軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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(それにしても)

ミュリエッタさんの話だと、誰かがアルダールにクレドリタス夫人のことを伝えてきて……それで彼は国を捨てて自由を選ぶ、という話でした。

まあ前提として、それも彼女と行動を共にしている時なのでまず現状ではあり得ない状況なんですが……ともかく、それは崩れ去ったわけですね。

いやまあ、彼女から私が話を聞いて、それを上の人に話した段階で『秘密にしていた内容が第三者から余計な尾鰭がついた状態でアルダールに伝わる』可能性は十分に考えられた話です。

そうなれば、バウム伯爵さまが息子に対してきちんと事実を説明するのも頷けるというものでした。

(……ミュリエッタさん的に、私を揺さぶるためにその話をしたはずなのに結果としてやぶ蛇状態でしたね……)

私としても意図してどうこうってわけじゃないですし、びっくりしてばかりですが……まあ、状況を冷静に考えればこうなるのは当然の流れなんだろうなって思いました。

当然ミュリエッタさんに、アルダールが事実を知ったかどうかなんて話は行かないと思いますが、これを聞いたら彼女はさぞ落胆することでしょうね。

まあそもそもの大前提として、『アルダールと家族がすれ違っている状況での実母問題』として語っていた内容からして違うのだから過程はどうあれ、結果は今と変わらないのかもしれないなとも思いますが。

アルダールが聞かせてくれた話は驚きではありましたが、彼が今の家族を大切な家族として、意思疎通できていて、心配だった実母の件もあっさりと乗り越えて……いえ、あっさりではないんでしょうが。

私が知らないところで、アルダールの中でたくさんの葛藤があったと思いますし。

でも、それを微塵も感じさせずに優しく笑う彼の姿や、美味しい料理とお酒にすっかり私は良い気分になってしまったのです。

いやいや、だって良いことが多くて嬉しくなっちゃうものでしょ?

アルダールも忙しさが落ち着いたんだし、怪我もなくてそれだけで私としては嬉しかったのに、その上こんな良い話が聞けたんだもの!

アルダールが実母の件を知って傷つくってミュリエッタさんの発言を、私だって気にしていなかったわけじゃないんです。

家族と上手くいっているからきっと大丈夫だろうとは思ってました。

でも、傷つかないわけじゃないでしょう?

それが心配でした。

かといって、私が率先して『それを知っています、支えます』なんて相手の繊細な部分に土足で踏み込むわけにもいかなかったし、なにより職務上内密の話ってなっていたわけですし……。

結局、ひっそりと心配するしかできないことを歯がゆく思うだけでした。

でも、もうその心配もないのです!

「ごめんなさい、すっかりお支払いまでお任せしてしまって……」

「いや、いいよ。今度はユリアがまた美味しいものを作ってくれると嬉しいな」

「それじゃあ対価に見合わない気がするけど、ええ、勿論」

私たちはお店を後にして、ゆっくりとした足取りで王城へと向かう馬車の乗り場へと歩き始めました。

馬車をこの場に呼んでも良かったんですけどね!

ちょっとした酔い覚ましと、食後の運動を兼ねてのことです。美味しい物を食べ過ぎた感が拭えないので少しこういう時に運動をしないとですね、おなか回りが……いえ、なんでもありません。

勿論、アルダールにエスコートしてもらってね!

すっかりこうやって手を繋いで歩くのも、当たり前になりました。

お互い社会人同士だから忙しい時は会えないこともあるけれど、こうやって落ち着いた時に過ごせる時間というのは本当に嬉しいですよね。

アルダールがいつだって優しいからそれに甘えがちで申し訳ないと思いますが、私も精一杯アルダールが喜ぶようなお菓子とかお酒を準備することにしましょう!

いざとなったらメッタボンにお勧めのお酒を教えてもらって買ってきてもらうっていうテもあるしね。

メッタボンのツテなら信頼できるでしょうし、安心です。

「でもどうして外で? 城内で誰かに聞かれたくなかったとかなら、私の部屋でも良かったんじゃ」

「うん? ああ、まあそうなんだけどね……なんていうか、ちょっとしたお祝いみたいな気分だったんだよ」

アルダールがちょっとだけ照れたように笑ってそう言うものだから、なんとなく私まで照れくさくなりました。だって、私もお祝いしたい話だとか思ったわけですし!

以心伝心? テレパシー?

いやそういうんじゃないってわかってますけどね!

「……いつか、そうだなあ、将来的な話だけどね。親父殿が引退とか隠居するか、或いは今際の際か。それくらい先の未来で、実母について話を聞けたらとは思っていたんだ」

「えっ」

「家族は家族だし、もしかすれば実母は亡くなっているとかそういうこともあり得ただろう? それなら墓参りくらいはしてもいいかなと思って」

ああ、そうか。そういう可能性があってもおかしくないよね……。

実母が誰かを明かされない、生死すら知らない。そういう状況でしたし。

私はクレドリタス夫人のことを聞いていたから、アルダールが知ったら傷つくのかなって心配だっただけですけど……彼はもっと前から、色々考えていたんですものね。

しかしそんな先まで聞く気はなかったって辺りに、この話題についてがどれほどバウム家で触れてはならない話みたいになっているかが窺えた気がします。

「誰かわからなかったし、もしかしたらどこかで幸せな家庭を築いているのかもしれない。少し前の私なら、それならいよいよ自分の居場所がないと考えたろうなあ」

「ええっ?」

思わず私は声を上げました。いやそんな、居場所がないだなんて!

でもアルダールはそんな私を見ておかしそうに笑いました。

「呼び出されて『実母の話がある』って言われたときは正直、動揺した。いつかは聞こうと思っていたけど、今じゃなくてもいいんじゃないか。そう思って自分でも驚いたね」

「……そうなの?」

「うん。聞くのが怖かったんだろうなあ、だけど聞いてみたら大したこともなくて、ただただ『ああそうなのか』って思っただけで……」

不意に、アルダールが私の手を少しだけ強く握りました。

私が顔を上げれば、彼が優しく笑うのが見えます。

「こういう気持ちを、誰かに聞いてもらいたいと思った時に隣にいてくれるっていうのは、幸せだね」

「……ええ。話せる時は、いつでも話してね。私も話すから」

幸せだ。

そう言ってくれるアルダールに、私も幸せだなあと思いました。

先のことはまだわからないし、私自身が未熟で反省することや思い悩むことも多い中、こうして恋人がいて、職場に恵まれて、尊敬できる上司や同輩がいて、可愛い後輩がいて、お仕えする王女さまが美少女で可愛くて優しくて母親として慕ってくれるだなんて、私、本当に恵まれております。

「……ユリアさま……」

もう少しで馬車乗り場というところで、ふと、呼ばれた気がしました。

人が多いので見知った顔でもいたのだろうかと声のする方へと顔を向けると、そこには大勢の人の中に紛れるようにして立っているミュリエッタさんの姿がありました。

彼女は一人ではなく、タルボットさんとご一緒のようです。だとすると、治療院帰りか何かでしょうか。

「ミュリエッタさん」

私がその名前を呼ぶのと同時に、アルダールが私をぐっと抱き寄せました。

えっと思いましたが、何もなかったかのようにアルダールが歩き出して馬車のところにいる御者に声をかけているので私もそれ以上彼女に近寄れず、彼女もまたこちらをじっと見ているだけでした。

(……特に、用があったわけじゃない……のかな?)

馬車に乗るよう促された際にちらりと見た時には、ミュリエッタさんもタルボットさんに背中を押され、歩き出す姿だったのでした。