軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

流通の接点

朝、いつものシオの月次記録を開き状態欄に書き込む。

殻の光量は安定したまま微増が続いている。

魔力栄養液への反応が前週より早くなり、容器の中での動きが驚くくらい増えた。

たぶん自我が芽生えてきて、それに伴って世界への興味が出て来たのではないかと推測している。

管理局支給の魔力栄養液を細口の滴下器で入れると、シオが容器の底を這うように動いて近づいてきた。

飲み終えると、しばらく液を入れた側の壁に張りついたままで容器を少し手前に引くと、目がこちらへ向く。

周囲へ視線を動かし、そして興味が無くなったのか、ゆっくりと容器の真ん中に戻っていった。

「無事成長しているようで安心したぞ」

この言葉にシオは特に反応を示すことはなかった。

浅田からの連絡は午前のうちに届いた。

『複数の押収品で、回収地点が一部かぶっている件について詳細が出ました。押収証拠品の付属物も残っています。こちらについて鑑定をお願いしたいです』

『付属物は何点ですか』

返すとしばらくして返信が来た。

『数点です。護符本体ではなく小物類です。詳しくは実物を見ていただいた方が早いと思います』

『午後に伺います』

返信を送り、了承の返事が返ってくる。

「さっさと用事を済ませるか」

昼を過ぎてから、保護容器にシオを入れてそのまま携行ケースに収めた。

蓋を閉める前に中を確認すると、シオは殻の内側でわずかに身をずらす。

特に嫌がっている様子もなく、おとなしく収まっていた。

それから鑑定道具とスマホを鞄に入れてから部屋を出た。

管理局に到着すると事務棟の受付で証明書を通し、奥の通路を進んだ。

管理局のいつもの会議室に入ると、前回より物が多かった。

地図と記録の印刷、回収地点メモが2枚、それから小さなビニール袋がいくつか机に並んでいる。

「記録を照合した結果です」

同時に地図を手前に向けた。

「2点の護符の回収地点は別々です。押収の際に流通記録も押さえています。それぞれがどこから出てどこを経由して売買されたか、その流通ルートを遡ると、途中で経路が重なる区間が出てきます」

地図上に2本の線が引いており、起点は異なるが一定の区間で合流している。

「断定はできません。記録だけでは経路が近かっただけとも取れます。ただ、偶然で片づけるには重なりが多い」

浅田が小さなビニール袋を机の端に置いた。

「それと、証拠品に付属していた小物が何点かあります。通常は特に記録対象にならないものですが、整理していたら混ざっていました」

袋の中に、金属製の小さな金具が入っていた。

1センチほどの封緘金具で、表面に細い刻印がある。

古びていて、触れた感触は相当に劣化している。

腰のケースがかすかに動き光が薄く漏れた。

シオが頭を金具の方へ向け、容器の中で少しだけ位置を変える。

だが弱い反応で、すぐに興味を失ったかのように止まった。

浅田に許可を取ってケースを机に置くと、シオは金具の方を向いたまま静かにしていた。

それを確認した俺は金具を手元に引いて、【鑑定】を向けた。

――――――――――――――――――――

搬入識別金具(中継管理用)

希少度:E

状態:使用済み(術式痕残存)

危険度:なし

推定価値:なし

術式痕:押収護符2点と同系統の管理記号が薄く残存

構造:複数の護符をまとめて管理する際に用いられる中継保管用の識別札。個別の護符に付随するものではなく、一時集積・中継段階で束ねて保管するために使用されたもの

備考:押収護符2点と同系統の管理記号が残存していることから、護符が別々に流通する前段階で同一箇所にまとめられていた可能性が高い。別地点回収以前に中継保管の接点が存在したことを示唆する

――――――――――――――――――――

「通常の封緘金具ではないです。中継保管時の識別札として使われたもので、押収護符2点と同系統の管理記号が残っています。この護符2点は別々の経路から回収されていますが、この金具が示しているのはその前の段階です。護符がまだ1か所にあった時期がある」

