軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「貴女より、わたしの方がずっと、ディイの役に立ってきたのに……!」

そう言って泣き腫らした目で私を睨み付けるユナさんですが、私からしたら知らないよそんなことって状況です。

何が悲しゅうて買い物から帰ってきて隙間で泣いている女に喧嘩ふっかけられなきゃいけないんでしょうか。

そもそも、フィライラ・ディルネさまとユナさんの関係はお二人のものであって、プリメラさまと私の関係は私たちのものなのです。

なんか知りませんけど、私に、というか私たち主従よりも自分たち主従の方が絆がどーたらこーたらと張り合っておられるようなんですが……。

比べてどうするのかって話なので、私たちとしてはとても迷惑です。

ええ、迷惑千万とはまさにこのこと!

(とはいえ)

ここでそれらを説いたところで、今の彼女が聞き入れるはずもなく……というか、そもそもそれで聞き入れるくらいだったらとっくの昔に更生しているんだろうなって思うので、おそらくは何を言っても無駄なのでしょう。

ルネさんが必死に彼女に部屋に戻るよう訴えていますが、動かないのがその証拠です。動かない、というよりも私をただただ睨み付けているだけですけども。

ニコラスさんも困ったように苦笑してどうしたものかと思案しているようです。

まあそりゃそうでしょうね、一応、問題行動を起こし謹慎中の身であるとはいえ、彼女は他国からのお客人なのですから。

フィライラ・ディルネさまのオマケという扱いであろうとも、お客人はお客人。

そういう意味では扱いが難しい存在です。

「ユナ!」

彼女を置いて我々だけ去るというわけにもいかず、クリストファの連絡を受けてマリンナル王国の騎士が早くきてくれることをただ待っていた私たちのところに、予想外にもフィライラ・ディルネさまがやってきました。

勿論、護衛の騎士もつれて。

そして王子宮筆頭がお茶の載ったワゴンを押してやってきたことには思わずむせるかと思いました。

(なんで、ワゴンでお茶をここに持ってきたのかな!?)

私の視線を受けた王子宮筆頭は苦笑すると私に歩み寄って、小声で教えてくれました。

先にフィライラ・ディルネさまが知ったなら、きっとそちらに行くだろうから茶を持っていってやってほしいと王太子殿下が仰ったのだとか。

それと、本当はこの場に王太子殿下も来たかったそうなのですが、必要以上に大事になってはいけないから王子宮筆頭に託した……ということです。

「フィライラ・ディルネさま、お茶の準備は済んでおります。ラウンジの方で人払いをしておきましたので、そちらにまずはみなさま行かれてはいかがかと」

「……ええ」

フィライラ・ディルネさまは王子宮筆頭の声に、そう返事はしましたが……とても厳しい表情で、ユナさんのことを見ています。

ユナさんの方はそんなフィライラ・ディルネさまが見えているはずなのに、まるで救いの女神が来たとでも思っているかのような表情をしているからなんだかぞっとしました。

なんて温度差でしょう……かみ合ってない主従なんだなあ、本当に。

「ユリア!」

「……プリメラさま」

そして遅れてプリメラさまとケイトリンさんが現れて、廊下が一気に賑やかになりました。

寝ていたのに起きちゃったんですね、なんてことでしょう!

「申し訳ございません、お休みのところをお騒がせしてしまいましたか」

「ううん、いいのよ。セバスが連絡を受けて対処しているところに起きてしまって……心配で来ちゃった」

「プリメラさま……ありがとうございます。ですが、私に問題はございませんのでご安心ください。さ、お部屋に……」

ああーなんて可愛いんでしょう。

私の身を案じてくれて来てくれるだなんて!

ケイトリンさんも言葉や態度には出していませんが、私が無事でほっとしているようです。

いや、待って?

ユナさんがそんな凶行に走りそうって騎士団の方では思ってたわけ?

(じゃあ、もし彼女が そんな人(・・・・) だったと仮定して……この男……)

思わず視線だけゆっくりと向ければ、ニコラスさんが今日一番のスマイルを見せました。

わかってたね? わかってて囮になってくれって言ったのね?

ただ突撃してくるっていうから、私もきちんと確認せず『文句を言いに来る』ものだとばかり勘違いしていたとはいえ……危険がありそうなら事前に言え!

(いや、勘違いした私が悪いんだな、この場合)

侍女としての危機管理問題か。

これはニコラスさんだけに問題があったとは言えないので、私は口を噤むしかありません。

後でセバスチャンさんにお説教される気がしますが、それら全部を見越してニコラスさんは私を誘ったに違いありません。

(……まあ、実際、必要があれば危険だったとしても応じたでしょうしね)

主のためになるならば、ある程度の裁量を持って行動をする。

そういうものなのですから。

勿論、それが迷惑になる可能性もあるのでそこんとこは考慮しますよ!

……今回のことは予想外すぎましたが!

「ディイ、私はあなたの『特別』だわ」

「……ユナ……」

「お願い、クーラウムの王女殿下とあの侍女殿にも負けることはない、私たちは特別な絆を持っているのだって貴女の口から言って!」

その必死に縋るような言葉に、私はなんとも言えない気持ちになります。

プリメラさまを庇うように、守るように思わず寄り添えば、プリメラさまは目を丸くしたままユナさんを見つつ私にしがみついてきました。

「外交官が言っていた、『まるで姉妹のように、あるいは母子のように寄り添うその姿は信頼関係がまるで目に見えるようだ』なんて! 私たちは本当の姉妹だもの、周りが私たちを引き裂こうと――」

「姉妹じゃないわ」

答えてくれないフィライラ・ディルネさまに痺れを切らしたように言葉を続けるユナさんに、冷たい答えが向けられました。

その言葉は端的で、そしてなんの感情も含まれていないようなもので、私たちもひやりとしたものを感じたのだから、向けられたユナさんはより一層それを感じたのではないでしょうか。

すっかり顔色をなくして……アレは強烈ですね……!

えっ、私たちこの場にいる必要ありますかね?

出来たらですけど、せめてプリメラさまにはこういう現場を見ていただきたくないし夜はまだまだ寒いので、早めにベッドにお戻りいただきたいんですけども。

「……では、マリンナル王国の方々がお迎えに来てくださいましたし、後のことは王子宮筆頭とニコラス殿にお任せして我々は部屋に戻らせていただきましょう」

私はあえてにこやかに声を発して王子宮筆頭を見ました。

彼女もそれで問題ないと言うように頷いてみせてくれたので、私も心の中でほっとしつつフィライラ・ディルネさまに向かってお辞儀をしました。

「なんで!? なんでそんなことを言うの、ディイ! ねえ、貴女もそう思うでしょ? 貴女は た(・) だ(・) の(・) 侍女だけど、私とディイは乳姉妹なの、それって『特別』でしょう!?」

(なんでこっちに振るかな!?)

とっととこの場を後にしよう、そう思ったのに何故かユナさんは私に向かって話題を振って来るじゃありませんか。

これがなりふり構わない人間ってヤツか……!!

それに対して答えれば色々と角が立つような気がして、私は無視を決め込んでこの場を後にすべきだと判断し、プリメラさまと共にこの場を去ろうとして……失敗しました。

なぜなら、プリメラさまがユナさんに向かって一歩踏み出したからです。

(……プリメラさま……?)

自分たちの関係を話題にされて、苛立ったのだろうか。

そう思いましたが、様子が違います。

プリメラさまはとても穏やかな表情のまま、フィライラ・ディルネさまを見て、それからユナさんを見て、優しく微笑んだのです。