなっているんだろう。

考えていたら、その日の夕方には搬入口へ向かっていた。

搬入口の脇には、初日に俺をここの回収班として通してくれた中年男が、今日も缶コーヒーを片手に立っていた。

品川第七ふ頭ダンジョンは、入口をくぐった先がB1Fで、そこから下へ潜るごとに階層が増えていく。

俺がこれまで活動してきたのはB1FからB5Fまでの上層で、配信も回収も全部ここだ。

危険度が低く、探索者資格さえあれば誰でも入れる区画だ。

その下、B6Fから始まる中層は話が違う。

魔物が本格的に湧き始める層で、探索者でもソロで気軽に踏み込める場所じゃない。

俺は男の前まで歩いて、軽く頭を下げてから切り出した。

「中層の廃棄エリアって、回収班でも入れますか」

「は? また変なこと考えてるか、お前は」

男は缶コーヒーを一口飲んでから、俺をじっと見た。

「上層が物足りなくなったか」

「少しだけ」

「正直だな。まあ……入れないことはないが」

少し考えてから、彼は続けた。

「中層廃棄エリアは上層と違って、魔物が完全に排除されてるわけじゃない。新宿と違ってB5FとB6Fの間に封鎖標識はあるが、そこから先の区切りが曖昧でな。回収班が入れるのはB6F付近の廃棄スポットだけで、そこより深く進むのは自己責任になる」

「B6F付近の廃棄スポットだけなら」

「……本当に行く気か」

「入れるなら行きたいです」

男はしばらく俺の顔を見てから、手帳に何かを書いて渡してきた。

「入場許可の申請ルートだ。上層より手続きがいる。明日の昼までに出せ」

「ありがとうございます」

「ただし一つだけ条件がある」

「何ですか」

「変なもん見つけても、上層のときと同じにしろ。先に俺か管理班に報告してから動け。勝手に動くな」

「分かりました」

男は満足そうに頷いて、また缶コーヒーを傾けた。

「まあ、中層の放棄品は品質が違う。上層で拾えるものとはスケールが別物だ。それだけは言っとく」

翌夜、中層廃棄エリアへの入場許可を取って、ダンジョンの中へ入った。

4回目の配信も、同時に始める。

タイトルは【深夜ダンジョン回収屋 初めての中層エリア付近】にした。

配信ボタンを押すと、最初から21人がいた。

『おっ来た』

『今日のタイトル!?』

『中層行くの!?』

「中層手前の廃棄エリアです。入場許可は取りました。ただ本格的な探索エリアとの境界が近いので、変なことが起きたら即撤退します」

『まじか』

『慎重で安心する』

『どんなもの落ちてるんだろ』

「俺も気になってます」

上層との差は、入ってすぐに分かった。

温度が少し低くて通路が広く、照明が暗い分だけ足元が見づらい。

放棄品の量は上層より少ないが、一つ一つのサイズが大きかった。

割れた盾、砕けた大剣、中型以上の魔物から採れる素材の残骸。

上層とはスケールが違う。

「雰囲気が違いますね。全体的に重い感じがします」

『緊張してきた』

『無理せんでくれよ』

『回収屋が慎重に行くなら本当に気をつけた方がいいな』

「怖いというより、丁寧に行きたいという感じです」

一つ一つ、【鑑定】を使いながら進んでいく。

最初の10分は外れが続いた。

質は良さそうなのに、拾う価値があるものになかなか当たらない。

変化は、奥の行き止まりに近い区画で起きた。

壁際に、黒っぽい石の欠片が三つ、バラバラに転がっていた。

大きさはそれぞれ違うが、色と質感が似ている。

同じ何かが壊れて散ったように見えた。

「これ……3つとも同じ素材に見えますけど」

一つ目に【鑑定】を向ける。

――――――――――――――――――――

魔核石・欠片(破損)

希少度:A

現在価値:低(単体)

備考:中核部を持つ完全体の破砕品

同種欠片3個以上で再圧縮が可能

完全体の市場価値:14万〜20万円程度

推奨:専門業者による再圧縮処理

――――――――――――――――――――

「……希少度A」

声が少し上がった。

二つ目。

――――――――――――――――――――

魔核石・欠片(破損)

希少度:A

再圧縮適合:確認済み(一つ目の欠片と同一個体由来)

――――――――――――――――――――

三つ目。

――――――――――――――――――――

魔核石・欠片(破損)

希少度:A

再圧縮適合:確認済み(同一個体由来・3個で再圧縮完了可能)

――――――――――――――――――――

「……全部、同じ石から割れた欠片みたいです」

コメント欄が一気に流れ始めた。

「1個1個はハズレ扱いで転がってたんですが、3つ揃えれば完全体に戻せるって出てます。戻したときの市場価値が……最大で20万円程度」

『は?』

『その3個で!?』

『上層じゃこんなもん絶対出ない』

『鑑定で繋がりまで見えるんか』

「たぶん、ここで戦闘があって、魔物か装備のどちらかが壊れて飛び散ったんだと思います。探索者が回収しなかったのは、欠片一個じゃ価値が分からなかったからじゃないですかね」

『繋げて考えられるのが鑑定の強みか』

『回収屋の視点がエグい』

3つの欠片を慎重に布に包んで、鞄に入れた。

視聴者数は54人になっていた。

さらに少し奥へ進んだとき、背後で微かな音がした。

足音だ。

石の上を踏む、人間のものに近い音。

魔物の足音とは違う。

俺は動きを止めて、耳を澄ませた。

配信はまだ続いている。

コメントの流れが、一時止まった。

『……誰かいる?』

『気のせい?』

『回収屋さん、気をつけて』

「……誰かいますか」

声が暗い通路の奥に吸い込まれていった。

しばらく、何も返ってこなかった。