軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1万人と、業界記事と、封印された小部屋

翌朝、魔素結石を精製業者に持ち込んだ。

受付で3点をまとめて袋から出すと、担当者が少し目を細めた。

「同一鉱脈のものですか」

「鑑定でそう出ました」

「珍しいですね。セットで持ち込まれるのはほぼないので。仕上がりは3日から5日いただきます」

「お願いします」

預かり証と精製料の見積もりを受け取って外に出た。

単体では価値のなかった石が、揃えることで変わる。

そういう仕組みを知っているのと知らないのとでは、ダンジョンの見え方が全然違う。

これぞ鑑定スキルの真骨頂だな、そう感じつつ所用を済ませていった。

昼ごろ、榊からメッセージが来た。

『回収屋さん、業界メディアに記事出てるの知ってます?』

URLが貼られていた。

開くと、ダンジョン関連の専門メディアのサイトだった。

記事のタイトルは『在野の鑑定師・回収屋が業界に波紋——無名チャンネルが1万人に迫る理由』。

読み進めると、自分の配信のことが書いてあった。

呪詛護符の発見、偽造品の見抜き、折れた大剣の修復提案。

配信のアーカイブから引用する形で、『通常の探索者では不可能な精度の鑑定を持つ人物』という切り口で書かれている。

顔も名前も出ていない。

『フードの回収屋』という表記だけだ。

榊から追加のメッセージが来た。

『SNSでかなり回ってます。ダンジョン業界の人が何人かシェアしてて。管理局の中の人も見てるらしいですよ』

『そうですか』

『嬉しくないですか』

『複雑です』

注目が増えるのは配信にとってはいい。

でも正体特定スレが動いているのも事実で、記事が出ればそちらも加速する。

しばらく考えてから、『見てくれてありがとう』と返す。

『次の配信、楽しみにしてます』と榊は返してやり取りは終了した。

夜、15回目の配信を始めた。

登録者は8,940人になっていた。

昼の記事の拡散効果が出ている。

「今日はB4Fの南側の続きを回ります。先週と別のルートで」

『今日も来た』

『記事見て来ました』

『はじめて見ます』

「記事、見てくれた方もいるみたいですね。ありがとうございます。とは言え、やることも変わらずいつも通りやります」

B4Fに降りると、巡回中らしい中年スタッフが通路の脇に立っていた。

「記事出てたな」

「見てたんですか」

「管理局の朝のミーティングで話題になってた」

それは思ったより広まっている。

「何か問題ありますか」

「別に。ただ、目立つと面倒が増えるぞ」

「分かってます」

スタッフが缶コーヒーを一口飲んで、別の方向に歩いていった。

配信を続けながら南側のルートを進んだ。

先週と別の通路に入ると、壁の質が変わった。

整備された区画から外れたような、古い石造りの壁だ。

「なんか雰囲気が変わりましたね。このルート、最近施設の改修が入ってないのかもしれない」

『雰囲気ちょっと違う』

『怖くない?』

『進んで』

進むと通路の突き当たりに扉があった。

金属製で表面に古い術式の刻印があり、施錠されているが取っ手が付いている。

「……扉がある。地図に載ってない」

【鑑定】を向けた。

――――――――――――――――――――

封印扉(施錠解除済み)

状態:封印は現在無効化されている

備考:かつて何らかの理由で封印されていたが、封印の術式が経年劣化で失効している

扉の向こうに物品の反応あり

危険度:低(魔物の気配なし)

推奨:入室可能。ただし管理局への事後報告を推奨

――――――――――――――――――――

「封印が切れてて、開けられます。中に何かあるみたいですが、危険はないと出ました」

コメントが一気に動いた。

『開けて』

『やばいやつじゃないの』

『入れるなら入ってほしい』

取っ手を引くと結構な重みを感じる。

想像以上に重い扉だったが、力を入れるとゆっくり開いていく。

扉をあけると、すぐ埃っぽい匂いを感じる。

慎重に中を伺うと小部屋が一つの作りになっていた。

約6畳ほどの広さで棚が壁際に並んでおり、埃の積もり方からして相当な年月が経ってそうだ。

棚の上を丁寧に見て回ると、古い魔道具が5点置いてあった。

埃をかぶってはいるが、しっかりと形は保っている。

「これ……かなり古そうですね。全部鑑定してみます」

1点ずつ【鑑定】を向けた。

――――――――――――――――――――

旧式魔力増幅器(損傷あり)

