軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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アルダールと一緒に来たのはいつもの野苺亭……ではなく、今日はもう少し落ち着いた雰囲気のレストランでした。

なんだかドレスコードとか言われそうな空気が漂っていますが、私だってそこはなんてない顔で当然かのように振る舞って見せましたとも。

これでも! 貴族令嬢なんで!!

いやまあ、内心はおわかりでしょうが心配でしょうがなかったですけどね。

(まさかご飯食べに行くだけでこういうところに行くと思わなかったんだもの……)

仕事上がりに恋人と、いつものように食事に行くだけ。

特別、記念日だとかそんなことでもないので……私の中ではもっと気軽に楽しむようなお店かと……いや待てよ、本来貴族としてはこういうお店の方が一般的だった。

とはいえ、今日はそう、何でもない日です。

ですのでちょっと驚いただけでそれ以外は何もなく、普通にお食事を楽しみました!

コース料理のみのご提示って言われた時にはお値段が心配になりましたけどね!

……いざとなったら、王城に請求書を送ってもらおう。アルダールに知られる前に。

一応持ってきてますけど! 念のためそういう所も気にしておかないとね!!

じゃないとアルダールがさっさと支払って何事もなかったかのようにオシマイになってしまいますからね……!!

しかし、料理は絶品でした。

これはメッタボンに勝るとも劣らない……!!

「そういえばこの間、ユリアが聞いてきたことがあっただろう?」

「え?」

「母に会いたいか……って」

「え? あ、あー……ありましたね、そんなことも」

エーレンさんとのお茶会の話をした時に、ちょっとだけ。

でもアルダールの答えは、バウム家の家族がいるからもう気にしていないって言う物だったと思いましたが……私が首を傾げると、アルダールはくすっと笑いました。

「今日誘ったのは、話したいことがあって」

「話したいこと……ですか?」

「うん、実は昼間に親父殿に呼び出されてね」

「まあ、バウム伯爵さまにですか?」

「王城で私を呼び出すなんて珍しいから何事かと思ったよ」

アルダールはおかしそうに笑いながらワインを飲んでいました。

私は何があったのだろうと首を傾げるばかりでしたが、彼が『話したい』というのだからと黙って続きを待っているとふと、アルダールは真面目な顔をしました。

「私の実母が、クレドリタス夫人だと……そう、親父殿が明かしてきたんだ」

「えっ!」

驚いて声が出てしまい、私は慌てて周囲を見てしまいました。

幸いそこまで大きな声だったわけではないようで、誰もこちらを気にする様子はありません。

けれど、これは驚かずにいられませんよね!

「親父殿に言わせれば、今の私だったら話しても問題ないだろうと思った……とのことでね。今更何を言い出すのかと呆れもしたが、まあわからなくはないかな……」

困ったように笑うアルダールも、家族のことで悩んだ時にこのことを聞かされていたら心穏やかにはいられないと思ったのでしょうね。

まあ、ミュリエッタさんの“予知”によれば、アルダールはその事実に打ちのめされるということでしたから……実際には、そうならなかったわけですけど。

心臓がバクバクしましたが、私はアルダールをじっと見つめました。

彼の様子はとても穏やかで、落胆しているとか……苦々しいとか、そういう雰囲気はまるでなくて、拍子抜けなくらいいつも通りです。

「あの、アルダール……落ち着いて、いるのね……?」

「……そうだね、自分でもびっくりするくらいなんとも思わなかったよ」

私の言葉に、ちょっとだけ驚いた顔を見せてから困ったように……申し訳ないように笑うアルダールは、言葉を続けました。

「だから憎まれていたんだなと腑に落ちただけだった。親父殿にも驚かれたな」

「そう、なんですね……」

「何故あそこまで憎まれるのかわからなかったから、私は彼女に対して嫌悪感を抱いていたんだと思う」

思い出すのは、アルダールが町屋敷でバウム家の使用人たちに、距離を置いた態度で接していたこと。

その中で、クレドリタス夫人に対してだけは負けたくないという、意地が見えたこと。

アルダールの中で、クレドリタス夫人は……色んな意味で、『特別』だったのでしょう。

「バウム家の縁者や使用人たちの中には私を軽んじる人間は大勢いた、だけど、彼女だけは違ったから」

「アルダール」

「憎しみをぶつけてきた初めての人間で……私が憎らしく思った、初めての相手なのだろうと思う」

そっと目を伏せたアルダールの表情は静かで、それ以上わかりませんでした。

ただ、なんとも言えない思いというのがあるんだろうなとは思います。だから私も、何も言えませんでした。

「親父殿に対しては、あまり……そうだな、クレドリタス夫人が私の家庭教師になる前までは、父親というものがどういうものかもよくわかっていなかったから」

アルダールに言わせれば、バウム伯爵様は『父親』という存在というか、概念というか……まあ、顔も碌に合わせていなかったんですからそれは仕方のないことだったのかもしれません。

その後、物心ついた時にクレドリタス夫人が家庭教師として傍に現れたことで、バウム伯爵様の為にならないと延々聞かされたり、憎しみをぶつけられたこと、そこに加えて家族として迎えられた後も素直に受け入れられなかった、と……。

「まったく、奇妙な話だった。あんなに会いたいと願った実母は傍にいて、私を嫌っていたんだからね。そして、私もそうだったのだから」

「……」

「ああ、ごめん。暗い話になってしまったけど、……ユリアもクレドリタス夫人のことを知っていたからね。話しておきたいなと思って」

「アルダール……」

「本当に、気にしたりとか、そういうことはないんだ。それに、もう理由もわかったならクレドリタス夫人のことを気にすることもなくなりそうだって話しておきたかっただけで」

ただ、隠しておきたくなかっただけ。

そう囁くように言われて、私は目を瞬かせてしまいました!

嫌な記憶だから、嫌っている相手の話だから。

そんな風にして、なかったことにするのはとても簡単なのに……。

「他の誰かからユリアの耳に入るくらいなら、私がちゃんと私の言葉で知らせておきたかったと思ってね。事実だけならともかく、勝手な噂話まで付随したらたまったもんじゃない」

「まあ!」

「……きっと、私がこうして何も思わずに済んだのは、ユリアがいてくれたからなんだ。前にも言ったけど、私が家族と向き合うきっかけをくれたのは君だからね」

くすくす笑うアルダールに、私も笑いました。

本当に、吹っ切れたんだなあと思うと私も嬉しいです。

「今じゃ義母上には腹を間違えて生まれてきた……なんて言われてるけどね、それがしっくりきてるんだからおかしな話だと思わないかい?」

くすくす笑うアルダールに、私はほっとしつつ嬉しかったです。

私と出会って、家族と仲良くなって……辛いものを乗り越えていくアルダールは、素敵だなあと思わずにいられません。

(そして、なによりも、それを話してくれて嬉しい)

私はテーブルの上にある、アルダールの手にそっと自分の手を重ねました。

いつものように、何も言わず好きにさせてくれた彼はどうかしたのかと私に視線を向けていましたが、私はただ胸がいっぱいで。

「……話してくれて、ありがとう」

そう言うだけで、精一杯なのでした。