軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「ユリア」

「はい」

プリメラさまは、ユナさんを見つめたまま静かに私のことを呼びました。

何を求められているのか、この状況ではわかりませんが私を必要としてくださっている、それだけわかっていれば十分です。

私の返事が聞こえてもプリメラさまは振り向くことなく、ユナさんを見つめていました。

彼女はどうして良いのかわからないのでしょう、驚いた顔のままプリメラさまを見上げています。

そして、そんな彼女たちのことを、フィライラ・ディルネさまも見ておられました。

(プリメラさま、何をなさるおつもりなのかしら……)

たとえどんな状況になろうとも、私はプリメラさまのなさることを応援しますけどね!

あ、勿論誤ったことをなさるようならお止めしますよ。それが専属侍女ってものです。

「ユリア、貴女は自分が何者か言えて?」

「プリメラさまの専属侍女であり、クーラウム王国王女宮筆頭です」

問われて私はそう答え、ふと子爵令嬢であることも付け加えるべきだったかと少し反省しつつもプリメラさまを見ました。

プリメラさまは私の回答にようやくこちらを向いたかと思うと、満面の笑みを見せてくださいました。

「ええ、そうよね。ユリアは 誰よりも(・・・・) 一番傍にいてくれる、わたしの、大切な侍女だわ」

そう微笑んで一つ一つハッキリと区切るような言い方をしたプリメラさまは、再びユナさんの方へと視線を向けました。

「誰よりもわたしの傍でわたしを支え、それでいて己を弁えるユリアがいてくれるからこそ、わたしは立派な王女でいようと考えているわ。そうでしょう? フィライラ・ディルネさま」

「えっ?」

「フィライラ・ディルネさまのことは兄より伺っておりました。穏やかで、それでいて意志の強い女性であられると。その上、商会も立ち上げられ、 苦(・) 労(・) も(・) 厭(・) わ(・) ず(・) 大きくしてこられた手腕をお持ちだとか……わたしのように未だ公務も初めての子供からすると、ご立派だと思います」

「あ、ありがとうございます……」

戸惑うフィライラ・ディルネさまはそれでもなんとか笑顔を返しておられました。

それでもこの場の空気は、もうプリメラさまが主導権を握っていると言っても過言ではないでしょう。

「わたし、そんな立派な方がお 義姉(ねえ) さまになってくださると聞いて嬉しいです。是非、マリンナル王国の町中のことなどをお伺いしたいわ!」

「プリメラさま……」

「もしよろしければ、明日にでもお茶会をいたしましょう。今日はあれこれと色々ございましたし、是非、兄を抜きにして女同士のお話がしたいですもの。特別なケーキも準備してありますの」

ユナさんに向けて放つ言葉は、割と辛辣だ。

穏やかに、優しく、彼女に向けてではない言葉ではあるけれど……プリメラさまの言葉は私にはこう聞こえた。

役割を忘れて溺れた者は、特別になれない。

フィライラ・ディルネさまは自分の力で商会を切り盛りしていた、その苦労があったなら彼女の努力だと……。

ユナさんが声高に叫び、フィライラ・ディルネさまに縋って並べる言葉はどれもこれも、独りよがりなのだろうと私も思う。

(……でも、それはたまたま、なのかな)

もし、フィライラ・ディルネさまが本当に転生者で……記憶を拒むことなく受け入れていたら、彼女は確かに知識無双をしてユナさんが思い描いたような未来があったのかもしれない。

ただ、それをフィライラ・ディルネさまが拒んだのであれば、それを受け入れたら良かっただけの話ではあるのだけど……ユナさんは、それが出来なかった。

特別という言葉にこだわるその姿は、私には理解出来ない。

だけど、私も彼女も王女の傍に近くあり、家族同然だったという点は同じだ。

「どうして……」

「行きましょう、ユリア。明日も忙しいものね」

「……かしこまりました」

「ニコラスも、お兄さまがお待ちよ?」

「……教えていただき、ありがとうございます王女殿下」

ニコラスさんは王太子殿下に叱られるといいよ。

プリメラさまが歩き出し、私もニコラスさんもそれに続きました。

王子宮筆頭が後は任せろとハンドサインをしてくれましたので、私も会釈だけしておきました。

プリメラさまはもうユナさんを見ませんでした。

言いたいことは終わったと言わんばかりにフィライラ・ディルネさまに笑顔を向け、そしてこの場を後にすることにしたのです。

この後のことは王子宮筆頭が取り仕切り、ユナさんは再び軟禁されるのか、或いはマリンナル王国の騎士たちによって一足早く国元へ戻されるのか。

その辺りについてはわかりませんが、おそらくそのようになるでしょう。

「それではボクはここで失礼いたします。おやすみなさいませ、王女殿下」

「ええ」

プリメラさまのお部屋の前でニコラスさんが一礼し去って、護衛騎士たちによってドアを開けてもらってプリメラさまと私は室内に入りました。

スカーレットとセバスチャンさんの姿はなく、プリメラさまはふーっとため息を吐いて伸びを一つ。

「セバスにはね、ユリアと戻ってくるから大丈夫って言っちゃった」

ぺろりと舌を出してウィンクするとか可愛すぎか!!

変な声が出そうになるのを呑み込んで、私は抱きついてきたプリメラさまをそっと抱きしめ返します。

んんん、やっぱり可愛すぎか!!

「かあさまがお出かけしてたなんて知らなかったわ。んもう、ずるい!」

「申し訳ございません、王太后さまより頼まれた品がございまして……」

「おばあさまの? ううん……じゃあ、しょうがないわね。でも、さっきはびっくりしたわね!」

コロコロと笑うプリメラさまでしたが、すぐに真面目な顔になって私に抱きついたまま小首を傾げました。

「わたしね、フィライラ・ディルネさまは嫌いじゃないわ。きっと好きになれると思うの」

「……プリメラさま?」

「でも、あのユナはだめ。絶対に、明日、フィライラ・ディルネさまにあの人を国元に送り返してもらわなくっちゃ」

ぷっと頬を膨らませたプリメラさまは大変可愛らしいですが、言っている内容はかなり横暴です。

いえ、ユナさんが大変問題行動を起こしてばかりいるので、正当性はあるのですが……その前後がなかったら、ただの好き嫌いにもとられかねません。

そのことについて一応、一言伝えておこうかと思いましたがプリメラさまは言葉を続けました。

「あの人は、フィライラ・ディルネさまのために――ひいてはお兄さまのためにならないもの。この国の王女として、あの人が言う『特別』はおかしいってはっきり言わなくちゃと思ったの。でも直接あのユナって人に言ったら、角が立つでしょう?」

「はい」

「ユリアはプリメラのかあさまだけど、侍女だわ。侍女であり続けてくれる、それがどのくらいすごいことなのか……プリメラはちゃんとわかってるの」

「プリメラさま……」

「あの人も、文官とか、侍女とか……そういう自分の立場を忘れないでいたら、フィライラ・ディルネさまにとって助けになったのかしら」

「それはわかりません」

そう、もし、とかそういう仮定を考えても、今現在が変わるわけではありません。

ましてや、私たちがどうこう思おうと、ユナさんがそこに気がつかなければ何も変わらないのだと思います。

私の言葉に、プリメラさまは少しだけ悲しそうなお顔をなさいましたがすぐに笑顔になって……それから不満そうな顔を見せました。

おや?

そう思った私に、プリメラさまがまた勢いよく抱きついてきたのでした。