希少度:B

現在価値:低(損傷のため)

修復可否:可能

修復後推定価値:15万〜22万円

備考:現行品より旧式だが基礎術式の精度が高い

修復には魔道具専門の業者が必要

――――――――――――――――――――

「これは修復できます。しかも修復後15万〜22万円」

『また修復案件』

『回収屋の得意パターンだ』

続けて2点目。

――――――――――――――――――――

魔力蓄積型護符・旧式(機能停止)

希少度:C

現在価値:低(機能停止)

修復可否:可能(術式の再刻印で復活)

修復後推定価値:4万〜6万円

備考:旧式の術式構造だが素材は良質

――――――――――――――――――――

3点目。

――――――――――――――――――――

古式魔鋼製小刀(刃こぼれあり)

希少度:B

現在価値:素材価値として7万〜10万円

修復可否:不可(刃の構造が再鍛造に不向き)

備考:刃の修復は困難だが素材の魔鋼自体に価値がある

買取業者への直接持ち込みを推奨

――――――――――――――――――――

4点目。

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魔力石製小瓶(中身あり)

希少度:C

現在価値:内容物込みで3万〜4万円

備考:保存状態が良好な魔力液が封入されている

専門の薬品業者への持ち込みを推奨

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5点目。

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旧式術式板(劣化)

希少度:D

現在価値:ほぼなし

備考:術式が完全に失効しており、素材としての価値も低い

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「5点全部鑑定しました。修復できるものが2点、素材として使えるものが2点、価値がないのが1点です」

コメントが止まった。

『部屋ごと宝の山じゃん』

『封印されてた理由は』

『管理局に報告するの?』

「管理局には帰りに報告します。そもそもこの部屋、地図に載ってないということは、廃棄区画なんだと思います。放置されてた物品は回収品の扱いになると思うので、持ち出して大丈夫なはずです」

5点を袋に入れると重みを感じる。

「けっこうずっしりきますね」

部屋を出るとき、コメント欄の数字が目に入った。

登録者が9,700人になっていた。

配信を続けながら他にも何かないかと周囲を探索しつつ、出口方向へ向かっていた。

今回は一つの山場もきっちりと配信できたし、中身の濃い回だったと思う。

そんなことを思いつつも出入口のゲートを抜けると、スマホの通知が来た。

ダンジョンTubeからの自動通知だった。

『おめでとうございます。チャンネル登録者が10,000人を超えました』

そのメッセージに思わず立ち止まる。

「……10,000人になりました」

コメントが一気に流れた。

『おめでとうーー!!』

『ついに!』

『記念すべき瞬間が配信中に来た』

『ここにいてよかった』

「ありがとうございます。本当にありがとうございます」

言葉が少し詰まった。

0人から始めたこの配信が、最初の配信で38人が見てくれて、今夜1万人になった。

コメント欄に祝福が次々と流れていく。読み切る前に、新しい行が上に重なっていく。

画面を一度伏せて、もう一度開いた。数字は変わっていなかった。

「これからもよろしくお願いします」

管理局に封印部屋の件を報告してから、修復業者に2点を預けた。

残りの2点は翌日に別の業者に持ち込む予定にした。

「1万人かぁ」

帰路につく最中、これまでのことを考えていた。

配信を始めてからまだ1か月も経っていない。

にもかかわらず、もう登録者数が1万人を突破した。

「会社をクビになってからのほうが人生順調過ぎだろ」

人生、何が転機になるかよく分からないものだ。

生暖かい夜風が優しく頬を撫で春の到来を感じる、そんな日の夜の1コマだった。