「集積した場所があった、ということですか」

「断定はできませんが可能性として高いかなと。回収地点が重なっているのではなく、その前段の接点が重なっていることが示されてます」

浅田が手を止めた。

「この金具1点から、そこまで分かるんですか」

「使用済みの術式痕に、護符の管理記号と同系統のものとしてこの金具に残っていたからわかったわけで、残ってなかったらわかりませんでした」

浅田は深く頷いた。

「ということは…別々の流入と捉えるよりも、同じ製作者によるものと考えた方がいいということですね」

「そう考えると辻褄が合います。接点は回収地点ではなく、搬入途中の一時集積側にある。ただ、現物をこれ以上増やしても、それ以上を遡れるかどうか分かりません。となると記録から示される場所を押さえて現地で調べた方が早い」

浅田が地図から顔を上げた。少し間があった。

「記録を読む上で、絞り込める要素はありますか」

「識別刻印の形式が近い部分が気になります。こういうのって作った順からナンバリングしていくと思うのですが、実際に回収された護符は別々の経路を経ています。一方で金具からは一緒に管理されていた記録が読み取れます。ここの関連性を調べると、どういうルートで流れていたのか、どの基準で流入していったのか意図が掴めるかもしれません。また、集積された場所が今回ある程度絞れそうなので、そこから上手く行けば製作元まで辿れるかもしれませんね」

浅田が記録と地図を交互に確認した。

「この情報は上に回します。調査班や協力先にも共有することになると思います」

「動きますか」

「優先順位を明確にして動きます。また何かが見えた時点で、真壁さんに判断をお願いしたい。今回のように現物を読んでいただく場面が出てくると思います」

「…次のあてはもうあるんですか」

浅田が記録の束を確認し、1点に指を止めた。

「搬入記録の照合結果から、外周保守区画の一時集積所が候補に上がっています。複数の荷が一度通る中継区画ですが、記録との照合が取れていない期間があります」

「なるほど。思ってた以上に範囲絞れているんですね」

「今のお話を伺い、もしかして、と気が付いただけです。また鑑定をお願いしたいものが出たら連絡します」

「分かりました」と返して荷物を持った。

浅田が軽く頭を下げ、俺も軽く会釈で返して会議室を出た。

廊下を歩いていると、携行ケースの中でシオがひとりでに動いた。

術式痕の近くでもなく、何かに反応したわけでもない。

ケースの合わせ目から光が薄く漏れ、しばらくして静まった。

「なにか気になることでもみつけたか?」

もちろんシオは反応しなかった。

その日の夜、30回目の配信を入れた。

品川第七ふ頭ダンジョンのB1Fから順に回る予定だ。

「お疲れ様です。今日はB1Fから順に回って行こうと思います」

腰のケースを軽く外してカメラに向けた。

シオが容器の中で意識したのか少し動いた。

「今日も同行しています」

ケースを戻し、ダンジョンの中を進みだした。

『シオまたいる』

『もう普通に同行してるな』

『回収屋さんとセット感ある』

いつものように通路の壁沿いを確認しながら進んだ。

段差の多い区間を抜けると、折り返しの近くに封印残滓のある布切れが落ちているのを見つけた。

鑑定では劣化した術式が残る廃材で、推定3千円前後だった。

回収して先に進むが、それ以降特に目立ったものは見つからない。

「今日は少なかったですね。次回に期待しつつ、配信を終わります」

そして配信を閉じた。

品川第七ふ頭ダンジョンを出た直後、携行ケースから感触が伝わってくるのがわかり、開けるとシオがゆっくりと俺の手を伝って登り始めた。

「こんなことは初めて…だな」

手首をしっかりとつかむように足をのばす。

そしていいポジションが取れたのか、そこで動かなくなる。

「まぁ、こんな日も悪くないか」

シオが落ちないように気を付けながら、そのまま帰宅した。