軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

元同僚の連絡と、横浜への再依頼

朝、スマホを開くと三浦からの文面が残っていた。

『会社でちょっと回ってる』

嫌な感じはあった。

ネット上の根拠が乏しい匿名の書き込みと違って、知ってる顔と名前のある人間が、それも近くで動いている話だ。

ただ、旧職場の中の動きを自分が直接止める手段はない。

できることをやるだけだった。

そのあと、少し経ってから三浦に返信した。

『俺から会社側に何か言うつもりはない。その話をこれ以上広げないでくれ。ただ、何か具体的に動いたらそのときだけ教えてくれ』

送信して、スマホを置いた。

15分ほどして返信が来た。

『了解。俺も広げるつもりはない。古田さんあたりはたぶん気づいてると思う。総務経由で変な噂になる前に言っておこうと思って』

返信はしなかった。

気を利かせたつもりで余計なことも言う。

三浦という人間は、会社にいた頃からずっとそういうタイプだった。

昼前、浅田からメッセージが届いた。

『横浜母岩の件で、管理局の専門チームを入れる前に追加確認をお願いしたいです。前回の切り出し地点付近に、まだ未確認の付着反応がある可能性があります。正式依頼として出しますので、受けるかどうか判断してください』

前回持ち帰った欠片を切り出したあたりの壁に、変色した部分があった。

特に気にしていなかったが、改めて確認するならそこだろう。

『受けます。次の配信を終えたあとで日程を調整します』

『ありがとうございます。依頼メールを明日までに送ります』

それで連絡は終わった。

そしてスマホを開いてスケジュールを確認する。

今夜の配信、それから横浜。

順番に動けばいい。

夜、25回目の配信を始めた。

「今日は品川のB4Fを見てきます。前はB3Fだったので少し下まで入ります」

コメントが流れた。

『今日も落ち着いた感じだな』

『こういう通常回も好き』

『前回のB3Fは一般的なダンジョンとだいぶ違ってたよな』

「大発見は期待しないでください」

B4Fへ下りた。

B3Fより通路が細く、照明の間隔が広い。

よく配信をするこのB4F区画は、B3Fと比べて恐らく倍以上広いと思う。

この辺りは東京ダンジョンに属している関係なのか、他の入り口も同じ特徴があり、この区画からようやく探索者っぽいことが出来るようになっていた。

他の入り口と大きく違うとすれば、ここは頻繁に魔物が狩られていてとても手入れが行き届いているところだろう。

だがら俺みたいな戦闘能力ゼロの探索者であっても、比較的安全を担保できる区画であった。

B3Fと比べると妙に乾燥していて足元が砂地混じりで滑りやすく、壁の質感が少し違うくらいで、これまでの経験上では探索しやすい場所だと思う。

通路を進んでいると壁側の地面に、小さな金属片がいくつか引っかかっていた。

縦3センチほどの薄い金属の札で、端に小さな穴が開いている。

表面が変色していて、刻印のようなものがかすかに残っていた。

古い名札か廃材にしか見えない。

「小さい金属片が何枚か落ちています。確認します」

一枚拾い上げて【鑑定】を向けた。

――――――――――――――――――――

旧式封緘タグ(単体)

希少度:C+

素材:旧式魔力封止合金

単体売却価値:2,000〜4,000円

備考:旧式の封印箱や魔力保管具の識別・封止部材として使用されたタグ。

単体では用途が限定されるが、同系統のタグが3〜4枚揃うと旧式保管具の修復素材として需要が出る。まとめると40,000〜70,000円程度になる

――――――――――――――――――――

「単体だとそこまでですが、同じ種類が揃うと4万〜7万円ほどになります」

周囲を確認した。

同じ形のものが壁際に散らばっており、持っている物を含めると5枚あった。

「あと4枚あります。全部持って帰ります」

『地味だけど確実』

『揃えると価値が出るのか』

『こういう地道なやつ好き』

「大きいものが出る日ばかりじゃないので。これで十分です」

5枚まとめて袋に入れた。

こういう派手さはなく、分かる人にしか見つけられない物を見つけ、そして拾っているときの方が落ち着く。

このやり方が、今の自分には一番合っていた。

配信を終えたのは2時間後だった。

視聴者ピークは5,900人。前回に引き続いて穏やかな回だった。

スレを確認しすると特に新しい動きはない。

他も確認していくと、メッセージアプリに通知が残っていた。三浦からだった。

『まだ名前は出てない。ただ声で気づくやつはいるかも』

特に返信する必要がなかったため、そのままにしておく。

部屋の机の上に、民間鑑定士の証明書と、浅田から届いた横浜再調査の依頼メールを表示し、今日回収した旧式封緘タグ5枚を並べた。

現実側の見えない圧は少しずつ増えている。

とは言え、だから何だ、という話なので今は目の前のことに集中していこうと思う、そんな日であった。